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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#10_ぼくらのダンジョン生活(最終章)

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32DvD

 最終章 ここまでのあらすじ


 真なる創造主にして氷原の魔狼ヴァナルガンドは、この世界を自らの糧とする為に創りたもうた。

 だが、彼を追い異世界から来たウォーデン老とその弟子ハリエットにより窮地に立たされたヴァナルガンドは、彼の忠実なる僕しもべである人狼ギャリソンによって造られた迷宮『グレイプニル』へと逃げ込む。

 そしてヴァナルガンドとの戦いで深い傷を負ったウォーデン老は、迷宮の攻略をアルト隊に託した。

 迷宮攻略の期限は3月21日。

 それは昼と夜が釣り合い、糧となる世界からヴァナルガンドに及ぼす影響が、最も高まる日である。

 迷宮攻略の途中、アスカ隊、ドリー隊、ルクス隊を加え合同4(パーティ)となった一行は第6層の攻略を進める。

 もはやタイムリミットも身近に迫る中、ようやく第6層も大詰めとなり、残す敵は緑の成竜(グリーンドラゴン)化け蟹(カルキノス)となった。

 検討した末、まずはドラゴンへ挑むと決めた冒険者たちのうち、黒衣の魔導士カリストが奥の手、『理力の塔』を発動。

 供給される無限の魔力を用いて、魔獣召喚魔法『プロスクリスィ』を極限強化した。

 その結果として彼らの援軍に現れたのは、最凶と呼ばれる灼熱の古竜、シャイニングスターであった。

 少しだけ時間は遡り、カメラを迷宮の外へ移す。

 ここはアルセリア島を南北に分けるように連なる『天の支柱山脈』。

 その『天の支柱山脈』の中央付近は、特に険しい山峰群であり、人通わぬ深遠の地であった。

 なぜ人はここへ通わぬのか。

 まず一つは単純に険しすぎて到達することが出来ないからだ。

 深遠とは、言葉の例えでなく人里からも遠く、山脈の稜線は夏でも雪が覆う標高であり、そして最高峰は打って変わって灼熱地獄かというほどに暑い活火山なのだ。

 人里遠く、高い山へ挑戦する難しさに加え、気温差もまた難易度の高さの原因となっている。

 この最高峰の火口付近に、彼は永く住んでいた。

 彼とは、この世界において『神竜』などと称される5頭、いや5柱の古竜(エンシェントドラゴン)の1柱、最凶の火竜シャイニングスターのことである。

 彼は退屈していた。

 この山に住まい山脈の獣を糧として狩り、時に平地へと珍味を求め飛翔する。

 そんな生活がすでに1000を超える年月の間、続いている。

 以前は人と呼ばれる数種の小さき者たちが、時には知恵を求め、時には力を求め、ここへやって来た。

 だがそれももう500年は無いことだ。

 もしや、もうあの小さくも(さか)しい阿呆どもは、滅びてしまったのかもしれん。

 などと溜息を吐く。

 溜息、などと言うが、彼ほどのモノが吐くなら、それはもう災害である。

 山に残った数少ない木々はそれ一つで吹き飛び、土砂はたちまち舞い上がる。

 だが、この山にはそんな災害を憂う者もいやしない。

 ああ、退屈だ。

 久々に山脈の南へワイバーンどもを追い散らしに行ってみるか。

 それとも、小さき者どもが滅びたのかどうか、物見に行ってみるのも悪くない。

 そう思いつつも、長く遠出などしない生活のせいか、すっかり出不精が板についてしまい、しばらくすれば億劫さが勝って結局寝床に戻るのだ。

 こんな気鬱がもう数百年続いている。

 すべては長く生きる者の宿命、退屈が悪いのだ。

 シャイニングスターはもう一度、大きな溜息で山の土砂を吹き飛ばした。


 そんなある日。

 いつもと変わり映えのしない、火口奥を流れる灼熱のマグマをぼんやりと眺めていると、何かが彼の耳に届いた。

 いや、それは正しくない。

 ()()が届いたのは耳ではなく、かと言って頭でもない。

 あえて言うなれば魂の奥へ直接語り掛けるような、それでいて懐かしい言葉だった。

「『プロスクリスィ』だと? くっくっく、どうやらあの賢しい阿呆どもは、まだ生きておったのか」

 500年より前の時代。

 人と呼ばれる小さき者共が、ひと時、大きな力を持った時代があった。

 その頃はしばしばこの呼びかけが彼の魂へと届くことがあった。

 これは「力を貸せ、そして我が敵を滅ぼせ」という命令に近い呼びかけ。

 もちろん、神竜と呼ばれるほどの彼ならば、いくら力を持ったとはいえ所詮は人などという矮小なる存在の命令を聞いてやる言われも無ければ、隷属するほど弱くも無い。

 だがそれでも、退屈に任せ何度か呼びかけに応えてやったことはあった。

 呼ばれて馳せ参じてやれば、対する敵とやらは、巨人族であったり、または他の古竜であったり、または名も知らぬ海の巨大な魔物であったり。

 ともかく、どれも少しくらいは彼の無聊を慰めるに足る存在であった。

 どうれ。せっかく久々のお声がかりだ。

 一つ、呼ばれてやるか。

 彼は数十年ぶりに口元を笑いに歪め、魂への呼びかけに「応」と答え、そして巣から頭上に広がる青空高くへと飛び立った。

 直後、彼の全身は光の粒子となって虚空へと散り消えた。


 気づけばそこは、見たことのない小島であった。

 いや、火竜シャイニングスターからすれば小島でしかないが、小さき者どもからすればなかなかに広い土地であろう。

 などと考えながら俄かに見まわし、正面の低き小山に緑色のドラゴンを見つけた。

 あれが、自分を呼び出した原因か。

 彼は見定めるように目を細める。

 見た限り、なかなかの体躯に育った成竜だ。

 亜種を別として、正統な竜種はその成長度によって名が変わる。

 まず生まれてから知恵が発するまでを幼竜(レッサードラゴン)と呼ぶ。

 ほとんどの竜種は、レッサードラゴンの内に死ぬ。

 争いや事故、様々な原因による。

 知恵がつく頃から成竜と呼ばれる。

 生まれついての強靭な能力に、危険を回避するための知恵が備わるのだから、こうなると簡単には死なない。

 そしてそこから3~400年も生きれば古竜(エンシェントドラゴン)と呼ばれる。

 これは人種からすれば災厄だ。

 そこからさらに知恵と力を蓄えた存在。

 それがこの世界に5柱しかいない神竜。

 もはや存在自体が伝説である。

 その神竜たるシャイニングスターは、深く裂かれたような大きな口に笑いを浮かべ、空に向かって咆哮を上げた。

 いっちょこの若造を揉んでやるか。

 そんな気分で、彼はゆっくりと翼を広げて飛び立った。


 第6階層の主の一角である緑の成竜(グリーンドラゴン)は、唐突に現れた格上の古竜の咆哮に、たちまち恐怖した。

 彼は自分がいつからここにいるのか、また、いつ自意識が芽生え成竜となったのか、そう言った記憶が一切ない。

 だが、それでもこの島では陸の王であり、彼に敵う者は一つとしていなかった。

 ゆえに、これまでは王として悠々と振る舞い、その余裕から近付く者もあえて無視して過ごしてきた。

 だが、今、そんな彼の存在を揺るがすモノが現れた。

 察するに、彼の数倍は生きているだろう、恐ろしくも強大なる古竜。

 いや古竜などという枠すら超えているのではないかと、彼は恐れおののいた。

 逃げなければならぬ。

 逃げなければ、次の瞬間に自分はこの島の大地に屍を晒すだろう。

 そんな未来が脳裏にありありと見え、緑の成竜は急ぎ翼を広げる。

 が、一瞬遅く、古竜はすでに上空へと舞い上がっていた。

 マズい。非常にマズい。

 焦りと恐怖が相まって翼をはばたくことさえ忘れ、彼はそのまま2本の足を無様に使って大地を駆けだした。

 ドラゴンの大疾走である。

 これは滅多に見えることの出来ぬ珍事だろう。

 そんな緑の成竜をあざ笑うかのように、古竜は悠々と上空から追いかけつつ、大きく息を吸って、そして吐いた。

 いや吹いた。と表現する方が近いかもしれない。

 口笛を吹くかのように口元をすぼめ、そしてそこから吹かれた吐息は炎を纏い一直線に緑の成竜へと向かった。

 緑の成竜は力を振り絞り、一瞬だけ駆けるスピードを上げる。

 すると炎の息吹(ファイアブレス)は今しがた彼がいた大地へ着弾し、岩や木々を吹き飛ばした。

 ホッとしてスピードを緩める。

 もちろん、常に最速で駆けたいところだが、それではとても身体が持たない。

 炎の息吹(ファイアブレス)に燃やされる前に、スタミナが尽きて倒れるだろう。

 このままではジリ貧だ。

 そう判断した緑の成竜は、次の息吹が来る前にもう一度スピードを上げた。

 あざ笑うかのように、またかかとのすぐ後ろの大地を炎の息吹(ファイアブレス)が焼き払う。

 冷や汗を振り払い、緑の成竜は恐怖に耐え、そして十分な助走を取って翼を広げた。

 恐慌からの硬直ではばたくことが出来ないなら、滑空すればいい。

 それが彼の思惑であった。

 そしてその作戦は上手く行く。

 元々、小高い丘に陣取っていたので、坂を下る様に駆けた彼は、翼を広げた途端、グライダーのように宙へと浮いた。

 この瞬間、少しだけ心が解放された気分になり、翼の硬直が解けた。

 今だ。

 タイミングを計り、翼をはばたく。

 すると緑の成竜は風を捉まえたトンビの様に、たちまち空高く舞い上がった。

 よし、このまま逃げる。

 この島で、今まで彼を追い詰めようなどという存在はいなかった。

 ゆえに、空へと飛び立った緑の成竜は、既に危機は去ったモノと夢想した。

 だが、相手は初めて出会う格上の存在である。

 そんな逃亡をやすやすと見送るわけがないのである。

 緑の成竜もすぐにそれを思い知った。

 必死でスピードを上げようと翼に力を入れる緑の成竜を、真っ赤な灼熱の古竜は、ニヤニヤとしながらも悠々とした態ですぐ後ろについて飛ぶのだ。

 そして今にも炎を吹き散らかそうというのか、口元には火花と種火がチロチロと見て取れた。

 古竜は小さく息を吸い、そして炎の息吹(ファイアブレス)を火弾の様に飛ばす。

 緑の成竜はギリギリでこれをかわし、高度がそれなりに出来たところで急降下を開始する。

 これ以上スピードを増すのは、彼の能力上、もう困難である。

 で、あるならば、外なる要因を加えるしかない。

 つまり、重力による加速だ。

 だが当然、追う古竜も同じルートを飛ぶなら重力の加護を受ける。

 すなわち、差は広がらず、ただ地面が刻々と迫って来るばかりだった。

 ここで彼は一つの賭けに出た。

 一筋の矢の様にまっすぐ落ちる急降下から一転し、全身を出来る限り大きく広げたのだ。

 途端に大きな翼が空気をはらみ、そしてその抵抗から落下スピードは極端に低下する。

 するとどうなるか。

 すぐ後ろを追っていた古竜の表情が、いたぶるような余裕のものから強張った。

 衝突すれば緑の成竜も大ダメージだが、古竜もまたただでは済まない。

 古竜は必死に軌道を修正し、膨らんだ緑の成竜から身をよじった。

 見事、緑の成竜から身をかわすことに成功した古竜を、次なる危機が襲う。

 彼らは共に急降下していたわけで、すなわち古竜を襲った危機とは、地面と激突する危機だ。


 ち、これを狙ったか。若造め。

 古竜シャイニングスターはひと時イラつきを顔に表し、そしてさらに身をよじった。

 今度は直進方向を変える為ではない、姿勢の上下を入れ替えるためのものだ。

 こんな挙動、人間であればまず不可能だが、翼を持つ彼になら可能だ。

 しかしすでに迫った大地との激突は、もはや回避不可能であった。

 なので、彼は膝を柔らかく使い、大地を力強く踏みしめる。

 島が、大きく揺れた。

 島の短い歴史上、当然ながら類に見ない大地震である。

 そして引き絞った弓の様に膝へと力を溜め、シャイニングスターは弾丸の様に空へと弾け飛んだ。

 上空でホバリングするように止まった緑の成竜に、巨大な肉弾がぶち当たる。

 そして緑の成竜は当然、さらに空高くへと押し出された。

 さらに、灼熱の古竜シャイニングスターは若造を逃がさぬと、翼を広げて上空へと飛びこんだ。

 もはや、地上からは唖然と見上げるしかないほどの高度へと、2頭は戦いの場を移していった。



「いやはや、人知を超えた戦いというのは、こういうのを言うんだろうねぇ」

 その地上で、最凶の火竜シャイニングスターを呼び出した張本人である真っ黒の魔導士カリストは、まるで人ごとの様に呟いた。

 未だ全身は力を失い仲間たちに担がれている状態だが、口だけは達者に回るようだ。

「あんな危ないもん呼び出してからに。どないすんの?」

 少し怒った風で、白い法衣のモルトが言うが、カリストはどこ吹く風という態で肩をすくめようとした。

 当然、全身が動かいないので、すくめることは叶わなかったが。

「僕だって、まさかシャイニングスターが来るとは思わなかったよ。その辺の適当な高レベル魔獣を呼んで、こちらが倒せる程度まで精々削ってもらおうという魂胆だったんだから」

「あの様子じゃ、シャイニングスターが勝ち残るだろうが、後はどうする気だ?」

 と、カリストを担ぐ輪から少し離れたところを静かに進んでいた小さな影が疑問を発した。

 全身を隈なく紺の布で覆ったシノビ少女、ヒビキである。

 どうする、とは、当然ながら戦い終わった後の、シャイニングスターの処遇である。

 このままかのドラゴンが勝利を収めるのは明らかだろうが、その後、シャイニングスターと我ら合同(パーティ)が戦う羽目になるのなら、呼ばなかった方が良かった、などということになる。

「大丈夫だよ。『プロスクリスィ』で呼び出された怪物(モンスター)は、18ラウンド経てば自動的に送還される仕様だから」

 カリストはまた、肩をすくめようとしながらそう答えた。

「なら、この戦いが18ラウンドギリギリまでかかることを祈るとしよう」

 ヒビキはコメカミに人差し指を当てながら、頭の痛い素振りでそう呟いた。

 『プロスクリスィ(召喚魔法)』で呼び出された怪物(モンスター)は、基本的に召喚者に逆らわないように、魔力の呪縛が施されている。

 が、稀にこの呪縛を破り、術者へ襲い掛かる怪物(モンスター)もいる。

 ほとんどの場合、これは『致命的失敗(ファンブル)』で起こる現象だが、果たして、神竜と呼ばれるほどの伝説(レジェンド)が、たかが矮小な人間ごときの術で縛られるのだろうか。

 そうした予感が、ヒビキの小さな身体を小刻みに震えさせた。



 上空。

 それも人なる身が通常では覗き得ないほどの上空で、もつれ合っていた2頭の竜はようやく分かれた。

 片や最凶と言われた暴れ古竜、シャイニングスター。

 片や、迷宮(グレイプニル)第6層の主である、名も無き緑の成竜。

 どちらも同じくドラゴンだが、しかし全く違う。

 シャイニングスターの方が一回り半ほど大きいし、その表情は余裕と侮りが見て取れる。

 彼にとってこの戦いは、猫がネズミを追い回すような、一種の娯楽なのだ。

 対する緑の成竜には余裕などない。

 今にも殺されそうなこの時、この場所から、いかに逃れるかしか頭にないのだ。

 もうその思いが強すぎて、恐怖という感情が麻痺してさえいる。

 ともかく、そんなドラゴンが滞空しながら互いに向かい合い、互いに動くべきタイミングを待ちながらじっと睨み合っていた。

「なぜあなたは私を殺そうとするのだ」

 ほんの一瞬の間。だが成竜にとっては永遠にも感じる時の中から、彼は絞り出すようにそう問いを発した。

 もちろんそれは人間が話す言語とは違う。

 竜語(ドラゴンロア)と呼ばれる、太古から自我を持ったドラゴンに自然と備わる魂の言語だ。

 古竜は久しぶりに訊く同胞の言葉に口元の笑みをより一層深める。

「貴様に恨みも含みも無いがな、今ひと時だけの主(召喚主)が貴様を倒せと命ずるのだ」

「あなた程の古竜が人間ごときを主などと。戯れを言われますな」

「判るか?」

「判りますとも」

 会話はそう続き、再び沈黙が訪れた。

 そう、灼熱の古竜シャイニングスターは、自らわざわざ召喚に応えてやったのだ。

 人間などに隷属しているつもりは毛頭ない。

 ただ、暴れる口実が欲しかっただけだ。

「で、あれば!」

 そこに一縷の望みをかけ、成竜は少しだけ表情をほころばせながら語り掛ける。

 この無益な戦いを治めましょう、と。

「治めたくば、俺の退屈を一瞬でもいいから消して見せろ!」

 が、そんな成竜の願い虚しく、古竜は沈黙と静寂の語り合いを破り、2頭の合間を葬り去る様に空を駆けた。

 瞬く間にシャイニングスターの巨体が成竜へと迫る。

 またぶちかましの体当たりが来る。

 成竜は本能的に目を瞑り、少しでも脅威を遠さけようと両手を前に突き出した。

 当然、そんな場当たり的で弱々しい両手突きなどが古竜に通用するわけがない。

 シャイニングスターは咄嗟に重心を上下で入れ替え、攻撃をショルダータックルからヤクザキックへと変更する。

 この方がリーチが長いゆえ、突き出された両手を掻い潜り、成竜の身体に攻撃が届くのだ。

 まぁ、彼にとってこの戦いは戯れの一つでしかない。

 このキックが防がれようが大した意味がない。

 防がれたなら、次の攻撃を考える楽しみが出来るのだから、そう悪いことでもない。

 そう思うための、力を抜いた虚ろめいたキックであった。

 それでも、最凶の古竜から放たれるキックは、成竜ごときにとってみれば大きなダメージを受けるに値する攻撃だ。

 成竜は防ぐことも叶わず、その無防備となった腹の真ん中にキックを受けた。

 ドラゴンの巨体がくの字に曲がり、強烈な痛みが腹を中心に突き抜ける。

 この時、成竜は痛みで気を失いかけていた。

 その朦朧とした意識の中で、突き出した両手が、自分の腹に突き刺さった古竜の脚を掴んだ。

 掴み、彼は痛みに崩れ落ちながら古竜の脚を時計回りに大きくひねった。

 翼による飛行能力を喪神と共に手放し、回転しながら落下し始める。

 その落下に、シャイニングスターがヤクザキックを放った足を巻き込んだのだ。

 これは全くの偶然であったが、シャイニングスターは壊れ行く自分の膝を見ながらも、大いに感心した。

 未だかつて、このように関節を極めるドラゴンがいただろうか。

「面白い!」

 2頭の竜は再びもつれ合い、今度はこの空へ来た時とは逆の順路をたどって大地へと墜ちた。


 大地震と共に地上へ戻った2頭の竜を出迎えた冒険者たちには、いったい何が起こったのか解らなかった。

 どう見ても2段も3段も格上と思われた火竜シャイニングスターが右の膝を折り、その脚を気絶した緑の成竜が掴んでいるのだ。

 シャイニングスターの勝ちは勝ちなのだろうが、緑の成竜大健闘である。

「仮初の主よ」

 負傷しつつも機嫌の良さそうなシャイニングスターが、咆哮にも似た声を上げた。

 これは人間にも解かる、人間の言語だった。

「な、なんでしょう」

 未だ理力の塔使用のダメージから立ち直れず、指一つ動かせないカリストが、仰向けに倒れたまま答える。

 ギロリと恐ろしい瞳でカリストを見定める古竜は、しばし訝し気に彼を見たのちに、どうでも良さそうな溜息を吐いてから再び口を開いた。

「この成竜、なかなか面白そうな若造である。よって、俺が預かり連れて行くがよろしいな?」

 それは許可を求めるでなく、ただ確認の態を取った高圧的な宣言でしかない。

 カリストもよく解かってるので逆らわず、表情だけで頷いて答えた。

「シャイニングスター様の、仰せの通りに」

 さすがのカリストも震え声の涙目である。

 この答えに満足したか、シャイニングスターは気を失った緑の成竜の脚を掴み、自らの脚を引きずりながら、丘の頂へ向かって歩き出し、そして魔法効果時間の18ラウンドを終えると、光の粒となって消えていった。

 不思議と、緑の成竜もまた共に消えていった。

「『プロスクリスィ』ってああいうものでしたかな?」

「いえ、シャイニングスターほどになれば、さらに高位の緒元魔法も使えるはずですし、ドラゴン独自体系の魔法もありますからなんとも」

「そもそも僕の『プロスクリスィ』も理力の塔ブーストしてるからねぇ。もはや何が何だか」

 レッドグースと薄茶色の宝珠(オーブ)、そしてカリストがそのように言葉を交わすが、他の皆は唖然とするばかりで、その声は耳に届いていなかった。

グリーンドラゴンがシャイニングスターの膝を壊した技は、藤波辰爾の『ドラゴンスクリュー』でした。

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