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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#10_ぼくらのダンジョン生活(最終章)

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173/208

17数の洗礼

 最終章 ここまでのあらすじ


 真なる創造主にして氷原の魔狼ヴァナルガンドは、この世界を自らの糧とする為に創りたもうた。

 だが、彼を追い異世界から来たウォーデン老とその弟子ハリエットにより窮地に立たされたヴァナルガンドは、彼の忠実なる(しもべ)である人狼ギャリソンによって造られた迷宮『グレイプニル』へと逃げ込む。

 そしてヴァナルガンドとの戦いで深い傷を負ったウォーデン老は、迷宮の攻略をアルト隊に託した。

 いくつもの敵や罠を破り、アルト隊は第5階層へとたどり着き、またウォーデン老は新たな迷宮探索の手を求め出発し、すでに解散した冒険者(パーティ)放蕩者たち(プロディカラ)』をスカウトする事に成功した。

 3月12日の晩、結局ウォーデン老は帰らなかった。

「どーせジッちゃんのことだから、ついでに美味い物でも食べてんだヨ」

 とは、拠点での家事等を担当してくれている錬金少女ハリエットの弁だ。

 ハリエットは普段から様々なアイテムや薬品の調合をするだけあり、料理はなかなかの腕前だ。

 港街ボーウェンの店では、錬金アイテムと共にチーズケーキなんかも出していたが、あれは彼女の手製である。

 ところが掃除となるとてんで気が回らないというから、いかにも集中型の研究者らしい。

 その面については、『シュテルネンハオフェン』の『精霊使い(シャーマン)』であるナトリが合流してからは、4レベルの『精霊魔法』、『ハウスサーバント』で召喚した『家の精霊(ブラウニー)』に任せている。

 散らかり始めていた拠点建物内をナトリが見て眉をしかめ、すぐざま『家の精霊(ブラウニー)』を召喚して見せた時、ねこ耳童女マーベルは「そんな魔法もあったにゃ」と呟きながら目を逸らした。

 彼女もナトリと同レベルの『精霊使い(シャーマン)』なので、当然、使える魔法であった。

 このあたりの気付きの差は「いかに今まで家事をやっていたか」の差だろう。

 過去、キヨタ氏の養女として住処や隠れ家の管理も行なっていたナトリと、日本では実家暮らしで全て親の面倒になっていた女子高生では「さもありなん」というところだ。


 さて、少し話が逸れたので戻そう。

 ハリエットの「どーせジッちゃんのことだから」というお気楽な発言を聞き、アルトは背負った大太刀『蛍丸』を降ろしながら首をかしげた。

「世界が滅亡しようって時に、ずいぶん暢気だな」

「そやね。時間ももうあまりない、ちゅーのにね?」

 白い法衣のモルトもまた、アルトの言葉に頷く。

 いやモルトだけでなく、ここに集まった面々は大小の差はあれど、やはり同じ様に首をかしげたり怪訝そうに眉を寄せていた。

 皆、魔狼ヴァナルガンドにより世界が終わる可能性を示唆され、それを止める為に毎日迷宮(グレイプニル)へ潜っているのだ。

 というのに、迷宮(グレイプニル)攻略を依頼した当のウォーデン老に真剣味が足りないのではないか。

 それが夜の食卓に着こうとしていた各員の思いであった。

 温かそうな湯気の立つ豆入りスープの皿を数枚いっぺんに運びながら、ハリエットは少しばかり苦味の混ざる笑みを浮かべる。

「えーと、ハリーさんはこれでも憂慮しているヨ? でも、まぁ、ぶっちゃけると、ここハリーさんたちの世界じゃないしネェ」

 つまり、異世界から来た彼女たちの目的はあくまで「ヴァナルガンドを討つ」事だけにあるのだ、と、言い辛そうに語った。

 そしてそこには「この世界の保護」は含まれていない。

「結果的に世界が救われるならそれに越した事はないケドね」

 そんな言葉で締められると、アルトたちは釈然としない気持ちを抱えたまま、遅めの夕食に口をつけたのだった。



 3月13日。

 その日も朝からアルト隊は『シュテルネンハオフェン』の面々を伴って迷宮(グレイプニル)へと向かう。

 長いので以降『アスカ隊』と呼ぶ事にしたい。

 ともかく、アルト隊とアスカ隊は、いつも通り数時間掛けて1、2階層を抜け、空っぽの3、4階層を素通りし、第5階層のスタート地点である部屋へと降りる。

 昨晩確認した通り、そこは木製の壁に囲まれた部屋で、隅に『納めよ、さすれば道は開かれん』との言葉が書かれているローテーブルが添えつけられている。

 このテーブルは硬貨サイズの丸い窪みが4つある。

「さて、今日も目的は第5階層の探索と、あわよくば『キーアイテム』の入手かな」

「キーアイテム?」

 部屋で出発前の一休みをしながら、黒衣の魔導師カリストが皆に聞こえるように言えば、鈍色の鎧に身を包んだ黒髪のアスカが反射的に聞き返した。

 カリストは嫌な顔一つせず、即答する。

「そのテーブルに納めると思われる4つのアイテムだよ。硬貨なのか何なのか判らないから、とりあえず仮の名前ってことで」

「でも、ずいぶん小さいみたいだけど、簡単に見つかるかしら?」

「草むらにでも落ちたらまず見つからない」

 続いて、金髪の魔法少女マリオンが首をかしげると、一見無表情なナトリが同意とばかりに頷いた。

「そこはまぁ、大丈夫だと思っている。僕はキャリソン氏を、ある意味で信用しているからね」

 肩をすくめながらそう言うカリストに、一同は呆気に取られた顔を向ける。

 ギャリソンは、この迷宮グレイプニルの創造者と推測される男の名だ。

 強いて言わずとも敵な訳で、「それを信用している」とはいかな意味なのか、皆、測りかねたのだ。

 そんな一同の表情を汲み取り、カリストは言葉を続ける。

「ギャリソン氏はキヨタ氏とは違って『創造者(クリエイター)』では無い、と前に言ったけど、じゃぁなんだと思う?」

「そんなん言われてもなー。『模倣者(コピーキャット)』やったっけ?」

 それはカリスト自身が以前呟いた事だ。

 カリストは、モルトの口から返って来た言葉に頷いてみせる。

「そうだね。たた、ここで僕が言いたいのはちょっと違うんだけど、彼は『創る』側の人間じゃないって事を思い出して欲しいのさ。つまり、彼は遊ぶ側の人間。ゲーマーなのさ」

「それがなぜ信用に繋がるんです?」

 カリストのそんな迂遠な物言いに、じれったくなったアルトが眉をしかめた。

「ここまでの階層の傾向からして、おそらく彼は、以前遊んだあらゆるゲームからネタを拾ってこの迷宮を創っている。継ぎはぎのネタと、それを繋ぎ合わせる少しだけのオリジナルでね。

 継ぎはぎだからもっと滅茶苦茶になってもおかしくない。だけど彼は少なくとも一つ、この迷宮造りに重大なルールを課しているように思えるんだ。おかげで、ここまで破綻せずに済んでいる」

 カリストは一同の顔をゆっくり見渡し、ここまでの意味を各員が飲み込んだ事を確認してから続きを口にする。

「彼はゲーマーのプライドを持って、ゲームを組み立てているのさ。すなわち、この迷宮は『必ずクリアできる』ように出来ている」

 攻略が出来ないものはゲームではない。

 もしそんなゲームがあれば、それは重大なバグであり、製品としては不完全なのだ。

 それこそが、カリストがギャリソンに向けた一つの信用であった。

「なるほど、つまりこの階層の『キーアイテム』は、必ずボス討伐や謎の対価として与えられるはず。と、そういうことですな?」

「まぁ、レトロゲームマニアっぽいし、『ひとマスずつ調べる』って可能性がないわけじゃないけど」

 と、レッドグースの納得の言葉に、カリストは再び肩をすくめた。

 『必ずクリアできる』ように作られている。なれどノーヒント。

 コンピュータRPG黎明期には、そういうゲームは当たり前のようにあった。

「じゃぁ、この階層を探し尽くす覚悟で行くとしよう」

 精一杯に不敵な笑みを浮かべて強がるアスカの言葉に、一同は強く頷いた。



 まず『盗賊(スカウト)』相当のスキルを持つ人形サイズの少女、クーヘンが部屋唯一の扉を調べる。

 彼女の職業(クラス)は『探索者(フェレット)』という。

 アルト隊だけだった頃はレッドグースが担当していた仕事であるが、彼は本業『音楽家(ミュージシャン)』を自称しており、実際、言うだけはあって『吟遊詩人(バード)』が突出して高レベルだ。

 その分、『盗賊(スカウト)』のレベルは1のままに留まっている。

 レッドグースに言わせれば、『盗賊(スカウト)』の職業(クラス)を取得したのはあくまでサバイバルキット代わりという訳だった。

 その点、鹿追帽にインバネスコートという出で立ちのクーヘンは、『探索者(フェレット)』という独自職(ユニーククラス)を5レベル取得しており、レッドグースなどよりはよほど罠や錠前破りに精通していた。

「罠も錠もないデス。扉の向こうに気配もないデスね」

 調査に使っていた虫眼鏡を懐に仕舞い、クーヘンは誇らしげに胸を張ってそう報告する。

 アスカは「よし、いいぞ」と彼女の小さな頭を優しくなでて労った。

 労い、クーヘンをそのまま手ですくって自らのフードへと運ぶと、今度はアスカが先頭になり扉へと歩み寄る。

 ちなみにアスカの肩口に垂れるフードには、クーヘンの他にも彼女の姉妹である『施療士(キュアメイト)』のエクレアがいる。

 エクレアの独自職(ユニーククラス)である『施療士(キュアメイト)』の固有スキルは『ヒーリングシャワー』だけだが、これは(パーティ)全体にHP(ヒットポイント)回復効果があるので非常に役立つスキルだ。

 話もとい。

 アスカが先頭で『凧型の盾(カイトシールド)』の影に隠れながら扉を押し開く。

 そのすぐ後ろには『蛍丸』をすでに抜いたアルトが着き進む。

 慎重に扉の向こうを伺って、何も居ない事を確認してからその他のメンバーも続々と出た。

 今出てきた部屋は第3階層と同様に小屋の形をしていた。

 この階層もまた地下にありながら空がある。

 言わば異界化した階層である。

「空があるのはええけど、この空はちょっと、なー」

 その頭上を眺め、モルトが眉をしかめた。

 彼ら迷宮探索者の上に広がる空は3階層と違い青空ではなく、紫の雲が渦巻くオドロオドロしいものだった。

 また、30メートル程度を四角く囲うように立つ壁が見えた。

 小屋はその囲い一辺の端にあった。

 壁の高さは3メートル弱と言ったところか。壁には所々、通路に繋がるような切れ目がある。

 具体的に言えば正面に一つ、左右にまた一つずつの通路が延びている。

 どうせ壁で仕切るなら1、2階層のような石造りの迷路でも良かろう、とアルトあたりは思ったが、そこに何かギャリソン氏のこだわりがあるのだろうか。

 さて、小屋を含む30メートル四方の空地に、一同は慎重に進んだ。

 先頭をアスカ。そのフードからはクーヘンやエクレアが周囲に視線を走らせ警戒している。

 その斜め後ろからアルトが続き、さらに後衛たちが固まって並ぶ。

 そして最後尾にモルトが『鎧刺し(エストック)』を構えて付き従った。

 彼女の役割は、前方以外からの襲撃への警戒だ。

「人数が増えて火力は上がったんでしょうけど、前衛職が足りてませんねぇ」

 ねこ耳童女マーベルのポーチから、薄茶色の宝珠(オーブ)がそう呟き評するが、これには(パーティ)メンバーも薄々気づいてはいた。

 だが無いものは仕方がないのだ。

 そうして一塊になった面々が空地の中央付近に進み、アスカが警戒を解かずに呟く。

「ここには何も無いようだ。さて、どの通路を進むか?」

 と、その言葉がフラグだったかの如く、次の瞬間に変化が起こった。

 正面通路先の暗がりから、何か白いものがゆっくりと進み出てきたのだ。

「人、デスか?」

 額に手をかざしてクーヘンが首を傾げる。

 彼女の言うように、それは確かに四肢を持つ人型に見えた。

「第3階層みたいに、なんや案内人がおるんやろか?」

 最後尾からだとまだ良く見えないモルトが、皆の呟きを拾って一つの推測をもらす。

 だが、それは列の中ほどから身を乗り出して前を眺めていたねこ耳童女マーベルの言で覆された。

「違うにゃ。そんな(かしこ)そうには見えないにゃ」

 (パーティ)の警戒感が一段上がる。

「マーベル、どう見えてるのかはっきり言え」

 まだ遠くておぼろげにしか見えないアルトが叫ぶ。が、そう言っているうちに、目標は徐々に判る範囲へと進み出てきた。

 白い人のような何かが体を左右に揺らしながら歩いて来る。

 その人影は一人では無い。

 先頭が進むにつれ、二人、三人と、通路の暗がりから人影は増えていく。

「包帯グルグル巻きにゃ。恐怖ミイラ男にゃ!」

 マーベルが叫んだ。

 続いて、アルトの肩越しまで進み出たカリストとマリオンが必死に目標を視界に入れる。

「スキル『ズールジー(動物学)』を使う」

「承認します」

 カリストが宣言すれば、マリオンもまた同様の語句を口元だけで呟き、そして2人の脳裏に目標のデータが流れ込んだ。

「特定名称『レッサーマミー』。怪物(モンスター)レベルは2。両手で掴みかかるような攻撃をしてくるが、攻撃力はさほど高くない。だが状態異常『熱病』をかけてくるから注意だ」

「あと乾燥しているから炎でよく燃えるわ」

 続けざまに2人がデータを読み上げた。

 読み上げ、2人が同時に『緒元魔法』の動作を振りかざした。

「『ファイアアームズ』」

「承認します」

 カリストの指輪から、マリオンの『短杖(ワンド)』から、鞭の様にしなった炎の帯が螺旋を描いてアルトやアスカの得物に巻きついた。

 『ファイアアームズ』はその名の通り武器強化魔法だ。

 魔法の効果で単純に打撃力がアップする上に、炎による追加ダメージも期待できる。

 敵が炎に弱いなら、その効果はさらに高くなるだろう。

「接敵までまだ時間がある。バフをかけるなら今のうちだ」

 ひと仕事を終えたカリストが他のメンバーにも声をかけた。が、そんな言葉に後衛メンバーたちは僅かに首をかしげた。

「でも2レベルならザコにゃ? そんなに頑張らなくても大丈夫にゃ」

 そんな皆の意見をマーベルが代弁する。

 迷宮探索は長丁場だ。

 ならばこそ、ザコ相手にはMP(マナポイント)を節約していく必要があるだろう。

 それはここまでの探索でも十分に学んだことだった。

 だがカリストは嫌な予感を覚え魔法を使った。マリオンもまたそんな彼に何かを感じ取り続いたのだ。

 そんな気持ちが伝わらなかった事に焦燥感を覚えつつも、理論的に説明できないために口をつぐんで視線を前に戻す。

 その予感が杞憂に終わってくれる事を祈りつつ。

 しかしその祈りは天におわす何者にも届かなかったようだ。

「お、おい、これはちょっとヤバイかも」

 アルトが『蛍丸』を正眼に構えつつ冷や汗をたらす。

 彼ほどの達人が2レベル怪物(モンスター)程度を相手に何を? と後衛メンバーは怪訝に思いつつ前方に注視した。

 すると、この10秒程度の間に白い人影が続々と増えていた。

「……15体。それから右にも」

 ナトリが素早く数えているうちに視線の端にもまた『レッサーマミー』が現われた。

「左もや!」

 言われて逆へ視線を向ければ、そちらの通路にもやはり同様の人影が現われた。

 つまり、前方と左右、3つの通路から、次々と『レッサーマミー』が歩み出ていたのだ。

 その総数は50を越える。

 一同はゾッとした。

 いくら低レベルとは言え、敵は恐れを知らぬ不死の怪物(アンデット)だ。

 犠牲を省みず押し寄せられれば、波に潰される事もあるだろう。

「こんな時こそ、あいつらがいればいいのに…」

「ああ、あの人らですな」

 アルトが呟き、レッドグースが同意に頷く。

 彼らが思い出したのは、かつて彼らの前に立ちはだかった事のある、赤い法衣を着た『聖職者(クレリック)』たちだ。

 たしか『僧職系男子の会』と言ったか。

 以前アルトたちが無数のゾンビに囲まれたとき、彼らが囮となり犠牲となることで救われた事がある。

「ん? 結局、あの人らって生きてたんだっけ?」

「さぁ、どうでしたかな」

 登場の印象が強かったせいか、その後の記憶がおぼろげなアルトたちであった。

 当然、そこに彼らが登場する事はない。

 なぜなら『僧職系男子の会』の長であるヒメネス卿は、めぐり巡って今や『ラ・ガイン教会』の頂点たる法王職で大忙しであり、彼の左右翼もまた、教会復興に右往左往しているところだからだ。


 そこからまさに死力を尽くす戦いが始まった。

 『レッサーマミー』自体は先にも述べた通り、たいした強さを持っていないため、1体を破壊するのに、アルトやアスカの攻撃で1~2ラウンドあれば事足りる。

 また魔法使いたちの範囲攻撃魔法によりさらなる掃討も可能であった。

 50いた『レッサーマミー』は数ラウンドの内、瞬く間に数を減らした。

「この調子やったら勝てんこともなさそうやな」

「ただ、これが階層の初っ端というのが頭痛いね」

 息を切らしつつ、カリストとモルトが会話を交わす。

 この時は言葉を発する元気がまだあった。

 しかし、本番はこれからだった。

「また出たにゃ!」

 マーベルの悲鳴にも似た叫びが上がる。

 見れば、先の通路からまたもやゾロゾロと『レッサーマミー』が現われた。

「キリがねぇ!」

「だがやるしかない!」

 そんなアルトとアスカの言葉が、この時最後に発せられた意味ある言語だった。

 以降、悲鳴や呻き、そして疲労の吐息が聞こえるばかりだ。

 それでも彼らはそこから20ラウンドは頑張った。

 MP(マナポイント)の枯渇から、殲滅力は激減。

 また、疲労からアルトたちの戦闘能力もまた低下して行った。


 そう『疲労』である。

 『メリクルリングRPG』では疲労に関するルールがほとんど無い為、いくら歩いても疲れない。と述べた事があるが、「ほとんど」無い、という言葉の通り、僅かにだがルールがある。

 その一つが「疲労による戦闘継続ペナルティ」というルールだ。

 つまり、『メリクルリングRPG』では、戦闘において疲労のルールが具体規定されているのである。

 具体的に言えば、「キャラクターの最も高い能力値と同数のラウンドを、戦闘ラウンドが越える場合、1ラウンド越えるごとにマイナスペナルティが1ずつ増加する」というものだ。

 つまりザコ相手の戦闘でも、圧倒的多数を相手にした場合、いくらレベルが高かろうが敗北するのだ。

 10レベル、つまり英雄と呼ばれるレベルに達すると、これを超越する特別ルールがあるのだが、どちらにしろこの合同(パーティ)に英雄がいないので解説はまたの機会とする。


 ラウンドを重ねるにつれ、一人、また一人と倒れ消えてゆく。

 最も防御力の高いアスカが最後まで残ったが、その時には膨れ上がった『レッサーマミー』の総数は100に達していた。

 もはや逃げる道すらミイラ男の身体で文字通り塞がれている。

 後はもう、彼女が圧壊されるだけであった。



 全員のHP(ヒットポイント)が尽き死亡すると、彼ら、彼女らはこの迷宮の規定どおり、迷宮の門前にて復活する。

「YOU DIED」

 生き返ったばかりの呆然とする彼らに、初老執事然としたギャリソンの幽霊は恭しくお辞儀を披露しつつ、うれしそうに、またとてもネバっこい発音で、そう言葉を浴びせかけた。

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