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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#06_僕らの捜査官生活

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82/208

04探偵の条件

 メイプル男爵とはついこの前の仕事で知り合った、とは言え、本来なら貴族と冒険者など見舞い見舞われる様な気安い仲ではない。

 だがメイプル男爵は気安い人物であり、あまり貴族風を吹かせる事も無い。実際、新しい物、新しい人が行き交う港街特有の気風か、そういう気安い人物が多かったりする。

 そんな訳でアルトたちも下心無しに、男爵の安否が気になった訳だ。

 もっとも身体の傷が無いことは、すでにバーター中佐から聞いているので、今回の訪問は本当にご機嫌伺いと慰撫が目的だ。

 そんな長くも無いメイプル邸への道すがら、これまで珍しく黙っていたねこ耳童女がポツリと呟いた。

「バーター中佐が怪しいにゃ」

 この発言に、一同はぎょっとし、そして怪訝そうに眉を寄せる。

「なぜだい?」

 代表してその理由を問うのは漆黒の魔道士カリストだ。

 人の話をあまり聞いていない割に偶に鋭い事を言ったりするマーベルの事だ。この

童女の閃きは無視出来ない。

 問われて、マーベルは得意げに鼻を上げる。

「本部長ってくらいにゃから偉いヤツにゃ。そんなヤツがにゃんで偶然事件現場近くをウロウロしてるにゃ?」

「む、確かに」

 この論に真っ先に納得したのは年齢も近いアルトだった。彼はハタと足を止めて顎に手を当てる。

「もしあの合成獣(キメラ)を放ったのがバーター中佐だったら、すぐに駆けつけたのも不思議じゃないよな」

「いやいや、ここ裕福層の住む『山手地区』やで。士爵はんが偶々おっても不思議や無いと思うんやけど。あと合成獣(キメラ)言われて相当びびってたで、あのおっちゃん」

「そう言われればそうかも」

 モルトに言われてすぐ論を翻すアルトだった。この主体性の無い彼のあり様に、一同はつい苦笑いをもらす。

「どっちもありうる話だけど、どっちも証拠や根拠が乏しいね」

 と、取り成す様に放たれたカリストの言で、モルトとアルトは静かに頭を垂れて納得の意を示した。

 だが初めに言い出したねこ耳童女はさらに顔を赤くしながら声を上げる。

「まだ怪しい所はあるにゃ。あの中佐、無関係のアタシたちの前で、ペラペラ喋りすぎにゃ。普通ならアタシらはもっと早くに追い出されてる筈にゃ」

「確かに!」

 思わず、アルトはまたもや同意を上げてしまい、すぐ少し恥ずかしそうに俯いた。俯き、だが思い出すほど違和感が大きくなる。

 アルトたちは街でも一目置かれる手練者となったが、それでもたかが冒険者である。この街の治安について何の責任もないし、要人達を守らなければならない筋も無い。

 だと言うのに、ともすれば機密情報のやり取りとなりかねない場で追い出されもせず、発言さえも許されたのである。

 例えるなら、県大会で優勝するスポーツの実力者が、だからと言って県議会の議員たちと政策について話し合えるかと言えば、まずその席にも着けないのが常識だろう。

 これは考えれば考えるほど異常と思われた。

 だが、この大きな違和感はすぐ気の抜ける様な論によって否定される。

 発信元であるマーベルのすぐ近く、具体的に言えばベルトポーチからその否定は投げかけられた。

「それは皆さんが『PCプレイヤーキャラクター』だからですよ」

 薄茶色の宝珠(オーブ)がそうのたまった。一同、特に疑問符を大きくしていた高校生コンビが目に見えて困惑する。

「例えばですね、コナン君のいる所には必ず事件が起るでしょ? 探偵役と言うのは、色々なしがらみ関係なくごく自然に巻き込まれるものなんです。これを名付けて『探偵効果』と言いましょう」

 ここまで言われて、冒険者の内の数人がピンと来た。

「ああなるほど、普通は立ち入り禁止の現場でも、なぜか探偵役は咎められずに捜査するアレですな」

「幾ら有名とは言え、たかが私立探偵に公僕たる警察が応援お願いしちゃうと言う、アレですね」

 いかにも可笑しそうにそう追従するのは(パーティ)の年長コンビ、レッドグースとカリストだ。

 だがカリストの登場で年齢的には中間層になったモルトは、やはり心情的にアルトたちに近いのか、大きく首を傾げた。

「それ漫画や小説の話やろ?」

「ええ、そしてゲームの話でもあります」

 そのツッコみは予想していたのか、薄茶色の宝珠(オーブ)はすぐさま被せる。ここまで来てモルトも渋々納得した。渋々、と言うのは「言いたい事はわかるが、それをGM自らぶっちゃけて良いのか」との言葉を飲み込んだからだ。

 まぁ、この世界は彼らにとって現実(リアル)だが、同時にメリクルリングRPGを模した異常世界である。

 PCプレイヤーキャラクターである彼らは、ゲームのルールで与えられている恩恵を当然受けているし、また逆にその法則を逸脱する事が許されない。たとえそれが元の世界の常識で考えてあり得ない事象であってもだ。

「そんにゃ、中佐がアタシらに話したのも、『探偵効果』のせいって事にゃ?」

「おそらくは」

 まだ信じられないと言う態のマーベルの叫びも、元GMの前では鎧袖一触だ。そして絶句したねこ耳童女に追撃を食らわすべく、薄茶色の宝珠(オーブ)はさらに続けた。

「皆さんはたった半年の間に新米冒険者から、国内有数の冒険者になりました。普通のこの世界のほとんどの住人なら、生涯をかけて到達するレベルにですよ? おかしいと思った事はありませんか?」

 言われてみれば確かにそうだ。

 彼らはこの世界にやって来てからピンチや事件の連続で、そのお陰もあり多くの経験値を得て、そして今のレベルに到達した。

 だがそのレベルは、この世界で生まれた冒険者や、街の騎士、軍人、職人、魔法使い、どれも20年や30年と言う長い年月を費やしてやっと到達する高みなのだ。

「つまりですね、皆さんが遭遇する事件の数々は、皆さんが『PCプレイヤーキャラクター』だからこそ遭遇したのではないか、と私は思っているんですよ」

 いわゆる『事件体質』と言うヤツである。

「じゃ、じゃぁまさかこの街で『ロゴロア』が現れたのも、今回暗殺事件が起ったのも、オレたちがここにいるせいなのか?」

 ここまでの話を聞き、アルトがその様な嫌な結論に達するのは当然と言えた。これは正義の味方(ヒーロー)のジレンマに似ている。

 悪がいるから正義の味方が登場する。だがじきにその正義を打倒する為に悪が強大になる。場合によっては「正義がいるから悪が現れるのだ」などと言う暴論も、近頃の物語では珍しくない話である。

 信じられないし信じたくない、そんな心情から今にも泣きそうなアルトだった。

 だが優しい顔をした黒衣の魔道士が、すぐに彼の暗澹たる思いを払拭しようと首を振った。

「それは違うよアルト君。いいかい、事件は僕らがいなくても起ったんだ。ただその事件に吸い寄せられるのが、僕らの『事件体質』なんじゃないかな」

「でも」

 そう言われてもすぐ「そうか」と思えるものではない。嫌な予感や考えと言う奴は、一度こびり付くと簡単に剥がれないから厄介なのだ。

「ついこの前まで事件を起す側だった僕が言うんだから間違いないよ」

 それでも、こう自虐的なことを言われては、アルトも黙るしかなかった。

 カリストが事件を起す側、すなわちキヨタ・ヒロムと共にあったのは間違い無い事実でありながら、その責は彼に及ぶ筈も無い。だからと言ってカリストが何とも思っていない訳ではないのだ。

「ま、つまりはバーター中佐がワタクシたちに話を聞かせたのは、そう怪しい事でもないという結論ですな」

 マーベルの疑いを発端に暗くなった雰囲気を振り払うよう、レッドグースが努めて明るくそう言って、この話題はお仕舞いとなった。



 さて、そうした雑談をしながら『山手地区』のお屋敷街を進むと、しばらくして風雅な庭を持つ立派な屋敷が見えてくる。

 レギ帝国西部方面軍後方支援隊総長、メイプル男爵の屋敷である。

 ただ数週間前に訪れた時と違うのは、左右対称化された見事な庭の植木は幾らか乱れ、数人の庭師と屋敷の使用人が修復のために奔走している所だった。

 おそらく先の暗殺者騒動の傷跡だろう。屋敷の方に目を移せば力任せに破られた窓と玄関が、見るに痛々しかった。

「暗殺者にしては派手やね」

「真昼間からの襲撃だしね」

 その屋敷の様子に呆れて白い法衣のモルトがこぼせば、対照的に漆黒を纏ったカリストが合槌を打った。

 暗殺者という言葉から想像されるのは、まず闇に紛れて寝首をかく姿だろう。日本人的なイメージからすれば忍者などが近いだろうか。

 だがどうだ、この様子から想像するに、かの虫人間は白昼堂々と力任せに屋敷へ押し入り、失敗したかと思えばやはり力任せに脱出したのだ。

 自らの能力に自信があるのか、はたまた人間社会の常識を知らないのか、見方によってはどこか投げやりにも感じる。

「おやこれは、冒険者様方ではありませんか。確かアルト殿、でしたか」

 と、一同が眉をひそめたり苦笑いをしながら庭と屋敷を見渡していると、庭師に混ざって作業していた背筋がピンと伸びた初老の男が話し掛けてきた。

 メイプル家に仕える執事である。

 地味な色合いながら仕立ての良い三つ揃いの背広(スリーピーススーツ)を着ているが、手にしているのは庭師の大鋏だ。普通なら違和感が半端無い組み合わせだろうが、彼が持つとその風格と優雅な所作から「それも当然」と思わせる説得力があった。

「執事のおっちゃん、こんちゃー。男爵はんのお見舞いに来たでー」

 すかさずモルトが右手を挙げて砕けた挨拶をすれば、初老の執事は柔らかい笑顔を見せながら鋏を置く。

「そうでしたか。それでは主人にお取次ぎしますのでしばしお待ちを」

 厳格な貴族の使用人であれば「冒険者風情が」と激昂してもおかしくない。だがそんな状況でも嫌な顔一つしないのは港街ボーウェンの気風であり、また初老執事なりの矜持の表れだった。

 優雅なれど早足の執事を見送って、体裁良くカットされていく庭木を数分も眺めると、再び現れた初老の執事がすっと腰を曲げた。

「ご案内いたします、冒険者様方。こちらへどうぞ」

 ほんの数秒のお辞儀から流れる様に回れ右して歩き出す執事に連れられて、アルトたちは半壊した屋敷の正面扉をくぐるのだった。


 長い廊下を進み、この屋敷の執務室に至る。

 マクラン邸のそれと比べると格段に広いその部屋には、正面奥にある黒檀の執務机と壁いっぱいの書棚に囲まれて、少しばかり憔悴したように見える小太りの中年がいた。

 彼が今回の暗殺対象だったと思われるメイプル男爵である。

「やぁ皆さん、お見舞いに来てくれたそうで。嬉しいですね」

 彼は今しがた見ていた壊れた窓から視線を外して振り返ると朗らかに笑う。だがやはりその笑顔はどこと無く力なく感じられた。

 ただでさえ衝撃的な暗殺未遂事件だ。それもついさっきの事なので、まだショックが抜け切れていないのだろうか。

「怪我は無かった様で何よりですな」

 同じ中年仲間として親しみを感じるのか、早速レッドグースが労り気味に声をかける。男爵閣下もシミジミと頷いた。

「いやはや、出兵が決まりこれから忙しくなろうと言う矢先でコレですからな。まったく参った参った」

 苦笑いしつつ自らの頭をポンポンと叩き、何の気なしに話しながらも何かの書類をあちらからこちらへと、少しだけ書付しながら整理する。

 だが、彼にとってはただの世間話だったのだが、聞き捨てなら無い単語があったとアルトは肩眉を上げる。

「出兵?」

 そう、出兵だ。つまりは戦争があるということだ。

 戦争とはまったく無縁に育った日本男児であるアルトにとって、それは何よりも不安を呼び起こす懸念事項だった。

 その反応が引っかかった様で、メイプル男爵はすぐ仕事の手を止める。

「おや、知らなかったのですか?」

 意外そうに顔を上げて、眉を寄せる若サムライの顔を見る。しかしアルトが続けて問いを発そうとした瞬間、横から手が伸びて彼の口を塞いだ。

 塞いだのはカリストだ。

「いや聞いていますよ。タキシン王国の王子派と同盟したんですよね?」

 すかさず『魔術師(メイジ)ギルド』で聞いた噂を、さも決定事項を聞いていたかの様に言えば、男爵閣下もホッとして大きく頷いた。

「ええ、首都方面にいる『帝国軍本隊』や『国境警備軍』から人員を大きく割くと、今度は帝国防衛が立ち行かなくなりますからね。王子派への援軍は『西部方面軍』を主力とすることに決まったんですよ」

 カリスト以外の者にとっては初めて聞く話だったが、ここは空気を読んで知った顔で頷く。まぁ、アルセリア島北部の2国がキナ臭い事になっているのは噂で知っていたので、薄々こうなるかもしれない、くらいの覚悟はあった。

 なので不安はあるがショックは少なかった。

「それにしても軍の要人が、よく部外者にペラペラと喋るな」

「これも『探偵効果』にゃ?」

 と、これは高校生コンビがヒソヒソと交した会話の一端である。

 ちなみに先に紹介された『探偵効果』の他にも『悪事自白の法則』と言うのもある。これは時代劇において、主人公側のスパイが聞き耳を立てている時に限って、悪人は都合良く悪事をペラペラ喋ってくれると言う法則だ。

 シナリオ進行において非常に都合が良いので、TRPGのシティアドベンチャーでもしばしば使われる演出手法である。

 それはともかく、メイプル男爵の憔悴が暗殺事件のショックだけでは無さそうだと、一同はホッとした。ホッとした所で好奇心がムクムクと湧いて来た。

「んで、まぁ未遂で済んだんやけど、暗殺なん、される覚えはあるん?」

 貴族であり、軍の要人でもあるメイプル男爵だ。さぞ心当たりもあるだろうとの、軽い気持ちでの質問だったが、当の男爵閣下は途端に手を止めて腕を組む。

「個人的には恨みを買うような覚えも、妬まれる覚えも無いんですがね」

「あれ、そうなん?」

 少しばかり肩透かしな返答だったのでモルトは気の抜けた声を上げた。そんな冒険者の態度にメイプル男爵は苦笑いをしながら続ける。

「貴族と言っても男爵程度では、領地経営の上がりも妬まれるほど多くありません。それに『軍の要人』と言えば聞えは良いですが、後方支援担当なんて要するに雑用係です。煩雑な仕事が多い割に得られる名誉が少ない貧乏クジ。ま、その代わり、恨まれるような事に手を染める事もありませんが」

 人の良さそうな男爵の事だ。一見愚痴にも聞えるが、最後の部分こそ最も重要視しているだろう事が、表情の端々から覗えた。

「だとすれば暗殺者はやはり国外からでしょうな」

「そう、でしょうね」

 話の流れから残った可能性をレッドグースが口にすれば、メイプル男爵もまた重々しく頷く。

「どういうことにゃ?」

 2人の真剣な面持ちにすかさずマーベルが首を傾げれば、いかにも思慮深そうなカリストがねこ耳頭を撫で付けながら口を開いた。

「派兵準備を始めようか、と言うタイミングでの事件だからね。敵対勢力からの横槍だと考えると納得行く、と言う話さ」

「ふっ、金髪の孺子が考えそうな手、やね」

 なるほどと頷く童女を横目に、モルトはいつか読んだ長編SF小説の台詞を冗談めかして言うのだった。

 つまりこれが彼らの思った通りだとすれば、それは場当たり的なテロではなく謀略の類と言うことだ。

「いやでも、敵の横槍って言うのは解ったけど、メイプル男爵を殺したからって派兵が止まるわけじゃないだろ?」

 聞けば確かに理解できる。と言うか、恨みつらみが原因で無いとすれば、そうした謀略である事は予想できる。だがそれでも、戦地から見たら遠い地であるこの街まで暗殺者を送り込むなど、アルトとしては上手いやり方と思えなかった。

「ま、派兵は止まらんでしょうな。しかし時間は稼げますぞ」

 さもありなん、と頷きながらレッドグースが自慢の髭を撫でつつこれに答える。が、やはりアルトは納得できないらしく憮然とした表情で考え込んだ。

「時間なんか稼いでどうするんだよ。勝つ為の方策練らなきゃ意味無いじゃん」

 この呟きにはモルトやマーベルも同意で、一緒になってうんうんと悩む。だが軍事や謀略に明るいわけでもない、せいぜいライトなオタクでしかない3人には相手の考えなどトンと想像つかなかった。

「あくまで僕の考えなんだけど、聴くかい?」

 そんな学生三人衆を見かねてか、カリストがそう前置き訊ねる。当然、聴いて損する訳でも無い3人はすぐに頷いた。

 またメイプル男爵もこの若い知者の話に興味ある様で、静かに耳を傾けている。

「王弟派と王子派は長い間、軍事的に均衡していて、最近、王子派が押していたそうだ。そこで逆転の一手と、王弟派はニューガルズ公国との軍事同盟を打った。

 おそらくタキシン王国平定後の、国内の何らかの利権譲渡を条件にしたんだろうけど、まぁ手痛い出費だろうね。

 それでも勝てればまだプラス収支。ところが王子派はここで歴史的にもあまり仲が良くない筈のレギ帝国に助けを求める。これでまた戦力は均衡さ。

 そうすると王弟派はもちろん、ニューガルズ公国も困っただろう。勝って利権を貰うつもりで参戦してみれば、その途端に勝てるかどうか判らなくなってしまった訳だ。

 ここで、じゃぁ王弟派がなるべく損害を出さずに勝つにはどうしたらいいだろうと考えたんじゃないかな」

「それで暗殺だったって言うんですか?」

 まだ納得できないアルトが口を挟むが、話し手の黒魔道士は軽く頷いて先を続ける。

「均衡戦力が真正面からぶつかれば消耗戦だからね。暗殺騒ぎで派兵が遅れればそれだけ向こう有利の戦いが続けられるわけさ」

 カリストは論を締めくくると、どうだい、意味はあるだろう? とでも言いた気な表情を少年に向ける。

 つまり「王子派の援軍が来る前に叩いてしまおう」という作戦では無いか。カリストはそう言っているのだ。

 それを聴いて、アルトたちは難しい顔で「なるほど」と深く頷くのだった。

 さて、一応納得できそうな論に帰結して一同は溜め息を付く。

 正解か不正解かは判らない。この説が正しいかどうかなどは、謀略を立てた本人に訊くしかないのでこの場で回答を得る事はできない。

 ただそれはそれとして、敵の目的が暗殺にあるなら、そしてその目的を諦めていないなら、あの異形の暗殺怪人はこの人の良さそうな男爵閣下の前にまた現れるのだろう。

 今回は偶々近くにいたという帝国騎士たちのお陰で事無きを得たが、次もそんな幸運に恵まれるとは限らない。

「ほんなら護衛が必要やね。治安維持隊にお願いすればええんやろか?」

 他人事だが知り合いの話である。出来れば用心の為に守りに徹して欲しい所だ。そう言う意を込めてモルトが問うが、メイプル男爵は静かに横に首を振る。

 そんな様子に皆一様に首を傾げるが、その回答は次の瞬間、すぐに男爵閣下の口から告げられた。

「いや、君たちを護衛としてしばらく雇いたい。お願いできるかな?」

 厄介ごとは避けたい。知り合いを助けてあげたい。そういう並び立たぬ2つの感情に挟まれつつも、一同は複雑な表情のままゆっくりと頷いた。

「軍に頼らずオレたちに依頼するって、これもまた『探偵効果』ってヤツなのか?」

 異世界人故に強くなる機会が与えられ、また異世界人故にトラブルに吸い寄せられる。あまり歓迎したくないこの事象に、アルトは一人ごちるのだった。

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