15放たれる矢
第9章のここまでのあらすじ
タキシン王国の内戦において、アルト隊は『王太子派軍』の協力者として参戦することとなった。
『王太子派軍』は王太子下のタキシン王国軍とレギ帝国からの派遣軍の混成軍だ。
病に臥せっているタキシン王の為の薬を研究することになったハリエットたちを首都タキシン市へ残し、アルトたちは戦場へと向かう。
ところが『エルデ平原会戦』『ロイデ山攻略戦』と、負けるはずの無い戦に『王太子派軍』は立て続けで敗北。
また、その敗戦により、『王太子派軍』は多数の王国兵と総司令である騎士団長ハーラスを永遠に失い、首都タキシン市へと戻った。
そして手負いの『王太子派軍』は起死回生の一手『鋭い矢作戦』の展開を決定する。
その作戦とは、本隊にて『ロイデ山』の敵を引きつけつつ、アルト隊が敵本拠地『ロシアード市』にて敵首脳を討つというものだ。
作戦の為に帝国から派遣された海防艦『ヴォルフラム号』に乗り、『ロシアード市』の海側の入り口である湊町沖までたどり着いたアルト達は、ここでアルト少年の義兄弟、ファルケとエイリークに再会する。
養父の熱病治療の為に『錬金術師』2人をファルケに託し、アルト達はいよいよ上陸作戦を開始する。
未明と言うからには夜明け前の話だが、言葉の意味としては朝日が昇る直前の事だ。
日本の気象庁では0時から3時を指すそうだが、ここでは夜明けの少し前、程度の時間である。
そのまだ薄暗く、せいぜい漁師やパン屋などの職人たちが仕事を始める寒々しい時間帯に、海防艦『ヴォルフラム号』は行動を開始した。
「撃て、撃ちまくれ。当てなくてもいい、とにかく町を恐怖と混乱に陥れろ」
ゲプハルト艦長の号令一下、すでに大量の矢を準備していた砲手たちは右舷と艦首に据え付けられた『大型弩砲』計3門を次々に撃つ。
海防艦『ヴォルフラム号』に装備された『大型弩砲』は計5門だが、右舷2門、左舷2門、艦首1門と言う構成上、すべての弩砲を同方向に放つことは出来ない。
よって、同方向射撃が可能な最大門数での砲撃であった。
『大型弩砲』による極太の矢が湊町に着弾すると、爆発こそしないが大きな破壊音が立つ。
それは石畳を砕く音や、建築物を射抜く音だ。
『大型弩砲』は歴とした攻城兵器なので、この町にあるような比較的規模の小さい建築物群などは直撃を食らえばひとたまりもない。
沖合いからいつの間にか湊町を射程に収めるほど接近していた見慣れぬ軍艦と、その軍艦から次々と放たれる巨大な矢に、すでに起きていた者もまだ寝ていた者も等しく慌てふためいた。
そもそもタキシン王国は船による交易などは盛んではなく、この湊町もせいぜい『ロシアード市』へ少ない交易品や海産物を河川ルートで運ぶ程度である。
したがって、まさか攻撃されるなど、誰もが思っていなかった。
だからこそ、その台詞は町の治安を守る警備兵の口から出た。
「馬鹿な、海から敵が来ただと? 何の冗談だ」
だた降り注ぐ矢の数に対し被害は少ない。
『ヴォルフラム号』の砲手たちは命令通り、狙いもつけずに速射しているだけなので当然なのだが、湊町側の者たちは官民にかかわらず逃げ惑うので精一杯で、それに気付く者は殆どいなかった。
そしてそんな砲撃が小1時間も続くと、海防艦『ヴォルフラム号』はそそくさと沖へ向かって去って行った。
「上陸してこないのか? 何だったんだいったい」
夜明け前からたたき起こされて町内を駆けずり回た疲労困憊中の警備兵たちは、ただ安堵と少しの困惑を晒しつつ、ひとまず地に膝を着いたのだった。
その頃、海防艦『ヴォルフラム号』の砲撃を陽動としてコッソリ上陸を果たしていたアルト隊の面々は、すでに混乱の湊町から数キロメートル離れた小街道を進んでいた。
いつものアルト隊に加えミスリル銀製の義肢を持つエイリークと、巨大なミスリル銀の全身鎧が同行している。
この巨大な全身鎧は実は鎧ではない。
500年以上前に大陸で栄えた大魔法文明時代においてゴーレム作成の第一人者と名高い名匠デピスの手による『|意思直結操作型ゴーレム《ネブゴーレム》』なのだ。
操っているのは、胸部のコクピットに収まっている人形サイズの『人工知能搭載型ゴーレム』プレツエルだ。
略称としてエルと呼ばれる彼女は、今、姉妹である『機械仕掛け』ティラミスを肩に乗せて悠々と歩いている。
「このまま進めば今日の昼過ぎには『ロシアード市』に着くぜ。さぁどうするんだリーダーさんよ」
「ぐっ」
いかにも気楽な様子で訊ねるのは、最近『ミスリルの魔導師』と巷で呼ばれるエイリーク。
対して問われたアルトは思わず言葉を詰まらせた。
一応、この隊ではアルトがリーダーと言うことになっているが、アルトは実際ノープランだったので、問われても返す言葉が無かった。
ゆえに、すぐ視線をさまよわせた末に黒い『外套』を羽織った眼鏡の青年・カリストに向ける。
だが答えたのはアルトの隣をひょこひょこ歩いているねこ耳童女マーベルだった。
「さっきの湊町みたいにどうせ警戒して無いにゃ。普通に冒険者として街に入ったら良いにゃ?」
「本当に警戒してなければそれでもいいかもね」
そんな呆れ混じりの発言に、カリストもまた肯定的に頷く。頷きつつも、顎をひと撫でして言葉を続けた。
「ただどこからか湊町の情報が伝われば、さすがにすぐ警戒されるだろうし、様子を見てから厳戒態勢の様子が無ければマーベル君の作戦で行こう」
「ダメやったら?」
「その時は僕に試してみたいことがあるんだ」
白い法衣のモルトの問いに笑顔で答え、カリストはその後、ニコニコとしながら無言を貫いた。
一方、アルト達の向かう『ロシアード市』にはひとつの報がもたらされていた。
『ロシアード市』の中央にまるで宮殿の如き豪奢な建物がある。
この市を拠点として王権を狙う、現タキシン王の弟殿下アラグディアの居城だ。
芸術都市の名で知られる『ロシアード市』中央にそびえるにふさわしく、近代著名な芸術家にデザインされたと言うその建築物は、ある者からすれば首を傾げたくなり、ある者からすれば思わず賞賛を送りたくなる。
つまりある種、芸術的なのだ。
その芸術宮殿のもっとも奥まった執務室で、腹回りに貫禄がある中背の初老漢が配下の貴族からその報を受け取った。
「その話は真か?」
「はい、確かな筋からの情報です」
とても信じられない、と言う態で訊き返された若い男爵は、それでも自信を持って頷いた。
実際、かの男爵の息子が軍属の諜報員で、ここしばらくは首都タキシン市へ潜入していたことからもたらされた情報だ。
男爵にとってはこれ以上無い信用筋である。
「兄上の病が治っただと? ドクター・アビスめ、俺を謀りおったか…」
「は?」
初老漢、アラグディア王弟殿下から思わずもれた憎々しげな呟きに、若い男爵は怪訝な表情で短い疑問符を上げたが、王弟殿下からはさらに怒りを孕んだ言葉が返った。
「くそ、なんでもない!」
男爵は「八つ当たりを受けてはたまらない」と、恭しく頭を下げて退出する。
そんな配下の背中を見送り、アラグディアは荒々しく椅子に身を預けて爪を噛む。
アラグディアの兄、つまり現在のタキシン王のことだ。
かの国王陛下の病と言えば、巷で「謎の熱病」などといわれているが、実は『悪の錬金術師』の名で知られるドクター・アビスなる怪しい人物の提供した毒薬由来の症状であった。
そのアビス老の言うところによれば、この国にその毒薬を解することの出来る者はいないはずだった。
ならばこそアラグディアは安心して挙兵したわけだ。
なのに今になって兄王の毒が解された。
国王健在の時点で挙兵しているアラグディアは逆賊であるが、さらに解毒が成ったということは、つまりは毒に冒されていたこともバレた筈であり、もはや言い逃れも出来ないだろう。
「こうなれば、兄上もろとも滅ぼすしか道は無い。だがその前に…」
国王不在だからこそアラグディア側に着いた者もいるだろう。
その者たちは、国王健在の報を聞けば少なからずが離反するに違いない。
場合によれば、彼の御首を手土産に降る者もいるかもしれない。
アラグディアは頭を抱えながらも、街を守る僅かな手勢の長を呼び出し命令を下す。
「厳戒態勢だ。『ロシアード市』を、いやこの俺を守れ」
エイリークの言った通り、途中で昼食休憩を挟んだ日中に『ロシアード市』が見えてきた。
そして、『ロシアード市』を見下ろすことの出来る近郊の丘の上で、アルト隊の面々は軽くため息をつく。
「警戒バリバリ伝説ですな」
そんな発言に対する白い目をスルーしつつ、ドワーフの『吟遊詩人』レッドグースは『ロシアード市』の各門に目を走らせる。
高い外壁で囲まれたロシアード市のそれぞれの門には、すでに警備の兵が小隊単位で駐屯しており、また中央の宮殿然とした建物にも、相応の数が警備の任についているようだった。
戦時であり主戦力は出払っているはずなので、残っているのは形ばかり武装した程度のレベルの兵ばかりだろうが、それでも数が揃えば面倒なのは確かだ。
レベルが厳然なる力の差を示すこの世界でも、たとえば50人を1人で降すのは、相当な骨である。
つまり当初のマーベル案は使えないので、何かしらの作戦が必要、と言うことになるわけだ。
「カリストさん、『作戦がある』って言ってましたよね?」
「いや『試したいことがある』って言ったんだけど、まぁこの場合は同義か」
アルトに促され、カリストはワザとらしく『外套』をふわりと払って皆の顔を臨むように振り替える。
「じゃぁ潜入作戦を説明しようか」
丘の上での作戦会議が終わった後、カリストとエイリーク、プレツエルを除いたアルト隊は外周の林をぐるりと回り、『ロシアード市』を挟んで丘とは反対側へと向かった。
急ぎ足で進みながら、先頭を行くアルトは心配気にちらちらと丘を振り向く。
「カリストさん、本当に一人で大丈夫かな?」
だが、その呟きを聞きつけたモルトは肩をすくめながら首を振った。
「大丈夫やろ。カリストの兄ちゃんやったら、いざとなれば文字通り飛んで逃げるわ」
「そうか。そうだよな」
モルトの言葉に幾分かホッと息を付いたアルトはもう一度、先に説明された作戦を思い出した。
作戦は湊町の上陸作戦と同じく、単純な陽動作戦だ。
まずカリストが「試したい」と言っていた長距離で撃てる大魔法を丘の上から『ロシアード市』に放ち、その後に『ミスリルの魔導師』エイリークと『魔操兵士』プレツエルが丘と同方向にある門から攻める。
この2段構えの陽動により街の警備をひきつけたところで、アルト達が『空飛ぶ庭箒』で外壁を越えて侵入する、と言う手筈である。
誰もカリストの作戦に深くツッコまなかったが、そもそも一撃で街を混乱に陥れるほどの大魔法など、『メリクルリングRPG』には無かったはずなので、いったい何をやらかす気なのか、と不安と期待が半々と言った気分である。
まぁ、カリストが言うのだから何か考えがあるのだろう、と言うのが、これまで彼と付き合ってきたアルト達の思惑でもあった。
さて、その期待されている当人であるところの黒ずくめの『魔術師』カリストは、一人丘の上に立ちアルトたちの移動を眺めていた。
もちろんいくら見晴らしがいいとは言え通常の肉眼で彼らを見られるほど近いわけではない。
そこは彼の本分である『魔術師』の『緒元魔法』に頼っているのだ。
5レベルの『緒元魔法』に『マクリア』と言う魔法がある。
これは「遠く」という意味の言葉で、「まるで双眼鏡を使用したかの如く」遠くを良く見ることの出来る魔法だ。
『魔術師』のスキルである『魔法変化』を併用すると片目だけで使用も可能となるが、これを使いこなすには、相応の訓練が必要となる。
「もう少ししたらぶっ放しても良さそうだね。ならそろそろ連絡しておこう」
アルト達と別れてすでに小一時間、彼らはすでに所定の位置付近まで進んでいる。
それを確認して満足そうに頷いたカリストは、黒い『外套』のポケットから、対角幅5インチ程度の、長方形の薄い石版を取り出した。
『大魔法帝国時代』に作られた『ファンファンフォン』。
同じアイテムを持つ者同士で、距離に関係なく会話が出来るという魔法のアイテムである。
カリストは石板表面に並んだ0から9の数字をリズム良く押していく。
「『1000-10-0』と。あーもしもし、僕だよ」
『ああ、君か。やー久しぶりですね。こちらみんなのアイドル、メズリックだ』
押すなり『ファンファンフォン』を耳に当て声をかけると、その石板から言葉が返ってきた。
誰かと言えば、レギ帝国はガイグル砂漠外周にひっそりと建つ大魔法帝国時代の遺跡『理力の塔』、その地下通路の番人であった死霊人形氏である。
「あれ? シュトルーデル君は?」
『お嬢なら『理力の塔』の制御で手が離せない。何か用があるなら私が中継するが?』
「そうか。ではこれから『理力の塔』の力を使うと伝えてくれ」
『了解した』
会話はこれで終了し、『ファンファンフォン』の接続は切れた。
そう、カリストはレギ帝国港湾都市ボーウェンを出発する前に、人形姉妹の長女シュトルーデルへ、『理力の塔』再起動と制御を依頼していたのだ。
『理力の塔』を憶えているだろうか。
かつて魔法の力で栄えた『大魔法文明』を支えた、無限の魔力を『魔術師』へと供給する魔法装置。それが『理力の塔』だ。
まだカリストの身体がキヨタヒロムに囚われ操られていた時、キヨタはすでに遺跡であった『理力の塔』を修復し、再起動した。
当然、自らに無限の魔力を供給させる為だ。
そしてアルト達の活躍で『理力の塔』は再び沈黙したわけだが、その主たる制御装置『天上の石』は破壊されたわけではなかった。
読者諸兄にはぜひ思い出して欲しい。
モルトの『オーラブリッド』を当てられら『天上の石』は、あるべき台座から弾き飛ばされただけだった。
『理力の塔』停止にはそれで十分であったし、彼ら彼女らもキヨタとの戦いで忙しかったこともあり、誰もがその後の『理力の塔』には注目していなかった。
いや、すっかり忘れられていた。
そこでカリストは奥の手として、『魔術修士』シュトルーデルへ、『理力の塔』再起動を依頼していたと言うわけだ。
カリストは満足そうに頷いてから、黒い『外套』を脱いで折りたたむ。
そしてグレーシャツの胸元だけ、ボタンをいくつかはずした。
露になるのはあまり筋肉の付いていない薄い胸板。そしてその胸の中央には、禍々しくも輝かしい赤く丸い玉石が埋め込まれている。
これこそは『理力の塔』の主制御装置『天上の石』に空間を越えて直結する玉石であり、この石を介して『理力の塔』が集めた莫大な魔力が供給される。
ただ、『理力の塔』が制御が出来るようになったのがつい先日であり、カリストもまたこのシステムを利用するのは初めてだ。
それでもキヨタヒロムに操られていた記憶もあり、また、これを利用した新たな案も彼にはあり、上手くやれる自信もあった。
それを試す舞台として、今回の陽動を買って出たと言うわけだ。
心配されながらも一人で魔法を行使する、としたのは、この魔法が万が一失敗した時、周囲にどれほどの影響を与えるか判らなかったからである。
「では、早速やって見ようか」
カリストが語りかけながら胸の赤い玉石をひと撫でする。
もちろんGMたる薄茶色の宝珠と違って言葉が返るわけが無い。
だが、それでも自分の身体に埋め込まれたこの玉石が、彼には友のように思えて成らなかった。
そして、玉石はまるで返事をするかのように赤い光を湛え始める。
『理力の塔』から流れ込む魔力の光だ。
「ははは、真冬だと言うのに、魔力の熱で暑いくらいだ」
手に入れた膨大な力。
この力でキヨタヒロムは狂ってしまった。と、かの養女ナトリは言ったが、カリストはその言葉に今更ながら首を振った。
キヨタはこの膨大な魔力を、通常の『緒元魔法』でしか利用しなかった。
それこそが彼の理性であり、彼の狂気の原因はヴァナルガンドへの恐怖と不信が極限に達したせいだ。
だがこの膨大な魔力の使い道は、現代に伝わる『緒元魔法』だけでは持て余す。
現に『大魔法文明』時代に『魔術師』たちは、この力を使って都市を浮かせ、神竜を下僕と従え、ついには自分たちの帝国を破壊するほどであった。
その時代がかった大魔法を、今、カリストは試そうというのだ。
「ライブラリ『アステール』、3番、5番、7番を参照。圧縮術式解凍開始。4、3、2、1、準備完了」
足元の丘に巨大な魔方陣が広がる。
カリストの指にある魔法媒体の銀指輪が、また、胸の赤い玉石が、そして魔方陣が、まばゆいばかりに光を放ち、その光は天にそびえる柱となった。
「魔術式『ステルラ・トランスウォランス』解放」
最後にカリストがその様に呟く。
すると冬の日中の澄んだ青空が、途端に暗雲渦巻く黒で染まった。
染まり、次の瞬間に雷鳴が空を切裂き、その亀裂から焼けた鉄の塊が堕ちて来る。
カリストの行使したのは『流星召喚』という魔術式。
魔術式とは、『緒元魔法』をより大規模に行使する為に作られた儀式だ。
当然、膨大な魔力が必要となるため、『理力の塔』無くては、到底行使できるはずも無い。
『流星』自体は然程大きな物ではない。
たとえるならばそれは『岩』ではなく、『石』でしかない。
だが、天空より飛来したその『石』は、『ロシアード市』の門に堕ちるや否や強大な破壊力を発揮した。
カリストのいる丘に面した外壁と門はこの一撃で吹き飛び、至近にあった木製の物見櫓や、門に近かった建物はたちまち炎上。
無事であった近隣の建物もまた、爆風と飛び散った破片によって穴だらけになった。
もちろん門付近にいた衛兵たちが無事であろうはずも無く、街の一部を削り取ったクレーターだけが残った。
「ひえ、小出力で試したつもりだったのにこれかぁ。大出力だったら街自体が消し飛んでいたな」
自らのしでかした結果を唖然と眺め、だがしかし、と独り言を続ける。
「まぁ、この様子じゃこれ以上の力出したら、僕、死んじゃうかもね」
そう呟くカリストは誰もいない丘の上で大の字に伸びた。
強大な力を放出した反動で身体中が痛くて、また力が一切入らないのだ。
「風引く前に誰か帰って来るといいなぁ」
その要望が叶えられる可能性は薄いと思われた。




