07思考迷宮
青、と言う色にもさまざまな種類がある。その中でもアルトたちの目に映っているこの空の青は格別に美しかった。
いつも見ている空の色も、元の世界から比べればよく澄み渡っていたが、今見てる空はさらに深みを増した美しさだ。
マーベルの掌にある薄茶色の宝珠が言う事には、ここは地上から約5000メートル上空。ジャンボジェットなど無いこの世界においては、何者にも邪魔されない静かな場所と言えるだろう。
だからこそ、簡単に抜ける事のできない場所でもある。
「それで、脱出不能って言ったのか」
いまだポカンと空を見上げるばかりのアルトがポツリと呟き、隣に立ったモルトもまた無言で空を見上げ頷いた。
下階にいる馬頭の悪魔の特殊能力は『転移術』だと言うので、頼めば脱出も可能だろう。だかそれと引き換える為には、やはり彼の希望をかなえねばならないだろう。そう、古代『魔術師』の束縛からの解放だ。
彼らと空を隔てるのはドーム状の素材。ガラスなのか樹脂なのかは解らないが、それは彼らの空への感動を妨げる要因にはなりえないくらいの透明度だった。
「いやこれは、一曲、奏でたくなりますなぁ」
ドームの最も壁際で、空と眼下に広がる雲の絨毯を一緒に視界に納めているレッドグースは、ウキウキと背に負った愛用の『手風琴』に手を伸ばす。
左手をベースボタン、右手をキーボードにかけ、蛇腹のふいごをゆっくりと伸ばして奏でるのは、この青空に良く似合う透き通った音の、それでいて耳心地のいいイージーリスニング。目を瞑って聞き入れば、次第に穏やかな気持ちが心の奥底から滲み湧くようだった。
今日は朝から腹ペコ三昧、徒歩三昧で街道を行き、途中でゴブリンと遣り合ったかと思えば、ナトリの屋敷で胸を高鳴らせ、そしてこの遺跡で悪魔に出会い恐怖した。思えば忙しい日である。もっとも、ここ2ヶ月の逃亡生活で、今ほどの平穏は無かった。
この世界の誰もが簡単にはたどり着けない遥かな空。ここは今のアルトたちにとって、最も平穏無事でいられる場所なのかもしれない。
その時、誰の物かわからない『グー』と言う腹の虫がなった。
そう、これさえなければ、ここはまさに天国なのに。
「アタシじゃないにゃ」
それまでも空腹からか項垂れていたマーベルが真っ先にそう述べるが、それはまさに『私がやりました』と雄弁にも物語る言葉だった。
「馬車の荷物を失敬したのが、もう半日前やしなぁ」
ここ数日は素面である頬に赤味を差し、モルトも自分の腹へと手を添える。腹ペコなのはここにいる誰もが同じである。
雰囲気も少々変わったので、レッドグースは演奏の手を止めた。
「こうしていても腹が減るばかりでジリ貧ですな。動けるうちにさっさと解放の手立てを探りますかの」
「よっしゃ、頼んだで『盗賊』」
「出番にゃ『盗賊』」
「ワタクシは『音楽家』だと、常々言うとりますのに」
ブツクサ言いながらも、レッドグースはこのドーム部屋のアレコレを調べる為に身を屈めて歩き出した。
ドーム状の壁、天井を見れば判る様に、この部屋がどうやら最上階のようだ。広さはやはり下階と同じで、直径約10メートル程度の円形。壁際にいくつかの腰掛収納箱と、中央に胸ほどの高さの円柱型の台座と直方体の台座があった。
円柱型の台座の上には、半球型の黒く、中の見えないミニドームが据え付けられ、直方体の台座には、パソコンのキーボードを彷彿させる、キーのたくさん付いたパネルが据え付けられていた。
また、部屋の東西には腰までの高さの小さな戸があり、横から見ると、一段下がった所に生えている、翼にも似た通路が数メートル伸び、その先に、それぞれ玉子型の小部屋がついているようだった。思い出してみれば、下階の徳利型ボイラーの東西から、壁の外へとパイプが伸びていたので、恐らくあの通路に繋がっているのだろう。
レッドグースの見たところ、特に罠らしいものは無いとの事だったので、それぞれ手分けして、何らかの手がかりを探すことにした。と言っても、腰掛収納箱もさほど多くないので、手分けすれば割とすぐに探索は終わってしまうことだろう。
「これ、この遺跡の操作盤かな」
恐る恐る、キーには触れないように、アルトは直方体に据えられたキーパネルを眺める。これが扱えるなら、もう逃亡生活に苦労することは無いだろう。空を翔れば国外脱出なんてあっという間だ。
アルセリア島の西を目指して逃げてきた以上、国外逃亡するなら、島の東西を分ける『天の支柱山脈』を西側から迂回し、山脈南のレギ帝国領まで行けばいい。ただ途中で手に入れた島の地図を見る限り、その迂回路に街道が見当たらなかったので、多少の苦労はあるのだろう。それでも草原を行く限りはそれほどの困難ともアルトには思えなかった。
それでもやはり時間は掛かる。時間が掛かるなら、それだけ追っ手に捕まる可能性も高くなるわけだ。
その点、この空飛ぶ遺跡を操ることが出来れば、隣国どころか、海を飛び越えて大陸までだってひとっ飛びだ。
アルトの空想が膨らむ。もともと昼休みとなれば図書館で読書するような性質のアルトのことだ、空想の中で学校に立て篭もったテロリストと戦った事だって、一度や二度じゃない。電車に乗れば、風景の中、ビルや電柱を飛び越えて並走する忍者を見る事だって、彼には容易なことである。そんな平凡な空想少年がアルトだ。空を飛ぶ遺跡と、それを操る自分を思い浮かべれば、胸が躍ることうけあいである。
「アルト殿、ちょっとキモイ顔してますぞ」
「き、キモくないやい」
軽く探索を終えたレッドグースにささやかれ、いささか落ち込むアルトだった。
「食べ物見つけたにゃ」
マーベルが誇らしげに手にしているのは、腰掛収納箱のひとつから見つけたと言う、ブロック状のクッキーだった。
ちいさな箱に4つ程度小分けに包まれたそのクッキーが、その腰掛収納箱にたくさん収められている。非常用保存食の類だろう。
「いや、でも食べれるのか?」
馬頭の悪魔オリュフェスは、契約の主がすでに数百年、ここに訪れていない、と言った。ならその食料は、数百年前からあるものじゃないだろうか。
マーベルもさすがに不安になったのか、包みを剥いたひとつをスンスンと嗅いでみる。しかしこのクッキーの正常な状態を知らないので、結局、よくわからなかった。ただかすかに美味しそうなバターの匂いが残っていた。
「ワイン見つけたでー」
今度はモルトが嬉々と声を上げた。やはりひとつの腰掛収納箱に瓶入りのワインが数十本納められていた。
「いやそれも…」
大丈夫では無いのじゃないか、と、アルトは言いかけたが、言い切るより早く、モルトは腰の『鎧刺し』を抜き放つと、器用に先を操ってコルク栓を抜いた。
「久々の燃料やー」
あまりに晴れやかなその笑顔に、アルトもマーベルも、もはや何も言うことが出来なかった。
だがその笑顔もワインを口に含むまでの命だった。
「うう、水になっとる」
ワインと言えば熟成が進めば進むほど美味しくなるというのは常識だが、それにも限界がある。およそ数百年という長い年月では、熟成のピークはとうに過ぎ去り、味も風味もアルコールも全てが風化する。すなわちただの水である。
そうなってくるとこの非常食クッキーも怪しいものだ。
匂いこそ美味しそうではあったが、マーベルもなかなか口に入れる勇気を出せず、なんとか何かを見透かせないかという雰囲気で、手にしたクッキーをじっと見つめた。
「どれ、ワタクシがひとつ食べてみましょう」
そんな空気を読んでか、名乗りを上げたのがレッドグースである。レッドグースは返事も待たずにマーベルの手から、ひょいとクッキーを取り上げると、少しの躊躇もせずカストロ髭に埋もれた口の中へ放り込んだ。
モグモグと、ゆっくりと咀嚼し、ゴクリと喉を鳴らしながら飲み下す。無表情に徹するレッドグースからその味や風味を読み取ろうと、アルトとマーベルは必死に目でその様子を追った。
「うっ」
途端、レッドグースが低く唸って、腹部を押さえる。すわ、やはり悪くなっていたか。高校生コンビは冷や汗を俄かに垂らし、慌ててレッドグースへと駆け寄った。
「がちょさん、大丈夫にゃ? しっかりするにゃ」
「おっさん、やばいなら吐き出せ、早く!」
だが、心配をよそに、レッドグースの髭面は、下を向いたままニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「美味ーい」
妙に滑らかな発音でのたまったその一言が余計に気に障り、直後、高校生コンビによる鮮やかなダブルキックが炸裂するのであった。
ワインは全滅だったが、当面、腹を膨らすことは解決した。どうやらその非常食クッキーは一箱4片のクッキーで一食分と数えられるようだった。実際、一箱と水を飲めば、腹六分目くらいにはなったので、持てるだけの小箱をいただいて、各自ナップサックに詰め込んだ。
日はすでに落ち、青かった天空は深い藍に包まれ、満天の星が溢れんばかりに散らばった。
新たに松明をつけてもいいが、アルトの持っている分はすでに使い切ってしまったので、残りはレッドグースの持つ1本。食糧問題さえ解決されたなら、急ぐことも無い、という結論になり、その日は早々に寝てしまうことにした。
一日でいろいろなことがあり、モルトもまた消沈していることもあり、各々の持つ携帯毛布に包まれば、彼らは途端に深い眠りへと落ちていった。
明けて翌日。硬い床にも、寝苦しい防具装備にもすっかり慣れたアルトたちは、追っ手の襲撃から解放されているだけで、ずいぶんと快適な睡眠をとることが出来た。確かに起き抜け、背や腰が痛いが、起きて体操でもすれば割とほぐれるものだ。
「さて、これからどうしよう」
朝のクッキーも美味しくいただいたところで、アルトが一同を見渡した。
昨日の探索の獲物は、水になったワインと非常食クッキー。これで腰掛収納箱は全て開けてしまったので、残りは操作盤と思われるキーパネルと、中の見えない黒いミニドームが据え付けられた円柱型の台座くらいだ。しかも、どちらもおいそれと触っていいものか、よくわからないのである。
「キーパネルは操作盤として、コッチの黒いのはなんやろね?」
黒光りする半球体を、指先だけでつんつんしながらモルトは目を凝らす。よく見れば実は中が見えるかとも思ったが、残念ながらまったくわからない。
「魔法で、地図が出るとか、何かのレーダーとか」
想像力を巡らせてアルトが頭を捻る。どちらもありそうな話だ。
「わけわかめー、わっけわっかめー」
マーベルなどは、もう考えるのも放棄して、妙な節をつけねこ耳と尻尾を揺らして踊りだす始末。さらにレッドグースがその節を『手風琴』で奏で出す始末。
さすがにアルトとモルトもアホらしくなり、捻る頭を元に戻すことにした。
「ま、知らんもん、いくら頭捻ったって、わからんわなー」
「じゃぁあっちに行って見ます?」
アルトが指差したのは、この飛行遺跡の東西に張り出した、翼のようにも見える数メートルの通路だった。その通路に続くと思われる小扉が、この部屋の東西についている。
通路の先には玉子型の物体が取り付けられており、ここから見える限りでは、幅3~4メートル、縦5メートル程度と思われる。
「あそこには何が入ってるにゃ?」
「遺跡のお宝、と言いたいですが、ここはそういう類の遺跡ではないようですな」
遺跡、とひとくくりに言っても、過去には人が利用していた施設である。それはさまざまな用途に対して、それぞれ特化しているのが当然だろう。
我々の住む世でも、住居、事務所ビル、商店、銀行金庫、などなど、さまざまな用途の建物がある。過去においてもそれは変わりない。
以前、アルトたちが探検した遺跡も、宝物庫ではなく研究施設だったし、この遺跡もこれまで見た経緯からすれば、移動を目的とした施設なのだろう。ならば宝物などに期待は出来ない。
「ちぇ、今度こそ『無銘の打刀』卒業かと期待したのにな」
本当のところアルトもそんな期待はしていなかったので、これはただの軽口だ。
だいたい、現在はあの馬頭の悪魔を解放すると言う大事な目的がある。宝物など暢気に言ってる場合ではない。非常用クッキーのおかげで当面の飢えからは解放されたが、それにも限りはある。
それは皆、言葉にせずともわかっていたので、一同、笑いながらも真剣な目つきで頷きあい、そしてまず東の小扉に手をかけた。
「鍵も罠もありませぬな」
レッドグースが、低い背をさらに縮めて調べ、確認の後にアルトと先頭を交代する。
扉を開くと、数段の下り階段があり、その下は予想通り下階からの配管が通った通路になっていた。
通路はアルトが立ち上がれば丁度頭がつく程度の高さで、幅は一列にならなければ歩けないほどの狭さだった。配管もあることだし、もともとメンテナンス用の通路なのかもしれない。
通路の長さは数メートルで終わり、その終点には、外から見えたあの玉子型の部屋へ入る為の扉がある。ここまで来ると、あのゴウンゴウンという音もさらに大きく聞こえた。
扉には魔法語の文が書かれた鈍色の板が貼ってあった。
「なんて書いてあるにゃ?」
アルトの肩越しにひょいと顔を出したマーベルが、尻尾を振りながら訊ねる。アルトは鈍色の板を指先でなぞり集中する。
「えと『言語学』使います」
「承認します」
『言語学』はあらゆる言語の知識を持つことの出来る『学者』のスキルだ。以前、ゴブリンと対話する為に、アルトが半ば強制的に取らされたスキルだが、存外、役に立つことが多いので、損は無かったと素直に思える。
「で、なんやて?」
「えっと『地中深くへ潜み、大地を駆け、やがて天に登り、また大地へと帰る』?」
言葉は訳せたが、肝心の意味はさっぱりだ。この遺跡の持ち主は中二病だろうか。
「いや、これは…『謎解き』ですな」
最後尾を歩いていたレッドグースが、自慢のカストロ髭をひとなでして呟いた。
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『謎解き』とは簡単に言えば『なぞなぞ』だ。
スフィンクスの伝説にある「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これは何か」という『謎解き』なら、聞いた事ある人も多いだろう。
TRPGではこうした『謎解き』を遺跡に配置したり、スフィンクスの伝説に習い、怪物との知恵比べに使うことがある。
いずれの場合も、力押しが得意なプレイヤーにとっては鬼門であり、プレイ時間が読めなくなる原因でもある。
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ひとまず『謎解き』を棚上げし、扉を押したり引いたりしてみたが、予想通りビクともしなかった。
仕方なくすごすごと引き返し、今度は西の通路へ入ってみたが、案の定、こちらの奥の扉にも鈍色の板が貼ってあった。
「なんて書いてあるにゃ?」
「えっと『名を呼べば消えてしまうが、口を噤めばまた現れる』」
やはり『謎解き』だった。
なぞなぞを解くコツは発想を軽くすることだろう。逆に煮詰まった頭で考えると、余計に答えを見失う。そういう問いに限って、答えを聞くと「なんだそんな事か」と言ってしまうものだ。
つまり、なぞなぞは難しく考えてはいけない。だが人はしばしばその思考の罠に囚われる。
アルトたちもまた、その罠にまんまと陥っていた。
日は高く登り始め、透明なドームに囲まれたその部屋は暑さを増した。もうすぐ昼である。
一応、空調らしきものがあるのか、下階の徳利ボイラー室ほど熱くはなかったが、それでも日がこうも照り付ければ暑いものだ。
彼らはそんな部屋の中で、少しでも涼しい場所を求めるように、腰掛収納箱の小さな影に潜り込み、各々が先ほどから例の『謎解き』を繰り返し呟いていた。いや全員ではない。マーベルは早々に頭脳労働を投げ出し、日差しに眉をしかめながら昼寝に興じているし、書き物しながら真面目に考えていると思われたレッドグースは、なにやら作詞をしていた。
「ええと『大地を駆け』るってんだから、獣的な? ロデム的な? でも『やがて天に登り』…羽根とか生えちゃったり? しかも『地中深くへ潜み』? ダンジョン? 空飛ぶ獣的でダンジョンとかにいそうな…。ド、ドラゴン? ドラゴン!」
こうして思いついた解答を携え、通路奥の扉へ進む。
「答えは『ドラゴン』!」
そして扉の前で元気よく言い放ち、しばらくしても反応がない事を確かめ、しょんぼりして部屋に戻る。こんなことをアルトとモルトは朝から数回繰り返している。繰り返しているというからには、未だ解答へたどり着いていないわけだ。
「ひらめきロール、とか出来ませんかの?」
「そうしたいのは山々ですけどね。今の私には、そういう決定権無いんですよ」
人事のように見かねたレッドグースが、薄茶色の宝珠と世間的に話を交わす。元GMであるこの宝珠は、そんな会話を自虐的な溜息とともに返した。
ひらめきロール、という言葉がTRPG界隈で、一般的に使われているわけではない。ただ様々な成功の可否に使われる判定ロールを、救済措置として使ってはもらえないか、という催促だった。
TRPGではプレイヤーが完全に行き詰まった場合などに限り『ヒントをひらめいた』『救世主が通りかかった』などの救済措置を出すかどうか、というロールをGM判断で行うことが稀にある。その場合、経験点の減少などのペナルティを負う事が多い。
だが残念ながら現実は厳しかった。ここはゲームの世界でありながら、現実でもある。どうやら誰も救済の手を述べてはくれないようだ。
「暑いにゃ。我慢ならんにゃ」
完全に謎解きとは関係なく惰眠を貪るマーベルが叫びを上げた。だがアルトもモルトも反応するだけの余裕を持っていない。思考の壁を突破するので手一杯なのだ。
マーベルはそんな空気を読んでか読まずか、一人、東の通路へと降りていく。
「マーベル殿、どうされたんですかな?」
少し怪訝に思ったレッドグースが呼び止めるが、マーベルは振り返りもせずに応える。
「日陰に行くにゃ」
確かに通路はこの部屋より日陰だ。
採光の為の小窓が幾つか付いてはいたが、言われてみればたしかにそっちの方が涼しいだろう。しかも下階の徳利ボイラーの影響も少なそうだ。
「あ、アっくん。お水ちょうだいにゃ」
通路奥まで進んで思い出し、マーベルは振り返りながら、大きな声をあげた。昼寝ですっかり汗をかき、喉がカラカラだが、自分の水袋はもう空っぽだった。
「水? しょうがねーな。オレだってもう少ないのに」
ブツブツ言いながらも少ない水を分けるあたり、アルトも人がいい。
仕方なくアルトは自分のナップサックから水袋を取り出し、マーベルを追って東の通路に進んだ。進んで、その先の状態に目を疑った。
あれだけ苦労していた『謎解き』の扉が開いていたからだ。誰かの言葉が、たまたま解答を言い当てたのだろうか。
「にゃ?」
扉を背にして座り込んでいたマーベルも、アルトのそんな様子を怪訝に思い振り返り、そして開いている扉の向こうの闇の中にそれを見た。
扉から入る僅かな光に、ぼんやりと白く照らしだされたのは、美しくも青白い肌をした乙女を背に侍らせた骸骨の剣士だった。
「ひっ」
アルトはまた、少女のような小さな悲鳴を上げた。




