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第1章 異世界へ 12

 転生前 12



 あいつには、バスケで強豪の私立高から推薦入学の話が来ていた。

 俺達はあいつがいない時に話をした。


「私もあそこの高校受けようかなー。なんか全国大会常連校のマネージャーって結構おいしかったしなー。」


 そう言って照れ臭そうに笑う彼女。


 俺達も決めた。

 今度こそあいつに追いついて、全国大会で優勝しよう、と。


 中学生の俺たちではあいつの力になれなかった。

 バスケでも、私生活でも。


 高校に行けば、あいつの姉妹もいない。

 あいつは自由になれる。

 今度こそ本当の友達になろう、と。


 そして俺は心に決めた。

 

 高校では絶対にあいつのワンマンチームとは言わせない、と。







 転生後 12



「お兄様、汚魂結晶は魔物の存在の力が結晶化したものと言われています。この汚魂結晶を精製することで魔宝石が作られるそうです。ギルドの大きな収入源になっているそうで、この汚魂結晶はギルドが買い取ってくれるのです。牙兎はGランク魔物ですから安いですけどね。綺麗な状態で買い取り単価は千円なんですけど、これは欠けてますから半額、2個で千円でしょうね。ただ、全ての魔物から得られるとは限りません。魔物は原則として死ぬと死体が残らずに結晶化するのですが、動物的な要素が強い動物の変異体は結晶化しないで死体のままであることも多いのです。ですがその場合も毛皮や骨なんかが素材として使えることが多いですし、食用になる肉であればそれも売れます。ですので、冒険者はなるべく魔物の死体の損傷が小さくなるように戦います。死体の損傷が大きいと汚魂結晶が欠けることが多いですし、素材の回収ができなくなります。ドロップも出にくくなると言いますしね。」


「ドロップ?」


「死体が結晶化する時に、死体の一部が残ることがあるんだ、兄ちゃん。牙や羽、毛皮や骨、爪や鱗なんかが一般的かな。今日の牙兎だと牙か毛皮だね。そう言ったのは素材として武具の原料にできるんだ。もちろん売買もできるんだぜ。牙兎は見た目より結構変異度が高い魔物だけど結晶化する割合は4割くらいかな?結晶化する死体の損傷度が低い方がドロップが出やすいって言われてるんだぜ。」


 街に向かって歩きながら、カルナとマリナの説明を聞く。


「しかし、綺麗な状態でも1個千円とは随分安いんだな。」


「仕方ないですよお兄様、Gランクなんですから。ランクが上がると価格も上がります。Fで二千円、Eで六千円、Dだと一万円、Cになると二万円。汚魂結晶をきちんと回収できるかどうかで収入にかなりの差がでるんですよ。ですので普段からなるべく綺麗に倒すよう努めるべきです。」


「そうだよ兄ちゃん。ランクが低いと依頼報酬も安いんだ。俺達Eランクでようやくソロ単価が三万円だぜ。Fだとソロ単価が一万円だから汚魂結晶や素材の収入をしっかり確保しないと食ってくだけでもなかなか厳しいんだ。」


「1回で一万円の収入があるなら十分じゃないのか?」


「残念ながらそうもいかないんです、お兄様。今日は比較的街から近い場所での討伐でした。ですが、通常は狩場まで1日以上かかります。往復で2日、討伐に1日、1回の依頼で3日程度かかるのは普通なのです。」


「それに、休みなしで依頼をこなし続けるってのも体力的に厳しいし、訓練する時間も必要だしね。武器や防具の整備、討伐準備に時間がかかることもある。大体同格の討伐依頼を2週間で3回が普通かな。毎日討伐なんか絶対無理だよ、兄ちゃん。」


 なるほど、そうなると確かに厳しいな。


「だが、そうなると今度は収入が厳しそうだな。Fランクで食っていけるのか?」


「Fでは、完全な自活は厳しいですね。ですのでレベルの低い冒険者は大体自宅のある地元での行動が中心となります。他職との兼業者も多いですね。部屋を借りるにはある程度の資金が必要ですし、安宿でも食事付きで1泊三千~五千円はします。ギルドの簡易寝台を借りても、大部屋の雑魚寝で二千円ですからね。Eランクでようやく一人前、生活に余裕ができるのはDランクからでしょうね。他の街に出向いたりするのも大体Dランクからのようですし。」


「結構厳しいもんだな…。Gランクの俺は食っていけるかどうかも怪しいのか…。」


「あ、兄ちゃんのランクは間違いなくFに上がるよ。」


「そうなのか?」


「うん、兄ちゃんはティナエナさんの推薦があったからね。Gランクの魔物五匹のソロ討伐はFランク依頼だよ。で、兄ちゃんはそれをこなした。問題なくFに昇格するよ。」


「それでもFか…。しばらくはカツカツの生活になるのか…。」


 Fの収入だと宿を取るのはまず無理っぽいから、そうなるとほとんど野宿か?。

 食事も最低レベルの物になりそうだな…。

 冒険者というより浮浪者に近いんじゃないかそれ…。

 思わず落ち込んだ。


「そこでお兄様に相談なのですが、私達2人とパーティーを組んでいただけませんか?組んでいただけるのであれば、私たちが借りている部屋にはまだ余裕がありますので来ていただいて構いませんよ。」


 にっこりほほ笑みながらのマリナの言葉に、俺はかなり驚いた。


「お前達はもうEランクなんだろう?いつも組んでるパーティーがあるんじゃないのか?」


 カルナとマリナが目線を交わす。


「俺たちは最近ずっとペアなんだ。だから、Eランクの討伐依頼は毎回命がけ。2、3日かけてようやく討伐成功って感じかな。」


「なんでペアなんだ?その年でEランクってかなり優秀なんだろう?」


「私のせいなんです。」


 マリナが辛そうな表情になる。


「最初は私達をいろんな人たちがパーティーに入れてくれました。みんなが私たちを弟や妹のように可愛がってくれました。ですけど…。」


「マリナを変な目で見る奴が増えてきたんだ。何かと理由をつけて、マリナだけをパーティーに加えようって奴らが出始めた。でも、俺たちは2人で一緒にやってくって決めていたから、全部断ってた。そしたら今度は、マリナに自分の女になれって言う奴が出てきたんだ。」


「私ははっきり断りました。私はまだ子供ですし、恋人とかよく分かりません。ギルドで必死に稼ぐだけで精一杯なんです。なのに分かってくれませんでした。」


「冒険者は、冒険者同士のトラブルを嫌うからね。気が付いたら俺達はみんなから避けられていた。なにかとしつこくてさ。それに、子供なのに実力があるのが気に入らないって奴も多くてね。今じゃ俺達に声をかけるのはマリナ目当ての諦めの悪い奴らくらいしかいないんだ。」


 こんな子供に手を出そうとした揚句、つまはじきにするか。

 確かにマリナは綺麗な顔つきをしているが、いくらなんでもなあ。

 俺はイラついていた。


「お兄様、通常討伐依頼は5人パーティー用に設定されています。少数だとトラブルが生じたとき致命的な問題につながることが多い。大人数だと効率が悪すぎる。それで5人パーティーに落ち着いたらしいです。Eランクの場合、Eランクの魔物5匹の討伐で総報酬が十五万円が相場です。同ランクの魔物と互角以上に戦えるのが冒険者としての基本条件なんですけど、逆に言うと同ランクの複数の魔物と同時に戦うのは厳しいと言うことになります。だから私達みたいにペアで受けると危険度があがるんです。1つの依頼に時間がかかると当然数をこなせません。もし私が治せないような大きなけがを負ってしまったら、依頼を受けることも不可能になります。私達はかなり厳しい状況なのです。」


「なるほどな、お前達も結構苦労してんだな。」


 状況は分かってきた。


「だから、兄ちゃんに力を貸してほしいんだ。兄ちゃんが加わってくれれば、俺と兄ちゃんの2人が前衛、マリナの後衛、バランスはかなり良くなる。それに、マリナの僧侶って職は結構貴重なんだよ。」


「そうなのか?」


 ゲームじゃ回復職の僧侶は定番だったはずだが。


「基本的に僧侶は神への祈りを力とします。信仰心が強い人は大体神殿に仕えて神官になることが多いのです。修行を兼ねて護民団に入る方はそれなりにいるようですけど。私はお金がいっぱい欲しいので冒険者なのです。」


 と、マリナがにっこり笑って舌を出す。


「回復魔法は水属性の魔法使いも使えるけど、効果は僧侶の方が高いんだ。それに、戦闘時に戦闘補助の魔法で防御力や魔法抵抗力を高めてくれるんだよ。マリナがいるだけで生存率が全然違ってくるんだ。」


「そりゃたいしたもんだな。」


 俺は本気で感心した。

 他の連中がマリナを引きこもうとしたのはそれも大きな理由なんだろうな。


「私達とお兄様はかなり相性がいいはずです。Eランク討伐は充分こなせるはずですし、Dランクにも手が届くようになるはずです。ぜひ私達と組んでください。」


 マリナとカルナはじっと俺を見る。

 そうだな、悪い話じゃない。

 何より…。


「いいぜ、お前達と組もう。泊る場所を借りれるのはありがたいしな。」


「やったー!」


「ほんとですか、お兄様。」


 2人も満面の笑みを浮かべる。


「ああ、それに、くだらない理由でお前達をはぶるような連中、俺としても付き合いたくないからな。陰険だろ。そんな男になりたくないからな。」


 俺はそう言い切った。

 どうせ生きていかなきゃいけないなら楽しまないとな。

 この2人となら楽しくやっていけそうだ。


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