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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#10_ぼくらのダンジョン生活(最終章)

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15さらに階下へ

 最終章 ここまでのあらすじ


 真なる創造主にして氷原の魔狼ヴァナルガンドは、この世界を自らの糧とする為に創りたもうた。

 だが、彼を追い異世界から来たウォーデン老とその弟子ハリエットにより窮地に立たされたヴァナルガンドは、彼の忠実なる(しもべ)である人狼ギャリソンによって造られた迷宮『グレイプニル』へと逃げ込む。

 そしてヴァナルガンドとの戦いで深い傷を負ったウォーデン老は、迷宮の攻略をアルト隊に託した。

 黒衣の魔導師カリストの魔法で調べたところ、この迷宮グレイプニルは8階層に及ぶものだとわかり、おそらく最下層にいると思われるヴァナルガンドを目指す。

 途中、ウォーデン老の計算から、ヴァナルガンドがこの世界を『喰らう』日が3月21日であると推測された。

 このままでは迷宮攻略は間に合わない。

 そう判断したウォーデン老は、『転移術(テレポーター)』を修める馬頭の悪魔(オリュフェス)を召喚し、アルト隊以外に迷宮攻略を任せられる人員のスカウトに出かけた。

 その甲斐あり、攻略隊(パーティ)として『シュテルネンハオフェン』を加え、さまざまな難関(ギミック)を乗り越え、アルトたちはついに第3階層をクリアした。

 アルト隊が第3階層をクリアすると、これまで大悪魔の城だった場所は殺風景な石造り部屋となった。

 いや、城だけではない。

 第3階層全体が、歪んだ妖精界から元の迷宮へと戻ったのだ。

 その迷宮の一室は大広間で、端と端にそれぞれ上階、下階へと行く階段が設えられている。

 もうその日はとっくに夜となっている時間であり、このまま探索するのもどうか、と、はばかられた。

 第3階層クリア後の感想話と、「これからどうしよう」と言った迷いを見せている僅かな時間、その空間に忽然と人影が現われる。

 黒髪の戦乙女アスカに率いられた女ばかりの冒険者(パーティ)『シュテルネンハオフェン』の面々だ。

「あー、負けたわ」

 と、その面々のうち、金色の髪を左右で小さく二つ結んだ魔法少女マリオンが、いかにもガッカリと言う態で腰に手を当てた。

 この言葉を受け、その隣に立っていた美しい銀髪少女ナトリもまた、落胆のため息を吐く。

「な、なにが?」

 いきなりの態度に戸惑い、長い太刀を背負ったサムライ少年アルトは半歩下がりつつ訊ねた。

「何って、当然『どっちが先に大悪魔(ヴァラリース)を倒すか』のスピード勝負よ」

「あはは、相変わらず、勝気な娘さんやね」

 対するマリオン嬢の返答に、白い法衣の乙女神官モルトは肩をすくめるて笑いを上げるのだった。

 また、モルトに並んでいたねこ耳童女マーベルは、いかにも勝ち誇った風で、薄い胸を精一杯そらすように威張って見せていた。

「さて、このあとはどうしますかな?」

 睨みあうマーベルやマリオンを他所に、酒樽紳士レッドグースが全体に向けて問いを投げかける。

 これは今しがた、アルト隊で出ていた話題でもある。

「消耗もしているし、ここは一度戻るべきじゃ無いかな」

 『シュテルネンハオフェン』のリーダーでもあるアスカが、長い黒髪を整えながらそう提案すると、他の面々も特に異論は無い様で、思い思いに頷いて見せた。

 ただ、黒い『外套(マント)』を羽織った眼鏡の魔導師カリストだけは、同意しつつも一つ付け加えた。

「帰る前に、ちょっとだけ下の階層を覗いて行かないかい?」

 彼の指差す先には下階へと降りる階段が見えている。

 言われて思い出し、それぞれも了承とばかりに頷いた。

 確かに、目の前にある階段を無視して帰るのも、寝付きが悪くなりそうではある。

 そういうことで、その様になった。


 特に敵の気配を感じるわけでもないが、初めての場所を通ろうと言うのだから警戒は厳にする。

 と言うのはこれまでこの迷宮を通ってきた面々にとってはすでに常識となっていた。

 厳密には、第3階層は迷宮と呼べるのか判らないが、それでも罠や仕掛け、怪物(モンスター)がはびこっていた事に変わりない。

 ともあれ、アルト隊の『盗賊(スカウト)』でもあるレッドグースと、『シュテルネンハオフェン』の斥候役である『探索の目(オキュラス)』クーヘンが先頭になって階段を降りる。

 先頭、とは言え、チェックのインバネスコートを着込んだクーヘンは小さな『人形姉妹(シスターズ)』である。

 歩幅の違いから足並みが揃わない事も考慮して、今はレッドグースのベレー帽の上から『目』の役を果たしている。

 またもう1匹、黒い小動物が足音も立てずに付き従う。

 『魔術師(メイジ)』カリストの使い魔、黒猫のヤマトである。

 ヤマトの背には『機械仕掛け(マーキナー)』ティラミスが騎乗し、いつもは頭にかけているゴーグルを正位置につけて周囲を見回している。

 このゴーグルは『魔法の物品(マジックアイテム)』であり、『赤外線視覚(インフラビジョン)』の効果がある。

 その後に続くのはアルトとアスカの前衛2枚看板、それからその後ろにマーベル、カリスト、マリオン、ナトリ、また『癒しの手(クラーティオ)』エクレアと言った『魔法使い(マジックユーザー)』たち。

 そして後衛に『聖職者(クレリック)』だが『警護官(ガード)』でもあるモルトが『背後からの攻撃(バックアタック)』を警戒しながら付くという隊列だ。

 名前を並べると大人数だが、ヤマトや『人形姉妹(シスターズ)』は小さいので遠目にするとそれほど大人数には見えない。

 そうして様々な危険に対して警戒しながら階段を降りると、一同は拍子抜けした。

 なぜならそこ、第4階層は、つい階段の上と同じ大広間に上下の階段が一つずつという構成の場所だったからだ。

 とは言え、これは予測されていた事でもある。

 なぜなら第3階層にあったいくつかのダンジョンは、第3階層から地下へ降りるものだったからだ。

 すなわち、あれが第4階層だったのだ。

 というわけで、合同冒険者(パーティ)は、そのまま第5階層へと階段を降りてみることにする。

 同じ隊列のまま空白の第4階層を通過し、階段を降りる。

 するとそこは、始めに第3階層に降りた時と同じ様に、木造の壁や天井を持つ、まるで小屋の中のような部屋であった。

「またこのパターンか」

 床まで降り立ちアスカが呟く。

 すなわち、この小屋の外が第3階層と同じく異界化していて、何らかの条件を満たす事で先へ進めるタイプ、という解釈である。

「ま、同じと言えば同じだけど」

 呟きを拾い、隣のアルトは辺りを見回しつつ言う。

 そう、アルトが隣に並んでいるのだ。

 第3階層で合流し、隊列を組んで進んできた面々が、そこには全員存在した。

「どうやら『インスタンスダンジョン』ではないようですな」

 第3階層は(パーティ)単位でしか攻略できない『インスタンスダンジョン』だった。

 だがここには2つの(パーティ)が共に存在しているのだから、レッドグースの言うとおりなのだろう。

 ただ、と付け加えるようにカリストが重々しく口を開く。

「人数がいないとキツイ、って事じゃなければ良いんだけどね」

 杞憂であれば、と彼はため息をついた。

「そんなの、今心配してもしょうがないじゃない。で、小屋の外も見てみる?」

 と、軽い調子で言い出したのはマリオンだった。

 彼女の言葉のおかげで、暗く重くなりかけていた小屋の雰囲気がすぐに緩和された。

「今日はもう遅いんやし、外の事は明日でええんやない?」

「賛成。そろそろ空腹も限界」

 それぞれがそれぞれの顔をうかがう中、肩をすくめて言うのはモルトだ。

 そしてそれに同意するようにナトリも頷いた。

「あたしはもう眠いにゃ」

 そう言ってさらに帰還を促すのはマーベルだった。

 第3階層の大悪魔(ヴァラリース)を倒す為、この日の探索は延長気味だったので、それらの意見は至極もっともであった。

 なので他の皆もまた同意して、それぞれが今降りてきた階段へと回れ右を始める。

 と、そこへ静かな言葉が皆を止めた。

「待つであります」

 言葉の主は黒猫のヤマトに騎乗した、人形サイズのティラミス嬢だった。

 その言に引き止められ、皆一様に視線を彼女へ向ける。

 するとティラミス嬢の傍らに、彼女の背丈の数倍はあるローテーブルが目に入ってきた。

 ティラミス嬢の数倍、とは言え、彼女の身長自体が14センチメートルなので、人間からすればせいぜい腰の高さだ。

「このテーブルはどうやら魔法の品であります。上に何があるでありますか?」

 ティラミスは『魔法工学士(マキニスト)』であり、『魔法物品鑑定』と言うスキルを持っている。

 ゆえに気づいたのだろう。

 ただ、その背丈が祟りローテーブルをくまなく見定める事ができなかった。

 彼女に代わり、ローテーブルに素早く寄って見定め始めるのは、興味の対象が現れた事で眠気が吹っ飛んだマーベルだ。

「猫まっしぐら」

 その様子を揶揄してアルトが呟くが、耳ざとく拾ったマーベルはすぐに「猫じゃないにゃ」と呟き返す。

 それはともかく、ローテーブル天板上の様子は近づけばすぐに見える。

「なんにゃ」

 だが『精霊使い(シャーマン)』でしかないマーベルでは、結局何かわからず、首を傾げるだけだった。

 同じ『精霊使い(シャーマン)』であるナトリもまたすぐに歩み寄っており、テーブルの天板に指を這わせながら確かめる。

 小屋同様に木材で組まれたそのローテーブルの天板。

 縁に草のツタを模るようなレリーフが掘られ、その内側には4つほどの丸い窪みがあった。

「硬貨? メダル?」

 ナトリが感情の薄い表情を僅かに困惑にゆがめ、首を傾げる。

 テーブル上の窪みは彼女の言うように、ちょうどメリクル銀貨ほどの大きさだった。

 ただ、硬貨を嵌めるにしては丸い形状に少々の変化がある。

 その窪みは、丸いが縁が細かくギザギザしていた。

 そして窪みの並びの中央に、なにやら見たことの無い文字で文章がつづられていた。

「知らない文字…」

 ナトリがそう呟くと、文を見落としていたマーベルが再び興味深げにテーブルへ視線を注ぐ。

 いや彼女だけではない。

 すでにここにいる皆がテーブル近くまで寄っていて、全ての視線がそこに注がれた。

 その文字を知るのはそのうち6人。

 アルト、マーベル、モルト、カリスト、レッドグース、そしてアスカ。

 つまりそれは日本語であった。

「『納めよ、さすれば道は開かれん』」

 誰ともなく読み上げる。

 その文意を咀嚼して、マリオンは首をかしげて口を開いた。 

「4つの何かを探して、はめ込めって事かしらね」

 皆、ほぼ同じ事を思っていたようで、一様に頷いた。

「ともかく、この階層の目的は暫定的にだけど判ったし、今日はこれで引き上げてはどうだろう?」

 皆が考え込み始めたところで、カリストは一つ手を打ちそう告げる。

 そうだ、帰るところだった。

 各位そう思い出して顔を挙げ、その日はこれで地上へと戻る事とした。

 迷宮を出ると空はすでに深い藍色に覆われており、幾多の星が瞬いていた。

「光害が無いから、星が綺麗だ」

 アスカのそんな呟きに、日本から来た者たちは空を見上げ、それぞれが故郷の空を思い浮かべた。

 ただその胸に訪れる郷愁は、各個人で深さも広さもまったく違うものだった。



 時を少しだけさかのぼり同日の昼頃。

 『錬金術(アルケニア)』の祖であるウォーデン老は、『迷宮(グレイプニル)』より南西の地にあるタキシン王国首都にいた。

 彼の傍らには馬頭の悪魔オリュフェスもおり、『転移術(テレポーター)』にてやって来たことは間違いない。

「ふむ、先日訪問した港街とは比べられぬほど貧相な街だな」

「そう言うでない。ちょっと前まで内戦で乱れておった国じゃ。疲弊していても仕方あるまい」

 オリュフェスは馬面をくるくると回して街並みを評価し、ウォーデン老は「さもありなん」と肩をすくめつつも、軽いフォローを入れる。

 戦乱に疲れた国。

 ただその戦も終わり、道行く民の顔も、ウォーデンがここに滞在していた頃に比べればいくらか明るいものとなっていた。

「それで、ここにはまた手練れがおるのか?」

「おる。おるが、連れ出せるかは話してみねば判らぬな」

 彼らがここへやって来た目的と言えば、アスカ隊同様に迷宮攻略の為の人材をスカウトする為だ。

 レギ帝国にて港街ボーウェンに行きながらも帝都をスルーしたのは、単に腕の立つ者についての(つて)が何も無かったからだ。

 いや、事実を述べるなら、スカウトの件ではスルーしたが、実際には帝都にも立ち寄っていた。

 立ち寄り、何をしていたかと言えば、帝都の有名店を巡って名物をたらふく飲み食いしていたのである。

「さて、残された時間もあまり多くない。とっとと行くかの」

「とっとと、か。聞いて呆れるな」

 付き合い、共にたんと飲み食いしたオリュフェスも、ウォーデン老の言い草に肩をすくめ、後に続いて歩を進めた。

 行く先は伝統に彩られた古城。タキシン王国の王城だった。


 素性もわからぬ者がタキシン王国のような小国と言えど国王に謁見するなど、とてもじゃないが叶うものではない。

 だがウォーデン老はすでに引退した前国王の病を治す魔法薬を作った『錬金術師(アルケミスト)』でもあり、王城王宮の近衛にも顔が知られていた。

 ゆえに、少々待たされはしたが、公的謁見ではなく私的会見の場を得る事ができた。

 新タキシン王となった巨漢アムロドとしても、この『錬金術師(アルケミスト)』から火急の用などと伝言されては、会わぬ訳には行かないのだ。

 今は王国再建のための大事な時であり、金も人材も足りない。

 どんな些細な事でも、憂慮すべき案件なら早期に取り掛からなければ取り返しのつかない事になりかねないのだ。

「久しい、と言うほど時は経ってない筈だが、ウォーデン老と別れたのはもうだいぶ前のような気もするな」

 いつか、アルト隊も招かれた王宮の食堂である。

 国王となったアムロドが疲れた顔で席に着き、そのように述べた。

 実際、ウォーデン老やその弟子ハリエットが、タキシン王国から旅立ってからまだ一月(ひとつき)も経っていない。

 だが、それから今まで、いやこれからも、新国王アムロドの双肩に圧し掛かった苦労の山は、いくら処理しようとも頂が遠のく事はあっても、低くなる事はなかった。

「白髪が増えたのう」

 供された薄い茶を口に運び、白髪の老人は無責任に笑う。

 またその隣の馬頭悪魔は2人の会話など気にせず、器用にカップから茶を飲んだ。

 ちなみに、このオリュフェスを見てアムロド王が動じなかったのは、単に疲れていてそこまで意識が回っていなかったからだ。

「して、旧交を深めに来たわけではあるまい? 何があった?」

 アムロドもまた茶をすすり、深く息を吐いてから問う。

 そこには、どうせ厄介ごとだという諦観が見て取れた。

 見て取れたからこそ、ウォーデン老も遠まわしな言い方をせずに述べた。

「世界の滅亡が迫っておる」

 アムロド王は、盛大に茶を吹いた。

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