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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#07_僕らの洋上生活

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105/208

10海賊退治

前回が短めだったので、今回は長めです。

平均するとそれほど長くは無い所がミソ。

 海賊船に単身飛び移り、海賊手下の1人を『ツバメ返し』にて一刀の元に斬り伏せたアルトだったが、依然として5人に囲まれていた。

 とは言え、先に斬り掛かられたのを全て弾き返したところで、「こいつらザコだ」と悟っていたので、特に恐れも焦りもない。

 僅かにあるとすれば、かわしきれなかった際に痛い思いをするな、という程度のものである。

 痛い思い、などと言うが、それは怪我を負う程でもないだろう、とも思っている。

 海に落ちるリスクを鑑みて、アルトの現在の装備は剛刀『胴田貫』に紺の詰襟服、後は額に鉢金を巻いている程度としているが、それでも海賊手下どもとはレベル差が開いている様に思えるので、もし斬撃をかわしきれなかったとしてもダメージは然程通らない、と算段していた。

 ちなみに鉢金は、本来兜代わりの簡易装備品だが、『メリクルリングRPG』ではカッコだけで防御力はない。

 だが、モルトが「ダメージ無くて(のーて)も、頭かち割られてるの見ると痛々しいわ」と、手ずから作った品である。以来、アルトも思い出した時には着ける様にしている。

 ともかく、5人に囲まれているとは言え負ける戦いではない。

「さて、1分で納まるかな?」

 アルトはいつに無く残酷な笑みを浮かべつつ、舌なめずりするのだった。



「アっくんが強いのは知ってたけど、ずいぶんと余裕綽々にゃ?」

 船橋の最前線にて、援護の『精霊魔法』をスタンバイしているマーベルが、感心したように頷きながらも疑問符を浮かべた。

 その質問の尋ね先は彼女のベルトポーチに在る薄茶色の宝珠(オーブ)であったが、彼が言葉を発するより前に、後方で観戦を決め込んでいたレッドグースが口を開いた。

「あの海賊の手下は、『傭兵(ファイター)』レベルに換算すれば1程度でしょうからな。7レベルのアルト殿からすればさもありなん、ですな」

 そう言いながら同意を求める視線を薄茶色の宝珠(オーブ)に向ければ、彼もまた無言できらりと硬質な光を一瞬だけ湛えた。

「へー、でも何でそんなん判るん?」

 感心つつもモルトとマーベルが首を傾げる。セナトール小王子もまた、興味があるようでこの酒樽紳士に注目した。

「ふむ、ルールブックの『モンスターの章』に載っているのです」

 だが、レッドグースがニッコリと笑って口にした答えには、皆一様に疑問を深くしただけだった。


 メリクルリングRPGのルールブックには、様々な怪物(モンスター)のデータが掲載されている。

 これまでアルトたちが旅の中で遭遇した『ゴブリン』や『獣骨兵』ももちろん載っているし、その他にも様々なモンスターのレベルや能力の詳細が書かれているのだ。

 実際にゲームをする時、セッションシナリオを作るGM(ゲームマスター)は、これらを参考に敵を設定するわけだが、実はその中に「人間」という項目がある。

 ここで言う「人間」は「それに準ずる種族も含む」という意味で、この項には「山賊」や「一般兵士」と言った名前のデータが出ている。

 なぜこんなデータがあるかと言うと、GMの負担を減らす為である。

 TRPGに限らず、敵はモンスターだけとは限らない。

 時に「山賊」に襲撃される事もあるだろうし、(プレイヤー)(キャラクター)が罪を犯したり、何かの行き違いで「一般兵士」に囲まれる事もあるだろう。

 そう言う時、その敵が人間だからと言って、(プレイヤー)(キャラクター)と同じ様に一人一人サイコロを振ってキャラクターを作成していては大変な手間だ。

 なのでモンスターの書式に併せてあらかじめ平均的な「山賊」や「一般兵士」をルールブックに用意しているわけだ。

 お陰でGMはシナリオ作成の手間を大いに省くことができるし、特別な(ノン)(プレイヤー)(キャラクター)作る時に、「一般的な連中がどの程度の能力なのか」を知る事ができる。


「つまりですね、ルールブックをすでに読み込んでいたレッドグースさんからすれば、予測できた、という訳ですね」

 上記のような解説とともに元GMたる薄茶色の宝珠(オーブ)がのたまえば、セナトール小王子を除く2人は納得して頷いた。

 と、モルトは頷いた直後にもう一度首を傾げる。

「せやけど『学者(ワイズマン)』やないおっちゃんが、なんで『抵触事項』に引っかからなかったんやろ?」

 この言葉にマーベルもまた首を傾げた。

 だが彼女の場合はモルトの言う意味を掴みかねての疑問符であった。

 そう、忘れている者も僅かにいるが、『メリクルリングRPG』のルールに縛られたこの世界では、いくらプレイヤーが知っていても、キャラクターが知る機会が無かった筈の知識については、発言に制限されることが多いのだ。

 怪物(モンスター)やアイテムに関する知識などは、その最たるものである。

「ああ、それは『海賊』はルールブックに載っていないからです」

「へ?」

 平然と言い放つ薄茶色の宝珠(オーブ)に、モルトは困惑の眼を向ける。マーベルとセナトール小王子はすでに置いてけぼりだ。

「『賊』関連で載っているのは『山賊』系統だけです。それも『山賊首領』『山賊頭』『山賊手下』だけです。あ、ちなみにレベルは順番に5、3、1ですね。で、まぁ海賊たちのデータはそこからの流用だろう、というのが、レッドグースさんの根拠でしょう」

「その通りですな。リプレイ集を読んでいても、だいたいそう言う慣例になっておりましたからな」

 こう聞いて、モルトもやっと全ての疑問が晴れたと大いに頷いた。

 ちなみに『山賊首領』は国を騒がすほどの大山賊団をまとめる存在であり、普通は山賊団がそこまで成長する前に退治されるのでほとんど出番が無い。

 というのがルールブック製作側の公式見解だが、そこはまぁシナリオを作成するGMのサジ加減次第だ。

「それにしてもアル君、ずいぶんと悪い顔しとるね」

 疑問が晴れた所で再び船橋下を覗けば、海賊船側で海賊手下どもを相手に怖い笑顔で大立ち回りしているアルトが見えた。

 最初に斬り伏せられた海賊手下以外にも、もう一人が甲板に伸びている。

「あれはまだ死んでないにゃ」

 『精霊使い(シャーマン)』のスキル、『オーラスキャン』で瞳を金色に変えたマーベルがつぶやけば、のんびりと船橋窓まで歩み寄ったレッドグースがまたそれに応えた。

「『木の葉打ち』でしょう」

 『木の葉打ち』は『傭兵(ファイター)』のスキルで、成功すれば攻撃を喰らった者に『麻痺(パラライズ)』の追加効果を付加する技だ。

 アルトの攻撃パターンからすれば、初手に『ツバメ返し』、次の手に『木の葉打ち』は決まった形と言える。

 ただ敵が強くなれば『木の葉打ち』が決まらない事も多く、最近ではあまり活躍の目を見ない技であったゆえに、マーベルは咄嗟に思い出せなかった。

 と、観戦組もまた余裕綽々で見下ろしていた訳だが、3ラウンド目になるとさすがにアルトも一発浴びる事となった。

 いくらレベル差があるとはいえ、常に囲まれて数人から斬りかかられれば、全てを避け続けるのは確率的にも難しくなるので仕方が無い。

 例えばサイコロを振り続けて「1を出してはいけない」といわれても、何回目かには出てしまうだろう。それと同じだ。

 そう言うわけで4人となった囲いの海賊手下から『シミター』の一撃が、いよいよアルトの肩口に襲い掛かった。

 すでに避けられない、と解ったアルトはすぐさま僅かに一歩踏み出し、刃の付け根を肩に受け止める。

 当然ノーダメージだ。

 一撃を放った海賊手下はもちろん、観戦していたセナトール小王子も目を見開いた。

「あの服はいったいなんだ。なぜ斬りつけられて平然としている」

 セナトール小王子からすれば、異常に見えた。そして異常の原因はアルトが身に着けた紺の詰襟服であり、見た目からわからない防御力を秘めた特別な品なのだろう、と思ったのだ。

 だがアルトの身内からすれば、このノーダメージの原因がレベル差にあることは自明であったので、セナトール小王子が何を不思議がっているのかわからず、思わず一同キョトンとして彼に目を向けるだけだった。


 3ラウンド目にアルトが繰り出す斬撃は通常攻撃である。

 すでに『ツバメ返し』『木の葉打ち』と続けて使ったので、次にこれらを使うにはRR(リキャストラウンド)が明けるのを待つしかないからだ。

 それでも7レベル『傭兵(ファイター)』が『胴田貫』を振るうことで発生する威力はたかが海賊手下には重く、一撃にて大半のHP(ヒットポイント)を奪うほどであった。

 始め6人いた囲いの海賊手下は、およそ30秒で半死近い打撃を受けたことになる。

 ちなみに渡し板で互いに奮戦する白兵小隊と海賊手下の方はと言うと、一進一退で、帝国騎士であるニルギリ少尉を擁する味方側がやや優勢だ。

 おそらく『タンホイザー号』の勝利は時間の問題だろうと見えた。

 もちろん、それは海賊船側にも同じく見え、この襲撃を指示した海賊船長は歯がみする思いで近くにあった樽を蹴飛ばした。

「ええい、退却だ。オール全力で漕げ、操帆員も急げ」

 骸骨の図案をあしらった二角帽(ナポレオンキャップ)と、素肌に黒を基調としたロングコートを羽織った、見るからに海賊の親玉然とした男だ。当然、片目は黒い眼帯で覆っている。

 彼の号令で戦闘を担っていた海賊手下たちはジリジリと後退をはじめ、マストに登っていた人員たちも慌しく帆を上げる。

 だが、船は海賊船長の思惑通りに動かず、舳先をタンホイザー号へとゆっくりと押し付けるだけだった。

「何をしている!」

 焦り、『タンホイザー号』と接している右舷の縁から見下ろして、彼は眉尻を上げて声にならない怒りに身をよじった。

 なぜなら互いに接舷した勢いで、海賊船右舷側の櫂は全てへし折られていたからで、今更ながらそれに気付いたのだ。

 これではいくら奴隷にオールを漕げと命じても動くのは左舷側のみなので、回転するばかりなのは当たり前だ。

「おのれ。オール漕ぎかたやめろ」

 こうなれば櫂による動力は諦めるしかない。

 だが、帆を全開にしても、余程風が強くなければいきなり離脱できるほどの速度は得られないだろう。

 しかも接舷前の『大型弩砲(バリスタ)』攻撃により、幾つかの帆はすでに大穴をあけられているのだ。

 海賊側でこれに気付いた者たちは、もう自分たちの運命を諦めるしかなく、海賊船長はあまりに思惑を外された状況で、脳が沸騰するほどに怒り狂った。

「この、輸送船の分際で」

 もう彼が言う事に意味など見出せない。すでに復讐する事しか頭に無く、それが逆恨みであるとかそんな理屈などは関係なかった。

 そも、そんな理が解る者は賊などに身をやつさないのである。

 そんな海賊船長の下に駆け寄る人影があった。

 彼がその事に気づいた時は、その者はすでに眼前まで迫り、抜き身の刀が今にも振り下ろされようとしていた。

 誰あろう、海賊手下どもが退いたことでフリーとなった若サムライ、アルトだ。

「これで終わりだ!」

 だが、彼の台詞とは違う言葉もまた上から聞えた。もちろん船橋上からである。

「あかん、出すぎや」

「あー、さすがアっくんにゃ」

 マーベルの言葉は台詞の上では感心しているようだが、その声色は呆れ声だ。

 彼女らの様に上から見下ろせば確かにアルトは突出していた。なにせ単身で海賊船に乗り込んで戦っていたのだ。それだけでも突出だったと言える。

 さらに言えば、ニルギリ少尉らの任務は『タンホイザー号』の防衛であり、海賊の捕縛ではない。そのため、海賊手下が後退すれば追撃せずに渡し板の確保に動いていた。

 それでも、アルト本人の意識では「自分より格下しかいないので大丈夫」だったらかこその、海賊船長襲撃だった。

 アルトが八相に構えた『胴田貫』を、渾身の力で振り下ろす。

「こしゃくな、小僧!」

 海賊船長が吼え、同時に甲高い金属音が響いた。

 何が起こったのか、その瞬間を目に捉えられた者は少ない。が、その後に見られた光景で判った。

 すなわち、海賊船長が腰の『シミター』を抜き打ち、頭上から襲い来る『胴田貫』を受け止めたのだ。

 そして直後、斬撃を真っ向から止められた驚きでアルトが止まった一瞬を突き、海賊船長は素早く身と刃をクルリと翻した。

 翻し、その刃が今度はアルトの胴を薙ぎに襲い掛かる。

「げっ」

 咄嗟過ぎて、目で追うまでは出来ても避けるほどの反応が出来ず、アルトの脳はあっという間に冷え、顔面が蒼白となった。

 自分の攻撃を受け止めるという事は、さすがにこの海賊船長はザコではない。侮りすぎた、という後悔が瞬時に浮かんだ。

 だが、その時だ。

「『ディスターブボルト』!」

 どこからかそう声が上がり、緑色に光る何かがアルトの脇をすり抜けた。

 よく見れば、まるで矢の様な形をした魔力の塊だ。

 その緑色の魔法の矢が、アルトには酷くゆっくりと飛ぶように見えた。否、そう見えただけで、実際にこの攻防の全ては一瞬のうちの出来事だ。

 飛来した魔法の矢がジュバっと音を上げて弾け、海賊船長が放った横薙ぎ斬撃を弾き飛ばした。

 今度は海賊船長が驚き慄く番だった。

「何奴!」

 邪魔者に対し怒りの声が上がり、アルトと海賊船長は仕切り直しとばかりに数歩の間を取る。

 声に応え、15メートルは離れた所にそびえ建つ『タンホイザー号』の船橋影から現れたのは、黒い『外套(マント)』を翻した若い眼鏡の男、カリストだった。

「アルト君、油断するな」

「はいっ」

 アルトは、助けの魔法が信頼する仲間からの援護だった事に安堵し、同時に気と脇を引き締め再び八相に構える。

 さっきまでの悪そうな笑みを浮かべていたアルトはもういない。

 ここにいるのは慢心を捨て、必殺の決心を抱く7レベルのサムライだ。

「『ツバメ返し』」

 静かに、だが素早く滑るようにアルトの身体が甲板を駆け、まるで訓練の如く気負い無い剣筋で、『胴田貫』が袈裟懸けに振り下ろされる。

 海賊船長の身体はまるで質の良いバターの如く抵抗無く剛刀を受け入れ、そして逆袈裟に跳ね上がった二の太刀(にのたち)で自らのHP(ヒットポイント)が尽きるのを悟った。

「く、くそう、こんな所で」

 そして海賊船長は断末魔の叫びも無く、ただ憤怒に赤く滲んだ瞳のままドウと崩れ落ちた。



「マスト、船体のチェックに半日かかります」

「ふむ、そうですか。ま、海賊船をなんとかしなくちゃいけませんし、今日は1日ここに停泊としましょう」

 残り降伏した海賊船の乗組員をとりあえず捕縛して戦闘が終結すると、『タンホイザー号』乗員の各リーダーから報告を受け、メイプル男爵はそうのたまった。

 最大戦速ではないとは言え、かなり無茶な機動を命じた自覚があったので、メイプル男爵も「しかたなし」と判断を下したのだ。

 また海賊船の始末、と言う問題もある。

 そもそも『タンホイザー号』は海防船ではないので、ここで下した海賊どもをどうにかする義務は無い。

 無いが、だからといって、このまま海賊どもを縛り上げたまま漂流させるという訳にもいかないだろう。

 せめて海賊と奴隷を分けたり、死体を処分したり、海防を司る機関に引き渡す必要があるのだ。

 そうなれば船橋は戦闘とはまた違った雰囲気で慌しくなり、さすがに観戦で居座っていたアルト隊の面々はその場から辞去する事にした。


 甲板でも邪魔になりそうだったので、アルトやカリストも合流した後は船室へと移動する。

「それで、アレはいったい何だったのですかな?」

 その狭い4人用の簡易ベッドがある部屋で、まずレッドグースが口を開いた。その視線の先は、のほほんと黒猫の髭を引っ張って遊んでいるカリストだ。

 だがカリストは言葉を受けてもただ肩をすくめただけだった。

「初めて見る魔法やったけど、なんかおかしいん?」

 このやり取りを見て、白い法衣の汚れを気にしながらベッドに腰掛けたモルトが首を傾げる。マーベルやセナトール小王子もまた、それに倣って首を傾げた。

「見たこと無いって言っても使ったんだから、マイナーなだけでルールブックにあるんだろ?」

 また、レッドグースの問いを不審に思ったアルトが片眉を上げて息を付く。

 この世界が『メリクルリングRPG』と言うゲームのルールに縛られているのは、すでに何度も述べられた純然たる事実である。

 なのでアルトとしては、すなわち「出来るという事はルールに則っている」ということに他ならない、と考えていた。故の発言である。

 これに答えたのは、元GMである薄茶色の宝珠(オーブ)だ。

「いえ、先ほどの『ディスターブボルト』と言う魔法は、少なくとも基本ルールブックには載ってません」

 各自、この『基本ルールブックには』と言う言葉に引っかかり、そして思い出した。

 そう、かつてキヨタヒロムと戦った時、やはり皆の知らない魔法を使われた事がある。その魔法は、アルト隊の面々がこの世界に来た後に発売された『上級(アドバンスト)ルール』に掲載された魔法だった。

 つまり、少なくともキヨタと共にあったカリスト以外は、『上級(アドバンスト)ルール』の魔法の全容を知らないのだ。

 そこまで理解が広がり、セナトール小王子以外の視線がカリストに集る。

 カリストはクイと眼鏡のブリッジを押し上げて息をついた。

「『上級(アドバンスト)ルール』にも載っていません。あれは、僕が創った魔法です」

「はいぃ?」

 あまりに淡々と述べられた衝撃の言葉に、一同は思わず出せうる限りの声を上げたのだった。



 カリスト・カルディア。彼がまだ別の名前で日本にいた頃の職業(クラス)は『プログラマー』であった。

 一口に『プログラマー』といっても様々な者がいる。

 使う言語も違うし、人によって得意な分野もあるだろうし、能力が低く名前ばかりの『プログラマー』もいただろう。

 そんな有象無象玉石混交の中で、カリストは特に他人のコードを解析するするのが得意な『プログラマー』だった。

 近頃では専門学校卒のプログラマーが多い中、カリストは子供の頃から独学で様々なコードを学んだ故の特技だ。

 まだ専門学校があまり無い時代に活躍した『プログラマー』に多いタイプだ。

 彼は子供の頃から、専門雑誌に載っているコードを読み込んだり、時にパソコンゲームを解析したり、改造したりするのが趣味だった。

 プログラムと一口に言っても、そのコードの書き方には結構な割合で人の癖があらわれる。

 意味の無いゴミが混じる事もあれば、とても迂遠な処理をする癖があったりすることもある。

 中にはとてもスッキリしていて、誰が読んでも解り易い書き方をする者もいる。

 そんな他人が書いた解り辛いコードを読み解くのが、パズルのようで楽しくてたまらなかった。

 そうして読み解いたプログラムの内から、今、自分に必要なコードを写し出し改造して利用するのが得意だった。


 だからこの世界の設計者、キヨタヒロムの知識に触れ、この世界の法則の一端を知り、様々な仮定を建てて、自由を得てから実験を繰り返した。

 こうして作り出した魔法のひとつが『ディスターブボルト』であった。


「基本は緒元魔法レベル1にある『マギボルト』だよ。それにクーヘン君の使っていたスキル『ディスターブショット』を混ぜてみたんだ」

 世界に7体しかいない人工知能搭載型(インテリジェンス)ゴーレム、人形姉妹(シスターズ)が6女、『探索の目(オキュラス)』のクーヘンが使う『ディスターブショット』とは、あらかじめ狙いをつけた対象が何か行動し始めた時、その行動自体を阻害して無効化するスキルである。

 あまりに何事も無いスッキリとした言葉でそう述べるカリストに、一同はどう反応して良いかと困惑するしかなかった。

「そんな簡単な」

「簡単じゃないけど、でも大魔法帝国時代には数々の『魔術師(メイジ)』が取り組んで成してきた事だし、出来ないってわけじゃないよ」

 もう、一同「はぁ」と気の抜けた声しか出なかった。

 そして話の半分も理解できなかったセナトール小王子は、「この人も異常だ」と深く理解した。

30年位前はパソコン雑誌にゲームのプログラムなんかが掲載されてました。

カリストの愛読雑誌は「ラジオライフ」とか「ハッカー」じゃないでしょうか。

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