第1章 異世界へ 25
転生前 25
「では、次のニュースです。F県K市で発生した、市長宅立てこもり事件の続報です。事件発生から既に2週間が経過していますが、いまだに解決の目処は立っていない様子です。警察の懸命な交渉が続けられているなか、警察に対する批判の声も高まり始めています。犯人は少なくとも5人以上の複数犯と見られており、武宮市長及び武宮市長の家族合わせて6名を人質にとり、立てこもりを続けています。犯人グループはどういった集団なのか、犯人グループがどのような要求を行っているのか、警察が沈黙を続ける中、全ては謎のままです。未曾有の事件に注目が集まっていますが、長引く事件に、人質の安否が気遣われます。続きまして…、
転生後 25
説明会はギルドの訓練場で行われた。
広い訓練場に多くの冒険者たちが集まっていた。
80人ほど集まっているだろうか。
護民団のハンゾウとティナエナが冒険者たちの前に立った。
「では、早速はじめさせてもらう。迷宮のタイプは岩石迷宮型の自然発光・魔物再増殖タイプだ。各フロアの入り口には通常通り転移オーブが設置されている。1回たどり着いたフロアには、転移オーブでの移動が可能だ。迷宮内部の明かりは保たれている。迷宮規模はCクラス。転移オーブを中心に半径4キロの範囲に収まっていた。通路の幅は2m前後。所々に5mから最大20m程の部屋があった。今のところとラップの類は確認されていない。大体6時間前後で同じ場所に同じ種族の個体が湧く事が確認されている。迷宮探索の最低条件は平均ランクDの4名以上のパーティー、平均ランクCの3名以上のパーティー、平均ランクBのペアとなる。まあ、通常措置だな。」
「護民団を中心とした先遣隊で地下2階までの探索は終了した。希望者にはマップを販売する。確認された魔物は標準的な魔物だけだった。今のところ確認できたのは、スライム系、亜人系、動物系、昆虫系だ。Dランクまでの個体だと思われる。魔物は最大5匹までの集団を形成していた。状況によっては複数の集団との遭遇もあり得るので注意する事。また、1フロアに1体限定のいわゆるフロアボスも確認できた。1、2階共にフロアボスはCランクの個体で、再発生まで約20時間の周期だった。フロアボスを倒すと宝箱が得られた。魔物の情報に関しても詳細は販売する。マップ、魔物情報はいずれもギルドに委託してあるので、希望者はギルドで購入してくれ。」
「ちなみに、フロアボス以外には地下1、2階共に1つずつ宝箱が発見されている。もしかしたらまだ我々が未発見の物があるかもしれない。そして、同じフロアへの転移は前のパーティーが転移してから15分開けないとできないようになってある。入り口の転移オーブは護民団とギルドが共同で管理する。入場は先着順だ。パーティー以外の順番待ちは認めない。」
「また、退場後は、必ずギルドの出張窓口で迷宮で獲得したものをすべて買い取ってもらうこと。ギルドを通じて買い取り額から街と国に税金が支払われることとなる。これに違反して獲得物を持ち出した場合は、判明次第少なくとも迷宮探索の許可は下りなくなるし、悪質と判断された場合は最悪ギルド資格停止もありうるので注意する事。まあ、獲得物の個人所有を希望する場合は、買い取り価格での販売も可能だ。」
「最後の注意だが、迷宮内で他のパーティーの迷惑につながる行為は慎む事。我々が強制できる事ではないのだが、大体自身に帰ってくることとなるので、覚悟しておくように。以上だ。何か質問は。」
「地下1階と2階では何か差はあったのか?」
「ほとんど差は感じられなかった。やや2階の方が魔物との遭遇頻度が多いかなって程度だ。魔物の強さ自体はさほど差はなかった。」
「宝箱の中身は?」
「それは自分で確認してくれ。まあ、大体大金貨1枚ほどの価値はあったと思っていい。」
その言葉に会場がどよめいた。
大金貨1枚となると百万だ。
少なくともそれだけの価値がある物ってことか。
しかし、予想以上に人工的と言うか、不自然な迷宮だな。
獲得物を強制的に買い上げる事で街も国も潤うってことか。
まあ、国の管理下にある以上仕方がない事か。
買い取り価格で自分の物にできるってことは、それなりの価格設定が考えられているだろうからな。
しかし、迷惑行為が自分に帰ってくるってのはどういう意味だろうな。
あ、マップと魔物情報の詳細がどの程度の価格かも気になるところだな。
「質問がなければ次に移るニャ、明日の初日は混雑が予想されるのニャ。だから今日この後、希望者による抽選を行い、入場する順番を決めるニャ。明日の入場を希望する各パーティーは、代表者を決めて私のところに集まるニャ。」
ティナエナの言葉が続いた。
なるほど、初日は混雑するのが当然か。
全員が地下1階からのスタートだものな。
仮に10パーティーが入ろうとしたら、最後のパーティーが入れるのは2時間15分後だし、20パーティーだと4時間45分後だ。
「明日はどうしますかお兄様?」
「当然行くよな、兄ちゃん。」
「我はタツヤ殿に任せるぞ。」
3人ともが達也に聞いてくるが、さあどうするかな。
マリナやカルナはもちろんだが、サクラも任せると言う割には目がうずうずと輝いていた。
カルナの様子は気になるところだが、今は焦燥感も薄れ、迷宮への期待感であふれているようだ。
こういったところはまだまだ子供なんだよな。
焦燥感よりも迷宮への期待感の方が高いようだ。
ここは勢いに乗ったほうがいいな。
「まあ、せっかく入れるんだからな。早速挑戦してみるか。」
皆の顔に喜びの笑顔があふれる。
「じゃあ、くじは誰が引く?」
「お兄様にお任せします。」
「俺が引く!」
「くじなら我に任せるがよい。」
…全くこいつらと来たら。
カルナの主張にマリナは遠慮したようだが、サクラは引かなかった。
「俺が引くって!」
「運の強さなら、エルフが1番に決まっておろう。」
サクラの言葉にそうなのかとマリナに聞いてみるが、マリナも首をひねった。
「さあ、私もそこまでは聞いた事がないのですが。」
「何を言うか!我の悪運の強さはマモルもあきれるほどなのじゃぞ!」
おい、こら。
「悪運が強くてどーすんだよ!くじに必要なのは幸運だよ!俺に任せてって!。」
「な、何じゃと…。」
「なぜにそこまで自信満々だったのか分からんが、確かに悪運でくじを引かれてもなあ…。」
「そうですよねえ。」
「む、むう…。」
「じゃ、じゃあ、俺が引いていいよね!。」
カルナの顔が期待感に溢れる。
「まあ、俺は構わないぞ。」
「私も問題ありません。」
皆の視線がサクラに集まった。
「むう、仕方あるまい。ここはカルナに任せるとするか。」
「やった!んじゃ行ってくるね。」
カルナが颯爽とティナエナの元に駆けていった。
「あのような姿はやっぱりまだまだ子供じゃのう。かわいいもんじゃ。」
「なんだ、今のはわざとか?」
サクラのほのぼのした様子に聞いてみた。
「まあの、いつまでもうじうじしてるのも子供にはよくないからの。」
「サクラさん、どうもありがとうございます。」
マリナの恐縮した様子に、
「なんのなんの、これも年長者の義務のようなもんじゃ。のう、タツヤ殿。」
「まあな、カルナはまだまだ人に甘えていい年だからな。しかし。」
「なんじゃタツヤ殿。」
「どうしましたお兄様。」
「いやなに、サクラに年長者って言葉が似合わないと思っただけだ。」
「なんじゃと!」
サクラの顔が怒りで真っ赤に染まった。
「我のどこが年長者としてふさわしくないと言うのじゃ!」
マリナは必死に笑いをこらえていた。
「それじゃー、くじ引きを始めるニャー。」
カルナが引いたくじの結果、俺達の順番は21番目で最後となった。