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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#10_ぼくらのダンジョン生活(最終章)

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183/208

27勇敢なるパーシアス

 最終章 ここまでのあらすじ


 真なる創造主にして氷原の魔狼ヴァナルガンドは、この世界を自らの糧とする為に創りたもうた。

 だが、彼を追い異世界から来たウォーデン老とその弟子ハリエットにより窮地に立たされたヴァナルガンドは、彼の忠実なる僕しもべである人狼ギャリソンによって造られた迷宮『グレイプニル』へと逃げ込む。

 そしてヴァナルガンドとの戦いで深い傷を負ったウォーデン老は、迷宮の攻略をアルト隊に託した。

 迷宮攻略の期限は3月21日。

 それはこの世界を喰らうと決めたヴァナルガンドにとって、もっとも力が高まると思われる日だ。

 途中、ウォーデン老が各地でスカウトしてきたアスカ隊、ドリー隊を加え、いくつもの敵や罠を破り先へ挑む。

 そして彼らは第6階層へとたどり着いた。

 第6階層のスタート地点は小さい島であり、数キロ先に大きな島があった。

 第6階層の舞台となる島に上陸し探索を開始した一行は、威力偵察の為、何種類か見かけた怪物(モンスター)の中から最も弱そうな白ヤギに襲い掛かった。

 だが、先鋒として向かったアルトとドリーは、白ヤギに少しのダメージも残せずあえなく撃沈するのだった。

 前衛2枚を失って、なお探索を続けようという気には誰もならなかった。

 サムライ少年アルト。

 黒髪の少年剣士ドリー。

 どちらも職業(クラス)は『傭兵(ファイター)』であり、前衛にて敵を屠るアタッカーである。

 その2名の攻撃が毛ほども効かなかった白ヤギに、残されたメンバーに何ができるというのだろう。

「いや、もしかすると物理攻撃無効とかかもしれない」

 光の粒となって消えた戦士たちを遠目にしていた後衛陣から、そんな声が上がった。

 遠距離攻撃の要、アルト隊の『魔術師(メイジ)』カリストだ。

「なら、私たちの出番ね」

 そんな言葉を拾いずいと身を乗り出したのは、金髪の魔法少女マリオンである。

 『魔術師(メイジ)』2人が並んでそれぞれの得物を構える。

 カリストは複雑な模様が彫り込まれた銀の指輪。

 マリオンは黄色い魔法の宝玉がはめ込まれた『短杖(ワンド)』。

 どちらも『緒元魔法』を操るために必要な、魔法媒体だ。

「どうせ今日の探索はここまでだ。最大火力で行こう」

「りょーかい。全力全開で行くわ」

 魔力が込められ、それぞれの魔法媒体がにわかに輝き始める。

 そして2つの口から同じ魔法の言葉が紡がれた。

「『魔法強化』『ブリザード』!」

「承認します」

 機械的に薄茶色の宝珠(オーブ)が応え、そして魔力が世界に溶ける。

 刹那、『魔術師(メイジ)』たちの魔法媒体から、白い竜巻の様な渦が立ち昇った。

 それは幾数もの氷の粒を含んだ魔風だ。

 魔風はたちまちその規模を増し、重なり、そして離れた場所でこちらを気にする様子もなく歩き回る白ヤギどもを包み込む。

 現状の2人が持つ最大の攻撃魔法『ブリザード』が炸裂したのだ。

「はっはっは、これではひとたまりもあるまい!」

 魔法を放ち、その魔風が収まるまでの僅かなスキにカリストが高笑いを上げる。

 そのあまりの()()()らしさに、白い法衣の乙女神官モルトは、ため息交じりに呟くのだった。

「わざわざフラグ立てんでもええんやで」

 さて、その数秒後、彼らの魔法の結果がそこに現れる。

 氷の魔風が収まり見えたもの。それは無傷で歩き回る3匹の白ヤギであった。

「なにぃ!」

「いや、薄々判ってたやろ」

 またもやワザとらしく叫ぶカリストに、ホトホト呆れたという態で右手の甲をぶつけるモルトだった。


 ともかく、物理攻撃でも魔法攻撃でも傷一つ付けられなかった一行は、対策を練るためにもひとまず撤退を決断した。

 迷宮を出ると、すでに日は落ち、満天の星空が広がっていた。



 ダンジョン攻略のための拠点と定めた白い教会風2階屋へと戻り、いつも通り錬金師弟に出迎えられ、食事をとって落ち着く。

 その後はいつも通り、攻略のための会議だ。

「それで、今回は何か思い当たったことは無いのか?」

 入れられた薬草茶の湯気を(くゆ)らせながら口火を切ったのは白磁の様な肌の少年魔導士カインだ。

 この言葉は主に鈍色の戦乙女アスカに向けられていた。

 彼女はどうやら、カインには知りえぬ、この迷宮の攻略情報に関する知識があるようだ、とここまでの経験で感じていたからだ。

 当然、アルト隊の面々を始めとした他の者たちも同様にアスカへ注目する。

 アスカは少し考え、躊躇(ためら)いがちに口を開いた。

「たぶん『勇敢なるパーシアス』に倣った階層だ」

「なんと!」

 この回答に驚きの声を上げたのは、ここに集ったメンバー中で、レッドグースただ一人だった。

「おい、知っているのかオッサン」

「いや、ワタクシも聞いたことがある程度ですな。なんでも『元祖ARPGになり損ねた作品』だとか」

 問い質すように視線を向けるアルトに首を振るレッドグース。

 これに同意するかのように、アスカもまた言葉をつづけた。

「私も詳しくはない。レッドグースに比べればもう少し経緯を知っている程度だ」

 そしてそんな言葉にねこ耳童女マーベルは驚きの声を上げた。

「え、ドマニアのアスカですら知らないにゃ!」

「ドマニアじゃないわよ!」

「おい、素が出てんぞ」

 少々の混乱を挟み、アスカは気を取り直して語りだした。

「レッドグースが言うように、『勇敢なるパーシアス』はARPGの元祖と言われる()()()()()古いゲームだ」

 そんな言い出しに、アルト隊の面々は首を傾げる。

「なんか変にゃ? 『元祖』は常に一つにゃ?」

「そうだよ。一番初めに発売したのが『元祖』だろ普通。それに、たしか第3階層で『ハイドランドがARPG元祖』って言わなかったか?」

 彼らの疑問はそれであった。

 これに対し、アスカもまた首を捻りながら答えた。


 『ARPGの元祖』と言われるゲームは、実はいくつかあるのだ。

 まず一つが『ハイドランド』、1984年12月発売である。

 これに対して『勇敢なるパーシアス』、同年11月発売だ。

 発売月を見比べれば『勇敢なるパーシアス』が先なのだが、いかんせん『勇敢なるパーシアス』はクソゲーとの評価が高く、人気が無さ過ぎた。

 その為、『ハイドランド』を『元祖である』とうたう者がの方が多い。

 ところが、実は第5階層で話題が出た『ドラスレ』は同年9月発売なのである。

 さらに言えば、やはり第3階層で話が出た『ドル塔』。これは同年7月だ。

 どちらもARPGだと言われれば、おそらくそうだと言えそうなゲームなので話はややこしい。

 年代だけで並べれば間違いなく『ドル塔』こそが『ARPGの元祖』と言える。

 ところが、すでに21世紀となった今でも、レゲー好きの間では『ARPGの元祖』は、意見が分かれる話題なのである。


「なるほど、わからんにゃ」

 そんな解説を聞き終え、マーベル以下アルト隊一同は何とも言えぬ顔で首を傾げつつもあいまいに頷いた。

「話が半分以上理解できんが、何が一番早かったなどどうでもいい。つまり『勇敢なるパーシアス』とやらだとして、それはどんなモノなんだ?」

 日本出身者が揃って微妙な表情で押し黙ったところで、カインが痺れを切らした。

 彼が求める情報はあくまで攻略情報で、そのげぇむとやらの成り立ちなどどうでもいいのだ。

「ああ、そうだな」

 アスカは気を取り直して、少し考えてから話す。

「『勇敢なるパーシアス』なら、あの島にいる数種類の敵は、すべて決まった順番に殲滅していく必要がある」

「殲滅、するのか…」

 これを聞き、多くの者は息をのんだ。

 今日、とりあえず島の地理を把握するために外周を回ったが、その時に見かけた怪物(モンスター)の数は、そうとうなものである。

 早く突破しなければならないというのに、突破条件が『殲滅』ではなかなか容易ではない。

「その…順番を違えるとどうなるんですか?」

 絶句から少し頭を働かせた、亜麻色の髪の神官剣士アッシュが真剣な表情で訊ねる。

 間違えたことで大変なことになったら、例えばさらに突破が困難になる罠があったら、と言う不安からくる表情だ。

 だがアスカはため息交じりに答える。

「いや、倒せないだけだ。白ヤギといい、化け蟹(カルキノス)といい、すでに味わっただろ」

 言われ、彼らは今日のリザルトを思い浮かべた。

 海上で戦った化け蟹(カルキノス)に攻撃が一切効かなかったのは、驚きはしたが納得もした。

 甲羅と言う天然の鎧にあの巨大さだ。

 一目に「強い」と判断出来るものだった。

 だが白ヤギは違う。

 「出来るだけ弱そうな」と言う選択で戦いを挑み、そして惜しくもなく敗退した。

 これは確かに異様な光景であった。

 つまりなぜこのようなことが起こったかと言えば、アスカの言う「順番」が正しくなかったからだ。

 倒せる順番通りなら刃が通り、倒せぬ敵には刃が通らない。

 単純な選別である。

「それで、その順番はわかるのかい?」

 肝心なことだ、と皆が注目の中、黒髪の少年剣士ドリーが訊ねる。

「一番初めがあの水色鎧ってことしかわからない」

 だがアスカは苦しそうな表情で首を振った。

 彼女もさすがに『勇敢なるパーシアス』はプレイしたことがなく、ネットでレビュー記事を流し読みしただけだったのだ。

「そうなると、地道に総当たりで調べるしかない、か」

「こりゃ大変だ」

 一同、ここから重い沈黙へと入った。


 しばらく続いた沈黙を破る者は、外からやって来た。

 ジャラジャラと言う『鎖帷子(チェインメイル)』と、ガチャガチャと言う『板金鎧(プレートメイル)』の擦れる聞きなれた音に、ギチギチと言う異質な硬質音を混ぜて現れたのはリルガ王国から舞い戻ったルクス隊の面々だった。

 先頭に立つのは求道者然とした厳しい表情の少年剣士、両手剣使いルクス。

 その左右には魔導士風体ながら片手片足を金緑色の義手義足に代えたエイリークと、甲虫じみた殻を全身に纏う蓬色の『合成獣(キメラ)』ファルケ。

 そしてその後ろには隙間なく全身覆うような金緑色の『板金鎧(プレートメイル)』、プレツエルが立っていた。

 ルクス隊。

 それは『ライナス傭兵団』にて育ったアルトの義兄弟と、その義妹を名乗る『人工知能搭載型(インテリジェンス)ゴーレム』の少女で編成された4人だ。

「アルト。そろそろ俺たちの力が必要だろう?」

 先頭の長兄ルクスが、普段の厳めしい表情を少し崩してニヤリと笑う。

 つられて、アルトは呆然と席を立った。

 日本人アルトにとっては、彼らは馴染みのないこの世界の住人たちであったが、同時にこの世界の住人としてのアルトの感情が、何やら得も言われぬ「頼もしさ」を覚えた。

「がはは、我ら常勝無敗の『ライナス傭兵団』に任せておけば、万事うまくいくのだ」

 と、一種の感動に包まれていたアルトに浴びせかかった無造作な言葉に、今度はカチンとくる。

 義兄弟中の次男であるバッタ怪人ファルケだ。

 昆虫らしい口から、なぜか器用にも普通の声が出る。

 これも『錬金術師(アルケミスト)』ハリエットの成果の一つである。

「何が常勝無敗だ。ベルガーにやられて解体されてんじゃねーか」

「む? あんなもん、無効だ無効」

 途端に、港街ボーウェンでは見慣れてきていた兄弟ゲンカが始まった。

 アルト隊もアスカ隊も、そしてルクス隊も「やれやれ」と首を振ってこのじゃれ合いを眺めるのだった。

「まぁ、負け戦を無かったことにすれば、確かに常勝無敗ですな」

 そしてドリー隊だけは、見慣れぬバッタ怪人に絶句するのだった。


 その後、一通りのドツキ合いの後に落ち着いてから、初対面の者たちは自己紹介を行った。

 そして再び、迷宮攻略会議が始まる。

 まずはルクス隊に対して迷宮(グレイプニル)の仕様説明から始まり、残り日数や第6階層の様子を伝える。

 それらを聞き、ルクスは一つ静かに頷いた。

「なるほど、ならばこの戦い、戦争屋(ようへいだん)の得意とするところかもしれんな」

「ほう。どのような戦いを想定している?」

 そんなルクスの呟きに、カインは興味深げに訊ねる。

「生き残るために、効率よく死ぬ。と言うことさ」

 それから、ルクス隊を加えた会議はほどなく終わった。

パーシアスはペルセウスの英語読みです。

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