第1章 異世界へ 24
誤字の訂正してます
転生前 24
俺達の高校は文武両道をうたっているためか、部活が盛んなだけではなく、土曜にも午前中だけ授業があった。
一応自由参加とはなっているものの、普通に授業が行われるのでほとんどの生徒は参加していた。
はた迷惑な事だ。
来週から定期テストのため、俺達は久々に地元の図書館にでも行って勉強しようかと言うことになった。
一番近いバス停でバスを降りると、市民公園の隣が図書館だ。
公園の中を抜けると近いので、俺達はいつもそこを通っていた。
公園はちょっとした規模の物で、地元民の憩いの場となっていた。
天気の良い土曜の午後と言うこともあり、芝生でレジャーシートを広げてくつろいでいる家族連れやカップルも多かった。
「あっ!」
俺たちがのんびり公演の中を歩いていると、突然、あの子の驚きの声が上がった。
奥の芝生の方を凝視していた。
あの子の声に驚いた俺達もそちらを見た。
あいつがいた。
ここからだと少し距離があるが、間違いない、あいつだ。
レジャーシートを広げて芝生に座っていた。
赤ん坊を抱き抱えて。
すごく穏やかな表情で、抱いている赤ん坊を見つめていた。
「護ー、おまたせ。遅くなってごめんね。」
図書館の方向からやってきてあいつに声をかけたのは、20代前半くらいの女性だった。
小柄でショートカット、ジーンズにジャケットとボーイッシュな感じな人だ。
「志保はいい子にしてたかな。」
と、マモルが抱く赤ん坊を笑顔で覗き込んだ。
綺麗な人だった。
「今さっきミルクを飲んだところだよ、望さん。ほら、気持ちよさそうに寝てる。」
あいつもにっこり笑いながら答えた。
「あら、ほんと、かわいい顔で寝てる。護が抱くと、いつもご機嫌なのよねー、志保は。」
「望さんもおなかすいたでしょう?ほら約束通り、サンドイッチ作ってきてるよ。」
「わっ、ありがとう!護のサンドイッチ美味しいのよねー。護もまだなんでしょ、一緒に食べよ。」
俺達は茫然とその様子を眺めていた。
「いこうよ。」
あの子の硬い声に促されて、俺達は図書館に向かった。
「あれって、まさか、そーゆーことなの?」
「信じられねー、あの護が?相手年上だよな?」
「就職した理由ってあれなのか?中卒でできちゃった結婚?」
勉強そっちのけであいつの話題でもちきりとなった。
図書館のロビーでひそひそと話した。
「彼の…。」
あの子の涙声に、俺たちの視線が集まった。
「護のあんな笑顔、私初めて見たよ……。あんなに穏やかな笑顔なんだね、護のほんとの笑顔って……。バスケで勝った時の笑顔よりも、とっても幸せそうだったね……。」
そううつむきながら、涙の滴ををポトリポトリと落とす彼女に、俺達は何も言うことができなかった。
転生後 24
”気”の鍛錬はマモルの指導の元、毎日朝食前に行われた。
いわゆる座禅だった。
「自分の体の中の”気”の流れを感じるんだ。丹田より出て、背骨を通り頭に上り、胸の前を下って丹田に戻る。同じように、両手両足にも巡ってる。ゆっくりゆっくりでいいから。呼吸は鼻から吸う。肺で吸うんじゃなくて腹で吸って、丹田に込める感覚で。そしていっぱい吸ったらいったん止めて、口からゆっくり吐き出す。吸った時間の倍の時間をかけて吐き出す感じ。」
最初の頃は呼吸の仕方ひとつに戸惑ったものだが、大分慣れてきた。
いつしか、周りの様子も座禅で集中していると感じ取れるようになってきた。
右隣りの俺よりも力強い”気”はサクラ。
左隣の、俺よりも小さいが、俺への信頼感と、そして反対側の兄への不安感がこぼれてくる”気”がマリナ。
そして、サクラの隣に感じる、焦燥感と劣等感であふれるマリナよりも小さな”気”がカルナだった。
カルナの様子は心配だ。
13歳という年齢を考えれば今でも十分以上な能力のはずなのだが、本人は納得できないのだろう。
そして、不思議なのはマモルだった。
明らかにそこにいるはずで、俺たちのだれよりも大きな”気”を持つはずなのに、目を閉じている今は全く感じ取れなかった。
”気”は色々と奥が深そうだ。
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「なんでだよ、なんで俺だけだめなんだよ!」
オーク討伐を終えた俺達は、ギルドで依頼の清算をしていた。
今日の受け付けはテルミナと言う、兎頭の獣人だった。
「カルナさんは残念ですがまだ昇格ラインに届いておりません。マリナさんは今回の依頼でDランク到達が確認できました。それだけのことです。」
テルミナはサブリナさんほど愛想がよいタイプではなく、結構ズケズケと物をいうタイプだ。
「だって、俺の方がマリナよりも力が強いよ!マリナがDランクなら俺だって!」
その言葉にテルミナは首をかしげた。
「そう言われても、私が決めてるわけではありませんから。そもそも魔法を使う職は筋力だけがランクの基準じゃないでしょうし。」
「くそっ!」
カルナはそう言うと、1人でギルドを出て行ってしまった。
マリナは慌ててカルナを追いかけて行こうとしたが、サクラが引き留めた。
「今はサクラがそばに行ぬほうがよい。1人にしておいてやるのじゃ。」
「でも、カルナが、」
「どうしたんだ、こんなところで大声を出して、お前らにしちゃ珍しいな。」
野太い声がかけられた。
「エギグルか、いや、ちょっとな。」
「今、出てったのカルナだろう?マリナちゃんと別行動とはえらく珍しいな。」
エギグルが不思議そうに大きな首をかしげる。
あの決闘以来、エギグルは屈託なく話しかけてくるようになった。
最初は戸惑っていたマリナも、今では普通に話をしている。
話をして見れば何のことはない、ちょっと短気だが面倒見のいいおっさんだった。
おかげでエギグルの取り巻きたちとも、普通にあいさつ程度は交わす仲になった。
「いやな、さっきタツヤ殿とマリナのランクが上がったのじゃ。」
サクラの言葉に、エギグルは素直に称賛の声を上げた。
「そりゃー大したもんだ。これでタツヤはCランクか、あっという間に追いつかれちまったなー。おまけにマリナちゃんまでもDランクか…、いやいや2人とも大したもんだ。」
「しかし…、カルナはまだ残念なことにのう…。」
「なるほど、そういうことか。」
エギグルが頷く。
「まあ、カルナの気持ちも分かるがな…。同じパーティーで一番ランクが低いってのは気まずいもんだからな。だがなあ…。そりゃカルナの贅沢ってもんだな。」
「贅沢ですか。」
「ああ、はっきり言うがお前らの成長は早すぎるんだ。俺がギルドへ加入できたのは16の時だ。Fにはすぐに上がったが、Eになったのは18になってから。Dに上がったのは24。これでもそれなりのもんなんだぜ?Cにようやくなったのは30越えてからだしな。タツヤはもちろんとして、サクラもマリナも充分以上に早い。カルナだって13歳でEランクなんて本来とんでもないんだ。」
エギグルはしみじみと述べた。
「でも、有名なAクラスの方は、20代の方も多いですよね?」
マリナが口を挟んだ。
「ああ、確かにそうだ。Aクラスの連中の中には20代の奴も確かにいる。だがな、あいつらもDクラスに上がるまでは俺と似たようなもんなんだぞ。」
「そうなのか?」
その言葉に驚いた。
「ああ。ああいった連中はDクラスになって、迷宮探索で一気に成長した奴が多いんだ。D以上への成長は普通だと5年10年かかるのがざらなんだぜ。けど才能ある奴はあっさり乗り越えていくって話だ。まったくあやかりたいもんだぜ。」
…そうか、それがもしかしたらマモルが言っていた、”オーラの力”を使いこなせるって奴らなのかもしれないな。
「だから、カルナのEランクは全く恥じるもんじゃないんだ。むしろ誇っていいものなんだぜ。まあ、しっかりしてるようでもまだまだガキだからなあ。」
あいつはまだ13だからな。
あの年頃の男にとって、自分の妹に抜かれるって言うのはきついんだろうな…。
「まあ、今は仕方ない。」
そう言ってマリナの頭に手を載せた。
マリナは不安げな表情のまま、カルナが出て行った扉を見つめていた。
次の日、ギルド員への迷宮開放に先立ち、説明会の開催が行われることが発表された。