VRゲーム黎明期の迷作紹介 ~厨二殺し~
ネタ的な小説です。設定など気にせず気楽に読み飛ばしてください。
「ハイ!今週もやってきました。ゲーム紹介の時間です。私、司会のジョージと・・・」
「アシスタントのユキです。」
「ユキちゃんはこの番組に慣れましたか?」
「ハーイ!アシスタントなのに体張る事が多いのは大変ですけど、最近はファンレターも来るようになりました!」
「・・・・・どうせ、ビジュアル情報に保護がかかっているメールでしょう」
「ええ、ちゃんとした公開データのメールじゃないですよ。そういうジョージさんも同じでは?」
「私の場合は、個人特定情報にレベル3の保護がかかっているメールですね」
「ええと、それって『匿名の人物の嫌がらせ』って事ですよね・・・」
「ディレクター、この部分カットね」
「ハイ、今回紹介するゲームは社会現象を引き起こした格闘VRゲーム”究極ファイト”です」
「あの社会現象を引き起こした割には4とか5とか続編を聞かないんですけど・・・・」
「ええ、倒産しましたから、制作会社と企画販売会社は」
「・・・・・・」
「気を取り直して紹介いきますよ。メインステージのリングの紹介です」
「あの、観客とか背景の作り込みがまったくないですね。これでよく販売できましたね。」
「詳しく紹介しましょう。この時代は軍の支援を受けたFPSは早期に完成して現在まで続く名作を沢山だしています。『外国人傭兵部隊』『戦車.VS.歩兵』とかです」
「優秀な成績を叩き出すと軍からスカウトが来るという都市伝説が有名なゲームばかりですけど・・」
「軍のシュミレーションから派生したFPSの完成度が高すぎて、他のゲームは全く売れなかったんですね。他にもこの時代は優秀なプログラマーはすぐ徴兵されて軍属になりましたから技術力が民間では発達する事が珍しいくらいです。」
「では、この手抜きの背景は精一杯の作り込みという事ですか?」
「ええ、その通りです。では、スタートさせますから私と闘って見て下さい。」
「あの、私には格闘技の経験なんて無いですけど・・・」
「大丈夫ですよ、最初に【流派】を選んでから、戦う際には右キックとか左ジャブとか考えるだけで技がでますから」
-------------ファイト中-------
「凄いですよこのゲーム、実戦空手黒帯のジョージさんにあっさり勝っちゃいまいしたよ」
「ええ、楽しいでしょう。素人の方は」
「なんて表現していいのか。そう急に強くなったんですよ。ハイキックなんて頭の上まで蹴れます。私は体が固いのに ほら!!立ったままで右足を頭につけれますよ」
「それも現在のゲームでは制限されていますが、”極ファイ”の『売り』の一つでもあります。もう一つ挙げるとすると・・・ユキちゃん、力を抜いて構えてから左手を軽く握って下さい。」
「ええと、こうですか」
「それで左ジャブ連打と考えて下さい」
-------------流血シーンなのでカットしました-----------
「わあ、私って実は格闘技の天才!史上最強なの?」
「・・・(この女、無茶苦茶しやがって)」
「凄い!凄〜い!最強!!最強!!私は最強!」
「このように体重78kgある私を20kg以上軽い女性がボコボコにできます。重力や骨密度、筋肉の使い方、筋肉の量等の情報を設定していないからです。パンチが当たったと判定されれば結果が必ず出ます。」
「それの何が悪いんですか?所詮、ゲームですし」
「2013年 スーパーフライ級チャンピオン 傷害事件で検索してください」
------------ユキちゃん 検索中 --------------------
「体重が違うと現実世界ではパンチが効かないのは分かりましたけど、何度も言いますけど所詮ゲームですし」
「もう一つ教えます。左ローキックを連打してください。」
「私が足の位置を変えると、同じ左ローキックなのに蹴り方が全部違うのが分かりましたか?」
「ええ、解りましたけど・・・それがどうしたんですか?」
「左足狙って挨拶替りの足先を走らせるローキックから太腿の内側狙いのインローにつないで一歩踏み込んでから右足狙いのアウトローそしてトドメの体重を乗せたローキックまで、ユキちゃんは考えて攻撃しました?」
「いいえ、システム任せですけど・・・」
「頭の中では同じ左ローキックでも、システムが最適な攻撃方法を瞬時に選んで補正してくれている訳です」
「だから、ゲームなんだから何がいけないんですか?」
「私たち格闘技を習っている者は、反復練習をイヤって程繰り返して様々な状況で考えないで攻撃するようにする訳ですが、このゲームではその苦労が一切無く過去の映像資料から構築された結果だけをシステムがしてくれる訳です。」
「だから、ゲームだから現実と混同するバカなんている訳ないでしょう。さっきから目に止まらないスピードでパンチを打っても手が全く痛くならないしあからさまに現実と違うじゃないですか」
「それはユキちゃんが現在の規制のかかったVRゲームに慣れているからですよ。この当時の技術力では、乳酸の溜まった筋肉の動きの制限つまり疲労、200はあるという骨の動き、関節の角度制限の個人差は計算して表現できなかったのです。従って、参考にした当時最高レベルのグラップラー達の動作を辛い筋力トレーニングや地獄の10人組手、寒い日でも暑い日でも行う反復練習など全く無しで頭の中の世界で達成しちゃったんですよ」
「えっと、それって現在は規制されていませんか?」
「その通りです。このVRゲームが発表されたのは年度末発売の3月ですが、夏休み中に増殖した最強の格闘家と同じレベルの技を頭の中のみで使える厨二病患者が9月に一斉に野に放たれた訳です。」
「それって大問題でしょう。」
「現実の格闘技の世界でもちょっと齧っただけで最強気取りで事件を起こす問題児はかなりの割合で発生します。VRでは最強なのですから勘違いは物凄いですよね。ハイキックを蹴ろうとして腰を痛めた人はまだいい方で、傷害事件が異常な程増加しました。」
「・・・・・・」
「所謂【強い奴】、自分より体重差があって格闘技の経験がある人間を好んで襲って、自滅した奴も多いです」
「・・・・馬鹿ですかソイツら」
「私の師匠から聞いた話ですけど、道場の帰り道に「ラウンドワン ファイト!」と叫んでミエミエのテレフォンパンチを打ってくるアホが大量に発生したそうです。肘ブロックすると痛みでブッ倒れて、その度に救急車を呼ばなくていけなくてかなり面倒だったらしいです。加害者の親御さんからは犯罪者扱いで例の流行語が流行るまでは警察で事情聴取を何度もされたそうですよ」
「格闘技の試合にすらなってない・・・・ガードされたら倒れるって」
「腰を痛めた奴と【強い奴に会ってくる】以外で救急車に運ばれるパターンは【トイレの割れた鏡と複雑骨折で血塗れになった手】だそうです。」
「なるほど、それでこのゲームを今回紹介した訳ですね。通称VRゲーム規制法案の可決する元の事件なんでしょう?」
「”違法VRゲーム症候群”とメディアでは騒がれた事件ですが、『厨二殺し』のほうが有名です」
「ああ、『厨二殺し』ですか。私も知ってま~す。あの流行語」
「後、現実世界に復帰するとかなりの確率で階段で転ぶので気をつけてください」
「!!」
「ユキちゃんは猫背ぎみですよね。現実世界で打撃系格闘技のトップ選手と同じ鍛え上げられた筋肉がみっちりとついている体型で瞬時にハイキックを蹴ってもバランスを崩さない綺麗な姿勢を維持して同じ重心で歩けるなら話は別ですけど」
「もしかして、さっきからガードばかりで攻撃しなかったのは・・・」
「御想像の通り、変な癖を付けない為の用心です」
「どうして言ってくれなかったんですか!!」
「・・・(言ったら喜んで殴ってこないでしょうが)」
「名残惜しいですが時間ですので流行語で最後を終わりましょう」
「「俺のフザケた○○をこの右手ごとぶっ壊す」」
「「また来週」」」
所謂、ゴッドハンドの漫画が流行った時のおかしな道場破りの話は道場に代々受け継がれています。極○空手を本部道場で習っている人に聞いてみると面白いエピソードが聞けるかもしれません。