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第1章 異世界へ 11

 転生前 11



「そして、あなたには特別な贈り物をさせていただきます。」


 贈り物?


「ええ。その世界に生まれるものは魂が受けた傷を癒すための補助として、何らかのギフトが贈られることが稀にあります。あなたの世界のゲームや小説に出てくる能力のようなものですね。魂の主の希望や嗜好を元に贈られることが多いのですが、通常は当然ある一定範囲内でのギフトとなります。ただ、あなたの場合は明らかに我々管理者側の落ち度となりますので、あなたの希望を聞いたうえで、一定範囲を大幅に超えたギフトを贈らせていただくことが可能となっています。どんなギフトがよいか、考えてみてください。」


 それよりも、私がこのまま生まれ変わったらあの子はどうなる?

 あの子は今一体どうなっている?







 転生後 11



「では、確認します。お兄様の最初の依頼は牙兎5羽の討伐です。この周辺にいくつかの巣穴が報告されています。私たちはあくまで見届け役ですので、お兄様、頑張ってくださいね。」


 にっこりほほ笑む10歳くらいに見える女の子。

 茶色の髪に大きな茶色の目。

 綺麗というよりはかわいらしい顔立ちのこの子はマリナ。

 幼く見えるがEランクの僧侶。

 小柄だが12歳らしい。

 神官たちが着ていた僧服を簡略化したような上下の服に、革の胸当てを身につけている。

 腰に下がっている50cm程の杖は先端に10cm程の金属の塊。

 杖というよりはメイスに近いのか。


「兄ちゃんの魔法ならあっという間に終わっちゃいそうだけどなー。」


 その隣にはよく似た顔立ちのやはり小柄な少年。

 同じく10歳くらいに見えるのだが、13歳のカルナ。

 Eランクの戦士でマリナの兄。

 上半身に1部を金属で補強された革の鎧、腰に片手剣と背中に少し大きめの盾。


「分かってる。この周辺で探せばいいんだな。」


 俺は剣と盾を構え、牙兎とやらを探し始めた。

 ギルドでみた資料だと、そのまんま牙が生えた兎だった。

 雑食性で、人を襲うこともあるらしい。

 しかし、こんな子供達が冒険者だと言うのにはいまだ違和感がぬぐえなかった。

 ギルドで見かけたほかの冒険者は若くても10代後半に見えた。

 まあ、今はどうでもいいことか、と頭を切り替える。

 兎とはいえ、相手は魔物、油断できる状況じゃない。


 ここは街の南東方面の丘陵地帯だった。

 膝くらいまでの草が生い茂っている。

 カルナとマリナは20mほど後方でこちらの様子を見ている。

 周囲を警戒しながらゆっくり歩く。

 しかし、兎ってどうやって探す物なんだ、と考えていると、右足の脛に鋭い痛み。

 思わず右足を蹴りだす、と小さな灰色の毛玉が飛び、前方に降り立ちこちらを睨む。

 大きな前歯の代わりに2本の牙が突き出した兎。

 こいつが牙兎か。

 盾を前方に構えながらゆっくり近づく。

 と、今度は左腿に痛み。


「うおっ。」


 思わず声が出る。

 別の牙兎が噛みついてきていたのを慌てて盾で振り払う。

 気がついた時には複数の牙兎達に囲まれていた。

 たかが兎と侮っていた。

 達也は嫌な汗をかいていた。 



「うわー、まるで素人か…。よそ者だし、牙兎の事も知らないみたいだったし、こりゃ外れかなー、マリナ。」


「周囲の索敵も全然できていなかったようですね。あれだけの魔法が使えるのに、素人というのも奇妙な話ですね、カルナ。」


「あれじゃパーティーに誘うのも無駄だね、マリナ。」


「…待ってください、現状では彼以外に選択肢はありませんよ、カルナ。今のままではせっかくの迷宮にいつまでも入れないではありませんか。迷宮に入るにはパーティーの平均レベルがD以上ないと許可されません。ペアでは現状のEランクが精一杯です。Dランク依頼への挑戦は非常に難しいですよ、カルナ。」


「たしかにそうなんだけどさー、だからこそあんな素人のお守りをしている暇はないんじゃない、マリナ。」


「ただの素人ならそうなのですが、あの魔力があれば化けるかもしれませんよ、カルナ。今のギルドに私たちとパーティーを組んでくれる人はティナエナさんしかいません。しかし彼女は護民団の方で現状手一杯。手があいたとしても組めるのは月に1、2度あるかないか。このままでは昇格まで数年かかってしまいますよ、カルナ。」



 

 達也は焦っていた。

 まだ1羽も倒せないどころか、1度も剣が当たらない。

 牙兎は小さく素早い。

 盾を構えると視界が狭くなり小さな牙兎はすぐに死角に入ってしまう。

 気がついた時には後ろや横から襲われ小さな傷をつけられる。

 一つ一つの傷は小さいが、すでにかなりの傷が付いていた。

 まだ体力は十分にあるがこのままではまずい。


「お兄様ー落ち着いてくださーい。」


 後ろから声が届いた。

 マリナだ。


「とにかく慌てないで、周囲の状況をしっかり確認してくださーい、お兄様には魔法があるのですよー。」


 そうだ、魔法の事さえ忘れるほど動揺していた。


「兄ちゃーん、相手は数がいるけど、兄ちゃんは相手の攻撃を受けてもしっかり耐えているんだから、1羽ずつ確実に減らしていくんだー。」


 カルナの声も聞こえてきた。

 そうだな、このまま慌てても仕方ないなと盾を足もとまで下ろし視界をしっかりと確保する。

 正面の1羽を除いた他の兎達はゆっくりと背後に回っている。

 なるほど、兎達の方が落ち着いてるってわけだ。


「アキ様の力を今借り受ける。」


 詠唱と共に片手剣を炎が包む。

 兎達が警戒するように下がる。

 正面の兎をしっかり見据えて、一気に距離を詰め、剣を叩きつける。

 突然の達也の突進に、牙兎は虚をつかれたのか棒立ちしている。

 そういや今まで手を振りまわすだけで、足を動かしていなかったな、と今更のように頭の片隅で考える。

 剣を叩きつけた瞬間兎が炎に包まれた。

 即座に後ろを振り向く。

 残りの兎がこちらに飛びかかってきていた。

 上半身に向かってきていた2羽を盾で払いのける。

 払いのけた逆、右方向に体を移動させながら、右足首に噛みついていた1羽に剣を突き刺す。

 また兎が炎に包まれる。

 こっちの脚は燃えてない、ちゃんと制御できた。

 周囲を見る。

 残りは4羽。

 ようやく周囲が見えてきた。

 一瞬自分がどこか別の場所で、大きなボールを振り回しながら周囲の敵を警戒している場面が連想された。

 気になったが頭をすぐに切り替える。

 今はこいつらを倒すのが先だ。



「おー、急に動きが良くなったな。なんだ落ち着いたらちゃんと動けるじゃん。あれならいけそうかな、マリナ。」


「ええ、意外と視野も広いようです。あれならカルナと並んで前衛がこなせそうです。あの魔法があれば慣れれば格上相手でも行けそうですね、カルナ。」


「結構体力もありそうだもんなー。あれだけ噛みつかれてるのに平気で動いてるし。お、また倒したね、マリナ。あ、でもまたあれ燃え尽きちゃった?」


「せっかくのお肉がもったいないのですが…、まあ仕方ないですね、カルナ。やはり彼を何とかパーティーに加えましょう。教育はそれからでも遅くないです。彼が使えるようになれば間違いなく狩りの効率は上がります。結局それが昇格への近道となりそうです。」


「そうだね、僕達はもっともっと稼がないといけないもんね、マリナ。あ、最後のも倒したね、さ、彼を迎えに行こうか。」

 


 最後の牙兎を仕留めた。

 もうへとへとだった。

 体中傷だらけで、思わず俺は座り込んだ。


「兄ちゃんお疲れ、初回で6羽仕留めるなんて大したもんじゃん!」


「お兄様、お疲れ様です。そのままじっとしていてくださいね。」


 マリナがそう言いなが両手で杖を持ち俺の方にかざす。


「大地の女神、ケレスの癒しをここに。」


 杖の先端の金属が薄く光る。

 マリナが杖を俺の傷に当てると痛みが和らいでいく。


「これは、魔法か?」


「はい、回復魔法です。傷の数は多いですが、思ったよりは軽い傷のようですね。これならすぐに治せそうです。もうちょっと待ってくださいね。」


 そのまま光の灯った杖をあちこちに押し当てられると、痛みはすっかり治まった。


「ありがとう、楽になったよ。」


 体の疲れは残っていたが、俺は感謝の言葉を伝えた。


「どういたしまして、お兄様。」


「兄ちゃん、汚魂結晶は欠けたのが2個しか出てなかったよ。もうちょっときれいに倒さないとー。ドロップもなかったしー。」


 そう言ってカルナは黒い小さな半透明の石のようなものを俺に手渡した。


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