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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#08_僕らの潜入生活

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132/208

19偽法王の最期

前回までのあらすじ

謎のリルガ王国の情報と引き換えに、とある任務を命ぜられたアルト隊はニューガルズ公国へ潜入し、色々あって任務完了した。

その上で、ニューガルズ国王から「戦功あげたら報奨あげる」との言葉に吊られ、彼の戦列へと加わる。

そしてついに、アルト隊はこの戦の最終目標の一つである、『ラ・ガイン教会』の法王キャンベルとの戦いを開始。

正に一進一退の末に追い詰めかけたアルト隊だったが、邪神官キャンベルは奥の手『フォストレイバー』を使い、戦いもいよいよ大詰めとなった。

 邪神官キャンベルの命を受け、若サムライ・アルトはゆっくりと仲間達に振り向き『無銘の打刀』を構える。

「アっくん、何のつもりにゃ!」

「オ、オレだって解かんねーよ」

 アルトの不穏な行動に、ねこ耳をピンと立てたマーベルがすかさず抗議をあげる。

 だが当のアルトも、その表情は行動と裏腹に困惑仕切りであった。

「お2人とも、これは暗黒魔法『フォストレイバー』。身体の自由を奪い、命令通りに動かす事ができる呪い系の魔法です」

 と、そこへ解説を入れるのは、マーベルのベルトポーチから顔を覗かせる、薄茶色の宝珠(オーブ)だ。

 『メリクルリングRPG』における『呪い系』とは、何かを強制・禁止する事の出来る魔法の事である。

 アルトはこのうち『強制労働(フォストレイバー)』をかけられたが故に、身体の自由をキャンベルの支配下に置かれたわけだ。

「その通りだ。呪いであるから、さっきの様な姑息な方法では解けぬぞ。カッカッカ」

 元GMの言葉尻を継いで、偽法王キャンベルは高笑いをあげた。

 つまり、この系統の魔法は『精神作用系』ではないため、先にレッドグースがしたような上書きによる解除、と言う脱法技が通用しないと言うことだ。

 これで忍者少女ヒビキと合せ、キャンベル側に前衛が2枚となった。

 遊撃の任を負うヒビキと、壁役のアルト。『コッズギア』の効果が切れたキャンベルは後衛に徹する事ができる。

 余裕からの笑いが出るのも無理はない。

 対するアルト隊は、白い法衣のモルト、黒魔導士カリスト、ねこ耳童女マーベルと、見事に後衛ばかりだ。

 いや、辛うじてモルトが前衛と言えなくもないが、現レベル帯の戦いになると、いかにも心許ない。

 そしてその心許ない一枚壁へと、『強制労働(フォストレイバー)』状態のアルトが斬りかかった。

「スイマセン!」

 行動とは矛盾するように、いかにも申し訳なさそうな謝罪を吐きながらの斬撃は、モルトの肩口からバッサリと行った。

「この『スイマセン』は『斬り捨てゴメン』みたいなものですかね?」

「アホなこと言ってる場合と違うで。ホンマ痛いんやから」

 緩んだ会話とは裏腹に、この攻撃はモルトのHP(ヒットポイント)の、約半分を削っていた。

 さすがに弱音王ことアルトだが、実際に敵とすると恐ろしい実力者だ。


 そうした、未だ先の見えぬ緊迫した状況の中、戦闘は第8ラウンドへと移行する。

 開幕で敏捷度トップのマーベルが『レヴンヒール』でモルトの傷を癒し、遊撃忍者ヒビキはまた影の中へと姿を消した。

「僕の番か」

 だが、今まで魔法を連発してきたカリストは、ここでさすがに躊躇した。

 すでに彼のMP(マナポイント)は、小さな魔法を1度使う程度しか残っていなかったのだ。

「仕方が無い。『防御専念』だな」

 本来であればMP(マナポイント)が無くなった時点で後ろに下がりたいところであったが、眼前にいるのは敵となったアルトだ。

 ただ、キャンベルは具体的に「誰を殺れ」とは言わなかったので、モルトに並んでおけば的の分散になる。

 そう言う思惑から、彼は前衛になってしまった戦闘列に踏みとどまる事にした。完全なる後衛職ではあるが、彼には彼なりに、生き残る算段もあったのだ。

 かくして時間は巡り、今、アルト隊が期待をかける、『聖職者(クレリック)』モルトが行動を始める。

「ほな、もったいぶらずとっとと行くで。『イレーズ』」

「承認します」




 『イレーズ』は『禁止の呪い(カース)』や『探索の命令(クエスト)』、『強制労働(フォストレイバー)』と言った呪いを解除する為の魔法だ。

 『神聖魔法』5レベルと、意外と早い段階で使える魔法だが、その成否はあくまで、呪いとの達成値合戦の結果となる。

 呪いをかけた者のロール値を、『イレーズ』を使う者のロール値が上回らなければ成功とはならないのだ。

 つまり、高レベル者がかけた呪いほど、簡単には解けない。と言うことである。




 モルトの右手が高く上がり、その手の平から神聖なる光が降り注ぐ。

 もちろん、その先にいるのは呪いをかけられたアルトだ。

「ぐ、ぐあ…」

 聖なる光がアルトの全身を照らし、彼の身体へと染みこんだ黒い霧と競り始める。そのせめぎ合いはアルトへと激痛を与える。

 が、次の瞬間、その聖なる光は霧散した。

「ダメだったにゃ?」

「あかん、失敗や」

 不安げに問いかけるマーベルに答えて、モルトは気まずそうに項垂れる。

「気にしにゃい気にしにゃい。次のラウンドにもう一回チャレンジにゃ!」

 姐貴分を慰めるマーベルだったが、その言葉を否定する者がすぐに現われた。

 それは彼女のベルトポーチから覗く薄茶色の宝珠(オーブ)だ。

「ダメなんですよ、マーベルさん。『イレーズ』が失敗した場合、同じ呪いに再度チャレンジできるのは、基準値が変わった時だけです」

「きじゅん…ち……?」

 当然、この専門用語込みの解説は、当のねこ耳童女には理解されなかった。

「基準値とは、サイコロの値に足すボーナス値のことだよ。魔法の場合、簡単に言えば、知力や魔法レベルのことだね」

 そこへフォローを入れるのは、黒魔導士カリストだ。彼もGMほどでないにしろ、ルールにはそれなりに精通していた。

「ほんにゃ、モル姐さんレベルが上がんなきゃ、アっくんはあのままにゃ?」

「そうなるね」

「ほんにゃ、殺られる前に殺るにゃ?」

「そうなる…いや、待てよ?」

 マーベルがちょっと物騒な事を言い出したところで、カリストは一つ、方策を思いついた。

 だが、このラウンドで試すには、すでに彼の行動順は終わっているのだった。

 その後は余裕の笑みを浮かべたキャンベルが自分の傷を魔法で癒し、アルトは再びモルトを斬りつけ、せっかく回復したHP(ヒットポイント)だったが、またもや約半分を持っていかれた。

 これで、第8ラウンドが終了するかに思えた。

 ところが、ここへ来てモルトの隣にスッと酒樽が姿を現した。

 否、それは酒樽などではない、『ハイディング(潜伏)』で姿を消していたレッドグースである。

「ここでモルト殿に倒れられてはマズいですからな。せめて的の分散にお役立ちいたしましょう。まだ終わりではないのでしょう? カリスト殿」

 カリストの思惑に何らかの理解を得たようで、レッドグースはニッと微かな笑いと共に肩を並べる。

 これでアルトに対する前衛は、形ばかり3枚となった。

「偉いぞオッサン。次のラウンドは遠慮なく行くぜ」

「いや、ちょっとは遠慮していいのですぞ」


 そして、第9ラウンドが始まる。

 このラウンドもまた、マーベルはモルトへ『レヴンヒール』を使いHP(ヒットポイント)を回復させる。

 もはや斬られて回復してのシーソーゲームだが、だからと言って降りるわけには行かない勝負である。

 そして影に潜伏したままの忍者ヒビキの順番を経て、何かの策を秘めたカリストの行動となった。

「ではモルト君に、『フィズフォージ』『知力(インテリジェンス)』だ」

「承認します」

 その言葉がこの世界の承認を受け、カリストの魔法の指輪と、モルトの全身が淡く緑の光を湛える。

「おお、なるほど。その手がありましたな」

「どういうことにゃ?」

 感嘆の声と疑問の声、それらが挙がる隙に、続くモルトが素早く行動に移った。

「ええでカリストの(あん)ちゃん。『イレーズ』!」

「承認します」

 そう、再びモルトの掲げた手から、アルトへと聖なる光が降り注いだ。

「つまりですね、簡単に言えば身体強化魔法で知力を上げ、それにより『基準値』を上昇させた。そのお陰で同じ呪いに再チャレンジできる。という訳です」

「なるほど、わからんにゃ」

 すぐ元GMからの説明があったが、理解することを諦めたマーベルであった。

「これで僕のMP(マナポイント)は本当にもう無いからね。頼むよ!」

 カリストの祈りの声が上がる。

 その「頼むよ」は果たして、モルトへ向けたものであったか、それとも物言わぬ幸運の女神へ向けたものであったか。

 ただ、そのアルト隊一同の心情を代弁した言葉は、結果、何処にも届かず、聖なる光は一度目同様、霧散するに終わった。

「あかん」

 さすが高レベル邪神官の呪いというべきか、それとも運が悪いと言うべきか。

 モルトの口からは、もうそれだけが漏れるのみであった。

「カッカッカ、これで勝ったな! さて、アルトだったか? 貴様の仲間達に引導を渡してやれ」

 対して、邪神官キャンベルは獰猛に哄笑を上げた。

 言いつつ、キャンベルはまたもや『キュアライズ』で傷を癒し、そしてアルトは苦い表情を浮かべつつ、酒樽紳士レッドグースへと『無銘の打刀』を振り下ろした。

「無念。先に逝っておりますぞ」

 生命力が強い『大地の妖精族(ドワーフ)』とは言え、前衛職でないレッドグースのHP(ヒットポイント)は、この一撃でその全てを失い、そしてドウと重そうな音をたてて倒れた。

 ただ、いかにもな台詞を残した割りに、彼の生死ロールは成功し、ただ昏倒しただけで済んだ。

 さすがに生命力が高い『大地の妖精族(ドワーフ)』だった。

「おやっさんの生存は朗報だけど、これは真面目に詰んだかな」

 横目に倒れ行く仲間を視界に入れつつ、カリストは身構えつつ冷や汗を垂らす。

 事実、彼のMP(マナポイント)はすでに魔法が使えるほど残っていないし、マーベルやモルトのMP(マナポイント)だっていつ尽きるか判らない。

 このままではニンジャとサムライに斬り殺される未来が待っている。つまり、キャンベルの言う通り、彼らは死と言う名の敗北を喫する事になる。

 カリストは必死に脳を回転させ、この状況を打破する術を模索した。

 そんな時、彼の足をテシテシと叩く何者かが忍び寄った。

 それは『人形姉妹(ドールシスターズ)』が四女、『機械仕掛け(マーキナー)』のティラミスを背に乗せた、彼の使い魔、黒猫のヤマトであった。

 無言で視線を落とすカリストに、ティラミスは頷いて小さな何かを差し出す。

 それはサイコロほどの大きさの、緑色の宝石だった。

「それは?」

「黒の兄貴殿、これは魔法結晶体であります。ティラミスが持つ、最後の1個であります」

「でもそれは…」

 魔法結晶体は大魔法文明時代に魔法帝国の魔道士、マルティン卿によって発見された魔法鉱物だ。

 この魔法結晶体を2個以上用意して高速でぶつけ合うと、信じられないほどの高エネルギーを発生させると言う話を以前に聞いていた。

 事実、ティラミスとアルトたちが出会った、『浮遊転移基地(ラズワルド)』の動力源がこれであった。

「確かにティラミスはそう言う使い方を主にしていたであります。でも、これの本来の姿は名前の通りなのでありますよ」

 言われ、カリストはハッとした。

 ただ高エネルギーを発するだけの鉱物であれば、『魔法結晶体』などとは名付けられないだろう。

「という事は、これは」

「マナの結晶体であります。最も、MP(マナポイント)換算すれば微々たる物でありますがなー」

「何、数ポイントあれば充分だ!」

 カリストの瞳に希望の光が戻った瞬間であった。


 そうしているうちに、第10ラウンドが始まっていた。

「がちょさんに『レヴンヒール』。これで終いにゃ」

「承認します」

「ふっふっふ、そろそろ逆転の時間ですかな?」

 HP(ヒットポイント)の回復と共に起き上がり、カリストの表情を読み取ったレッドグースは、言いながら再び戦列へと加わる。

 とりあえず戦闘能力が無い彼でも、策を持つ誰かの身代わりになるくらいは、出来る可能性があるのだ。

「ちぃ、させるか!」

 さて、そんな様子を読み取った者がいる。

 レッドグースの復帰に同時て、潜伏先の影から姿を現した、女忍者ヒビキである。

 ヒビキは腰鞘から小太刀を、懐からクナイを引き抜き、いかにも何かを企んでいる、黒の魔導士へと踊りかかった。

「『セイバーアクセル』!」

 霞むほどの速度を持って、左右から繰り出される8連撃がカリストを襲う。

 しかし、その刃は対して現われた光の障壁によって阻まれた。

「なっ」

 絶句するヒビキに、カリストはいかにも悪そうにニヤリと笑った。

「僕が第4ラウンドに『フィズシールド』を使っていたのを、忘れていたかい?」

 『フィズシールド』は1度だけの対物理絶対防御魔法だ。

 事前に1時間掛かる儀式で準備した上で戦闘に望み、魔法を発動させる事で1度だけ物理攻撃を防ぐ事ができる。

 カリストはいつ戦闘になってもこの魔法が使えるようにと、毎朝2時間かけて『フィズシールド』『マギシールド』の準備をしているのだ。

 唖然とするヒビキから僅かに身を離し、カリストはティラミスから受け取った小さな緑のかけらを手の平に差し出す。

「さぁ、『魔法結晶体』を開放だ」

 彼の言葉に反応する様に、緑のかけらは淡い光と共に弾け、そして手の平へと吸い込まれるように消える。

MP(マナポイント)2点の回復か。確かに微々たるものだ。だが、これだけあれば」

 元々カリストに残されたMP(マナポイント)1点、それに併せて計3点。これを全て消費して、彼は再び魔法を呼んだ。

「モルト君に、『フィズフォージ』『知力(インテリジェンス)』だ」

「承認します」

 その言葉がこの世界の承認を受け、カリストの魔法の指輪と、モルトの全身が淡く緑の光を湛える。

 実はこの魔法、「重ねがけ不可」とはルールブックに記載されていないのだ。

 記載が無ければ、それがこの世界のルールである。

 つまり、モルトの知力はこの瞬間、さらに高みへと登った事になる。

 ここで言う『知力』とは、単純に言えばキャラクターのパラメーターだが、より現実に即した説明を加えるとするなら「頭の回転の速さ」であり、それはつまり「演算速度」でもある。

「後は、頼んだよ」

 そう、やりきった表情でカリストはふらりと倒れた。

 これで完全にMP(マナポイント)がゼロとなり、気絶状態へと移行した。

「よっしゃーっ、ワンチャンやぁ!」

 そんな倒れ行くカリストを視界にもいれず、モルトは三度(みたび)、右手を掲げる。

「『イレーズ』」

「承認します」

「があぁぁ!」

 モルトによる聖なる光をその身に受け、アルトが一瞬苦しむ。だが今度の聖光は霧散せず、直後に黒い霧をアルトの身体から追い出した。

 ついにキャンベルの呪いを打ち払ったのだ。

「よくもやってくれたな。覚悟は良いか?」

「ひっ」

 苦痛に疲労したアルトがゆらりと、だが眼光鋭く振り返る。

 そのひと睨みに、邪神官キャンベルは思わず小さな悲鳴を漏らした。だが、ここで怯んでばかりでは、もう彼に残された道は敗北のみだ。

「おのれ往生際の悪い『オーラブリッド』!」

 苦し紛れに突き出したキャンベルの手の平から、小さな破裂音と共に光弾がアルトへ向けて放たれた。

 『神聖魔法』中の数少ない攻撃魔法だ。

「こんなもん、効くかよ!」

 だが、アルトが怒声を挙げて振った『無銘の打刀』が光弾を斬り飛ばし、爆発する。

 もちろん魔法は物理攻撃と違い、必ず当たる。出来るのは魔法に対する抵抗であり、攻撃魔法が相手なれば、ダメージの軽減のみだ。

 つまりこのアルトの気迫による一刀では魔法を無効化できるわけではない。

 それでも、結果としてなのかは不明だが、アルトの負ったダメージは、ほんの僅かのみであった。

 まぁ、そもそも『オーラブリッド』の攻撃力はかなり低く、まともに喰らったとしてもアルトのレベルなら大したダメージではない。

 ともかく、そうして気迫と共に迫ったアルトは、八相の構えから勢い良く袈裟懸けに『無銘の打刀』を振り下ろした。

「秘剣『ツバメ返し』だ」

「承認します」

 斜め一文字に斬裂が走り、目にも留まらぬスピードで切り返された『無銘の打刀』が再びキャンベルを斬りつける。

 この斬撃で、すでに回復しきっていたキャンベルのHP(ヒットポイント)は、その8割を失った。

「さて、トドメを差すのはどなたですかな? 『マーシャルソング』」

「承認します」

 そんな掛け声と共に、レッドグースの両手が『手風琴(アコーディオン)』を奏ではじめる。

 喉から出る野太くも良く通る声により歌い上げるのは、心を鼓舞する戦いの賛歌。

 この歌を聴く戦士系全ての攻撃力に恩恵を与える、『吟遊詩人(バード)』の特殊魔法『呪歌』だ。


 雄々しき歌に乗って続く11ラウンド目に、すでにMP(マナポイント)尽きかけのねこ耳童女マーベルは、腰の筒から『小弓(ショートボウ)』を取り出し放つ。

 だが命中すれどキャンベルは沈まず。

 またモルトが『鎧刺し(エストック)』を繰り出すが、やはり決まらず。

 あと一撃、という所で詰め切れない運の悪さである。いや、キャンベルの悪運と言うべきか。

「キャンベル様!」

 少女忍者ヒビキは悲痛な叫びを上げつつも駆け寄ろうとするが、すでに彼女も混戦の真っ只中だ。

 易々と通れる道理が無い。

 結局はアルトの背に斬りつけ、僅かなダメージを与えるに終わる。

 こうしているうちに、手番は巡ってキャンベルへと渡った。

「ひぁひぁひぁ、神がまだ俺を見捨ててはいないのだ。『キュアライズ』」

 息も絶え絶え、と言う様子ながら、回復魔法を使われては元の木阿弥である。

 それでもほぼ死にかけまで追い込んだキャンベルのHP(ヒットポイント)は、回復魔法を使ってなお、6割弱と言ったところであった。

 どっちもどっちも、これはすでに満身創痍と言えた。

 だが、ここでまだ奥の手を持つ少年が、ゆっくりと八相からさらに身を縮めるように構えた。

「取るだけ取ったけど、こいつは出来れば使いたくなかったんだが、ここに至れば是非もねぇ」

 ブツブツと、誰に聞かせるでもなく言いながら、若サムライ・アルトは力強く足を踏み出す。

「オレの名前が引導代わりだ。ええと。ええい何でもいい、とにかくくたばれ」

 アルトが叫び、身を屈ませ駆け出す。

「初公開の新スキルだ。一閃必倒『蜻蛉斬り』!」

 『無銘の打刀』がクルリと閃き、さしもの悪神官キャンベルを一刀両断し、そしてこの一撃がついに戦いの幕を閉じた。

次回で8章は終了です。

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