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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#04_ぼくらの冒険者生活

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12願いの指輪2

「うわ、あっちぃ」

 燃え盛る納屋の眼前まで駆けつけ、襲い来る熱風にアルトは思わず顔を背けた。

「どうするにゃ、消防車はもう呼んだにゃ?」

「いやいや、この世界にはポンプ車もはしご車もありませんぞ」

 熱気から逃れる為にアルトの背に隠れながらも、天をつく炎から目が離せないマーベルと、同様に数歩下がった場所で見上げるレッドグース。

 フンボルト男爵邸と思われる屋敷の、約10メートル隣に立つ納屋である。それが、いつ燃え移ってもおかしくないほどに火炎を吹き上げるように勢いよく燃えている。

「おい『精霊使い(シャーマン)』、都合のいい魔法は無いのか? 雨降らせるとか」

「無理言うにゃ」

 雨を降らせる魔法が無いわけではない。だがそれは英雄クラスの御技である。他にも、火事に有効そうな魔法は、あらかた高レベルなのだ。

「くそ、こうして見ているしかないのか」

 彼らの住んでいた日本においても火事は起こる。だが、これほど近い場所で目撃することは、非常にまれである。

 また、もし目撃する事になっても、ほとんどの場合は、電話一本で専門家達が駆けつけてくれるのだ。

 だが、ここにはそんな頼もしい消火のプロもいない。アルトは、自分の無力さに激しい焦燥感を抱き呟いた。

 だが、彼の背後から、救いの声が上がる。

「そんなこと無いで!」

 聞きなれた彼らの姐貴分、白い法衣に身を包んだ、酒神キフネに仕える『聖職者(クレリック)』の乙女、モルトである。

 振り向けば、集ってきた『農夫(ファーマー)』たちと共に、長い列を作り始めているではないか。

「バケツリレーですな。よし、アルト殿、ワタクシたちも参加しますぞ」

「お、おう」

 酒樽紳士の言葉と共に駆け出すアルト。それでも、次の瞬間、その足を止めざるを得ない言葉を聞いた。それは金色にねこ目を光らせた、ねこ耳童女によってもたらされた。

「中に、誰かいるにゃ」

 マーベルは『精霊使い(シャーマン)』の固有スキル『オーラスキャン』により、納屋に『生命の精霊』を見つけたのだ。少なくとも、生命を持つ何者かが納屋の中にいる証拠である。

「そ、そんなこと言ったって」

 反射的に納屋へ飛び込もうとしたアルトだったが、理性がすぐさまその身体を止めた。納屋は、入り口も壁も、すでにいつ崩れ落ちるか判らないほどに燃え盛っているのだ。

 アルトは緊張と熱さから来る渇きに、ゴクリと喉を鳴らす。

「ちくしょう、どうにでもなれっ」

 その躊躇の末、彼は結局、炎の中に飛び込んだ。

 彼は今やすっかり臆病者呼ばわりされる若者だ。いやだからこそ、目の前で失われ行くかもしれない誰かを見捨てる事が怖かった。それゆえ、アルトはためらいながらも。助けに入る事を選択したのだった。



 結果を言えば、アルトはごく軽症で生還した。

 それなりに高いレベルの冒険者とは、一般人に比べて強靭な肉体を持っているのだ。

 システム的な話をすれば、レベルによる炎のダメージ減少や炎耐性(レジスト)。さらには戦士系の高いHP(ヒットポイント)のおかげである。

 そのごく軽症な若サムライが燃え盛る納屋から連れ出したのは、焦げかけ気を失った青年紳士だった。

 その様子に、バケツリレーの列にいた、質素だが品のいいワンピースに身を包んだ若奥様風の女性が不安顔で駆けつけ、青年紳士を見止めるとギョッとしてから泣き崩れた。

「ありがとうございます」

 この青年紳士の奥方なのだろう。女性は夫の命の恩人である若サムライに、何度も頭を下げながらお礼を言った。

 田舎っぽいイモさはあるが、なかなかの美人である。アルトはドギマギとしながら、青年紳士をそっと地面に下ろした。

 納屋の炎は懸命の消火活動と、燃える物も減ってきた事もあり、徐々に沈静化に向かっている。屋敷の方にも列を作って水を掛けているので、延焼の心配はもう無いだろう。

「奥様、何でこっただ事に、って、旦那様でねーか!」

 と、そこへバケツリレーから抜けてやって来た、小作人風の男が驚きに声を上げる。奥様旦那様と言うからには、どうやらこの焦げかけ青年紳士がフンボルト氏であり、若奥様風の女性は、まさしくフンボルト氏のご夫人だったようだ。

「い、生きてるだか?」

HP(ヒットポイント)は残ってますね。目覚めないのは、おそらく心身の疲労のせいでしょう」

 心配そうに覗きこむ小作人Aに答えるのは、近くでやはり覗き込んでいた、マーベルの腰巾着だ。例えではない。まさしく腰のポーチに収まっている、薄茶色の宝珠(オーブ)である。

 小作人Aは、この喋る奇妙な物体にギョッとしたが、安堵の方が大きかったのか、すぐさま息をついた。



 火災の方がどうにか落ち着いたのを見計らって、小作人たちは後片付け係を一部を残して解散し、アルトたちはフンボルト夫人に案内されて屋敷へと場所を移した。

 モルトの『キュアライズ』でフンボルト男爵の治療も終えたが、未だ目覚めなかったのでひとまず寝所へと運び込む。

「ええと、どうしてこんな事に?」

 清潔なシーツの上に焦げかけた青年紳士を寝かせながら、アルトは心配そうに覗き込む奥方へと言葉を向ける。だが、当の奥方も首を横に振るばかりだ。

「解りません。主人は今日、街へ出かけていたはずなんです。それに納屋だって誰もいないはずなのに」

 無人の納屋からの出火、火事に巻き込まれるいない筈のご主人。どちらも怪しいことこの上ない。すでに事故と見るには、あまりにも不自然すぎるだろう。

 そこへ鎮火後、現場検証に残っていたレッドグースが寝所へ入ってきた。

「付け火に間違い無さそうですな」

 入りざまのレッドグースの一言で、眉をひそめていた一同は、すぐさまこの酒樽に注目した。

「放火、か?」

 すぐさまアルトが険しい顔つきで問うが、レッドグースとその頭上の人形少女は揃って首を振る。

「納屋の内部に藁や薪が積んであったのでありますよ。火元は内部であります」

「そんな、あそこは道具置き場で、焚き付けは置いてません」

 見てきた様子を素直に解説したティラミスに、奥方は慌てて声を上げる。ないはずの物が火元なら、なるほど自然発火はありえないだろう。

「そーすると、犯人はペンギン男爵にゃ?」

「フンボルトさんやで。まぁ他に犯人がいて、火をつけた後に逃げた、と言う線も無いわけやない」

 どちらにしろ、それ以上は状況から推理するしか術は無い。正解を知りたければ、それこそフンボルト氏の目覚めを待つのが早いだろう。

 そう、一同が推理を諦めた頃、ちょうどフンボルト氏がゆっくりと目を開けた。

「ここは、屋敷か?」

「あなた!」

 本人も状況を掴めていないのか、力なくも不思議そうに首だけで周囲を見回すフンボルト氏に、奥方が駆け寄る。その顔は心配一色から、安堵五割に変化していた。

「ああ、イルゼ。私はいったいどうしたんだ?」

 五体の感覚をゆっくりと確かめながらベッドから半身起したフンボルト氏は、まだ重い頭を抑えながら奥方の手をとる。

「それはこっちが聞きたいことよ。いったい何があったの」

 夫婦揃って疑問符合戦だ。

 それはそれとして、アルトはそこでポンと手を打った。

「ああ、あんたがファルケのお姉さんか」

 そう、アルトの義兄ファルケ。その姉の様子を見に来たのが当初の目的だ。その姉の名はイルゼ。現フンボルト男爵の奥方であった。

「ファルケって、弟を知っているの? あなた方はいったい」

 ただ通りすがりの冒険者だとばかり思っていた旦那の命の恩人。その口から懐かしい名が飛び出した事に、奥方は困惑気味に眉根を寄せた。

「孤児やったのに男爵家の奥方て。玉の輿やなぁ」

 それとは関係なく、端で見ていたモルトが、少しだけ下衆い呟きをこぼしていた。


 疑問が多すぎるので、ひとまず順に話をして行こう、と言うことになり、一同は食堂へと場所を移した。

 食卓に並ぶのは質素な黒パンと味の薄い豆スープだった。

 男爵家とは言え、破産寸前のフンボルト家ではこれが日常である。イルゼは恥ずかしそうに冒険者達に何度か頭を下げ、その度に冒険者たちは激しく首を振った。

 そしてまず、アルトは自分の素性を語った。

 曰く「ファルケの義弟で今は近くの街を拠点にする冒険者。ファルケに頼まれてイルゼさんの様子を伺いに来た」と。

 話を聞き、イルゼはまた安堵に溜め息をつく。

「そう、ファルケは元気なのね。タキシン王国は内乱で大変だって噂を聞くから、心配してたのよ」

「まぁ我々も人づてでですがの」

 余計な一言を呟いて、隣の『聖職者(クレリック)』に肘で小突かれるレッドグースであった。実際、ファルケ本人には会っていないので、彼らも元気かどうかわからないが、余計な心配をかけてもしょうがない。

「さて、では次に私の話ですね」

 懐かしい人の話に少し和んだ場を、微笑ましく眺めていた青年男爵は、一転、表情を硬くして、そう始めた。一同もすぐに顔を引き締める。

「もうご存知かと思いますが当農園は恥ずかしながら借金だらけでして、今日もその話で街へ行っていたのです」

「そんでどうして納屋に火をつけたにゃ?」

「借金を苦に、保険金目当ての自殺ですな」

 先を急かすように口を挟むねこ耳童女に、茶々を入れる酒樽紳士。だが場の雰囲気が彼らをすぐに睨みつけ押し黙らせた。

 続きを話して良いものかと様子を伺っていたフンボルト男爵は、テーブルの上で手を組み合わせながら、再び口を開いた。

「ところが、その途中から記憶がないのです。気づいたら、もうベッドの上でした」

 一同、話の飛び具合に唖然とする。これでは本当に何もわからない。

「もう少し順を追って、詳しく話して下さらんか」

 カストロ髭を撫でながら苦言を呈するドワーフの言葉に、氏は頷いて語り始めた。


 フンボルトハイム農園の不作凶作が始まったのは、およそ5年前。

 はじめは『出来が悪い』程度の出来事だったのが、次第にまともに育たなくなってきたそうだ。

 高い肥料なども試してみたが効果は無く、また小作人への給金もかさみ、じきにフンボルト男爵家は借金で首が回らなくなってきた。

 そして昨日。借金元である商人の下に、追加の借金をお願いに行ったわけだ。


「追加金をお願いしたところ、逆に『そろそろ返してもらわねば困る』『もう諦めて土地家屋を手放してはどうだ』と言われました。ですが、『もう少し頑張ってみたい』と告げると、今度は『なら家宝を売れ』と提案をされました。しばらくそんな押し問答が続いたと思います。その辺りから記憶がありません」

 話を終え、フンボルト氏は視線を伏せる。その末に、納屋の火事を経てベッドで目覚めたわけだ。これでは本人にはなんだかわからなくても仕方ない。

「家宝ってなんにゃ」

 話が途切れた所で、何か口出ししたくてウズウズしていたねこ耳童女が、好奇心を満たそうと質問を投げかける。

 男爵は顔を上げて席を立つと、いかにも大仰な造りの暖炉へ向かい、そのマントルピースの上に作られた小さな祭壇から、これまた立派な装飾の小箱を手に取った。

「この中にある、古い指輪です。指輪に封じられた魔神が、何でも願いをきいてくれる、と伝えられています」

 冒険者たちは一様に目を輝かせ、後に顔を見合わせて眉をしかめた。

「いや借金はともかく、その商人が滅茶苦茶怪しいんですけど」

「そやな、あからさまに家宝狙いっぽいやん」

 ついそう頷き合うが、フンボルト氏とイルゼは、思いもしなかったと言う様な、驚きの表情で首を振った。

「ガメッツィーニさんは、経営が苦しかった我が農園に、唯一手を差し伸べてくれた良い人ですよ。そんなまさか」

 冒険者たちは、この言葉でさらに険しく眉をしかめる。

 ダメだ、商売とか駆け引きには向かないタイプの善人だ。この手の人には、これ以上言うと逆に反感を買いかねない。彼らは無言でそう頷きあった。

 さてどうしたものか。と、アルトは思案する。

 『困っているようなら助けてやって欲しい』というのが、今回の仕事のである。凶作不作にも借金にも、明らかに困っている様だが、果たして冒険者風情に出来る事があるだろうか。

 アルトは助けを求めて仲間たちの顔を順に見た。その中で、彼の求めを正しく汲んだ酒樽紳士が口を開く。

「まず凶作の方をどうにかしてはいかがですかな?」

 一同は「おお」と薄い感嘆を挙げる。確かに正論だが、それは農家、農学者の仕事だろう。冒険者に出来る話ではない。

 だがレッドグースは困惑気味の仲間たちに、呆れた表情で溜め息を送った。

「下請けに出せばよいのですぞ。知り合いに、そう言うの得意そうなのがいるじゃありませぬか」

 そう言われてやっとピンと来た。

 常識では考えられない薬品やアイテムで、信じられない事を易々とやってくれる、僕らのドラえもん的存在。代金がかさむのが玉に瑕だが、費用対効果を考えれば、それは破格ですらある。

「ああ、あの人か」

 アルトは表情を明るくして顔を上げた。

 彼らのホームタウンとなった港街ボーウェンに工房を持つ、アルトたちとは別の異界から来た特異な存在。生けるルール違反。

「あの人にやらしたら、効きすぎて、作物が踊りだすんちゃう?」

 キョトンとするフンボルト夫妻を他所に、一同は思わず笑いをこぼすのだった。



 金色混じりの髪を短く刈り上げた眼鏡の少女は、明るい声で言った。

「ふむ。面白そうダネ。引き受けるヨ」

 男爵家の客間に一泊し、翌日、港街ボーウェンへ取って返した一行は、早速『ハリーさんの工房』を訪ね事情を話した。

「助かるぜハリエットさん。ええとそれでお代の方は」

「ハリーさんと呼んで。みんなそう呼ぶカラ。お代は、農園が復活したら先方から貰うことにするヨ。ちょうど育てたい植物もあるカラね」

 割とあっさり心配事も含めて引き受けてもらえたので、アルトはホッと胸を撫で下ろした。フンボルト男爵家も借金に喘いでいるが、アルトだってこの『錬金術師(アルケミスト)』に借金があるのだ。

「シテ、その農園は何を作ってた農園カナ?」

 相変らずおかしなアクセントと訛りの言葉遣いで、ハリエットは重要そうに人差し指を立てる。

 アルトは途端に言葉に窮して仲間を見回した。そう言えば農業に興味がないので訊きもし無かった。同様に誰もが首を横に振る中、レッドグースが答える。

「トウモロコシと根野菜、あと豆類が見えましたな」

 ハリエットはその答えを聞き、満足そうに頷いた。


 工房を辞した一行は、ひとまず街の目抜き大通りを目指す。『金糸雀(かなりあ)亭』へ向かう為だ。

「これで農園は安心にゃ。お仕事お仕舞いにゃ?」

 借金を苦に心神喪失状態の旦那が自殺を図る、などという暗い話から解放されそうだと思ったのか、マーベルがすがすがしく伸びをする。だが周りの雰囲気が彼女のそんな態度を押し止めさせた。

 皆、一様にねこ耳童女に注目し、「いやいやいや」と首を振る。

 首を傾げるマーベルに、近い背丈の髭中年はにんまりとしながら答えた。

「借金の方も何とかしませんと、な?」

 マーベルは「貧乏冒険者に何が出来るにゃ」とでも言いたげに、眉をひそめた。


「ガメッツィーニ?」

 『金糸雀(かなりあ)亭』にたどり着いた一行は、遅い朝食を採っていたボーウェン市民でもある金髪の魔法少女マリオンに訊ねた。

 マリオンはサラダを突き刺すフォークを止め、少し考える仕草で天井を仰ぐ。

「ああ、あのハゲ商人ね。確か詐欺まがいの商売で何度か訴えられてるって、兄から何度か聞いたことあるわ」

 彼女の兄と言えば、この港街ボーウェンの治安維持隊を率いる、騎士マクラン卿だ。その口から聞いたなら、ガメッツィーニが『怪しい商人』である事は間違い無さそうだ。

「やっぱり悪いヤツにゃ? とっちめるにゃ?」

 さっきまでピンと来ていなかったマーベルが、耳を立てて鼻息を鳴らす。借金をどうにか、と言うより、貸元をどうにかするのが仕事だと理解したのだ。

 また相手が人間で商人と言うことが判っているからこそ、アルトもまた鼻息を鳴らして袖まくりをした。

「よーし、斬った張ったなら任せろ」

「あかんでー。まだやでー」

 しかしすぐさまモルトに諌められる。

 ここまで来ればフンボルト男爵が、ガメッツィーニに嵌められた事は想像に難くない。だがまだガメッツィーニが怪しい商人である事が確定しただけだ。

 いくらゲーム世界とは言え、さすがに「胡散臭い商人だから斬った」などという無法が通るほど甘くないのだ。

「では真っ当にシバく為にも、裏を取る方向で動きますかの」

「おー」

 一同は頷きあいながら、小さく拳を挙げて同意した。

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