表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#09_ぼくらの従軍生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

145/208

11鋭い矢

第9章のここまでのあらすじ

タキシン王国の内戦において、アルト隊は『王太子派軍』の一員としてとしての参戦することとなった。

『王太子派軍』は王太子下のタキシン王国軍とレギ帝国からの派遣軍の混成軍だ。

病に臥せっているタキシン王の為の薬を研究することになったハリエットたちを首都タキシン市へ残し、アルトたちを含む『王太子派軍』は、『王弟派軍』と『エルデ平原』にて会戦に臨む。

ところが会戦では思わぬ奇襲を受け、『王太子軍』は大きく被害を出し、対する『王弟派軍』は、一撃を加えた後、無傷で戦場を離脱した。

会戦場から退いた『王弟派軍』は、続いて北東方面にある『ロイデ山』山頂に陣を張る。

『ロイデ山』は山頂に広い平地を持つ台形の低山で、『タキシン市』から『ロシアード市』へ至る、街道の要衝だ。

対する『王太子派軍』はアルト隊の『空飛ぶ庭箒』を用いて、山頂への爆撃を行う。

集積された兵糧への爆撃は成功し、『王弟派軍』はすっかり混乱に陥った。

この隙に、と『王太子派軍』は三方から『ロイデ山』へと攻め上がる。

だが、混乱に陥ったはずの『王弟派軍』は毅然と反撃に出た。

山頂で見せた混乱は演技であり罠だったのだ。

かくして、各個撃破の憂き目にあった『王太子派軍』は、総司令ハーラス団長を失った。


今回は急な出張などあり時間が取れず短いです。よろしくお願いします。

『ロイデ山』は山頂に広い平地を持つ台形の低山で、『タキシン市』から『ロシアード市』へ至る、街道の要衝だ。

対する『王太子派軍』はアルト隊の『空飛ぶ庭箒』を用いて、山頂への爆撃を行う。

集積された兵糧への爆撃は成功し、『王弟派軍』はすっかり混乱に陥った。

この隙に、と『王太子派軍』は三方から『ロイデ山』へと攻め上がる。

だが、混乱に陥ったはずの『王弟派軍』は毅然と反撃に出た。

山頂で見せた混乱は演技であり罠だったのだ。

かくして、各個撃破の憂き目にあった『王太子派軍』は、総司令ハーラス団長を失った。


今回は急な出張などあり時間が取れず短いです。よろしくお願いします。




 タキシン王国首都の王城、謁見の間では、仮に王座へ着くアムロド王太子がその巨体いっぱいで落胆を表すようにため息をついた。

「惨敗、と言うことだな」

「一言ならそうでしょうな」

 『ロイデ山地』にて『王太子派軍』総司令ハーラス団長が戦死した為、次席指揮官として撤退して来た帝国派遣軍司令であるジャム大佐からの報告を受けての落胆である。

 兵数で勝る会戦では勝利を信じて疑わなかった者も多く、謁見の間は途端に良くない雰囲気に包まれた。

 敗北による悔しさ、怒り、焦燥、そして近しい者を亡くした悲しみだ。

 と言うのも、『ロイデ山』で『王弟派軍』と激突しなかった帝国軍にはこれと言った犠牲は無かったが、正規の『王太子派軍』は何と半数近くが戦死した。

 具体的に数字を挙げるなら、42名いた『王太子派軍』中の18名が命を落とした。

 この18名の多くは先頭にて突撃を予定していた騎士たちであり、つまりはそこそこの地位にいた者たち、と言うことになる。

 その際たる者と言えば、騎士団長ハーラス氏だ。

 若く経験も浅いが剣士としての実力は相応にあり、また繰り上がりとは言え騎士団長になると言うことは、出身もそれなりの貴族家なのだ。

 この場に既知の者も少なくは無い。

「ふむ。帝国からの援軍の方が元々多いとは言え、一応『王太子派軍』の中核をなすべきだった騎士たちがかなりいなくなってしまった。殿下、いかがしますか?」

 と、皆が絶句してシンとした謁見の間に、感情の篭らないそんな言葉が響いた。

 特別大きな声と言うわけではなかったが、とにかく静かだったせいもあり、ことさら大きく聞こえたのだ。

 言葉を発した主とは、薄金色の髪を持ち白磁の様な肌の少年魔導師カインだ。

 アムロド殿下の甥に当たる彼は、ここのところずっとアムロド殿下の参謀役をさせられている為、かの王太子の脇に控えていた。

 つまりはタキシン王国サイドの閣僚の一人ということになる。

 その関係者たる彼がこの悲痛な雰囲気の中で、この様に気にも留めない素振りで言う物だから、タキシン王国閣僚各位は少しばかりカチンと来た。

 とは言え、王太子の参謀たる彼に苦言を呈そうという者もいないので、とにかく刺々しい視線だけがカインに集まった。

 いかがしますか、などと問われたアムロド殿下は、カインがその様な性格であることは重々承知している。

 だが、さすがに閣僚たちとの軋轢が深まるのを良しとはしないので、渋い表情で重々しく頷いた。

「どうすべきか、か」

 実のところアムロド殿下としては、帝国との電撃的な同盟締結がすでに最後の一手のつもりだった。

 戦争において数は単純に力だ。

 その数を揃え、勝つべくしてなお負けた。

 こうなるとアムロド殿下としてもすぐに次の一手、と切り替えることは難しい。

 しかも支配者層としては、希望を与える一手を提示し続けなければならないのだ。

「まずは現状のすりあわせが必要でしょう」

 そんなアムロド殿下の心情を汲み取ってか、カインは一呼吸置いてから彼の返事を待たずにそう声を上げた。

 カインへの感情からいくらかザワついた謁見の間が再びシンと静まり返る。

 さすがにそろそろ今後について考えねばならないと閣僚たちも冷静になったのだ。

「えー、では私から。わがタキシン王国の経済はこの戦争のせいですでに破綻しております。ただ、帝国からの援助により、我が『王太子派』の支配域においてはまだ健全な生活を送れております」

 と、なかなか口火を切らない閣僚を横目に、最初にそう言ったのは経済相を務める小太りの文官風の男だった。

「援助と言っても借金であろう」

 経済相の言葉に憎まれ口を挟んだのは、文化相を務める学者風の老人だ。

 こうして、閣僚は次々と発言を始めたものだったが、どれも明るい材料はどこにも見当たらない。

 結果、謁見の広間はさらに暗鬱な雰囲気に更新されて行った。

「数の優位はもう期待出来ない。敗北のせいで士気も低い。継戦体力もすでにこの国には無い。そろそろ決着を付けなくては、もう滅びるしかないわけだが、さて、果たして我らは勝てますか?」

 総括して、自嘲じみた笑みを浮かべながら、白磁のカインが呟くと、またもや閣僚たちはカチンと来て彼を睨んだ。

「偉そうに言うからには、参謀殿には何か策がおありなのでしょうな?」

 皮肉を込めた慇懃さで、またもや文化相の老人がそう煽る。戦争素人の彼から見ても、すでに勝利を望める状態とは思えなかった。

 ゆえに、歳若き魔導師殿が口をつぐむのを期待した発言だった。

 ところがカインは彼の思惑を超えてニヤリと笑みを漏らした。

「ある。と言っていいほど立派な策ではないがな。むしろ少し頭を使えば、こんな策は誰でも思いつくだろう」

 カインらしい言い回しに皆一様に苛立ちを覚えたようで、謁見の間は途端に怒気に満たされた。

 彼の言葉を額面どおりに受け止めるなら「こんな事も思いつかない無能共」と言われたも同然だ。

「もったいぶらずに言え」

 そんな険悪な様子に、アムロド殿下はため息混じりに苦言を呈する。

 カインも「はっ」と短く応えて閣僚を見渡しつつ口を開いた。

「敵の攻撃を盾で受け止めつつ、鋭い矢でもって頭を打ち抜く」

 言った、と思えばその様な曖昧な言い振りに、察した者もいれば、ただ疑問符を掲げる者もいた。

 謁見の間はまた少しばかりザワついた。

「して、その『鋭い矢』はどこにある?」

 察した者の筆頭であったのが、カインの言葉に続けて問いを発したアムロド殿下だ。

 カインは答える。

「アルト隊を使いましょう」

「我が騎士団の救援もせず、無傷で逃げ帰った冒険者風情をか?」

 これにいち早く憎まれ口を挟むのは、やはり文化相の老人だ。

 文化相とは国内の暦や文物を管理する部署なのだが、それだけにトップも官僚たちも学者肌で気位が高い。

 『王太子派』に残ったと言うことは、気高いだけの無能ではないと言うことでもあるのだが、それでも言わずに居られないのが学者肌というものだ。

 また戦争において、直接何かを司ることがないからこそ保てる気高さでもある。

 そんな発言だったので、カインは一笑に付した。

「その冒険者風情だからこそですよ。閣下?」

 慇懃な言い回しで返されて文化相の老人は言葉を詰まらせた。

 カインは勝ち誇った顔で続ける。

「敵本拠地に乗り込み首魁を打つ。つまり暗殺任務だ。こういう戦いに最も向くのは騎士でも兵士でもない。小人数で臨機応変に動くことに慣れた冒険者こそ、この作戦における『鋭い矢』にふさわしい」

「然り、だな。しかし街道は『王弟派軍』に抑えられているぞ? いかに臨機応変な冒険者とて、無策では進めまい」

 この謁見の間にいる者の中、特にタキシン王国側の閣僚中で冒険者と言うものを良く知るのは白磁の魔導師カインを除けば、若い頃、冒険者に混じって市井で過ごしたアムロド殿下だ。

 その王太子アムロドはカインの発言に頷きつつ、問題点を指摘する。

 他の各人は話の流れを固唾を呑んで注視した。

「それについては、こんな事もあろうかと予め帝国の方にお願いした件がございます」

 カインはわざとらしくも恭しく頭を下げ、報告後に壁際まで下がっていた帝国派遣軍の方へ手をむける。

 司令であるジャム大佐などは心当たり無く困惑したが、中でも「お役目は無い」とばかりに後ろへ控えていた軍人らしからぬ紳士が応えて胸に手を当てた。

 帝国派遣軍後方支援担当の長、メイプル男爵である。

「あの件ですね。とうに手配は済んでおります。もう数日もすれば到着するでしょう」

 彼の言葉を聞き、カインは満足そうに頷いた。


 そしてそのまま謁見の間では作戦に関する会議が進められ、同席していなかったアルト隊にはその後に知らされることになる。

 聞き、少年サムライ・アルトは俄かに頭を抱えてうずくまった。

「何でこうなるかなぁ」

「これも『探偵効果』にゃ。諦めるにゃ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ