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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#10_ぼくらのダンジョン生活(最終章)

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35色順

 最終章 ここまでのあらすじ


 真なる創造主にして氷原の魔狼ヴァナルガンドは、この世界を自らの糧とする為に創りたもうた。

 だが、彼を追い異世界から来たウォーデン老とその弟子ハリエットにより窮地に立たされたヴァナルガンドは、彼の忠実なる(しもべ)である人狼ギャリソンによって造られた迷宮『グレイプニル』へと逃げ込む。

 そしてヴァナルガンドとの戦いで深い傷を負ったウォーデン老は、迷宮の攻略をアルト隊に託した。

 迷宮攻略の期限は3月21日。

 それは昼と夜が釣り合い、糧となる世界からヴァナルガンドに及ぼす影響が、最も高まる日である。

 迷宮攻略の途中、アスカ隊、ドリー隊、ルクス隊を加え合同4(パーティ)となった一行は犠牲を厭わず第6層の攻略を進める。

 どうせこの迷宮(グレイプニル)内なら、死しても迷宮入り口にて復活するのだ。

 そうしてタイムリミットも迫る中、3月19日の昼頃に、人数の少なくなった一行は第7階層にたどり着いた。

 第7階層は『ウツロの縞瑪瑙』というゲームを模したものだと、カリストとレッドグースが言うのだが、彼らが語った攻略情報は微妙に食い違うものであった。

 第7階層の仕組みは色別になった6色の通路を正しい順に進んでから最後の扉を開ければ先へ進めるということらしい。

 が、試しにカリストとアスカの記憶にある順番を進んだところ、扉を開けたレッドグースは中へと吸い込まれ、戦線離脱と相成った。

「聡明なる賢者殿。それで、結論は出たのかい?」

 思考の海へと沈み切ってなかなか浮上しないカリストに飽きたバッタ怪人ファルケが、肩をすくめながら息を吐いた。

 この様子に「昆虫も口呼吸にゃ?」とマーベルがねこ耳を揺らしながら首をかしげたが、それに対する明確な答えは誰も持っていなかったので、皆が聞かないふりをする。

 聞かなかったので、ファルケの言葉へと殊更注目し、したがって黒の魔導士カリストへと視線を集中させた。

「ああ、ゴメン。いまいち纏まってはいない。けど」

 カリストは曖昧に目を彷徨わせながら答える。

 戸惑いからではなく、幾つかの思惑を取捨選択するための仕草のようだ。

「とりあえず、おやっさんの回答を試してみようか」

「それくらいしか、今は無いか」

 この言葉に、鈍色の戦乙女アスカが同意し、他に代案もない一同もまた頷いた。

 おやっさん、すなわち先に『ススメマセンヨ』の扉に吸い込まれて戦線離脱したレッドグースのことだ。

 彼の記憶する『ウツロの縞瑪瑙』での回答は、『白、黄、青、紫、赤、青』であったが、これより先にカリストとアスカの記憶していた順番を試した。

 結果はご覧のありさまだったわけだが、つまりはレッドグースの記憶違いだったわけではない可能性も出てきたと言いうことだ。

「ま、どうせ怪物(モンスター)が出ないんだ。一人一回ずつ、思いつくだけ試せばいいさ」

 と、気楽そうに頭の後ろへと両手を組んで言い出したのはサムライ少年アルトだった。

 これには金髪の魔法少女マリオンも同意する。

「そうね。ええと、8人いるから8回まで試せるわ」

 言われ、皆、視線でメンバーを確認する。

 バッタ怪人(ファルケ)ねこ耳童女(マーベル)シノビ少女(ヒビキ)黒マント(カリスト)女偉丈夫(アスカ)白法衣の乙女(モルト)魔法少女(マリオン)、そして若サムライ(アルト)の8人だ。

 ちなみに敏捷度順である。

「ちっちゃいのも含めたらもっと行けるんちゃう?」

 数え終わったところでそう言いだしたのはモルトだ。

 彼女の視線を追えば、「ちっちゃいの」とは人形サイズの『人工知能搭載型(インテリジェンス)ゴーレム』や、カリストの使い魔である黒猫ヤマトのことらしい。

 ちなみに人形少女(シスターズ)の中でここに残っているのは、白いバブスリーブのワンピースを着た『癒しの手(クラーティオ)』エクレアのみだ。

 ティラミスとクーヘンはレッドグースと探索方として行動していたため、彼のベレー帽と共に吸い込まれて戦線離脱となっている。

「馬鹿か?」

 と、モルトの提案に対して辛辣な感想を述べたのは、紺の装束で全身を包んだちびっこ忍者ヒビキだった。

 モルトは「なんでダメなん?」と首をかしげる。

 冷淡で端的な言葉に対し全くこたえた様子を見せないことに舌打ちをし、ヒビキは返答を口にする。

「その人形も猫も、ドアノブ開けられないだろう?」

 この言葉で、各自今更気づいたという様に2名を見て「ああ」と言葉を漏らした。

 普段からアスカの鎧下のフードに収まっているようなエクレアや、平均的な大きさの猫であるヤマトでは、単純な理由としてドアノブに届かない。

 よしんば、誰かが抱えてドアノブを捻ったとして、おそらく抱えた者ごと吸い込まれるのが落ちだろう。

「そうですね。確かにエクレアには無理そうです」

 この言葉や視線を受けて、エクレアは頬に手を添えて苦笑いをこぼした。

 ところが、黒猫のヤマトは不満そうに「にゃ」と強い調子で鳴いた。

「おや、ヤマトは行けるのかい?」

「にゃ」

 カリストが面白そうな声でそう訊ねると、ヤマトは自信ありげに短く答る。

 そして背をぴんと伸ばしたすまし顔で、スタート部屋にある黒ドアの一つへと楚々と歩み寄った。

 歩み寄り、前触れもなく垂直に跳躍し、両の前足でドアノブを掴んで、ぶら下がるようにして器用に捻った。

 すると『イロハシロ』と書かれた黒ドアは、ノブにヤマトをぶら下げたまま、ゆっくりと押し開かれた。

「おーかわええな。動画撮っときたいわー」

 この様子にモルトやマーベルがキャイキャイと騒がしい賞賛を送り、ファルケやマリオンは素直に手を叩いて褒め称えた。

 ヤマトもまたやりきった顔でスタスタと飼い主の元へと戻ったのだった。

「つまり残機9ってことだな」

 アスカの呟きにアルトはジトっとした目を静かに向けた。


 さて、黒猫ヤマトが白い通路へ続く扉を開けたので、一同はそのままその通路へと足を踏み入れる。

 レッドグースの残した色の順序は『白、黄、青、紫、赤、青』だったので、ちょうどよいと言えるだろう。

 というか、そこを考慮してヤマトは白通路へのドアを開けたのかと、数人は買いかぶってまた感心した。

 実際のところ、ただの偶然だった。

 使い魔となって賢さが上がったとはいえ猫である。

 さすがにそこまでの利発さはない。

 ともかく、彼らはレッドグースの記憶にあった色順を進み、そして『ススメマセンヨ』の部屋へとたどり着いた。

 警戒もせずに進めば、15分程度の道のりだ。

「さて、誰から犠牲になる?」

 たどり着き、ドアを前にしてファルケが一同を見回す。

 まるでもう不正解であることが決定したような言い草だったが、他のメンバーも期待と諦観が半々くらいの気持ちであったので、誰も文句は言わなかった。

「私が行くわ」

 と、すぐさま進み出たのはマリオンだった。

「もしもの時の為に前衛は残した方がいいでしょ? 回復役(ヒーラー)もね」

 彼女は名乗り出た理由を述べて、さらに肩をすくめた。

「それにMP(マナポイント)ももう無いのよ私」

 MP(マナポイント)は魔法やスキルを使うために必要なエネルギーだ。

 これが尽きた『魔術師(メイジ)』など、もうただの人である。

「青錠、まだあるぞ」

 ただこれに対して、何気ない調子でそう答えたのはアルトだった。

 青錠とは、外で後方支援に従事している錬金少女ハリエットが作ったMP(マナポイント)回復薬である。

 青いタブレット状なのでそう呼ばれていた。

 ただ、マリオンはその言葉を発したアルトを恨めしそうに睨みつけ、そしてフンと顔をそらした。

 青錠を飲めば確かにMP(マナポイント)は回復するが、副作用の頭痛はなかなか耐え難いのだ。

 切羽詰まった状況ならともかく、どうせ戦線離脱が前提のトライアンドエラーなのだから、立候補しても良いと思ったのだ。

 というか、頭痛より死を選ぶというあたり、おかしな逆転現象と言えなくもない。

「あなた、そんなことだからモテないのよ」

「ぐう」

 ぐうの音をもらすアルトであった。


 結果を言えば、レッドグースの回答もこの迷宮では不正解であった。

 ドアの向こうで光の粒となって消えたマリオンを、アルト隊の面々は合掌で見送り、またまた一同揃ってスタート部屋へと戻った。

 気が落ち着かない一面の黄色に囲まれ、額を突き合わせる。

「あ、ファンファンフォン渡すの忘れた」

 ここでそろそろ覚束ないまでも一人で立てるくらいに回復したカリストががっくりと肩を落とす。

 外に出た人とも連絡が取れるように、次にチャレンジする人には魔法通信石板(タブレット)ファンファンフォンを持たせようと思ってたのだ。

「ほな、次の人でええやん。先決めとこか」

 モルトの言葉に首肯し一同が視線を交わすと、黒い毛玉が勇まし気に片方の前足を上げた。

 黒猫ヤマトだ。

「よしヤマト。頼んだぞ」

「にゃっ」

 カリストは頷きつつ、彼の胴にファンファンフォンを括り付けた。

「さて、次はどういう順番で行こう」

 ひと段落したところで、アスカが議題を持ち上げる。

 これが問題だ、と皆一様にそれぞれの思考ポーズを取った。

「私とレッドグースの憶えていた順番に違いがあるのは、プレイしていた機種の違いによる。そう考えているんだな?」

 それぞれが口をつぐんだ中で、アスカがそう口を開く。

 向かう相手は黒衣の魔導士カリストだ。

 カリストは静かに頷くことで返答とする。

 言葉を続けないのは、そこから先の考えが纏まらないからだ。

「機種による違いか。コンピューターごとのカラーコードの順番とかは?」

 さらにアスカが問いかける。

「カラーコード、か」

「カラーコードってなんにゃ?」

 カリストがつぶやき返し、そしてマーベルも繰り返して首を傾げた。

 少し考え、カリストは説明を口にする。

「カラーパレットとも呼ぶんだけど、コンピューター上では色に番号を振ってあるんだよ」

「何のためにゃ?」

「うん、色を表示するため、かな?」

 いつになく説明下手であった。

 カリスト自身がそもそもプログラマーであり、普段から当たり前に使っている知識であるが為、余計に「解らない人へ解りやすく」のレベルが判らなかったのだ。

 大雑把に言えばこうである。

 我々はパソコンの画面を通して様々な画像や文字を見ているが、この処理をコンピューターはすべてプログラムと呼ばれる数字や記号の指定で行っている。

 これを補助するために決められているモノの一つがカラーコードだ。

 現代人に通用するコードで例えるなら、WEB上で赤色を表示するために決められているコードは#ff0000である。

 WEBページを構成するためのHTML言語で『<font color="#ff0000">ああああ</font>』と書き込めば、WEBブラウザで『ああああ』が赤で表示される、という塩梅だ。

 まぁHTMLはプログラム言語ではないのだが、ともかく色をコンピューターの為に数字などで表すのがカラーコードであると理解していただければいいだろう。

 そのカラーコードが、コンピューターの種類によって違ったりしたのだ。

「こほん。ともかくカラーコードではない。と、僕は思っているよ」

「なぜ?」

「単純な話、僕やアスカ君の憶えていた色順と、MSXのカラーコードがそもそも食い違っているからだ」

「そ、そう、なのか」

 そんな説明を、アスカはキョトンとした顔で受け止めた。

 カラーコードの何たるかを解っていないマーベルやモルト、アルトなどもっと酷い埴輪顔である。

「MSXのカラーコードは、最初は透過色。次は黒、緑と続くからね。透過色を抜いたとしてもすでに違うよ」

「そうだな。そうだ、うん」

 皆を置いてけぼりで饒舌になったカリストだったが、案を出したはいいが実際には詳しくなかったアスカもタジタジだ。

 その後もひとしきり、古いコンピューターのカラーコードを披露して、ようやくカリストの言葉が止まったころにはすでに小一時間が経過していた。

「酷い無駄な時間を過ごしたにゃ」

「同意する」

 珍しく、マーベルとヒビキのちびっこコンビの気があった瞬間であった。


 ともかく、と気を取り直してファルケがギチギチと口を開いた。

「なら、次はどうする?」

「どうすると言ったってなぁ」

 アルトが困ってついこぼしたが、他の皆も同じ気持ちだ。

 そもそも「プレイした機種によって色の順番が違うらしい」という情報しかないのだから、考えたっていい案が浮かぶわけもない。

「そやったらもう、何でもええから色の順番を試すしかないやろ」

「色の順番とは?」

 モルトの半ば投げやりな言葉に、ヒビキが眉を寄せて問う。

 問われたモルトは口元に人差し指をトントンと当てて例えを考える。

「色の順番言うたら…そやな、青、黄、黒、緑、赤とかどうやろ」

「なんの順番にゃ?」

「オリンピックの五輪マークやな」

「なるほど。モルト君、よく覚えてるねそんなの。でもそれじゃ5色しかないからダメだね」

「ほーか、6色やもんな」

「それなら青、赤、黄、青、緑、赤ならどうだい?」

「なんやろ?」

「GOOGLEロゴの色順だよ」

「カーさんこそ、よくそんなの憶えてるにゃ」

「あれはどうだ? 赤、黄、紫、緑、緑、橙、紅」

「それは?」

「炎色反応。リアカー無きK村、動力馬力かりんとう、ストロンチウムもマッカッカだな」

「アっくんが賢そうなこと言ってるにゃ」

「喧嘩売ってんの?」

「まぁまぁ、ならともかく順番に試していこう」

 と、最後にカリストがそうしめて、そう言う事になった。


 そしてGOOGLEカラーを試し、ヤマトが光の粒となって消えた。

 彼は迷宮の入り口で騒がしく出迎えたギャリソンの幽霊を華麗にスルーし、そして床に積もった埃に書かれたメッセージを見つけた。

 そこには「FM-7」と記されていた。

 猫であるヤマトは、それをしばし眺めた後、「にゃ?」と首を傾げ、つい習性から後ろ足で土をかけて奇麗に均しす。

 消えたメッセージに満足し、ヤマトは上を見る。

 そこは迷宮グレイプニルの門のある縦穴だ。

「にゃぁ…」

 彼は自らの力ではこの縦穴を脱することが叶わぬと諦め、仕方なしにと身を丸めてひと寝入りすることにした。

 ファンファンフォンをその体に括り付けたまま。

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