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第1章 異世界へ 14

 転生前 14



 俺達は必死になって勉強を始めた。

 今までバスケ一筋の生活だったから、今のままではあいつと同じ高校は厳しい。

 だが、部活で鍛えた体力と根性は伊達じゃねえってところを見せないとな。


 放課後も図書室に残り、皆で勉強をした。

 元マネージャーのあの子はかなり成績が良く、俺達の勉強をよく見てくれた。

 俺もなんだかんだと理由をつけてはあの子に質問する。


 勉強を頑張れば、あの子と同じ高校に行ける。

 けして口にはできないが、これも大きな理由であることは間違いなかった。


 あいつは授業が終わるとすぐに帰っているようだ。

 まあ、俺たちと違い受験の必要もないからな。

 まじめなあいつのことだ、どこかでトレーニングでもしてるのかもな。

 学校の図書館で勉強しているのは俺達だけじゃない。

 学校だと不自由だしな、あいつの場合。







 転生後 14



「じゃあ、今日からいよいよEクラスの討伐依頼を受けるよ。」


「頑張りましょうねお兄様。」


 カルナとマリナと一緒にパーティーを組むようになって、2週間が過ぎた。

 この2週間の間にFランク討伐依頼を4回に、3人での連携訓練、なかなかにハードな毎日を過ごしていた。

 それでもやはり、Fランクの収入はたかが知れていた。

 合計約八万円の稼ぎにしかなっていない。

 魔物を何度か焼き尽くしてしまったが、そのたびにマリナが涙目で見つめてくる。

 あの目は反則だろう。

 必死になって魔法を制御した。

 いや、待て、俺はロリコンじゃないぞ、うん。


 このペースでは月十六万円程にしかならず、装備の新調も厳しい。

 いい加減防具ぐらいは買いたいから、上を目指していくしかない。

 それに、カルナとマリナの足を俺がいつまでも引っ張るわけにもいかなかった。



「今日は何を倒すんだ?」


 今まで倒したのはネズミの変種のラウンドンと、犬の変種の縞犬だった。

 どちらもFランク。

 Fランク依頼は落ち着いてこなせるようになっていた。


「今日はEランクのラットマンだよ。東の街道の近くに巣穴ができたらしいんだ。5匹ほど住みついているらしい。今から出れば、午後のまだ明るいうちに着くと思う。うまくいけば今日中に倒せるかも。」


「そりゃ都合がいいな。で、ラットマンってどんな魔物なんだ?」


「簡単に言うと、2本足で歩く大きなネズミです。1mくらいはあります。牙や爪が武器で、4本足で体当たりもしてきます。噛みつかれると病気になることもあります。魔法の治療も時間がかかりますので注意してくださいね、お兄様。」

 

 すでに昨日のうちに準備を済ませてあった俺たちは、さっそく出発した。


 

 この2週間で、カルナとマリナとは色々な話をした。

 俺の方はよく覚えていないので、もっぱら2人の話を聞くばっかりだったが。

 カルナとマリナは街の孤児院出身なこと。

 小さいころに両親を魔物に殺され、孤児になった事。

 もっとも、その事を幼かった2人は全く覚えておらず、孤児院の院長に教えてもらったそうだ。

 街の子供なら誰でも入れる訓練所で読み書き計算を教わりながら冒険者の基礎訓練を始めたところ適性が認められたこと。

 そして訓練所でめきめきと頭角を現し、カルナが11歳、マリナが10歳の時にギルドへの推薦を認められ、孤児院希望の星となった事。

 1年前にEランクに昇格し、孤児院への負担を減らすために2人で部屋を借りたこと。

 通常、FランクからEランクまでの昇格に2年、Dランクの昇格にさらに4年はかかること。

 昇格に倍以上の時間がかかる人間もいること。

 さらにCランクの昇格には壁のようなものがあって、素質がないと上がれないと言われており、素質がある者でも10年近くかかるのも珍しくないこと。

 Dランクになってようやく家族を養ってもある程度余裕のある生活が送れるようになり、Cランクにまで上がるとそれなりに豊かな生活が送れるようになるとのこと。

 10代後半にギルドに加入し、30代半ばでようやく壁を超えれた者だけがCランク、と言うところらしい。

 なかなか厳しい世界だ。

 2人は冒険者として少しずつ収入も増えてきているが、稼ぎの中から孤児院への寄付や差し入れを行っているので、中々生活は楽にならないらしい。

 子供なのに立派なもんだ。 


 街に来る時は全然気付かなかったのだが街道の脇には1km毎に杭が打ち込まれていて、街からの距離が分かる用意なっていた。

 10km毎には赤い目印も付いている。

 だいたい40km毎に街道脇に広場のように整地されていて、旅人達が宿泊場所として利用するそうだ。

 今回俺たちが目指すのは街から20kmの地点にある赤い杭。

 そこから南に5km程行ったあたりに小さな丘があり、巣穴があるらしい。

 時々荷馬車とすれ違い、昼を少し過ぎたあたりで2本目の赤い杭に到達する。

 どの馬車にも護衛がついていた。


 広場で軽く休憩し、食事を取ることにする。

 最近のお気に入りは、黒パンにチーズとモツ肉のソーセージをはさんだホットドックもどき。

 俺の魔法で軽く炙ると香ばしくとてもうまいので、狩りの遠征の時の定番になりつつある。

 野営の際にはスープかシチューも作るのだが、短い休憩で火を使うのは魔法がないと難しいので、カルナとマリナにもいつも喜ばれる。


「では、いつものように方向は私がしっかり把握します。行きましょうか、お兄様、カルナ。」


 休憩を終えると、マリナが荷物から方位磁石を取りだし、方向を指示する。

 マリナはいつも歩いたルートを地図にまとめ、地形の特徴や植物分布などを書き込んでいく。

 ある程度まとめると地図としてギルドが買い取ってくれるらしい。

 所々に木や低木の茂みがあるものの、基本草原が続くなか、歩き続ける。

 自分だけだとすぐに道に迷いそうだ。


「あの前方に見える木のあたりのようです。」


 マリナが木を指し、告げる。

 小高い丘になっているようで、低木が茂っているようだ。


「よくあんな所の巣穴が見つかったな。」


 俺は思わずつぶやいた。


「ここら辺一帯のカバラ草原には、草原の民が住んでるんだ。んで、魔物たちの情報をギルドに報告してくれるんだよ、兄ちゃん。」


「とても小柄で、少し耳が長い種族なんだそうです。人見知りする種族なので、めったに姿を見せることはないんですけどね。どこに住んでいるのかも謎なんです。独自の魔法を使うそうなので1回お会いしてみたいのですけどね。」


「そんな種族もいるのか…。俺も見てみたいもんだな。で、どうする?」


カルナとマリナが顔を見合わせる。


「まだ日が沈むまで、2、3時間は充分にあるし、とりあえず偵察をしてから決めようか。依頼通り5匹程度の巣なら一気に仕留めちゃおう。」


「そうですね、早く仕留めるに越した物はありませんね。」


 俺達は慎重に近づいて行った。

 巣穴があそこだと、もういつ遭遇してもおかしくない。

 丘には低木が生い茂っていて、2mくらいはあるだろうか、思ったよりも大きな横穴がいていた。

 草に隠れながら穴の様子をうかがう。

 入り口には何も見えず、奥の様子ははっきりしない。

 風はちょうど右手から左手方向に流れており、こちらの臭いに気付かれることも無いだろう。


「兄ちゃん、あそこを見て。」


 珍しく、カルナの緊張した声。

 穴の右手の木を指差している。


「あの木の根元の白いの、見える?」


 確かに何か白い物が見える。

 目を凝らしてみる。


「あれは、何かの頭の骨か?ずいぶん大きい気がするが。」


「ええ。あの形はおそらくガズナック。猪の変異種です。通常はEランクの魔物なのですが、あの頭部の大きさ。どう見ても通常のサイズではありません。あれだけの大きさであれば少なくともDランク。もしかしたらCランクに届くかもしれません。」


 マリナの声も緊張していた。

 同じ種類の魔物でも、個体による差は生じる。

 特に体の大きさは強さに直結するので、注意するよう言われていた。


「もしCランクだとしたら、とてもじゃないけど5匹のラットマンが仕留めれるわけないよ、マリナ。少なくとも15匹以上は居ると見たほうがいいな…。」


「依頼の情報が間違っていましたか…。残念ですが、ここは無理せずに引き返すべきですね、カルナ。」


 カルナとマリナがそう囁きあう。

 確かにそれだけの数になると俺達3人では厳しいだろうな。

 ここまで来たのが無駄足になるのは悔しいが、仕方ないことか。


「マリナ、兄ちゃん、戻ろう。今ならまだ巣穴の中の連中は俺達に気付いていない。」


カルナの声に俺達が引き返そうとした瞬間だった。


「グアアアアアアア!」


 風下から叫び声と共に大きな魔物が2匹あらわれた。

 どう見てもネズミなんかじゃない。

 2m以上はある醜い人が崩れたような顔をした生き物で、手に大きな棍棒を持ち、筋肉は隆々として腰にはボロ布を巻いている。


「やばい、オークだ!くそっ。ラットマンの巣をオークが襲ったんだ。」


 カルナが武器を構える。


「大地の女神ケレスよ、汝の子供達に守護の力を。我らの戦いに聖なる祝福を。」


 マリナの援護呪文が唱えられる。

 パーティー全体の物理防護力と魔法抵抗力が上がる魔法だ。

 いつもなら心強いのだが、今回ばかりは心もとない。

 2人も明らかに緊張しているのが分かる。

 オークはDランクの魔物だ。

 俺も冷や汗を感じながら武器を構え、唱える。


「アキ様の力を今借り受ける。」


 剣が炎に包まれる。


「兄ちゃん、片方は俺とマリナが抑える。損傷は気にしないでいいから全力でもう1体を燃やしつくしてっ。」


「分かった。」


 俺達は左右に分かれ、突進してくるオーク達に立ち向かった。

 生き延びるために。


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