18応酬戦
前回までのあらすじ
謎のリルガ王国の情報と引き換えに、とある任務を命ぜられたアルト隊はニューガルズ公国へ潜入し、色々あって任務完了した。
その上で、ニューガルズ国王から「戦功あげたら報奨あげる」との言葉に吊られ、彼の戦列へと加わる。
そしてついに、アルト隊はこの戦の最終目標の一つである、『ラ・ガイン教会』の法王キャンベルとの戦いを開始。
実は『強欲の女神』という邪神の信徒であったキャンベルは、暗黒魔法『デモンスクリーム』によってレッドグース以外を『混乱』状態に叩き落し、さらにレッドグースにけしかけた。
囲み、ボコられたレッドグースは、瀕死の重傷を負いつつも現状打破の方策を思いついたのだが。
酒樽紳士こと『大地の精霊族』レッドグースの指先が、流麗に愛器『手風琴』の鍵盤を滑るように奏でる。
紡ぎ出されるのは荘厳ながらに美しい旋律だ。
混乱状態の仲間たちからしこたま殴られ、あちこちに腫れや出血という痛々しい姿ながら、かの『音楽家』の背筋はピンと伸び、ここ奥礼拝堂は、血なまぐさい戦闘中だというのに、役目を思い出したかの様に清浄な雰囲気に包まれた。
「呪歌『キャプティブラウダ』ですね。なるほど」
メロディーにあわせ朗々と歌い上げる中、元GMたる薄茶色の宝珠がレッドグースの行動を称える様に呟いた。
『キャプティブラウダ』は『魅了』の精神作用効果を持つ呪歌である。
その旋律を聴き抵抗ロールに失敗した者はたちまち演奏者に魅了され、攻撃的な意思を持てなくなる。
演奏者が魅了された者に命令する事もできるが、その場合はもう一度抵抗ロールの機会が与えられ、これに成功すると『魅了』状態が解除される。
また特徴的なのは、命令をする場合、歌にその命令ごとを織り込み伝えなければならないという制約があり、卓の雰囲気によっては、プレイヤーにその場で即興を歌わせる事もあるという、使用者側の精神も破壊する可能性を秘めた恐ろしい呪歌である。
「ふん、『吟遊詩人』の苦し紛れか。だが『コッズギア』を纏いし俺に、そのような呪歌が効くものか」
御敵大将である偽法王キャンベルが哄笑をあげながら吼える。
神の装備『コッズギア』は、その名に違わず高い防御力を誇るのだが、その防御対象は物理攻撃だけではなく、生命および精神抵抗力にもボーナスがつくスグレモノなのだ。
だが彼の笑みに、レッドグースは髭面を歪めた笑みを返す。
そう、この酒樽紳士の狙いはキャンベルではなかった。
かの賛美歌が奥礼拝堂に染み渡ると、これまで混乱ながらにレッドグースへ敵意を向けていたアルト隊の面々が、途端にトロンとした表情で聴き入り始めたのだ。
「レッドグースさんの狙いは始めからこちらです。精神作用の魔法は重複効果がありません。すなわち、後発魔法による上書きです」
つまり、キャンベルの使った魔法『デモンスクリーム』の『混乱』状態を、『キャプティブラウダ』を使う事で打ち消し、『魅了』効果を上書きしたわけだ。
「効果を打ち消せればそれで御の字ですな」
そして、そこで彼はすぐさま演奏を止める。レッドグースにとってはアルト隊をわざわざ操るメリットなどないのであり、とにかく精神効果を打ち消せれば良いのだった。
こうしてひとまずの魔法戦がひと段落したところで第4ラウンドが開始した。
「よくもやってくれたにゃ。お返しにゃ!」
いきり立ったねこ耳童女マーベルが、頭から湯気を出さんばかりに地団太を踏みながら頭上で滞空したままの『勇気の精霊』に手の平を掲げて向ける。
「『ブレイブニードル』にゃ」
「承認します」
『勇気の精霊』は、仮初の主人であるマーベルの言を聞き、そして薄茶色の宝珠を通して世界に力を顕現させる。
瞬間、コブシ大ほどもある蜜蜂が螺旋旋回を始め、すぐさま一本の『騎兵の尖槍』になる。
「悪魔神官を貫くにゃ!」
そして投擲するかの様にマーベルの手が振り下ろされると、『騎兵の尖槍』は倣って一筋の光線と化す。
「ふん」
だがさすがは神々の武具『コッズギア』である。
かの『騎兵の尖槍』はキャンベルの胸を貫く前に霧散した。
薄茶色の宝珠の脳裏へと、次々にメッセージが流れる。
それはこの世界のシステム閲覧端末たる彼へ降りて来る、戦闘情報の数々だ。
「抵抗されました。通ったのはかすり傷程度です」
そのうち、他へ伝える事を許された部分はあまりにも少ない。が、それでも無いよりはマシな情報である。
「ちっ」
マーベルは状況を理解して小さくやさぐれた。
だが、続けて愚痴を呟くより早く、何者かが彼女の視線の前にヌッと現われた。
そもそも最後衛である彼女の眼前には白い法衣のモルトと、黒い『外套』のカリストが立っている。
その白黒コントラストが、その瞬間、黒一色に染まった。
いや、よく見れば黒ではない、それは紺一色の衣を前進に纏った小柄な人物だ。
いかにも忍者然とした格好の少女が、足元からヌッと生える様に現われたのだ。
「モル姐さん、まずいにゃ!」
咄嗟に声をあげるが、モルトが反射するより早く、『忍法・影潜り』からその身を開放したヒビキからの凶刃が背を襲う。
「『セイバーアクセル』」
続けて開放された女忍者のスキルが、彼女の左右の腕を霞ませる。
右手の小太刀、左手のクナイから、計8回の斬突だ。しかも『背後からの攻撃』により『命中率』と『ダメージ』に追加ボーナスが与えられた状態である。
一応戦士職として『警護官』を持ち、HPが高いモルトでも、この攻撃はたまらなかった。
しかも、内、1回がクリティカルヒットだ。
「あか…」
結果、「ん」まで言えずにモルトは倒れた。
この一瞬の出来事に気付いていなかった最前衛のアルトも、さすがにこの途切れた言葉に異常を感じて血の気が引いた。
「GM! モルトさんの状態は?」
しかしうかつに振り返ることも出来ず、若サムライは『無銘の打刀』を正眼に構えたままに声をあげる。
呼ばれた元GMである薄茶色の宝珠は、しばし慎重に流れるメッセージログを確認し、そして安堵に息を漏らした。
「HPはゼロを割りました。ですが生死判定ロールは辛うじて成功。『気絶』状態です」
それを聞いてアルトのみならず隊の面々は倣って息を漏らした。
だが、すぐそこにモルトを倒したばかりの忍者が未だに残っている。安心してもいられない。
このままここで暴れられれば、戦闘系でないカリスト、マーベル、レッドグースは瞬く間に床を舐める事態になるだろう。
「く、各自緊急避難。僕は…『フィズシールド』」
「承認します」
GMの承認と共に、カリストの身を覆う光の盾が現われる。
いち早く反応できたのはモルトに続く敏捷度の『魔術師』カリストであり、彼はともかく自分の身を守る為に使ったのは、一度だけ攻撃を無効化する絶対物理防御魔法だった。
「よくやったヒビキ、回復役さえ消してしまえば、後は時間の問題だ」
そんなアルト隊後衛側の惨事を遠巻きに見止め、邪神のオーラを纏ったキャンベルが嘲笑を浮かべる。
そしてこれまた『コッズギア』により手にした漆黒なる『聖槌』をアルトの頭上へと振り下ろした。
「ちぃ!」
ゴッという鈍い音と共にアルトの肩口へとめり込んだ漆黒なる『聖槌』の一撃は、舌打ちこそしたが大したダメージではなかった。
だが、にわかに浮かんだ怒りと共に反撃に出ようとしたアルトの身が、幾ばくかの重みで精彩を欠く。
まるで空気が水と入れ代わったかの様な抵抗感だ。
「なんだかわからねーけど、GM、『木の葉打ち』だ」
「承認します」
それでも高レベル『傭兵』の攻撃の意思は簡単に止まるものではない。
中段から跳ね上がった『無銘の打刀』が、青い稲妻と共に振り下ろされ、キャンベルの纏う漆黒の鎧を叩いた。
自分では会心と行かないまでも、充分な手応えを得るはずの振りだった。
なのに、実際に浴びせたのは、かくもひ弱な、剣撃とも言えぬ打撃だった。もちろん、『木の葉打ち』による『麻痺効果』付与も失敗したようだ。
「なっ」
今のところ、ボス級の敵に『木の葉打ち』が効いた例が少ないので、それは特にショックではなかった。
だが自分の「良い感触の振り」がいまいち振るわなかった、と言う現実は少なからず彼に動揺を与えた。
「アルトさん、『コッズギア』からの攻撃に『能力低下』の付与効果があるようです。おそらく『強欲の女神』の特有効果でしょう」
直後に知らされたGMからの言葉で、アルトは「なるほど」と納得しながらも、冷たい汗を流さずにいられなかった。
その後は、緊急避難的にレッドグースが『ハイディング』スキルによって姿を消してこのラウンドを終了した。
モルトが『気絶』。
アルトが少々傷を負い、かつ『能力低下』。
レッドグースはHPをほぼ失った状態で『ハイディング』。
対して小傷を負ったのみのキャンベル。無傷のヒビキ。
そんな状態で迎えた第5ラウンドは、マーベルの精霊開放から始まった。
すでに召喚されていた『勇気の精霊』は、ねこ耳『精霊使い』から帰還を許され、たちまち虚空に消える。
続いて彼女は一歩下がる。女忍者ヒビキから、少しばかりの距離を置く為だ。
そして右手を虚空へと伸ばして声をあげる。
「『生命の精霊』召喚にゃ」
「承認します」
ねこ耳童女が精霊界に干渉する事が承認され、たちまち彼女の小さい身体が薄緑の柔らかい光に包まれる。
その光は一層の瞬きを放ち、消え、そしてただ優しげな光球のみがそこに残った。
ただいま召喚された『生命の精霊』の、物質界における仮身である。
「ぬ、そうか。『ブレイブニードル』を使うほどの『精霊使い』であれば、『レヴンヒール』も使うか。ではヒビキよ、次の標的はその『草原の妖精族』とせよ」
アルト隊の面々より早くその意を察したのは、悪魔神官キャンベルであった。
彼はすぐさま自らの配下である女忍者へと声を伝える。
「は、仰せのままに!」
返答をあげると共に、紺衣の少女が下がったマーベルへと身を翻して襲い掛かった。
マーベルにとって不幸中の幸いだったのは、この攻撃が『セイバーアクセル』ではなかったことだ。
『セイバーアクセル』のRRは3。つまり3ラウンドに1回しか使えないスキルである。
そのため、このラウンドは通常攻撃だった。
とは言え、身体的に恵まれていない『草原の妖精族』であるマーベルのHPはたったの5点。
かすり傷が致命傷になるレベルの話であり、今回のヒビキからの斬突撃にしても、辛うじて生き残ったに過ぎなかった。
「危なかったにゃ」
息も絶え絶え瀕死のマーベルは、負った傷に手をやりつつも、そう呟いた。
「む、次こそは必ず仕留めよ」
相手がHPの少ない『草原の妖精族』とは言え、ヒビキも『小太刀』に『クナイ』という軽装備であり、スキル無しではダメージが少ないのは解かりきっていた。
だからこそキャンベルも、倒すに至らなかった現実に歯がみしつつも責めることは出来なかった。
「マズイな。こんな時、『魔術師』に出来る事が無さ過ぎる」
瀕死のマーベル、さらに次の攻撃を浴びせる為にと身構える女忍者ヒビキ。そのすぐ近くにいると言うのに、非前衛職であるカリストでは、状況打開のいい手が無かった。
「仕方が無い。ベターを狙う」
呟き、カリストは胸の前で拳を縦の構える。まるで騎士が己が剣を両手で捧げるかのごとき姿勢だ。
「『ロックハンマー』『魔法強化』MP3倍消費で達成値をあげる!」
「了承します」
『ロックハンマー』は『緒元魔法』4レベルにある魔法だ。
魔力の塊を一時的に物理化、鎚状にして敵をぶん殴る荒っぽい攻撃魔法だ。
ただ4レベルの割りに攻撃力はあまり高くないため、『ファイアボール』と共に4レベル帯を「不遇のレベル」と呼ばしめる原因となっている。
ただ、低い攻撃力の代わりといっては何だが、打撃時に追加として『ノックバック』がある。
1列分だけ敵を吹き飛ばすのがその効果だ。
魔法の発動が承認されると、カリストの魔法発動体である指輪が煌き、構えたコブシに巨大なハンマーが生まれる。
これこそ、魔力の塊の具現化した姿だ。
「バスターホームラン!」
特に意味のない言葉を挙げて、カリストが魔力のハンマーをフルスイング。
バッティングセンターで80キロ時までしか打てないカリストだが、それでも標的は停止しているし、後ろを向いている。
と言うか、物理攻撃に見えるが一応魔法である。攻撃魔法は何をしたって当たるのだ。
受ける側が出来るのは精神抵抗のみである。
「ぬっ!」
低く悲鳴を上げつつ背後からの強打を浴び、女忍者ヒビキは逆エビ状に背を曲げつつ吹っ飛ばされた。
これで、ヒビキは戦闘列で言う所の、マーベルと同線上ということになる。
すなわち、カリスト、モルトのいる中段とマーベルの後段が、再度隣接した。
そしてマーベルとカリストは、互いに親指を立てて頷いた。
さて、背後でそんな戦いを繰り広げられているところであるが、もちろん前でも激しいド突き合いが繰り広げられる。
つまりはアルトとキャンベルの戦いだ。
漆黒なる『聖槌』が、またもやアルトを襲う。
今度は渾身の力をこめて横なぎに振るわれ、アルトは脇腹から抉られるように打撃を受けた。
すでに受けた『能力低下』はダメージ減少能力までも少なからず奪っているようで、その一撃はさらに厳しくアルトを攻める。
マーベルの6倍以上と言うアルトのHPも、これで半分が失われた計算だ。
「くっそ、早くくたばっちまえよ」
痛みに耐えつつ罵り、退かれる『聖槌』を追う様に、アルトは握りなおした『無銘の打刀』を袈裟懸けに振り下ろした。
「『ツバメ返し』だ」
「承認します」
RRを明けた『ツバメ返し』が、再びキャンベルを襲う。
瀕死のマーベルを救いたい気持ちは山々であったが、アルトがその為に下がれば、今度はカリストが前衛に晒される。
一瞬の判断時間の中で、アルトは前衛の仕事を全うする事を選んだ訳だ。
果たして、ツバメの飛翔の如き斬撃は、さしもの神の武具でも防ぎきるにあたわず、キャンベルもまたHPの半数を失う結果となった。
すでに無傷の者はこの場にいないわけだが、そもそも2人対5人であった戦いが、すでに2人対3人まで絞られていた。
その中でもカリストなどは『ロックハンマー』を使用したことで、MPをほとんど失った状態だ。
そんな状況からの第6ラウンドであったが、開幕直後にマーベルによる『レヴンヒール』がモルトを戦線復帰させた。
『レヴンヒール』は『生命の精霊』の力を借りたHP回復魔法だが、効果範囲が「接触」であり、『聖職者』の『キュアライズ』とは使い勝手で劣る。
ちなみに先のラウンドのカリストによる『ロックハンマー』は、マーベルがモルトに接触できるようにする為の策であった訳だ。
だが代わりに、すでに瀕死の状態であったマーベルが、ヒビキの刃に倒れた。
HPがゼロを割った時の生死判定ロールは、レベルが高い者ほど成功率も高くなる。
さすがに指折りの冒険者であるマーベルは、今回もまたしぶとく生き残った。
また、起き上がったモルトや、MPの尽きたカリストは、次のラウンドに向けて準備を整える。
そして転機となる第7ラウンドを迎えた。
最速のねこ耳童女マーベルが伏している為、トップで動くのは紺尽くめの女忍者ヒビキだ。
そしてこのラウンド、ヒビキの凶刃が三度荒れ狂う。『セイバーアクセル』のRRが明けたのだ。
「『セイバーアクセル』」
左右の得物から計8回の連続の斬突撃。だが、今回は彼女の思うほどのダメージを稼ぎきれなかった。
なぜか、そもそも先の『セイバーアクセル』でモルトを沈めたのは、あくまで『背後からの攻撃』だったからである。
いくら手数が多かろうと、元々一撃一撃の重みが少ないヒビキの得物では、正面から戦士職のHPを削りきれる事はできなかったのだ。
それでも8回中、3回のクリティカルヒットがあり、モルトのHPは3割を切るに至った。
「ふっふっふ、今回はただではやられんよ」
しかし、かなりの大ダメージを負ったはずのモルトの表情は、あくまで不敵に笑っていた。
その笑みに嫌な予感を覚えつつ、女忍者ヒビキは攻撃を済ませバックステップで元の位置へと戻ろうとした。
だが、当のモルトがそれを許さなかった。
「反撃発動」
その瞬間、モルトの言葉に連動して、彼女の構えた『鎧刺し』が赤い光を湛えて放つ。
と、同時に白い法衣の乙女が霞んでスライドした。
この動きを正確に捉えられた者はいないだろう。モルトはいつの間にか退くヒビキへと迫ったかと思うと、『鎧刺し』がズブリとその身を捕らえた。
『警護官』の自動反撃スキル『メネシスブレイド』だ。
先の第6ラウンド、『気絶』から回復したモルトが準備したのはこれであった。
もちろん、女忍者ヒビキとてそもそも『傭兵』である。その高いHPを一撃で削れる筈はない。
それでも、この一撃はヒビキに深刻な打撃となった。
「よし、ここで僕がとどめを刺す。『ライトニング』」
すかさず、第6ラウンドに『マナチャージ』にて少しばかりMPを回復したカリストが、続けて雷撃の魔法を使う。
「承認します」
硬質なGMからのコールを受け、カリストの指先から青い稲妻の光が一閃。女忍者ヒビキを貫いた。
「まだ、こんなものじゃ…」
だが、ヒビキは耐えた。
HPは今の一撃で一桁まで減ったが、それでも生存は生存である。
続くモルトは迷った。
メネシスブレイドによる反撃は、あくまで前のラウンドの残滓なので、このラウンドはこのラウンドで、彼女に行動権がある。
あと一撃、何らかの攻撃を女忍者に当てれば倒せる可能性が高い。だが、その一撃が悩みどころであった。
モルトは一応のところ戦士職ではあるが、『警護官』としてのレベルは3である。
対する女忍者は、アルトほどでないにしても、専業の『傭兵』として、かなり高いレベルなのは間違いないだろう。
つまり、ここでモルトが『鎧刺し』を突き出したとして、攻撃が当たる可能性が、それほど高くないのだ。
予測概算で命中率は5割を切る。
その低い勝率を考えると、モルトは結局、確実な手段を取らざるを得なかった。
すなわち、マーベルの戦線復帰である。
「ベルにゃんに『キュアライズ』や」
「承認します」
果たして、地に伏していたねこ耳童女が眠そうな目で立ち上がった。
これを苦々しい目で見ていたのは、アルトとガプリ四つで対峙していた悪魔神官キャンベルだ。
これまで『コッズギア』で守られていた彼だったが、その強力な加護の魔法は、強力ゆえに効果時間が短い。
つまりこの第7ラウンドには彼を守る『コッズギア』が時間終了で消失していた。
そのうえ、ヒビキが引っ掻き回した後衛は、ドワーフの『吟遊詩人』を除いて戦線復帰してしまった。
ここで負ければ全てを失う。それは命も含めてだ全てである。
「仕方ない。最後の勝負に出る。『フォストレイバー』」
言うなり、かの悪魔神官の身から禍々しき黒い霧が立ち上り、対する若サムライ・アルトを襲った。
「うわなにをするやめ」
すわ、毒霧か? と慄いたアルトだったが、意外と霧を吸い込んだとて異常は感じられなかった。
その代わりと言っては何だが、四肢に纏わりついた霧が肌から染みこみ始め、次第に身体が言う事を聞かなくなりだした。
「『麻痺』…か?」
そう思い至り、アルトは少しばかり安心する。
『麻痺』なら、モルトの使う神聖魔法『メディパラライズ』で治せる筈だからだ。
「くっくっく、甘いな。この魔法はそんなチャチなモノではない」
耳から聞える不快な声。だが、耳を塞ぐ事も目をそらす事もできない。
なぜならアルトの身体はすでに自由を奪われていたからだ。
「さぁ、アルトと言ったな。お前の仲間を斬り殺せ」
アルトは言われるままに振り向き、ゆっくりと『無銘の打刀』を八相に構えた。
『フォストレイバー』は8レベルの『暗黒魔法』である。
この魔法の霧に捕らわれた者は、自分の意思に係らず、術者の命令通りに行動しなければならない。
『禁止の呪い』や『探索の命令』と同系当の魔法だが、これらとの違いは術者が近くにいる時のみ有効であり、また様々な命令をその都度する事ができるという所だろう。
効果時間は定められておらず、術者の死か、神聖魔法『イレーズ』にのみ除去可能だ。
しまった。
『キャプティブラウダ』の後、「おれはしょうきにもどった」のネタをやるの忘れてた。




