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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#10_ぼくらのダンジョン生活(最終章)

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39それぞれの強敵

 最終章 ここまでのあらすじ


 真なる創造主にして氷原の魔狼ヴァナルガンドは、この世界を自らの糧とする為に創りたもうた。

 だが、彼を追い異世界から来たウォーデン老とその弟子ハリエットにより窮地に立たされたヴァナルガンドは、彼の忠実なる(しもべ)である人狼ギャリソンによって造られた迷宮『グレイプニル』へと逃げ込む。

 そしてヴァナルガンドとの戦いで深い傷を負ったウォーデン老は、迷宮の攻略をアルト隊に託した。

 迷宮攻略の期限は3月21日。

 それは昼と夜が釣り合い、糧となる世界からヴァナルガンドに及ぼす影響が、最も高まる日だという。

 様々な敵と罠を潜り抜け、途中、アスカ隊、ドリー隊、ルクス隊を加え合同4(パーティ)となった一行は、期限日である3月21日の朝、ようやく『偉大なる創造主の隠れ家』と銘打たれた間にたどり着いた。

 ここには4つの部屋があり、どれかにヴァナルガンドがいるという。

 ただし各部屋に挑戦できるのは一度に6人までらしい。

 また、もしどこかの部屋の攻略が成れば、攻略メンバーは定員にかかわらず他の部屋に乱入できるという。

 4つの(パーティ)は、それぞれが別の扉の先に飛び込むこと決意した。

「よし、行っていいぞ」

 歳の割に落ち着いた厳めしい表情の少年剣士ルクスがそう言うと、まるで「まて」を解除された犬の様に義弟ファルケがルクス隊の列から飛び出した。

 飛び出し、意味もなく素早さを生かして取り付いたのは、広間に設えられた4つのドアの内の1つだ。

「ファルケ兄、なんでその扉にしたんだ?」

 同じ列にいる赤毛の魔導士エイリークが興味深そうに訊ねる。

 4つの扉はどれも同じ形で装飾は無く、無機質で丈夫そうな黒の金属ドアである。

 そんな中から明確に素早く選んだということは、彼ら人なる目には見えない基準があったのかもしれない。

 なにせファルケは人にして昆虫の特徴をも持つ『合成獣(キメラ)』なのだ。

 ファルケの回答に注目するのはエイリークだけではない。

 ルクスも、そしてエイリークの斜め後ろに控えている金緑色の巨大全身鎧(プレツエル)もまた期待の視線を注いでいた。

 ファルケはいかにも自信満々といった風で胸を張った。

「一番近かったから!」

「ああ、そう」

 皆、同時に興味を失って大きな溜息を吐いた。

 そんな一幕を挟み、ルクスは振り返って他の(パーティ)へと顔を向ける。

「では一足先に行く。またな」

 と、それだけを言うと返事も待たずに扉へ向けて歩き出した。

 エイリークもプレツエルもそれに続いて多くの目が見送る中、ルクス隊はまず最初にドアをくぐった。


 『両手持ち大剣(ツーハンドソード)』を肩に担いだルクスを先頭に、その両脇をファルケ、プレツエルが固める。

 そして後衛にはエイリークが、いつでも魔法を使えるようにとミスリル銀製の右腕を左手で掴むようにして構えていた。

「これはまた、暑いでござるな」

 部屋でまず全員の目に入ったのは、ただっぴろい空間の中央で絶え間なく燃え盛る炎の円だ。

 部屋の明かりと言えばその炎だけであり、高い天井の果てや隅などまでは光が届かず、いったい部屋がどこまで続いているのか想像もつかなかった。

「なんだぁ? 火の上位精霊でも出てくるのか? ちっ、俺たちじゃ不利か」

 目を凝らして炎を見つめ、そこに何かがいることを確かめるとエイリークは呟く。

 『炎の魔人(イフリート)』や『不死鳥(フェニックス)』といった火の上位精霊扱いされるキャラクターは、ファンタジー界隈ではもはや常識と言えるほどに有名であり、また最強クラスの存在である。

 このメリクルリングRPGの世界でも同様で、単体にて災害と目される怪物(モンスター)だ。

 また同RPGでは実体を持たない『精霊』である定義上、物理攻撃が通用しないことになっているし、精霊側からの攻撃も物理攻撃扱いではない。

 つまり、もしエイリークの懸念通り敵が『精霊』などであれば、戦士系が主体のこの(パーティ)では不利ということになるだろう。

「その心配はなさそうだぜ」

 だが、そんな杞憂も義兄が一人、ファルケの指摘で払拭された。

 彼の指す炎の中央をよく見れば、そこには炎と同じ赤の色に変わる巨大な塊があったのだ。

 元傭兵団のエイリークは、あれを何度も見たことがある。

 あれは高温で焼かれた鉄の色だ。

 傭兵団は旅をしながら戦に雇われることもある為、しばしば鍛冶屋を連れている。

 ゆえに、プレツエルを除く他の者たちもまた同様に知っていた。

「なら、敵は鉄の塊。ゴーレムか?」

 ゴーレムもまたファンタジーではメジャーな存在だろう。

 土くれ、金属など様々な素材で作られた魔法の疑似生命体。

 この隊列にいるプレツエルもまた、知性を与えられたゴーレムの一種である。

「動くでござるよ」

「行くか? 先手必勝か?」

「いや待て。敵がまだわからないうちは見極めてから行かないと、痛い目を見るぞ」

 傭兵の戦いはおおよそ『人種(ひとしゅ)』が相手だ。

 ゆえにファルケにはいまいち「敵種を識別する」という癖が無かった。

 『合成獣(キメラ)』にされてからも、持ち前の気楽な性格と著しく高くなった戦闘能力のせいでその傾向は変わらない。

 だが昨日の手痛い失敗もあり、珍しく慎重になっていた。

 おそらく3日くらいはこの慎重さも続くだろう。

「むむむ、やはりゴーレムぽいな?」

 ファルケの大きな2つの複眼と小さな3つの単眼が、炎の中から鉄の塊が立ち上がるのをジッと見る。

 それはプレツエルの操る全身鎧型のネブゴーレムよりもはるかに大きい。

 ゆうに身長3メートルはあろうかという巨大な全身鎧であった。

 その黒鉄のボディが炎で煌々と輝く様は、一種、美しく神々しささえある。

 攻撃を受け流すことを想定した流線型の中にも、攻撃的な波形の刃が彼方此方に形作られている。

 そしてかの手にあるのは長大なポールウェポンだ。

 槍の穂先に斧のような刃を持つそれは『ハルバード』と呼ばれる。

「確定名『ファーベルパンツァー』だってよ。ただのゴーレムって訳ではなさそうだ」

 エイリークがいつの間にか額ににじみ出る脂汗を拭いつつ、『ズールジー(動物学)』で看破した結果を仲間に伝える。

 たまに、無生物であるゴーレムなども『ズールジー(動物学)』で知ることが出来るのは何かおかしい。と思わないでもないが、この世界の理がそうであるのだから仕方ない。

 ともかく、エイリークは仲間にその絶望を伝える。

「レベルは11だそうだ」

 昨晩、彼らにも経験点が天より配布された。

 おかげで純粋戦力がアップしているルクス隊だが、それでも11レベルの相手は厳しいだろう。

 ちなみに解り易く10レベルの他の怪物(モンスター)を上げるとすると、『レッサードラゴン』が例にしやすいだろうか。

 他の部屋も同様であれば、これは全滅をも覚悟しなければならないだろう。

 特に、ルクスの様に英雄レベル(10レベル)に到達したメンバーのいない(パーティ)は。

「さぁ戦闘開始だ。行っていいよね?」

 強敵がいる。

 倒さなければ未来は無い。

 ゆえに、高揚する。

 ファルケが破滅的な快楽を求め、大きな複眼をぎらつかせながら義兄を見る。

 ルクスは『両手持ち大剣(ツーハンドソード)』を肩から降ろし、斬っ先を地につけるように構えながら固唾を飲んで頷いた。

「ああ、行け。ブチかませ」

「アオォーン!」

 お預けを解かれ、ファルケが燃え盛る炎を蹴散らしながら巨大な黒鉄に向けて駆け出した。



 続けて隣のドアをくぐったのはドリー隊だった。

 先頭に黒髪の少年剣士ドリーと紺の装束で全身を隠す小さなシノビ少女ヒビキが並んで進む。

「罠は無いわね。でも、これは……」

 扉を確認してから部屋の中を眺め、ヒビキは絶句した。

 隣のドリーもまた息をのむ。

 薄暗い部屋の中に、ところ狭しと薄青の光を発する大きな水晶が突き出していた。

 突き出して、というがあまりの密度にその根元は判別がつかない。

 というか部屋の広さ自体もいまいちわからない状況だ。

 とにかく、六角柱状の大きな水晶の結晶が、あちらこちらから絡み合うように生えているのだ。

「これは、とても綺麗だけど、景色を楽しんでいる場合じゃぁ無いんだろうね」

 亜麻色の髪の神職剣士アッシュが部屋を見回しながら呟く。

「そうだな。戦場と見るなら、これほど戦い難そうなところも中々ない」

 同意しつつまったく情緒無い即物的な話をし出す白磁の魔導士カインの言葉に、ドリーは首を傾げた。

「そうなのかい? どう言うところがダメなんだろう」

「君は……相変わらず物事を深く考えるということが出来ない人だな」

「おや、申し訳ないね」

 大きな溜息と共に非難めいた言葉が出るが、ドリーはさらりと流す。

 このやり取りもいつものことなのか、アッシュは苦笑いをもらすばかりだ。

「私は何ら問題ない」

 そんな少年3人のやり取りなど他所に、小柄なヒビキは平坦な言葉でそう告げる。

 告げて、横生えに出ている手近な水晶にヒョイと飛び乗った。

 その様を見てドリーも納得したように手を打つ。

「ああ、足場の話か。それなら俺だって……よっ」

 そしてすぐさま真似するようにまた別の水晶に飛び乗った。

 が、こちらはヒビキの乗った水晶より斜度がキツかったようですぐにフラつく。

「おおっと」

 ワタワタと手を振って何とかバランスを整え落ちることは防いだが、それでもここで『両手持ち大剣(ツーハンドソード)』を振るうのはかなり難しそうだ。

「これは確かに苦戦しそうだね」

 アッシュもまた、ドリーの様を見て水晶を撫でて深刻そうに溜息を吐いた。

 と、その時。

 彼らの話声しか聞こえなかった静寂の間に、何か硬質なものが擦れたりぶつかったりする音が聞こえて来た。

「いよいよ敵さんのお出ましみたいだ」

 ドリーはそれまでの暢気そうな表情を一転厳しいものに変え、水晶の上でも安定するように片膝をついて『両手持ち大剣(ツーハンドソード)』を構える。

「さて、どれくらい凶悪な面か拝んでやろう」

 またカインは数々の水晶がなるべく多く見えるよう、一歩下がって視界を確保した。

 それぞれが固唾を飲んで見守る中、水晶の森の奥より姿を現したのは異様な骸骨であった。

「なんて禍々しい姿なんだ」

 アッシュがその威容に慄き呻く。

 頭こそ人の頭蓋骨に似た形だが、額にも眼孔がある当たり、元は三つ目なのだろう。

 その三つの眼孔には小さな火球のような光が揺らめいている。

 また身体は長い背骨を軸に、無数のアバラ骨が生えていた。

 そう、それは胸の部分だけでなく、下半身もまた同様だ。

 この下半身の奇形アバラ骨が、まるで多足類生物の脚のごとく蠢いて水晶の上をカサカサと移動していた。

 そして胸部のそれぞれ左右から、4つの鎌状の腕が生えているのだ。

 これに正確に肉付け復元をしたとしても、こんな生物は見たことが無い。

 ゆえに死を匂わせる骸骨の奇形的な配置が、禍々しく、冒涜的ですらある。

「おい、なんだあれは。不死の怪物(アンデット)か? それともゴーレムの類か?」

 身構えていたドリーも少し驚きに口を開け、そして呟く。

 その額にはすでに脂汗が滲み始め、姿を見ただけで直感的に強敵であることを察しているようだった。

 アッシュが『学者(ワイズマン)』の技能を目に宿し、その名を看破する。

「『スケリトルファルチェ』。レベルは10か。さすがに世界の滅亡を賭ける前哨戦とあれば、これくらい当然か」

 彼らも冒険者として様々な怪物(モンスター)と戦ってきたが、内乱中だったタキシン王国や陰謀渦巻くニューガルズ公国が活動の中心だっただけに、実は人間種相手の戦いの方が多かった。

 ゆえにこの様な変則的な戦場で、なおかつ変則的な強敵を相手にするのは初めてとさえ言える。

「ドリー、ヒビキ。一度水晶から降りろ。何も初めから相手の縄張りでやる必要はない」

 で、あるから、アッシュはそのように慎重論の様子見戦術を取ることを提案した。

 水晶の森を巣とする禍々しき鎌の骸骨と、その手前で隊列を組むドリー隊が、今、一触即発から戦いを開始しようとしていた。



 アルトたちが踏み入った部屋は、ただ暗く、何もない部屋だった。

「明かりが無いでは話にならないね。『マギライト』」

「承認します」

 黒衣の魔導士カリストが、素早くアルトが額に巻く鉢金(はちがね)に魔法の灯りをともす。

 元GMである薄茶色の宝珠(オーブ)から聞こえるシステム音声と共に少し見えるようになった。

 が、とはいえどうやらかなり広い部屋のようで、その果てを見極めるのは難しそうだった。

「ひとつにゃ足りないにゃ。『光の精霊(ウィスプ)』召喚。『ウィスプグリッター』にゃ」

「承認します」

 またもや元GMからの返事を受け、ねこ耳童女マーベルの指先が示す少し前の虚空に、淡い光の球が浮かび上がった。

 すると、その光球直上に何かが見えた。

「なんだ?」

 警戒し、サムライ少年アルトが背に担いだ大太刀『蛍丸』を急ぎ抜く。

 『蛍丸』からも滲むように漏れる淡い光によって、天井の物体が詳らかになる。

 それは赤い血のような色のスライムだ。

 不定形のゲル状物体が天井から水滴を垂れ下げつつも、液体ではないがためにしたたれ落ちることは無い。

「ちょっと美味しそうやね」

 どんな凶悪な怪物(モンスター)が現れるかと身構えていたらスライムだった、という一種気の抜けた状況に白い法衣のモルトが首を傾げた。

 色合いとその透明具合からワインゼリーでも想像したのだろう。

「えと、どうする? 燃やす?」

 続けてアルトは困惑しつつ後衛に訊ねる。

「確かに古典的スライムと言えば火が弱点だったりしますがの。カリスト殿どうですかな?」

 すかさず酒樽紳士レッドグースも首を傾げながら仲間の『学者(ワイズマン)』へ振り向いた。

 カリストはすぐ薄茶色の宝珠(オーブ)にお伺いを立てつつ、その目に『ズールジー(動物学)』のスキルを宿した。

「確定名は『メッサージエロ』。レベルは……8か」

「微妙なラインにゃ」

 スライムと言えば近年は弱いザコ怪物(モンスター)というのが定番だが、このレベルは中々のものだ。

 だが、ラスボス前の前哨戦と考えるなら、マーベルの言いう通り微妙と言えるかもしれない。

 皆が一様に困惑する中、モルトが少しお道化たように声を上げた。

「ま、まぁ勝てるか判らんようなごっつ強い敵やなくて良かったやん?」

「まぁそうか。そうだな」

 気を取り直すように『蛍丸』を構え、アルトはまたふと疑問符を頭上に挙げる。

「刃で斬れるのか? やっぱ燃やす?」

 話は堂々巡ってまた戻ってきた。

 が答えるべきカリストは少し眉を寄せたまま固まっていた。

「カーさんどうしたにゃ?」

「それが、手に入ったデータに少し気になることがあって」

「なんですかな?」

 背が低めの2人に挟まれ、言い淀みつつもカリストは気になるということを述べる。

「種族名が『スライム』ではなく『奇妙な動物』なんだ」

 ここへ来て、楽観的だった(パーティ)の雰囲気に、暗雲がかかり始めていた。

 ここからはラストまでバトル三昧の予定です。

 飽きてブクマ外す方は、出来れば星一つでも入れていって下さると嬉しいです。

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