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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#07_僕らの洋上生活
100/208

05救出とその後

 アスカは子供好きだ。

 いや、いわゆるロリコンやショタコンと言った意味合いではない。あくまで「小さくて可愛い物好き」というカテゴリー内での「子供好き」だ。

 なので子供の他にも猫やハムスターなんかも好きだが、そこは今、あまり関係ない話なので割愛する。

 とにかく、その子供好きのアスカが、当の子供から怯えるような素振りを見せられたので酷くショックを受けた。

 このメリクルリングRPGの世界におけるアスカの姿は、元の日本にいた頃の姿とはかなり違う。

 今の姿はあくまでもゲームの為のキャラクターとして、ちょっとした変身願望を満たす目的で作った彼女の理想の一つだ。

 まさかその姿を現実として冒険に身を投じる破目になるとはサラサラ思っていなかったが、それでも、幾つものラノベなどを読んで憧れていた姿なだけに、これまで楽しさが勝っていた節がある。

 だが、救助対象のセナトール小王子と思われる金髪男児の態度で、アスカの気分は地に落ちた。

 え、この姿ってやっぱり怖いの? カッコイイと思ったのに。

 そう思って自らの身を顧みる。

 全身を覆う『板金鎧(プレートメイル)』は金属むき出しの鈍色。左手にはその半身以上を覆い隠す『凧型の盾(カイトシールド)』。右手には今しがた抜き放った『両刃の長剣(ロングソード)』。

 カッコイイと思うけどなぁ。

 残念な事に彼女の考えは、相対する側の心情を汲むに至らなかった。

 確かに彼女の様な姿を街などの平穏な場所で見かけたなら「カッコイイ」で済んだかもしれない。

 だが考えて欲しい。

 そんな姿の人間が、抜き身の剣を携えて仮とは言え自らの住まいへ押し入って来たらどうだろう。

 恐怖にその表情を歪めたとして、誰が責められようか。

 それはともかく、打ちのめされたアスカとは違う目でその光景を見る者がいた。

 アスカの後に続いてこの2階家へ押し入ったナトリである。

 いつもは平静、というか無感動な表情を始終通している彼女だが、この時は少しばかり額にしわを寄せていた。

「あれは、おそらく『チャーム』を使っている」




 『チャーム』とは『精霊魔法』の一つで、あえて日本語にするなら『魅了』だ。

 この魔法にかかった者は、魔法使用者をごくごく親しい身内と感じるようになる。これまでいくら激しい死闘を演じていた者であっても、だ。

 ただあくまで『親しい身内』という感情なので、魔法使用者の言う事を何でも聞くようになる訳ではないので注意が必要だ。




 ナトリの視線の先にいるのは、小王子と思われる子供を背に隠して妖しく笑う黒エルフの女だ。

 着ている服は体のラインにピッタリとした、扇情的なデザインの『なめし革の鎧(ソフトレザーアーマー)』であったが、腰に吊るされた『短剣(ショートソード)』は、おそらくミスリル銀の業物だろう。

 軽装だが侮れない敵の様だ。この一団のリーダーかもしれない。

「たぶん、森エルフ」

 そのナトリのつぶやきの様な言葉を聞き、アスカは縋る様に半分だけ振り向いた。そしてナトリの額に寄った少しばかりのしわに、驚いて目を見開く。

「ナトリ、もしかして怒ってる?」

 先の男児の態度が『チャーム』のせいだと言い訳を着け、気分は少しばかり楽になった所だが、別の困惑がアスカの脳裏に広がる。

 そもそもこの美しい銀髪の『精霊使い(シャーマン)』が、喜怒哀楽に表情を歪めるなど滅多な事ではない。

 共に隊伍を組んで幾つかの仕事をこなしてきたアスカだが、こんな事は片手で数えてもあるいは指を折る必要が無い程度の出来事だった。

 森エルフに何か嫌な思い出でもあるのだろうか。

 訊きたいのを堪えつつ、そろりそろりと前を向く。「もしかして」などと言ったが、ナトリから立ち上る気配は、正に怒りと見て取れたからだ。

 何がきっかけで、どう爆発するか判らない。なら刺激しないのが得策である。


 さて森エルフとは何か。

 これは街エルフという言葉と対に使われる名称で、どちらも種族としては同じエルフである。

 ただ、生まれ育ちが森にあるエルフ集落なのか、または多くの人が住む街なのか、という区別を付けるために生まれた言葉だ。

 森エルフは閉鎖的なエルフ集落で生まれ育った為、考え方も開明的ではなく、また直接攻撃的な魔法を好まない。

 その中でも特に『チャーム』を好む傾向にある。

 つまり、この黒エルフを見て、ナトリはどこかの森にある集落出身者だと断じた訳である。

 まぁ、半分くらいはただのレッテル貼りであった。


 ともかく、そうしたそれぞれの感情入り混じり複雑ではあるが、今はすでに戦闘中だ。そろそろ各々の行動を決めなくてはならない頃である。

 いち早く動き出したのは未だ正体不明の、黒エルフの女だ。

 だがアスカたちにとって正体不明であっても、黒エルフ側からすればアスカたちが小王子救出に動いた冒険者である事は判断つく。

 なにせ、先にアスカがそう宣言したのだから仕方が無い。

 なので黒エルフの女は抜いた『短剣(ショートソード)』を、背に庇うようにしていた男児の喉元に突きつけた。

「大丈夫、私があなたを傷つけるはずが無いでしょう?」

 そして即座に囁けば、小王子とおぼしきその少年はすぐ安堵に表情を緩めた。

 魔法のせいとは言え、凄い信頼度だ。

 しかしその囁きはアスカたちまでは届かない。なので小王子救出側の一同には緊張が走った。

「さぁ、動けばすぐにこの首を掻っ切るわ」

 加えてこの台詞だ。

 『短剣(ショートソード)』はナトリの見立て通りミスリル銀製のようで、黒エルフが切ろうと思えば、子供の細い首などすぐにでも飛ぶであろう事は容易に想像できた。

 果たして、この様な状況で要救助者を無傷で済ますにはどうするべきなのか。彼女達にはそういうケーススタディが絶対的に足りてないのだ。

「大丈夫デスよ、アスカ姉ちゃま」

 そんなアスカ、ナトリ、エクレアと違い、1人だけ自信満々の表情を晒すのは、黄と茶のチェック柄のインバネスコートを身に着けた人形サイズの少女、クーヘンだった。

 彼女は手にしたY字型の射出器『スリングショット』のゴムをぱちんと鳴らす。それだけで、クーヘンが何を言いたいのかアスカにもすぐ解った。

「よし、それなら私は『ワーニングロア』だ」

 一転して表情が晴れたアスカはすぐさまそう叫び、右手の『両刃の長剣(ロングソード)』と高く掲げる。

 瞬間、アスカたちの眼前で敵対する者の両肩に、目に見えぬ重さが圧し掛かった。と、同時に、その視線はアスカから外せなくなる。

 『警護官(ガード)』のスキル、『ワーニングロア』。敵を引き付け、逃さぬ為のスキルと言っていいだろう。

 これで黒エルフの女は、もうアスカ以外を攻撃できなくなる。

 すなわち、人質のそっ首を掻っ切る事は、アスカを排除しない限りは出来なくなった訳だ。

 こいつは存外に便利なスキルじゃないか。

 アスカは改めて使い慣れた『ワーニングロア』に感謝の念を送った。

 続いてコートの裾を派手に翻したクーヘンが、片膝を付いて『スリングショット』を構え叫ぶ。

「チェック、目標を補足したデース」

 狙いはピタリと黒エルフの女に付ける。もっと厳密に言うなら、狙いは『短剣(ショートソード)』の切先だ。

 クーヘンの専用スキル『ディスターブショット』が、その発動準備を終えた瞬間であった。

 『ディスターブショット』に補足された対象は、次の行動を起す際に『スリングショット』から射出される一撃に、その行動を阻害される。

 つまり、この黒エルフが何らかの手段で『ワーニングロア』の効果を掻い潜ったとしても、クーヘンのスキルによって結局は小王子を害する前に邪魔される、という訳だ。

 これで、小王子の安全は確保された。された上で、最後にナトリが『長衣(ローブ)』のスカートの下から抜いた矢を手の平に構えた。

 それは何の変哲も無い矢である。

 普通に考えれば弓の無い矢で何ができる、というところだが、相対する黒エルフもまた『精霊使い(シャーマン)』であり、ナトリの「つもり」が即座に理解できた。

「『シルブンシュート』」

 ナトリがそう呟くと、矢は突如起こった風に弾き飛ばされた。すでに召喚済みであった『風の精霊(シルフ)』による精霊の御業だ。

 これでこの勝負は、ほぼ決した。




「すると森エルフが急に光を放って舞い上がった。そこで私が空飛んでぐわーっと」

「いや、盛りすぎ盛りすぎ」

 時は進んで夜の『金糸雀(かなりあ)亭』。

 なぜか正座のアルトと飛蝗怪人(ファルケ)や、各々の席に着くアルト隊の面々とおばちゃん店主(マスター)を前にして、ナトリの話が正にヒートアップ。と、同時にアスカが彼女を宥めて苦笑いをうかべた。

「つまり、その子がタキシン王国の小王子ちゅーことやね?」

 話が切れた所で、白い法衣と対照的に顔を真っ赤にしたモルトが、アスカ隊の後ろで様子を伺っている金髪男児を指差した。

 ちなみにモルトの顔が赤いのは、ご想像の通り酔っ払っているからだ。

 指されたのは見るからに冒険者の店には似つかわしくない、上流階級の少年だ。

 歳は10歳前後だろうか。美しい金髪を短く切り揃え、仕立ての良い青の詰襟服を着込んでいた。胸元には金糸で精密な刺繍が入っている。

 同じ詰襟でも、先日仕立てたアルトの一張羅とは格が違う。

 今までの話を聞けば誰でも察するだろうが、彼こそはタキシン王国王太子が嫡子、セナトール小王子であった。

「それならこんな所に連れてくるんじゃなくて、まっすぐ太守閣下の城に行けばいいじゃないか」

 アスカがモルトの問いに頷くのを見て、太ましい貫禄を見せつける『金糸雀(かなりあ)亭』のおばちゃん店主(マスター)が呆れた様にのたまう。

 『金糸雀(かなりあ)亭』は冒険者の店としては良い店の部類だ、と彼女は自負しているが、さすがに一国の王族を迎えるには到底相応しいと思えなかった。

 アスカは苦笑いで、マリオンは憮然としてその言を迎える。

「私たちは今、街についたのよ? 一息入れて、汚れを落とすくらいしたいわ」

 マリオンの言葉は、聞く者の全てに「もっともだ」と思わせた。なにせ彼女らは見るからに煤けているのだ。

 「なら実家に行けばいいじゃないか」という言葉を言い掛けて飲み込んだのは、さて果たしてアルトだけだったか。

「して、森エルフとナトリ殿にはどんな因縁が?」

 一通り話が終わり、アスカ隊もアルト隊もそろそろ就寝に向けて、周りを片付けようとした所でカストロ髭の中年ドワーフ、レッドグースが気になっていたついでの質問を投げかけた。

 ナトリは一瞬だけ不快そうに眉を寄せ、直後にはいつもの無表情に戻ってその問いに答えた。

「子供の頃、森エルフには散々に苛められた」

 言葉少なく放たれたその言葉に、各々は彼女の不幸を察して深く息を飲み込んだ。

 以前、戦争孤児であると語ったナトリの過去には、まだ深い闇がありそうだ、と。


 翌朝、アルト隊の面々が朝食の為に『金糸雀(かなりあ)亭』の食堂に集ると、未だグッタリとしたアスカ隊と再会した。

 慣れぬ救出作戦で心身ともにヘトヘトだったので、一晩くらいの休息では疲れが抜けなかったのだろう。

 その上、今日はこの後、小王子の引渡しと次第報告の為に登城も控えている。

 そんなクテーっとしたアスカ隊ご一行の中で、セナトール小王子だけは『金糸雀(かなりあ)亭』自慢の庶民料理を、文句も言わず行儀良く食べているのが印象的だった。

「なかなか大人の態度にゃ?」

「そうやね。庶民の料理とか、王族には物足りんやろうに」

 いつも通り、モルトが作った和食風の朝食膳を前に、女性陣2名が言う。

 そんな何気ない言葉でも、自分に向けられたのだと気付いたのか、小王子は手を止めて半身振り返えり、彼女らと正対する。

 その所作が一々行儀良い。故マドセン男爵の教育が行き届いているのだろう。

 小王子は、まさか答えがくるとは思わなかったとギョッとする2人に、曖昧な笑みを浮かべつつ語った。

「我がタキシン王国は内乱中で貧しいから、王家とは言え豪勢な食事などしたこと無いのだ。大叔父上はどうか知らぬがな」

 後半は少しばかり棘があった。

 大叔父とは、王弟派の首魁の事だ。彼の父であるタキシン王国王太子と敵対する勢力であり、今回、小王子の誘拐を目論見たのも、この王弟派だったのだろう。


 タキシン王国の内乱はもう何年も続いている。

 国王が病に伏せってから、次の王位を王太子と王弟が争っているのだ。

 初めはこの世界の軍事常識に乗っ取り、互いに正規の兵士だけで遣り合っていたが、いかんせん戦いが長引きすぎた。

 銃砲がある現代戦と違い、槍や剣の戦では死者の数が劇的に少ないが、それでも戦が長くなれば兵は次第に少なくなる。

 その損じた兵を、王太子軍は傭兵を使う事で、王弟軍は「義勇兵」という名の徴兵を行い補った。

 するとどうなるか。

 王太子側では戦費が嵩み、王弟側では税収が激減する。

 すなわち、タキシン王国の貧困化が進むと言うわけだ。

 そんな情勢下に置いて、王弟派が逆転の一手として打ったのが、先日成った「ニューガルズ公国との軍事同盟」であり、対抗策として王太子派が打ったのが、「レギ帝国との軍事同盟」であった訳だ。

「小王子はにゃんでレギ帝国に来てたにゃ?」

 上記の様な事情を、薄茶色の宝珠(オーブ)が得意げに解説すると、ほへー、という感心顔で聞いていたマーベルが首を傾げた。

「それは…」

 セナトール小王子は言いづらそうに頬をゆがめると、ポツポツと話す。

 そもそもの始まりは、小王子が「兵たちへの慰問をしたい」と言い出した事だった。

 小王子側近の間では反対の声も多かったが、最終的にはマドセン男爵と数人の近衛騎士が同行する事で、この行幸は現実となった。

 そうして慰問団はタキシン市を出てすぐに刺客に襲われ、近衛騎士の犠牲を持って逃げおおせた頃には、すでにタキシン市から遠く、レギ帝国との国境付近だったという。

 ここからさらに追っ手がかかり、あれよあれよという間に西の果てまで追い散らされたわけだ。

 ちなみにこの小王子による慰問の考えは、元を質せば件の誘拐犯である女黒エルフの入れ知恵であった。

 つまり、この慰問は初めから罠だった訳だ。

「それは大変でしたなぁ」

 ここまで、女性陣に比べてあまり興味を示さずに黙って麦飯をもぎゅもぎゅとかみ締めていたレッドグースが、やはり大して興味なさ気に合槌を打つ。

 この言葉が気落ちしている小王子をさらに追い討ちしたのか、彼は途端にポロポロと涙を落とした。

「僕は馬鹿だ。僕の甘い考えのせいで、騎士たちも、マドセンも死んでしまった」

 人が露にした感情は伝播する。

 近くで楽しげにしている人がいれば、やはり楽しい雰囲気になるし、誰かが落ち込んでいれば気まずくなる。

 なのでセナトール小王子の怒りと悲しみを含んだマイナス感情は、やはり『金糸雀(かなりあ)亭』の空気をシーンとさせた。

 だが、黒衣の青年カリストは、そんな空気も読まずに平然とした表情で破った。

「それで殿下はこれからどうするんです?」

 その言の音は、まるで気負い無く「昼食のメニュー」でも問う様な温度だ。

「どう、とは?」

 小王子は困惑気味に眼鏡の男に視線を向ける。

 年齢の割りに賢い小王子だったが、なればこそ、カリストの問いのベクトルを判断しかねた。

 「今後どうする」などと言う問いが曖昧過ぎて、どれほどの未来を聞いているのか判断つかなかったのだ。

 カリストは箸で摘んだ紅鮭っぽい魚の身をパクっとやってから、小さく頷いた。

「いや、ホントそのままの意味ですよ。このまま終戦まで、この街で侯爵閣下の保護に納まるのか。それともタキシン王国に戻るのか」

「僕は、戻るべきと考えている」

 問いの意味を理解して、小王子は確たる意志の下に即答した。

 だがカリストはさらに追い討つ様に新たな問いを投げかける。

「なぜ? ここにいれば混乱が続くタキシン王国より安全ですよ? 国許へ向かえば、また道中で狙われるかもしれませんよ?」

 しばし瞑目し、小王子は膝の上の拳を小さく握った。

「確かに、(けい)の言う通りだろう。だが父はまだ僕の無事を知らないのだ。このままでいれば、僕の不在という情報を、大叔父に良い様に使われるかもしれない。

 だから、僕は帰って父に無事を知らせなければいけないんだ」

「なるほどね。なかなか賢くていらっしゃる」

 カリストはそう頷いたが、小王子の意見は『金糸雀(かなりあ)亭』にいた面々の脳内で賛否分かれる話であった。

 「そもそも無事を知らせるのは遣いの者や手紙でも構わない筈だ」という反対意見もあれば、「情報伝達手段があまり発達していないこの世界では、やはり対面のやり取りこそ最も信用に足る」という賛成意見もある。

 これは、どちらがより正しいと判断することの、難しい問題だった。

 なら、本人の意見が尊重されるべきだろう。

 だから、小王子の意志をすでに知っていたアスカ隊の面々が、この時揃って、深い溜め息を吐いた。

「この後、たぶん私たちが小王子を護衛して、タキシン王国まで送り届ける。なんて流れになるんだろうなぁ」

 いかにも面倒そうにアスカが愚痴る。セナトール小王子は恩人でもあるアスカに対し、申し訳無さそうにただ頭を下げた。

 アスカは子供好きではあったが、行きずりのセナトール小王子とこの街(ボーウェン)での暮らしを秤にかければ、やはり後者が圧倒的に勝つ。

 だがこの後にベイカー侯爵の下に小王子を送り届ければ、次はおそらくタキシン王国行きの依頼となるだろう。

 そういう未来に対する予測からの、このダルそうな態度でもあった。

「ほんなら、その護衛の話、ウチらに振ってもらってもええよ」

 ふと上がったそんな声に、数人が頭を上げた。

 タキシン王国行きを面倒そうにしていたアスカ隊の面々と、ここしばし悩み顔だったアルトだった。

「それもいいにゃ。そろそろアっくんの陰気がウザイところだったにゃ」

 今度はマーベルか、とアルトは視線を移して目を見張る。

 彼女の言い草からして、アルトが何を悩んでいたのか筒抜けだったようだ。

 義兄弟エイリークからの協力要請の手紙。そしてその手紙に応ずるなら、居心地の良くなったこの街から出る事になる。

 仲間達にそれを強いるのは、自分の都合に勝手過ぎる、という悩みだ。

「なんで?」

 だが手紙の内容を喋った記憶も無いアルトは、驚きと疑問の表情で仲間を見回す。

 そして、音楽家(ミュージシャン)を名乗る盗賊ドワーフの手に、見覚えのある封書を見つけた。

「くっくっく、ワタクシに隠し事など不可能ですぞ?」

 いかにも悪そうに自慢のカストロ髭を撫でるレッドグースと、その隣では特に気負いも無く優しげな表情で頷くカリストがいた。

「仲間だろ? なんてクサい事は言わないよ。でも、どうせそろそろだよ?」

「みんな…ん、そろそろ?」

 一瞬、アルトは感じ入って目の端に涙を浮かべ、そしてカリストの言葉に違和感を覚える。

 だが、その疑問に誰かが答えるよりも早く、『金糸雀(かなりあ)亭』の扉が勢い良くバタンと開いた。

「ハリーさんダヨ」

 名乗りの通り、それは神出鬼の錬金少女、ハリエットその人であった。

 突然の来訪者に驚く面々を他所に、彼女は他の事情など考慮もせずに、まるで悪徳商人のような笑顔を浮かべる。

「アルト君たち、そろそろ本格的に手伝ってもらうヨ」

 彼女のそんな言葉に、一同はただただ無言で固唾を呑んだ。

物語のテンポを優先してマリオンの戦闘を省きましたが、『魔法強化』『ブリザード』を叩き込んだ後、『ライトニング』で残敵を掃討して終了でした。

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