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第1章 異世界へ 9

 転生前 9



「さて、大体の状況はわかっていただけましたでしょうか。これから今後の事をお話ししたいのですが。」


 今後の事?

 

「ええ。通常であれば、肉体を失った魂はいったん記憶を全て浄化されます。浄化されることで、先の人生で負った傷を癒します。次の生を受ける準備ですね。ただあなたの場合、先の人生に介入され、魂にあまりに多くの傷を負っています。今の状態では記憶の浄化を行うのは非常に危険なのです。浄化の過程で魂が砕けてしまうかもしれません。記憶を封印することさえ危なくてできません。ですから、記憶の浄化を行わず、前の記憶をすべて持ったまま、私が管理する世界へ生まれてもらおうと思います。」

 

 あなたが管理する世界。

 

「そうです。私は管理者の中でもかなり上位に位置しています。よって、管理する世界自体も格が高いのです。世界の格が高いと、世界が大きな力を持ちます。そして世界の力は魂の糧となります。そのため、自然と様々な世界から傷ついた大きな魂たちが集まることとなります。あなたにもそこに生まれてもらうことになります。そして、あなたには特別な贈り物をさせていただきます。」







 転生後 9



 部屋の中は炎がはぜる音だけを残して静まり返っていた。

 彼女以外、誰も動くことができなかった。

 達也は赤い瞳の美しさに惹かれながらも、最初に逢った時よりも心が落ち着いているのを感じた。

 彼女が着る赤い鎧は、よくよく見ると表面が細かい鱗上の物で覆われていて、光沢を放っていた。

 革ではなく何かの金属なのだろうか。

 そんなことをぼんやり考えていると、いつの間にか彼女は目の前まで来ていた。

 

 彼女が首輪に目をやる。

 

「昨日からのはそれか。」


 炎が起こり、首輪が一瞬にして燃え落ちるのを感じた。

 ハンゾウはいつの間にか剣を取り落としていたが、その事に気づいてもいないようだ。 

 不思議と達也は恐怖を感じなかった。

 次に、達也の左腕をつかみ上げられた。

 

「これか。」


 腕輪を彼女がじっと見つめていた。

 

「無意識の魔法の発現を抑えるためのものか。」


 彼女の視線はティナエナに向けられていた。

 問いかけられた彼女は怯えながらもはっきりと答えた。

 

「そうだニャ。達也の力は危険すぎるニャ。それで魔法発動のキーワードを設定して、発動に制限をかけることにしたニャ。」

 

「全く不便なものだな、人の身の生活というものは。しかし、このようなもので縛りつけられるのは不愉快じゃ。」

 

 達也の腕輪が燃え上がり、灰となって消えた。

 達也が感じていた圧迫感が消えた。

 周囲で息をのむ声が聞こえてきた。

 

「キーワードを設定すればいいのじゃな。」


 彼女の言葉にティナエナがうなずく。

 

「まあ、そう怯えるな、帝国の子供たちよ。我らは帝国の子供たちをむやみに傷つけはせんよ。盟約が守られている限りはな。」


 彼女がそう口にすると、彼女の纏う炎が一気に強くなった。

 彼女の背に4対の炎の翼のようなものが出現した。

 それは光輝く炎の翼で、神々しいほどに美しかった。


 達也の左胸に、一瞬焼けるような熱さを感じた。

 

「そいつの左胸に、私の鱗で封印を刻んだ。確認するとよい。」


 その言葉と共に、彼女の背中の翼が消えた。

 達也が服をまくると、直径3cmほどの鱗のようなものが肌に埋め込まれていた。

 赤く透き通る、まるで宝石のような円盤状の物が鱗だとはとても思えなかったが。

 

 用は済んだとばかりに、紅の彼女は踵を返し、まだ燃え盛る炎の方に向かった。

 気がつくと達也以外の3人は、両手両足を床につけ、頭を深く下げていた。

 その状況の意味が分からず達也が戸惑っていると、

 

「発動キーワードは”アキ様の力を今借り受ける”だ。」


 その言葉を最後に、彼女は炎の中に入り、姿が消えた。

 

 彼女の姿が消えると、4隅のたいまつは元の状態に戻った。


「あの発動キーワードは冗談だよな。」


 と達也が呟くと、ティナエナに頭をどつかれ悶絶した。


「お、おまえ今爪が刺さったぞ爪が。あ、ほら、血がでてるじゃねえか。」

 

「血なんかどうでもいいニャー!。」


 上着をつかまれ前を止めている紐を引きちぎられた。

 胸の鱗を凝視された。

 ハンゾウと神官長まで顔を近づけるようにして覗き込んできた。

 

「この輝きに透明感のある鱗、先程の4対の霊羽。そして帝国との盟約。間違いないですね。」


「ああ、ギリヤム山脈の盟約者達。火竜だ。」

 

 その時、部屋の扉が押しあけられ、神官が息を切らせながら飛びこんできた。

 

「し、神官長、迷宮の封印が解放されました!」




 ○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●



 

「アキ様の力を今借り受ける」


 詠唱と共に、俺が両手で持つ長剣が紅い炎に包まれた。

 目の前に迫っていた3匹のゴブリン達が俺の炎の剣に明らかに怯るのが分かった。

 俺は正面に素早く踏み込み、上方から袈裟がけに切り裂いた。

 傷口に炎が燃え上がり、ゴブリンが崩れ落ちた。

 

 体を右に動かしながら、左下方に流れた剣を右に薙ぐ。

 右手のゴブリンの胴が切り裂かれ、炎を上げる。

 剣の流れに逆らわず体を反転。

 左手にいる残ったゴブリンに向け踏み出す。

 ゴブリンが振り下ろす棍棒を右に払い、戻す剣を首に。

 ゴブリンの首が跳ね跳ぶ。

 ここで首を燃やすとまた怒られるので注意する。

 俺が担当した3体は終わった。


 剣の炎を消した。

 ゴブリンの体の炎も、傷口を焼いただけですでに消えていた。

 

 後ろを見ると、カルナとマリナの方も終わったようだ。

 猪の変異種の魔物、ガズナックを仕留めていた。

 まだ子供なのに大したものだ。

 2人は上機嫌だった。


「兄さん、俺たちはガズナックを捌くから、周囲の警戒とゴブリンからの回収をお願いね。」

 

「お兄さんも問題なかったようですね。綺麗に倒せましたし、今回も期待できそうですね。」

 

「分かった。」


 短く応え、俺は周囲に気を配りながら、死体に目を向けた。

 ゴブリン達はすでに結晶化を終えていた。

 魔物は死ぬと死体が消え、黒い半透明の石を残す。

 これは、汚魂結晶と呼ばれ、ギルドで買い取ってくれる。

 今回はそれ以外に牙が2組と爪が2組残っていた。

 死体の1部はこのように残り、各種装備の原料として換金可能な素材となる。

 全て回収し、小物入れに入れる。

 ガズナックを捌くのは少し時間がかかるため、周囲の警戒を続ける。


 これでゴブリンの群れを3回討伐し、依頼ノルマの10匹を超える11匹を倒した。

 依頼達成に気分は軽い。

 カルナとマリナが捌いているガズナックのような動物の変異種は、死体が残る。

 ガズナックは猪の変異種。

 変異種と言っても牙が長く頑丈な程度で、野生の猪とそれほど差はない。

 嗅覚が鋭いそうで、ゴブリンが連れていることがある。

 変異が激しい魔物からは汚魂結晶がでてくることもあるそうだが、ガズナックのようにほとんど動物と変わらないものから出てくることはあまりない。

 その代わり、ガズナックの肉は食料として、骨・皮・牙が素材として売れる。

 今日は当たりだったようで、これでガズナックは3頭目だ。

 報酬を期待しているのだろう、カルナとマリナもにこやかに捌いている。


 周囲を警戒しながら、今日の報酬をざっと暗算してみる。

 Eランク依頼、ゴブリン討伐。

 カラヤンの街の農場西部に出没しているゴブリンの群れの討伐依頼。

 達成条件はゴブリン10匹。

 依頼報酬が十五万円。

 ゴブリンの汚魂結晶が11個で六万六千円、爪が六組に牙が五組で合わせて六万六千円。

 ガズナック3体分の牙と毛皮と骨と肉。

 多少傷がついたが、どれもなかなかのサイズ、十万円は堅い。

 合計三十八万二千円、1人あたり十三万円弱。

 1日の稼ぎとしては充分以上だ。


「兄さん終わったよ。」

 

「さ、街に帰りましょう。今日も無事に終わりましたね。」

 

「よし、今日はうまい物でもしっかり食べるか。」


 カルナとマリナの頭に軽く手を載せ、3人並んで街に向けて歩き出した。


 ギルド加入から1ヵ月が過ぎていた。




 

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