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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#10_ぼくらのダンジョン生活(最終章)

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198/208

42禍々しき異形の骸骨

 最終章 ここまでのあらすじ


 真なる創造主にして異世界の悪神ヴァナルガンドは、この世界を自らの糧とする為に創りたもうた。

 だが、彼を追いやはり異世界から来たウォーデン老とその弟子ハリエットにより窮地に立たされたヴァナルガンドは、彼の忠実なる(しもべ)である人狼ギャリソンによって造られた迷宮『グレイプニル』へと逃げ込む。

 そしてヴァナルガンドとの戦いで深い傷を負ったウォーデン老は、迷宮の攻略をアルト隊に託した。

 全8階層に及ぶ迷宮攻略を進め、迷宮攻略の期限である3月21日、アスカ隊、ドリー隊、ルクス隊を加えて合同4(パーティ)となった一行は、ついに最後の階層へと身を投じる。

 どれかがヴァナルガンドに通じるとされる4つの扉を別れてくぐったそれぞれの(パーティ)は、その先でそれぞれが強敵たる怪物(モンスター)に出会った。

 シノビ少女ヒビキを加えたドリー隊こと『放蕩者たち(プロディカラ)』がくぐったドアの先で待っていたのは、禍々しき異形の骸骨『スケリトルファルチェ』だった。

 無数の骨で出来たムカデのような体に人型のしゃれこうべ。

 4本の腕には大きな鎌という冒涜的な出で立ちである。

 薄暗い大広間に所狭しと床から天井から、そして壁から青白い淡い光を放つ大水晶の結晶が突き出ている。

 そう、ここはドリー隊が突入した『偉大なる創造主の隠れ家』の一室である。

 ドリー隊が対するは、この水晶の林を縦横無尽に駆け回る、ムカデのような異形の骸骨『スケリトルファルチェ』だ。

 その異形の骸骨から生えた4つの鎌が互いに触れ合いキンキンと甲高い音を鳴らす。

「威嚇のつもりかな」

 水晶の森の手前で『両手持ち大剣(ツーハンドソード)』を構える黒髪の少年剣士ドリーが、その様子に油断なく視線を送る。

 4本の鎌腕は、まるでそれぞれが別の生き物のように蠢き、そして今にもこちらを切り裂こうと狙っているかに見えた。

「ヒビキ、威力偵察だ。まずは思い切りブチかましてくれ」

 最もドアに近いところから全体を見渡す白磁の魔導士カインが指示を出す。

 このドリー隊では彼が司令塔となるのがいつものことだ。

 とは言え、正確にはドリー隊、つまり冒険者(パーティ)放蕩者たち(プロディカラ)』のメンバーではないヒビキは少しだけこの命令に反発心を覚えないでもない。

「言われなくても」

 そんな反抗期の如き心情を含む返事を口にし、小柄なシノビ少女ヒビキは軽やかに水晶の森を跳んだ。

 足場の悪さを苦にもしない接近芸は、もはや舞いのようですらある。

「どうせ初めからコレが私の戦い方だ。無数の刃に滅せよ、『セイバーアクセル』!」

 身の毛もよだつような禍々しき異形の眼前まで走り寄り、ヒビキは修練の後に身に着けた技の名を口にする。

 右手の小太刀が、左手のクナイが、霞むように加速する。

 左右の得物から一閃二閃と残像を引く斬撃がクルクルと繰り出される。

 踊るように繰り返される連続斬が左右合計一〇閃だ。

 確かに手にした得物はどちらも軽いものだが、これだけの連続斬撃なら、内数回はクリティカルヒットも発生する。

 クリティカルヒットであれば、普通は小さな打撃値であっても、その威力は最低でも倍加する。

 手数で確率を超え、結果的に合計ダメージを稼ぐ。

 これが『シノビルド』と呼ばれる長い修行の道を登り切った者たちが到達した真理の一つであった。

 この時も、合計3回はクリティカルヒットが発生した。

 だがさすがにヒビキもこの連撃で異形の化け物を葬り去るなど出来る訳が無いとわかっている。

 であるから、最後の一閃が終わった直後に警戒しつつ数歩後ろへと飛び退った。

「どうです?」

 そんな様子を眺めていた亜麻色の髪の神官剣士アッシュが、自分より鋭い目で見極めようと両者を見ていたカインに訊ねる。

 だがカインは視線を離さぬままに小さく首を振る。

「ここからじゃ効いてるようには見えないな」

 そんな言葉が耳に届いたのだろう。

 ヒビキは視線を『スケリトルファルチェ』から離さぬままに応えた。

「いや、まったく効いていないということはないと思うが……」

 ただその言葉の歯切れ悪さに、一同は怪訝そうに眉を寄せた。

 だが深く思考を巡らすような暇など無い。

 今は戦闘中なのだ。

「よし、次は俺が行く!」

 ヒビキの軽量武器でダメならとドリーは奮い立ち、『両手持ち大剣(ツーハンドソード)』を引きずるように携えながら大水晶の足場へと飛び乗った。

 飛び乗り、おぼつかない足取りを見せつつも接近を果たして大剣を振るう。

 いかにも大振りなスイングだが、これでドリーも手練れ剣士である。

 その軌道は彼なりに計算した必中の閃だ。

 ただ足場の悪さからくるパワー不足は否めない、と小さく顔をしかめた。

 物理攻撃を主体とする戦士系は全てがそうだが、特に大剣のような重量武器を使う『両手武器修練』を学ぶ者にとって足場の良し悪しは致命的である。

 大きな力を生むには、足元の踏ん張りが必須だからだ。

 そういう訳もあり『両手武器修練』の攻撃スキルは使えなかった。

 それでも高レベル『傭兵(ファイター)』の一撃なら、それほど軽いものではない。

 それらの論を裏付けるように、ドリーの『両手持ち大剣(ツーハンドソード)』が、受けようとする鎌を掻い潜り、異形の骸骨の頭部を捉えた。

 これが低レベル不死の怪物(アンデット)骸骨(スケルトン)』であれば、一撃で吹き飛びかねないようなスイングである。

 だがさすが『スケリトルファルチェ』。

 ドリーよりも高レベルな怪物(モンスター)だ。

 直撃した大剣の威力に従い、その頭部は大きく揺さぶられた。

 だが、眼孔から覗く小さな火球のような眼は、一瞬だけドリーを見てから興味なさそうにふいと逸らされた。

 これは効いてない。

 ドリーは苦々しく奥歯をかみしめ、次のラウンドの攻撃へ備えて足場を踏みしめた。

 次こそは、『バンディッドストライク』でも叩き込んでやる。

 そういう思いからの一歩であった。

 だが、その力みが悪かった。

 次の瞬間、摩擦の少ない水晶の表面が彼の踏みしめた足を放り出したのだ。

 すなわち、ドリーは滑って水晶の森から滑落した。

 それでも『スケリトルファルチェ』の禍々しき視線は、無様に水晶へと引っかかる黒上の剣士に興味を示さなかった。

「これは僕も気を付けないと」

 そんな様子を教訓として、亜麻色の髪のアッシュは自らの『両刃の長剣(ロングソード)』と『円形の盾(ラウンドシールド)』を構えて水晶の森を見据える。

 しかし一部始終を観察するカインによって肩をつかまれ止められる。

「待て、アッシュはここで『キュアライズ(回復魔法)』の準備をしてくれ。どうせこのままでは囲んで殴るなんてできないんだ」

 そんなカインからの言葉に真剣なまなざしで頷きつつも、少しホっとしたアッシュだった。


 さて、ヒビキやドリーが攻撃をし、アッシュが『キュアライズ』の為に待機したなら次は『スケリトルファルチェ』が動く番だ。

 この異形の骸骨はどういう訳か初めに接近したヒビキにご執心のようで、火球のような視線を殆ど彼女から離さなかった。

「あれは、好みなのかヘイトなのか」

 そんなカインの呟きを他所に『スケリトルファルチェ』が4つの鎌を振るう。

 視線のままに、狙いは当然ヒビキである。

 その鎌の閃きは、ヒビキの『セイバーアクセル』には劣るものの、それでも生半可な戦士であればかわすに難い鋭さを持っている。

 それでも相手はシノビ少女ヒビキである。

 体格からもわかるように、戦士系にしてはHP(ヒットポイント)が低い彼女の信条は「当たらねばどうという事ない」である。

 迫りくる鎌をヒラリヒラリと退()()けて、結局のところ一撃とて食らうことはなかった。

「なんだ、10レベルが聞いて呆れる」

 不敵に笑い、ヒビキは挑発するかのように言葉を出した。

 聞こえているのか理解しているのか、その火球のような眼が少し揺らいだ気がした。


 そうして2ラウンド目のヒビキは、いつも通り『忍法・影潜り(シャドウダイブ)』で身を隠そうとした。

 『二刀流(ツインソード)』からの『セイバーアクセル』は確かに彼女一番の技であったが、その欠点はと言えばRR(リキャストラウンド)である。

 つまり一度放てばしばらくは使えないという事であり、いくら回避力の高いヒビキでもそれまでが手詰まりとなり得る。

 そこでヒビキはいつも『セイバーアクセル』の次には『忍法・影潜り(シャドウダイブ)』で身を隠すようにしているのだ。

 だがここで待ったが入った。

 要求の主はドリー隊が白磁の参謀カインだ。

「ヒビキは隠れず、防御専念しながら骸骨の背後へと回れ。ドリーはその位置で好きにやればいい」

 後半は投げやりにも聞こえるが、要するに「任せる」という事である。

「OK。だがやっぱりスキルは無理そうだ」

 ドリーも解っているのでそう答えながら元の水晶まで這い上がった。

 ヒビキは渋々といった風で『忍法・影潜り(シャドウダイブ)』を諦めて、そのドリーとは比べようもない軽やかな足取りで『スケリトルファルチェ』の脇を抜けて背後へと回る。

 シノビの技を修めた身としては素早さが身上である。

 敵の後ろを取るなどスキルを使わわずとも簡単だ。

 と、思いもしたがやはりそうは甘くないらしい。

 異形の骸骨はすぐさまヒビキの動きに反応し、彼女を追うように反転した。

 つまり、ヒビキ以外の全員に背を向ける形となった。

「おい、さすがにムッとするぞ」

 カインからすれば想定の内だったろうが、目の前で尻尾を向けられたドリーからすれば「舐められた」と感じても仕方ない。

 彼は再び『両手持ち大剣(ツーハンドソード)』を構えて、『スケリトルファルチェ』の骸骨の尻尾に思い切り振り下ろした。

 最初の一撃もかわす気があまり感じられなかったが、今回は背後からの攻撃(バックアタック)である。

「その不自然な尻尾、叩っ切ってやる」

 さっきに比べ、いくらか頭に血が上って肩に力が入っているが、攻撃有利なのは間違いない。

 ガツンと大きな音が立ち、『両手持ち大剣(ツーハンドソード)』は狙い通り『スケリトルファルチェ』の尻尾に食い込んだ。

 ただ切り落とすには至らない。

 そもそも部位欠損は相手方に『致命的失敗(ファンブル)』でも発生しない限りは起こることではないのだ。

 だが、それでも『スケリトルファルチェ』の興味は、ドリーに一切向かなかった。

 ではその興味はと言えば、当然彼が火球のような眼で追うヒビキにある。

「こうあからさまだと、コイツの脳も知れたものだな」

 カインはニヤリと笑って使う魔法の選定に入る。

 だが手番は様子見の為に最後へ回しているので、今はアッシュとともに前衛たちの戦いぶりを見守るだけだ。

 その前衛ヒビキに迫る『スケリトルファルチェ』は、カインに「脳が知れる」と揶揄された頭で「こいつを捕まえるのに、鎌では無理だ」と悟ったようだ。

 ではどうするのか。

 ガラン洞のしゃれこうべは考え、そして結論を()()()()

 それは古代から続く人語とは違う体系の言語だ。

「アイツ、頭悪そうなくせに高度な魔法使うのか!」

 カインはこの隊内で唯一その言語を理解する者であり、理解したからこそ驚きに目を見開いた。

 そう、彼の言う通り、『スケリトルファルチェ』が呟いたのは緒元魔法を発動させるための魔法言語であった。

「『ブリッツカヴァーテ』」

 幾重にもハウリングがかかったような聞き取りづらい声で、骸骨は確かにそうつぶやいた。

 その瞬間、彼の口から稲妻が閃いた。

「なんだライトニングか!?」

 その様子を後ろから歯噛みして見ていたドリーが声を上げる。

 稲妻を出す魔法と言えば緒元魔法『ライトニング』だ。

 3レベルと早いうちから身につく割に、使い勝手がよくその後も長く重宝する魔法である。

 まぁ最も、この世界の現住人からすれば3レベルとは「早いうちから」というレベルではないのだが。

 ともかく、ドリーは仲間の『魔術師(メイジ)』が使用するのを何度も見たので、今回も『ライトニング』である、と勘違いした。

 だが、その魔法の稲妻は『ライトニング』と違って真っすぐ飛ばず、ヒビキのすべてを覆うかのごとく拡散した。

「『ライトニング』ではない。あれは『ブリッツカヴァーテ』だ」

 知能面で見下した相手が自分より高いレベルの魔法を使うことを知り、苦々しい表情でカインはそうドリーへと教えた。




 『ブリッツカヴァーテ』は8レベルの緒元魔法だ。

 ドリーが勘違いしたように、その初動は『ライトニング』に似ているが、直線的に放たれて貫通して終わりの『ライトニング』と違い、拡散して投網のように目標を6ラウンド絡めとる。

 魔法抵抗に失敗して絡みつかれた場合、あらゆる物理行動に大きなペナルティを負い、なおかつ6ラウンド間継続的に『ライトニング』並みのダメージを受け続ける。




 そしてその魔法がヒビキを拘束しようと降り注いだ。

 だがヒビキは余裕の表情でフッと口元をゆがめた。

「こっちは防御専念中だ。格上とは言え簡単にはなどかからん」

 相手はレベル10とは言え、ヒビキとて8レベルに達する『傭兵(ファイター)』なのだ。

 そこへ『防御専念』によって魔法への抵抗力も上がっていれば、彼女の言う通りそうそう成功するものではない。

 ちなみにこういう場合、抵抗されたら消える魔法ではなく、抵抗されても効果が減るだけの魔法の方が有効である。

 それを選ばなかったのが『スケリトルファルチェ』の無能さなのか、それともヒビキへの謎の執着なのか。

 そういう訳で、稲妻の投網は虚空へと霧散した。

 この時の『スケリトルファルケ』の表情と来たら、間抜けそのものだったとヒビキは後に語った。

 今のところ苦戦しているという雰囲気ではないが、とは言えこちらの決定打もない。

 やはり主砲であるドリーの一撃が必要だ。

 となれば足場の確保は必須である。

「さて、ではこちらもいろいろ試すとするか」

 カインは選定した緒元魔法を開放すべく、その名前を口にした。

「『ファタモルガナ』」

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