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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#10_ぼくらのダンジョン生活(最終章)

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21ルーチンバトル

 最終章 ここまでのあらすじ


 真なる創造主にして氷原の魔狼ヴァナルガンドは、この世界を自らの糧とする為に創りたもうた。

 だが、彼を追い異世界から来たウォーデン老とその弟子ハリエットにより窮地に立たされたヴァナルガンドは、彼の忠実なる(しもべ)である人狼ギャリソンによって造られた迷宮『グレイプニル』へと逃げ込む。

 そしてヴァナルガンドとの戦いで深い傷を負ったウォーデン老は、迷宮の攻略をアルト隊に託した。

 いくつもの敵や罠を破り、アルト隊とアスカ隊は第5階層へとたどり着いた。

 しかし第5階層ではスタート直後に『レッサーマミー』が大量に押し寄せ全滅する。

 次の日は新たに『放蕩者たち(プロディカラ)』通称ドリー隊を加えて臨むが、『レッサーマミー』に代わり押し寄せた『ペディサウルス』により、やはり全滅を喫した。

 だが彼らもタダで死んだわけではない。

 偵察として送り出したシノビ少女ヒビキにより、第5階層のギミックは調べつくされた。

 そうして3月15日。

 3(パーティ)合同にて第5階層突破の為、『二四時間戦えますん』作戦が開始された。

「アルト君、そろそろ交代だ」

「はいよ。じゃぁラスト気合入れて、『ツバメ返し』!」

「承認します」

 黒い『外套(マント)』のカリストの呼びかけに応えながら、アルトの大太刀が淡い光の軌道を描いて、敵を斬り裂く。

 敵は謎生態の鳥人間『ウェアコンドル』だ。

「よしドリー、アッシュ、出るぞ」

 そしてその直後、後の小屋に準備を整え控えていた、3人の少年冒険者たちが飛び出てきた。

 黒髪の長身剣士ドリー、亜麻色の髪の神官剣士アッシュ、そして2人に指示を出して後衛につく白磁の魔導士カインだ。

 彼ら3人が前に出て『ウェアコンドル』を抑えにかかる、と、同時に今まで戦いに挑んでいたアルト隊は未練もなく素早い動きで小屋へと下がった。

 3交代戦術『二四時間戦えますん』作戦も、これですでに4周目に突入となった。

 さすがにもう慣れたものである。

「ふー。敵が弱いのが救いだな」

 おおよそ18ラウンド、つまり3分戦って次の(パーティ)と交代するため、すでにアルトの『蛍丸』も、何体もの『ウェアコンドル』を斬っている。

 アルトが言う通り、『ウェアコンドル』は3レベル怪物(モンスター)であり、まだアルトとはレベル差が5もあるので余裕の戦いだ。

 とはいえ、スタミナ限界前後まで戦い抜いての交代なので言うほどの余裕もない。

 しかも戦闘中の18ラウンドは長いが、休憩中の6分はあっという間に過ぎるのだ。

「お疲れ様。これでも飲んで休みなさいな」

「お、サンキュ」

 と、そこに飲み物のカップを差し出すのは、アスカ隊の魔法少女マリオンだ。

 年齢で言えばアルトとあまり変わらないはずだが、背が低いため微妙に年下感覚で、アルトも気楽に接することができる女性でもある。

「よし、では私たちもそろそろ準備するか」

「任せるデース」

 一息つき始めたアルト隊を見て出撃準備を始めたのは、アスカ隊の面々。

 とはいえ見える人影は、鈍色の『板金鎧(プレートメイル)』に身を包んだ女戦士アスカとマリオンのみ。

 彼女の呼びかけに元気に答えた声主は20センチメートルにも満たない、小さな人形サイズの人工知能搭載型(インテリジェンス)ゴーレムだ。

 アスカ隊の人形少女は2体。

 インバネスコートに鹿追帽という出で立ちの元気なクーヘンと、白いバフスリーブのワンピースを着た清楚なエクレアだ。

 共にアスカの斜め後ろで踏まれない位置に陣取り、出撃準備を完了している。

 ちなみにもう一人のアスカ隊メンバー、銀の髪の『精霊使い(シャーマン)』ナトリは、この作戦を成立させる条件の一つでもある『スピリトゥスパリエス(精霊の壁)』維持のため、アルト隊のねこ耳童女マーベルとともに戦闘参加はしていない。

 さて、そんな少女冒険者たちを目の端にとらえつつ、アルトは渡された飲み物をゆっくり喉に流し込む。

 水に少しばかり柑橘類の果汁を絞ったような、さわやかな風味であった。

「へえ、これ何?」

「さぁ、ハリエットに貰ったモノだからよくわからないわ」

「へぇ…」

 マリオンの回答を聞いて、途端に喉を通り難くなるから不思議である。

「アルくん、ちょっとええかな」

 飲むのも怖いが喉は乾いているというジレンマを覚えつつチビチビやっていると、そこへ白い法衣のモルトがやってきた。

 見れば彼女だけではなくカリストもいる。

「あんな。あんまし本気で戦わんで欲しいんやけど」

「え、それは」

 寄ってきたモルトの言に、アルトは思わず言葉を失った。

 ちょっと彼女の言葉の意味が解らなかったのだ。

 そも、この戦いはミクロ視点で言えば彼らの生き残りをかけたものであり、マクロ視点で言えば世界を救うためのものだ。

 その戦いに投じられた身で、本気を出さないとはどういうことなのか。

 アルトの困惑は深まるばかりだ。

 そんな様子に、モルトやカリストも眉の間に縦ジワを作る。

 2人の気持ちを一言で表すなら「察し悪いなぁ」である。

「アルト君、いいかい? 何も迷宮(グレイプニル)攻略に本気を出すな、って言ってるんじゃないよ。今回の作戦では本気で『敵を倒しに行かなくていい』って言ってるんだ」

 そう解説をしてまだ、まだアルトは首を傾げたままだったので、説明の言葉を今度はモルトが引き継いだ。

「ヒビキはんが『無限湧きの碑石』を止めんと、倒しても倒してもまた同じだけ湧いてくるんや。そやから今は倒さんで押し返すだけでいいんや」

 ここに至ってアルトはやっと得心が言ったと頷いた。

 一つに、どうやら怪物(モンスター)は謎の碑石から無限に湧き出てくるらしい。

 二つに、一定数湧き終えるとしばらく止まり、倒された数を補充してくるらしい。

 こういった前提条件の元で遂行されている作戦が此度の『二四時間戦えますん』であった。

 つまり倒しても倒しても湧くのだから、斬り殺さず『防御専念』して時間を稼げばいいと言われているのだ。

 それでも、とアルトは不満げに口を尖らせる。

「でも、無限に敵が出るなら、経験値稼ぎにはもってこいじゃないか、と思うんだけど」

 年長者2人に口答えする後ろめたさのようなモノもあり少し尻つぼみになったが、彼の言葉もゲーマー視点ではもっともと言えた。

 ただし、それは別のゲームでの話だった。

「それについては是であり、否と言えるでしょう」

 アルトの言葉に答えたのは、世にも不思議な意思を持つ薄茶色の宝珠(オーブ)でであった。

 彼こそはこの世界の森羅万象を知りアルトたちの水先案内を務める元GM氏だ。

「『ウェアコンドル』は3レベル怪物(モンスター)ですから、1体倒して得られる経験点は30点です。さて、アルトさんがレベルアップするのに何体倒す必要があるでしょうか?」

 アルトは問われ、律義に計算を始める。

 現在、アルトの『傭兵(ファイター)』レベルは8。

 ここから9レベルに上がるには12000点の経験点が必要である。

 とはいえ、ここまでの迷宮攻略で得た経験点もあるため、残りは半分強というところになるだろう。

 つまり6000点強。

 『ウエアコンドル』換算すれば200体強である。

「さすがにちょっと無理かな」

「そやろ? それにアルくんがケガすると、『キュアライズ(回復魔法)』も必要やし、MP(マナポイント)も余計に使うんやわ」

 冷や汗を垂らすアルトに、「それだけやないで」と自らの肩を揉むようにしながらモルトが付け足した。

 ただ、これにはアルトもまた、少々怪訝そうに首を傾げた。

「あれ? ハリエットさんにMP(マナポイント)回復薬貰わなかったっけ?」

 引っかかったのはそこだ。

 確かに持久戦となるのでMP(マナポイント)節約も解るが、今回はその為の回復薬が潤沢にあるはずだ。

 ただ言われてみれば、作戦1周目以降、『魔術師(メイジ)』たちも魔法を最低限に抑えていることに気づいた。

 なんで? とモルトを振り返ると、彼女はコメカミあたりを人差し指でグリグリと揉んでいた。

「あれなー。一気に飲みすぎると、ここいらへんがキーンと来るんやわ」

「かき氷かよ」

 ちなみにかき氷を一気食いした時に起こる頭痛は、医学的には「アイスクリーム頭痛」という。

「おっと、そうしているうちに、もう6分経ちますぞ」

「よし行こう」

 そうして、またアルト隊は戦いの場へと赴くのだった。



 それから小一時間が過ぎた。

「さすがに疲れてきた」

 つい今しがたドリー隊と戦闘の役割をスイッチしてきたアルトが、小屋の床へとドカリと座る込む。

 その表情には言の通り、いくらかの疲労が読み取れた。

 もちろんそれは肉体の疲れではない。

 言わば気疲れだ。

「そうね。交代制とはいえこうも同じことの繰り返しじゃ、ちょっとうんざりするわ」

 そう肩をすくめながらドリンクのカップを配るのは、アスカ隊のマリオン嬢である。

 彼女の表情にもまた、気疲れの相が浮かんでいる。

 ただ、彼女のうんざり顔は以前にも何度か見ているが、それに比べれば幾らかマシなように伺えた。

「よっぽどあの変態兄が嫌いなんにゃ」

「嫌いというわけではないけど、疲れるのは確かね」

 過去の表情と比べマーベルがねこ耳を伏せてそう評したが、マリオンは眉根にシワを作りながらそう答えた。

 まぁ兄妹であるから、そこには他人には解らない複雑な感情があるのだろう。

 そんな会話を傍で聞きながら、アルトは配られたドリンクをすする。

 紙コップ、というわけではないが、この世界ではそれくらいに気軽く使われる簡素な木のカップだ。

「なんだ、水か」

「さすがにもう用意した飲み物はないよ。水でもあるだけマシさ」

 何気ない小さな言葉も静かな小屋内ではよく聞こえるらしく、その呟きはすぐにアスカが拾ってそう(たしな)めた。

「そうだな。悪い」

 アルトは少しばかりバツが悪そうに身を縮めて軽く頭を下げた。

 そうしている間に3分が過ぎ、今度はアスカ隊が出撃し、戻ってくるドリー隊にドリンクカップを配るのは、アルト隊の役目に代わる。

「なんだ、水か」

 受け取ったカップを口にして、一言一句全く同じに呟いたカインの様子に、アルトは思わず苦笑した。

 その時、小屋内にいる皆の耳を、聞きなれないアラーム音が襲った。

 いや、元日本人であるアルト隊の面々にとっては、割と馴染みのある音と言っていい。

 ピリリリという高い音が等間隔で何度か繰り返すその音は、いわゆる電話の着信音だった。

「誰か、携帯鳴っとるで?」

 つい言いながらあたりを見回し、モルトはすぐにここが異世界だと思い出す。

 携帯電話のないこの世界において、ではこの音は何なのか? と、不思議に思った矢先、程近くにいたカリストが胸ポケットから対角5インチばかりの長方形物体を取り出し耳に当てた。

「あー、もしもし。僕だ」

「電話やんけ!」

 思わずモルトはツッこんだ。

 ちなみにこれ、当然ながら電話ではない。

 500年前まで大陸西で栄えた大魔法帝国で作られた『ファンファンフォン』という魔法物品(マジックアイテム)だ。

 この小さな板を持つ者同士、どれほど離れていても会話ができるという優れた品であるが、元は大魔法帝国で流行したおもちゃである。

 なお、電波ではなくマナを利用した通信魔法なので、当然『電』話ではない。

 基地局がどうとか無粋なことは考えないように。

 話はカリストへ戻る。

 彼の持つ『ファンファンフォン』に通話先からの声が伝わる。

『こちらヒビキ。ミッションは完了した」

 端的に、連絡する事だけを伝える言葉だったが、今ここにいるすべての表情が輝き和らいだ。

 カリストもまたホッと一息を吐き、そして応答の言葉を口にする。

「お疲れ様。ではこちらの作戦が完了するまで隠れててください」

 そう通話を終え、「電話しているとつい、その場にいる人たちからは顔をそむけてしまうのはなぜだろう」などと益体も無いことを思い浮かべながら、今度は小屋内の皆へと顔を向ける。

「さぁ、作戦も大詰めだ。慎重に詰めていこう」

 彼の言葉に、各員気を引き締めた表情で頷いた。

 ここで一気攻勢に出て全滅しては元も子もない。

 後は増えないはずの怪物(モンスター)を、慎重に確実に減らすだけだ。

 すなわち、彼らのローテーションは変わらず。である。

 作戦が完遂されるまで、ここからさらに30分を要するのだった。



「総計で約300ラウンド。(パーティ)毎に100ラウンド程度か。いやはや。戦争でもこんなキツいのなかったよ」

 すべてを終えたさわやかな笑みを浮かべつつ、黒髪の長身剣士ドリーが言う。

 その言葉には、どの顔も同意とばかりに頷いた。

「まぁ実際には戦争で使う集団戦闘は別ルールですから、それらと違うキツさなのは当たり前ですけどね」

 とは、マーベルのベルトポーチから囁かれた戯言である。

 聞いたアルト隊の面々はしきりにベルトポーチを小突くのだった。

「アタシのポーチが痛むからやめるにゃ」

 言いつつ、庇うでもなく薄茶色の宝珠(オーブ)を小突き易いように取り出すマーベルであった。

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