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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#10_ぼくらのダンジョン生活(最終章)

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41地獄の重戦車

 最終章 ここまでのあらすじ


 真なる創造主にして異世界の悪神ヴァナルガンドは、この世界を自らの糧とする為に創りたもうた。

 だが、彼を追いやはり異世界から来たウォーデン老とその弟子ハリエットにより窮地に立たされたヴァナルガンドは、彼の忠実なる(しもべ)である人狼ギャリソンによって造られた迷宮『グレイプニル』へと逃げ込む。

 そしてヴァナルガンドとの戦いで深い傷を負ったウォーデン老は、迷宮の攻略をアルト隊に託した。

 全8階層に及ぶ迷宮攻略を進め、迷宮攻略の期限である3月21日、アスカ隊、ドリー隊、ルクス隊を加えて合同4(パーティ)となった一行は、ついに最後の階層へと身を投じる。

 ヴァナルガンドに通じるとされる4つの扉を別れてくぐったそれぞれの(パーティ)は、その先でそれぞれが強敵たる怪物(モンスター)に出会った。

 アルトの義兄弟である元ライナス傭兵団チーム、ルクス隊が行き会ったのは地獄の重戦車『ファーベルパンツァー』。

 3メートルあろうかという黒鉄全身鎧の姿を取った、凶悪なゴーレムだ。

 ルクス隊は意を決して『ファーベルパンツァー』に戦いを挑んだ。

「先手必勝、とうっ!」

 昆虫のような甲殻に身を包んだ『合成獣(キメラ)』である怪奇バッタ男ファルケが叫びを上げながら床を蹴る。

 その跳躍は人ではありえぬ、ゆうに垂直高さ3メートルはあるだろう。

 それでも、対する黒鉄の巨兵『ファーベルパンツァー』の頭の高さだ。

「そっ首貰うぜ。どんな生き物でも、頭飛ばしゃ死ぬってな」

 空中で彼の武器となる身体が翻り、そして足刀が巨兵の頭部を襲う。

 ファルケの素早さと来たら常人では考えられぬようなものなので、いかにも鈍重そうな『ファーベルパンツァー』が避けられる訳がない。

 次の瞬間には、その鋭い足刀は巨兵の鉄仮面へと突き刺さった。

 相手が常人なら、充分に必殺の名が御役を果たす威力である。

 だが、相手は人ですらない、巨大な鉄の塊だ。

 ファルケの脚にはまるで城壁でも蹴りつけたかのような反動が返り、急ぎ身を捻って三角飛びの要領で再び跳躍した。

「ひえぇ、こいつは硬てぇ」

 身軽に宙返りして数歩手前まで戻り着地したファルケが呟く。

 その声を聴き、後詰がごとく一部始終を見ていた面々も固唾を飲んだ。

 今の姿となったファルケは、素早さだけでなく打撃力もまたアルセリア島トップクラスと言えるものを持っている。

 その彼の渾身の飛び蹴りが、露ほどにも効いた様子が無いのだ。

「とはいえ、相手は無生物だ。そもそも痛覚なんか無ぇだろうし、全員で畳みかけるしかねぇ」

 少し呆然と引き気味だった仲間たちに向かって、強がり半分にエイリークが声を掛ける。

 そして自らの右腕であるミスリル銀の義肢を掲げて魔法の言葉を唱えた。

「ファルケ兄退け、『魔法強化』『ライトニング』をぶっ放す!」

 その声が世界に溶け、迷宮の空気が鳴動した。

 金緑色の手の平がパチパチと閃き、そして高電圧の雷撃が閃いた。

 スキルと特殊義肢をもって強化されたその雷撃は、これまたまさに必殺の名にふさわしき広がりを見せて『ファーベルパンツァー』へと真っ直ぐに襲い掛かった。

 黒鉄の大鎧が激しく帯電し、オゾン臭が部屋に広がる。

「少しは効いたかこの野郎」

 不敵な笑みを浮かべた赤毛の魔導士エイリークは、ミスリル銀の指先からわずかに立ち昇る煙をフッと吹き飛ばした。

 確かに、体表面が少し黒ずんだようにも見えるので、ファルケのキックよりは効いた様にも感じる。

 が、その巨兵の動作はこれまた怯んだ様子無く変わらず、ただゆっくりと前進あるのみであった。

「全員、持久戦の用意を。こいつは互いに削り合いの戦いだ」

 先の2人の攻撃を見て、やはり、と防御力が高いことを確認した長兄ルクスは、自らも業物の『両手持ち大剣(ツーハンドソード)』を構えなおしつつ仲間たちに声を掛ける。

 ファルケやエイリークも言葉こそ軽いがその視線は真剣に敵を見据えて頷いた。

 そしてもう一人、いやもう一体と呼ぶべきか。

 身長3メートルの黒鉄巨兵からすると見劣りするが、その金緑色の全身鎧が美しい人形姉妹の一人プレツエルがずいと前に出る。

「エルがアレを止めるでござる。その隙に兄上たちは攻撃するでござるよ」

 言うや否や、ガシャンガシャンと軽やかに大きな金属音の足音を立て、2メートルの全身鎧が黒鉄巨兵へと突進し、そして躊躇なく激突した。

 激しい金属音を叩き合う音が広間に響く。

 それぞれが得物を脇に差してがっぷり四つに組み合ったのだ。

 こうなればもはや戦士同士の戦いというより取組と呼んだ方が良いかもしれない。

 とは言え、上背は『ファーベルパンツァー』に有利があり、前進を止めはしたものの、見るからにプレツエルが押される形である。

「この機を無駄にするな。全員吶喊!」

 ルクスが声を上げ、『両手持ち大剣(ツーハンドソード)』を振り上げて突撃を始める。 その後ろに二度目の攻撃に備えたファルケが続く。

 最後衛では魔導士エイリークがまた『ライトニング』の構えだ。

「我らライナスの4兄弟。揃って砕けぬ敵など存在してはならん」

「兄貴、アルトがいないから3兄弟だ」

「プレツエルも入れれば4兄妹(きょうだい)で正解でござる」

「ははは、ならアルトいらねーな」

 どこかでアルトの「ヒドイ」という声が聞こえた気がしたが、ここにいない者の声は幻聴に違いない。

 『ファーベルパンツァー』との戦いは、まだ始まったばかりである。



 さて、このまま『ファーベルパンツァー』とプレツエルの掴み合いの隙を縫って打撃を積み重ねたルクス隊だったが、3ラウンドも経つと『ファーベルパンツァー』もさすがにこの状況を打破しにかかる。

 3ラウンド目の最後。

 つまり『ファーベルパンツァー』の手番で、ついに()の鉄塊はプレツエルを投げ飛ばした。

「ぬぅ、これまででござるか」

「いやこれは相撲じゃねぇ。まだいけるさ」

 たった3ラウンド。

 いや、おそらく『アイアンゴーレム』すらも上回る恐怖の鉄塊を3ラウンドも抑えたのだ。

 これはプレツエルの殊勲と言っていい。

 エイリークはそう慰め交じりの声を掛け、また次の攻撃に備えて青い錠剤を取り出した。

 これはMP(マナポイント)回復効果のある、錬金少女ハリエットが作ったアイテムである。

 副作用は飲むほど激しくなる頭痛だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 とにかくダメージを積み重ねていくしかないのだ。

 とは言え、あまり頭痛が酷くなると集中力が低下して、場合によっては魔法が使えなくなることもあるのだが。

 ともかく、エイリークは躊躇する間もなく、青い錠剤を飲み込んだ。

 そしてまた、次のラウンドが開始されると、彼らは一斉にそれぞれの武器を以て飛び込むのだ。

 ファルケが拳を、ルクスが大剣を振るって巨大な鉄塊へ攻撃を加える。

 が、今度はプレツエルが捕まえていないせいか、ゆるりとした動作でかわされた。

 やはり(のろ)いとはいえモンスターレベル11の強敵である。

 そう簡単にはいかない。

「エルがもう一度抑えるでござる」

 その様子に先ほど投げ飛ばされたミスリル銀塊ことプレツエルが再び鉄塊へと突進する。

 ところが今度は『ファーベルパンツァー』も「同じ手は食わぬ」とばかりに得物を構えた。

 身の丈によく似合う、長大なポールウェポン『ハルバード』だ。

 これを見てプレツエルも方針を変え、後ろ腰に差していた『長刀(なぎなた)』を両手で構え、そのまま斬り付けた。

 あわよくば彼女のファーストアタック、といきたいところであったが、これは難なく『ファーベルパンツァー』の『ハルバード』に止められる。

 そして振るわれた反撃がまた、途轍もなかった。

 まず斬り結ばれた『ハルバード』と『長刀(なぎなた)』を激しく打ち鳴らして跳ね飛ばす。

 一連の防御行動であったが、これでせっかく接近したプレツエルは大きく一歩分の後退を強いられた。

 そして『ファーベルパンツァー』が『ハルバード』を中段腰構えに据える。

 この瞬間、彼の鉄塊の後ろで燃え盛っていた炎の円が大きく揺らいでより激しく吹き上がった。

 同時に、正面側にいたルクス隊の面々にも、眼を開けているのが辛くなるほどの熱風が吹き付けた。

「来るぞ。おそらくやつの固有スキルだ」

 この現象でルクスの勘が警鐘を鳴らした。

 彼の言葉に各々は身構えてその時を待つ。

 どのみち、このラウンドはすでに『ファーベルパンツァー』だけが手番を残すのみなので、彼らには受けるか避けるかしか道は無い。

 そして次の瞬間に『ファーベルパンツァー』が吼えた。

 いや、激しい空気の鳴動が、まるで彼が吼えたかのように見せたのだ。

 腰構えに据えられた『ハルバード』が一文字に空を切る。

 このスイングはただの空振りではない。

 すでに彼の鉄塊から発せられていた熱風の逆を打つ、そして斬り裂くような一閃だ。

 これによって風の流れが大きく変わる。

 どう変わったか。

 激しく変えられた熱気の流れが渦を巻き、暴れ、そしてはるか天井まで立ち昇るような竜巻となった。

「うげ、逃げろ逃げろ」

 ファルケが叫び、いち早く身を翻す。

 これに逃げ遅れたのは、最も『ファーベルパンツァー』に近かったプレツエルだ。

「のわーっ」

 2メートルを超すミスリル銀の塊が、竜巻に飲まれて宙に飛ぶ。

 ミスリル銀は軽量な金属ではあるが、それでもこの体積となれば相応の重さがある。

 加えてプレツエルの操るこの塊は、一見すると全身鎧に見えるがその実ゴーレムである。

 プレツエルの乗りこむ胸部の空洞以外は、ほとんど金属が詰まったまさしく塊なのである。

 その重量物が簡単に舞い上げられ、激しく天井にぶつけられ、そしてそこで竜巻は消えた。

 するとどうなるか。

 浮力の元を失ったプレツエルは、そのまま重力の虜となって床へと叩きつけられた。

 さすがに丈夫なミスリル銀は、これによる外傷は見られなない。

 が、床の石畳は見る影もなく割れ崩れている。

 また、割れた石屑にまみれたプレツエルもピクリとも動かない。

 外殻はノーダメージに見えても、中身は相応の打撃を負ったようだ。

「エル、無事か!?」

 さすがに心配になりエイリークが駆け寄ると、金緑色全身鎧の胸部がパカッと開いて、小さな手のひらサイズの少女が目を回しながら顔を出した。

「らいじょうぶでござるぅ」

 まったく大丈夫そうではなかった。

 とは言え、見た感じ傷を負ったようではない。

 エイリークは小さく安堵の溜息を吐いてから表情を引き締めた。

「まだいけるか? ダメなら下がれ」

 この言葉にプレツエルはハッとして頭を振り、そしてキッとエイリークを見上げる。

「兄上! エルは大丈夫。い、行けるでござるよ」

 そして開いた鎧胸部へと戻り、大鎧は再び立ち上がった。

 波乱の4ラウンドを越え、第5ラウンドの開始である。

「エルがもう一度、捉まえるでござる。兄上たちはそれから攻撃するでござる」

 プレツエルはそう叫び、敏捷順を抜かして駆け出そうとした。

 1ラウンド目の成功体験が、今の彼女を突き動かす原動であった。

 とにかくプレツエルが『ファーベルパンツァー』の動きを止め、その隙にタコ殴りにするのがこの強敵の攻略方だと、信じて疑わなかった。

 だが、そんなプレツエルの前に立ちはだかる者がいた。

 甲虫の外皮を見に纏った、バッタ怪人ファルケである。

「いや、あんな竜巻何度も喰らえば、丈夫なミスリル銀でもすぐ壊れちまう。ここは前衛交代だ」

 彼はそう言い、プレツエルに代わって駆け出した。

 プレツエルは焦り、その背に声を投げかける。

「ファルケ殿では一撃で壊れるでござるよ!」

 ファルケの丈夫さも、ミスリル銀程でないにしろ常人を越えている。

 それでもあの竜巻の打撃力は必殺の威力と言えるだろう。

 プレツエルのミスリル銀ネブゴーレムだから耐えられた、という自負が、彼女にそう叫ばせた。

 だが、ファルケは駆けながら肩越しに少しだけ振り返りニヤリと笑った。

 いや実際には異形の顔なので笑ったように見えただけだ。

 そんな中でファルケはプレツエルと、その後ろに控えた義兄弟たちへ言う。

「何も受け止めるだけがタンクじゃねぇ。ファルケ流を見せてやんよ!」

 言い放ち、彼はまた床を蹴って宙へと飛んだ。

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