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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#10_ぼくらのダンジョン生活(最終章)

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28蛮勇なる冒険者たち

 最終章 ここまでのあらすじ


 真なる創造主にして氷原の魔狼ヴァナルガンドは、この世界を自らの糧とする為に創りたもうた。

 だが、彼を追い異世界から来たウォーデン老とその弟子ハリエットにより窮地に立たされたヴァナルガンドは、彼の忠実なる僕しもべである人狼ギャリソンによって造られた迷宮『グレイプニル』へと逃げ込む。

 そしてヴァナルガンドとの戦いで深い傷を負ったウォーデン老は、迷宮の攻略をアルト隊に託した。

 迷宮攻略の期限は3月21日。

 それはこの世界を喰らうと決めたヴァナルガンドにとって、もっとも力が高まると思われる日だ。

 途中、ウォーデン老が各地でスカウトしてきたアスカ隊、ドリー隊を加え、いくつもの敵や罠を破り先へ挑む。

 そして彼らは第6階層へとたどり着いた。

 第6階層のスタート地点は小さい島であり、数キロ先に大きな島があった。

 第6階層の舞台となる島に上陸し探索を開始した一行は、威力偵察の為、何種類か見かけた怪物(モンスター)の中から最も弱そうな白ヤギに襲い掛かり、だが、あえなく敗退を喫した。

 アスカの記憶からの推測によれば、この階層は『勇敢なるパーシアス』と言う古いゲームを模しているのではないか、との事。

 このゲームでは敵集団を倒すべき順番があり、この順番を守らないと倒すことができないらしい。

 地上に戻り、さらにルクス隊を加えた一行は、再び第6階層に挑むのだった。

 3月17日。

 4(パーティ)合同となったアルトたちは、少々手狭な思いをしながら早朝から迷宮の通路を進み、午前中のうちに第6階層の主フィールドとなる島へと降り立った。

 スタート小島から海を渡る際に化け蟹(カルキノス)の襲撃があると困るので、渡航の際は少し大回りを試してみた。

 その時、海には化け蟹(カルキノス)以外の怪物(モンスター)もいることが判明し、各員の気分を憂鬱にさせる。

 これから彼らがやらなければならないのは、この第6階層にいる数種類の怪物(モンスター)から、倒すべき正しい順序を探すことだ。

 怪物(モンスター)の数が多いということは、それだけ任務が困難となるのだ。

「今日の作戦(ミッション)について、第一目標の確認を行う」

 砂浜に(パーティ)ごと並んだ面々を前に、昨晩加わったルクス隊の長である戦士ルクスが口を開いた。

 歳はアルトより少し上と言う程度で背格好も同じくらいだが、その眼孔と語る口調ははるかに落ち着いており、頼るに不安を感じさせない。

 さすがは『ライナス傭兵団』に養われた孤児たちの長兄だ。

「各自散開し、第一目標である呼称名『水色鎧』を速やかに撃滅。『水色鎧』を見かけなくなり次第、ここへ集合すること」

 淡々と作戦を述べる。

 聞くメンバー各位は静かに頷きながらその言葉に耳を傾けた。

 ただ聞く内容は昨晩聞いたものあり、今更質問をするまでもない。

「では、散開!」

 そうして結ぶと、それぞれの(パーティ)は砂浜から散っていく。

 まずは先に述べられた通り、各自が『水色鎧』へと向かうのだ。

 『水色鎧』は、鈍色(にびいろ)の戦乙女アスカの記憶によれば、『定められた順番』の初めに位置する(エネミー)である。

 まずはこいつらを殲滅しなければ話は進まない。

 各怪物(モンスター)を順番に殲滅していくのが、この階層が模している『勇敢なるパーシアス』という名のゲームの攻略方法なのだ。

「おっと、我らも遅れてはなりませぬな」

「よし、みんな行こう!」

 緊張から少々固まっていたアルト隊に、酒樽紳士レッドグースが空気を換えるような明るい声を掛ければ、黒衣の魔導士カリストは応えて大きな声を出した。

 今はとにかく足踏みしている暇はない。

 アルトもマーベルも、そして白い法衣の乙女神官モルトも、大きく頷き砂浜から駆け出した。

 目標は砂浜から少し先の台地に多くうろつく『水色鎧』どもだ。

 昨日の様子から、『水色鎧』は島のあちこちで散見された。

 これを殲滅するのだから面倒なのは確かである。



「もらったぁ!」

 抜刀した『蛍丸』をアルトが横薙ぎに振るうと、『水色鎧』は一刀の元に胴から上下に真っ二つとなった。

 続き、モルトが『鎧刺し(エストック)』で別の『水色鎧』を突き刺す。

 また、後衛からはマーベルが繰り出した『小弓(ショートボウ)』からの一矢で、別の『水色鎧』があえなく地に倒れた。

 接近してよく見ると、敵は色こそ目にも眩しい蛍光ペンの様な水色だが、その風貌はと言えば隙間なく全身を覆う『板金鎧(プレートメイル)』だ。

 だというのに力を込めて武器を一閃すればそれで片が付く。

 あまりに見た目と防御力が違い始めは戸惑いもしたが、この無双感はかなり楽しい。

 始めこそ警戒しながら恐る恐ると戦っていた面々だったが、次第に大胆になり、レッドグースなどは普段使わない呪歌『マーシャルソング』などを歌い出した。

 『マーシャルソング』は聞く者の勇気を奮い立たせ、攻撃時にボーナスを与える魔法の歌だ。

 『聞く者』すべてが対象となるため、当然敵の攻撃力も上がる。

 ゆえに普段はあまり使いどころがないともいえる『吟遊詩人(バード)』の魔法だ。

 ただ、『水色鎧』があまりのもザコ過ぎて攻撃力が上がっても大したダメージがなく、その為、味方の攻撃力アップを優先した結果である。

「みんな、一度撤退だ!」

「てっしゅー。てっしゅーにゃ!」

 そして後方でMP(マナポイント)温存しながら全体を俯瞰していたカリストが手を振り、マーベル他、アルト隊のメンバーは一目散に後方へと駆け出した。

 下がってから振り向けば、さっきまで戦っていた場所の近くに、新たな別種の怪物(モンスター)がやってきていた。

 だが、すぐに互いの攻撃が届くほど近くないと判断したか、クルリと背を向けてスタスタと去っていく。

 この島の怪物(モンスター)は皆こんなのばかりだ。

 つまり、自らの縄張りを超えて襲い掛かってこないのだ。

 おかげで早めに敵の出現を察知できれば、逃げるのは容易いのである。

「この辺の『水色鎧』はもうおらんようや。そろそろ移動しよか」

「賛成にゃ」

 不思議と血がつかない武器を習慣で拭いながら言うモルトに、一同は頷いて西へと向かった。


 そうして昼頃、島を1周回して『水色鎧』を見かけなくなった所で元の砂浜へ集合する。

 するとすでに浜へ戻っていたバッタ怪人ファルケが自慢げに笑いながらルクスの肩を叩いていた。

「俺は12人倒したぜ」

「む、届かぬか。俺は9人だ。おまえ、その身体になってから随分身軽になったようだな」

 ただ赤毛の魔導士エイリークと相棒の全身ミスリル銀プレツエルが見当たらない。

 どうやらルクス隊は(パーティ)単位ではなく、それぞれがさらにばらけて任務遂行していたようである。

「呆れたもんやね」

「あたしらは何匹にゃ?」

「数えてねーけど、全部で15体くらいじゃね?」

 アルトの言う通り、こっちは(パーティ)で行動しておおよそ15体討ち取ったので、比べるとルクス隊は大活躍だったようだ。

 しばらくするとエイリークやプレツエル、またアスカ隊やドリー隊の面々も集まってきた。

「そっちはどうだった?」

 アルトは姿を現した両集団に声を掛ける。

 すると彼らもまたここまでの無双感にテンションが上がっているようで、明るい顔で近付いてきた。

「いやはや手応えの無い者たちで、物足りないでござるよ」

「そうね。昨日の『白ヤギ』の例があるからちょっと警戒したけど、順番さえ守ればこんなものなのかしら」

 かかか、とプレツエルが大鎧を揺らすように笑うと、アスカ隊の魔法少女ミリオンがふふんと誇らしげに笑った。

「どうやら第一目標は無事に殲滅できたようだな」

 それぞれの様子にルクスが大きく頷いて息をついた。

 彼も彼で、そうは見えないが気負っている部分があるのだろう。

「兄貴は心配性だな。この俺がいるのだから、大船に乗った気分でいればいい」

「そうだな」

 隣のバッタ怪人が大口をたたき、ルクスは肩をすくめて同意した。

 あれは適当に流しているだけだな。

 と、見ていたアルトはファルケの態度を呆れたように見つつも、長兄ルクスを「さすおにさすおに」と感心する。

 あそこにいたのがアルトなら、次の瞬間にはVSファルケで殴り合いが始まる所だっただろう。


 皆が集まり、報告が終わると昼食休憩だ。

 砂浜上で思い思いの場所に腰を下ろして弁当を広げる。

 今回は長丁場も想定して、各自が3日分の保存食も持ってきている。

 が、初めの食事である昼食は痛む心配をするまでも無いだろうということで、ハリエットの手製弁当なのだ。

「きょおのおベントはなんにゃろにゃ」

 ねこ耳を揺らしながらマーベルがご機嫌で包みを開ける。

 出てきたのはハーフサイズのバケットに、小エビやチーズ、それから少しシナっとした冬の葉野菜を挟んだサンドイッチだった。

「お、美味そうだな」

 隣のアルトも頬を緩ませ、かぶりついた。


 昼食と休憩を挟んで午後。

 再び集合した各員を前に、ルクスが声を上げる。

「第一目標の撃破は成功と言えるだろう。が、もしこれからの作戦中にまだ『水色鎧』を発見するようなら、各自、速やかに排除して欲しい。討ちもらしがあると、今後の作戦にも影響があると思われる」

 この言葉に、皆一様に気を引き締めて頷いた。

 順番に1種類ずつ確実に倒していかなければならないのに、まず初めの『水色鎧』が残っているようならこれからの作戦の前提が崩れるのだ。

 ふと、アルトの視界の隅に、水色が見えた。

 振り向けば、小高い丘の木の影に、1体の『水色鎧』がちらりと見えた。

「いた!」

 声を上げると、すかさず全員が振り返り、そしてその視線に『水色鎧』を見止める。

「追え! 逃がすな!」

「うらぁー!」

 途端に全員がそれぞれの得物を持って丘を駆け上がり、見つかった『水色鎧』はたちまち狩り取られた。

「よっしゃーっ!」

 黒髪の少年剣士ドリーが、討ち取った『水色鎧』の首を掲げ、いつになく雄々しき様子で咆哮を上げる。

 丘を駆けていたそれぞれもまた、コブシを振り上げて歓声を上げた。

 一人出遅れたのは第一発見者のアルトで、駆けあがっていくそれぞれの背を呆然と見送りながら呟いた。

「こえぇ、蛮族の集会かよ」


 再集合し、午後の行動指針の確認が行われる。

「ここからは出来るだけ最小の単位に別れて任務に当たれ。(エネミー)を見つけたら即座に武力偵察を行い、刃が通らねば撤退。通るなら殲滅に移行せよ。再集合は日の入り時刻とする」

 これも昨晩も話し合った通りなので、各自真剣な顔で頷いた。

 そしてルクスは続ける。

「刃の通らぬ敵を前にして仲間が倒れることもあるだろう。だが、ここは死しても復活する迷宮(ダンジョン)である。死を恐れず、仲間の屍を越えて行け。我らに必要なのは、その先にある情報だ」

 すなわち、これが彼の提唱した作戦だった。

 敵を順に殲滅しなければならないが、その順がそもそもわからない。

 ヒントは「順番が正しければ刃が通り、間違いならば通らない」。それだけだ。

 ならば、適当にすべてに当たり確認していくしかない。

 正に死を賭した情報収集である。

「では、各自、準備が出来た物から散開。『意義のある死』を祈る」

 最後に、ルクスがクワっと目を見開いて、より一層大きな声でその様に結んだ。

 応えて、ルクス隊の面々がコブシを振り上げて叫ぶ。

「『意義のある死を!』」

 ここまで真剣に聞いていた他の者たちは、「これが傭兵の流儀だろうか」と、ぎょっとしつつ息をのんだ。

 ただ、ルクス隊以外にもう一人、コブシを突き上げた者がいた。

 長い大太刀を肩から背負い、金緑色に輝く『ミスリル銀の鎖帷子(チェインメイル)』を纏ったサムライ風の少年、アルトだ。

 彼もまた、ルクス隊同様に叫んで、そしてハッとした。

「アっくん何してるにゃ」

 困惑しつつ首をコテンと傾げたねこ耳童女マーベルに、アルトは少し恥ずかしそうに頬をかいて視線を逸らす。

「いや、なんか無意識に」

 アルトは日本からやって来たメリクルリングRPGのプレイヤーである。

 ただそれは意識の問題で、このアルトと言う少年の身体はあくまでこの世界の住人のものだった。

 それゆえ、この身体には日本人アルトの記憶以外に、アルトがこの世界で育った記憶があるのだ。

 その記憶、『ライナス傭兵団』でルクスたちと共に育ったという記憶が、アルトにコブシを挙げさせた原因だった。

 ともすれば最近は、日本の記憶よりアルトの記憶の方が鮮明にも感じられるくらいだった。

 本人も周りも困惑しつつ、それでもそれを飲み込んで、彼らは作戦遂行の為に砂浜から駆け出した。

本作とは関係ありませんが「カレイジアスペルセウス」と言うレトロゲームがあります。

このゲームでは敵を倒すと主人公のパワーが上がり、より強い敵を倒すことが出来るようになります。

ただ今倒せる敵を殲滅していかないと、次の敵が倒せるほどのパワーが手に入りません。

場合によっては1、2匹の討ちもらしなら、案外、何とかなったりするようです。

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