第1章 異世界へ 10
転生前 10
中学3年になり俺たちはようやくスタメンを勝ち取った。
俺はチームのキャプテンになった。
3年前の5人が揃い、俺たちの士気は上がった。
歴代最強チームと言われた俺たちは、夏の全国大会でベスト4に。
なんでも公立中学でベスト4まで勝ち残ったのは10年ぶりだったらしい。
俺たち4人は校内の人気者となった。
4人全員に彼女ができていた。
あいつ以外は。
俺の彼女はマネージャーじゃなかった。
俺は告白する勇気を持てないまま、後輩の告白を受け入れていた。
そして、最後の冬の大会、全国大会決勝で俺たちは大敗した。
試合の半ばで、相手のファールであいつが右手首をねん挫したからだった。
あいつが抜けたチームの実力を俺達は思い知らされた。
試合後の相手チームのキャプテンが呟いていた言葉は今でも忘れられない。
「ワンマンチームは崩れるともろいな。」
転生後 10
神殿の騒ぎの後、俺はティナエナにギルドまで無理やり連行され、気がついた時にはギルドへの登録が終わっていた。
ティナエナは受付のお姉さんとしばらく話をしていたが、
「達也の相手をしている場合じゃなくなったニャ。あー、もう、とにかく、神殿での出来事は誰にも話してはいけないニャ。迷宮開放が落ち着くまではどう考えても時間がかかるニャ。それまで護民団も神殿も手一杯になるニャ。達也、さっさとDランクになって私に会いに来るニャ!」
と言って出て行った。
誰がお前に会いに行くかと考えていると、受付のお姉さんと目が合った。
「達也さんはギルドのことをあまりご存じないようですね。私から何点か説明させていただきます。こちらの部屋へどうぞ。」
奥の小部屋へと案内される。
「どれも大切なことですので、分からないことがあれば順次確認してください。最初に配布品です。」
文庫本くらいのサイズの材質が良く分からないカードと荷物袋のようなものを受け取った。
「まずギルドカードです。片手の掌を当ててください。」
俺がカードの上に手を置くと、お姉さんが何か呪文を唱えた。
カードが薄く光を帯び、ゆっくり光が消えていく。
「カードの個体登録がされました。カードを手に持ち”ギルドカード”と唱えてください。」
「ギルドカード。」
俺がそう唱えると、カードが軽く光り文字が表示された。
タツヤ、ギルドしょぞく、ランクG、ショク:まほうせんし(ひぞくせい)、あずかりきん:なし と記載されていた。
全部カタカナとひらがななので少し読みにくい。
「そのように、あなたが唱えたときに表示されるようになりますので本人確認ができます。そして、各施設での端末で、表示されていない情報が読み取られることとなります。例えば護民団では逮捕歴や犯罪歴、その他の注意事項、ここギルドではランクアップの履歴や過去の依頼の達成状況等です。そのためギルドでは、依頼を受ける時、報酬を受け取る時、各種買い取りを行う時にギルドカードの提示が必要となります。身分証明書も兼ねていますので、街の出入りの際や宿に宿泊する時などにも必要となります。再発行には十万円かかりますので、大切に保管してください。もうひとつは、ギルド員専用の荷物袋です。このカウンターの上にギルドカードを置いてください。そして、この荷物袋を両手で持ち、カードの上に乗せてください。」
言われたとおりにすると、また何か呪文のようなものを唱えた。
荷物袋が薄く光を帯び、ゆっくり光が消えていく。
「これで、こちらも個体登録がなされました。この袋は、見かけ以上の荷物をしまうことができます。個人差はあるのですが、長さ3mから5m程度の物であれば収納可能なはずです。小部屋程度の荷物は収まります。入れたものの重さはかなり軽減されます。そして、中に入れた物は痛み難くなります。水や食べ物は腐りにくくなりますし、金属も錆びにくくなります。ただ、重さがなくなるわけではありませんし、ずっと保存できるわけでもありませんのでご注意ください。出したい時は袋に手を入れ、出したい物を考えればつかめます。何でもかんでも入れていると中がゴミだらけになりますのでご注意を。そして、個体登録済みですので、達也さん以外が使うことはできません。」
なんかとんでもないな。
何かの革でできた、肩がけできる少し大きめのリュックサックのようだ。
袋の入り口はいっぱいに開いても30cmほどか。
紐で縛るようになっている。
「個人差って、実際に試してみないと分からないのか?」
「はい、そうです。ただ、ギルドランクが上がると中身の容量も少しずつ増えていくようです。他に何かご質問は?」
「この袋をなくした場合はどうなる?」
お姉さんはにっこりとほほ笑んだ。
「市販されている魔法の袋と同じですね。この袋を紛失した場合は袋の中身を取り戻す方法はありません。しっかり管理をしてください。全財産をこれに入れるのもリスクがあると言うことですね。余分な資産はギルドに預けることをお勧めしますよ。ご希望であれば、同様の袋を販売することもできますが、これだけの性能ですので二十万円となります。」
市販もされてるのか。他の魔法の袋の相場など分かりはしないが、お姉さんの表情からみるとぼったくりというわけではなさそうだ。
「あと、ティナエナさんから武器の貸し出しをお願いされています。ギルド貸し出しの武器は、ギルド入門者向けの品ですので、それなりの性能となります。ランクがG~Fの間まで貸し出し可能です。ただし、月に1度も依頼を受けなかった場合は武器は回収です。また、Eランクに上がる際には武器の返却か買い取りが条件となりますのでご注意ください。武器の種類にもよりますが、金額的には五万から十万と言ったところです。整備は自己負担で、もちろん破損の際は弁償となります。ご希望の武器はありますか?」
そう言われ考える。
訓練の時に言われたカテイラの言葉を思い出す。
「武器にもそれなりに炎を賦与させるできるようになったね。ただ、やっぱり体から離れると制御が難しいみたいだね。かといって、いつも素手で戦うのもリスクがあるし、武器を使うとしたら無難な片手武器がいいんじゃないかな。」
単純に武器として考えると、槍のような長物がいい気がする。
ただ、俺の最大の戦力は炎の魔法。
あくまで炎の魔法を生かす戦い方を考えるべきだろう。
そうなると炎の制御が難しくなる槍が厳しいか。
穂先の炎が消えたら意味なさそうだもんな。
最初は無難なものにしておく方がいいか。
「片手剣と楯で。貸し出し可能ななるべくいい物を。」
「となりますと、大体十万円の鉄製の片手剣と五万円鉄で補強された木製の盾となりますがよろしいでしょうか?」
「構わない。」
「では、おまちください。」
武器を取りに行くようだ。
少しして戻ってきた時、お姉さんの後ろには二人の子供がついていた。
10歳前後のよく似た顔つきの男の子と女の子。
兄弟だろうか。
「武器はこちらになります、ご確認ください。」
お姉さんが持ってきたのは長さ80cm程の両刃の片手剣と縁が鉄で補強された片手持ちの盾だった。
「こちらのベルト付きの鞘をお使いください。盾も掛けれるようになっています。」
剣と楯を持ってみる。
どちらも重すぎると言うことはない。
剣を軽く振ってみるが、しっかり振ることも止めることもできた。
「ちょっと魔法を使ってみてもいいか?」
「いいですよ。」
念のため確認してから唱える。
あの言葉を人前で言うのはかなり恥ずかしいが仕方ない。
「アキ様の力を今借り受ける。」
剣を炎が包む。
うん、ちゃんと制御できている。
むしろ前よりも制御し易くなっているような気もする。
発動キーワードのおかげか?
軽く振ってみて剣にも問題ないことを確認する。
大丈夫そうだ。
炎を消す。
「これで頼む。」
「了解しました。」
お姉さんも後ろの子供達も驚いたような顔をしていた。
「ティナエナさんのおっしゃっていた通り、すごい魔法ですね。かなりの魔力が込められていたようですし、発動までの時間がそこまでのものとは。」
「お兄ちゃんすごいなその魔法。剣を炎で包んで戦うのか!」
「とっても力強いきれいな魔法の炎でした!すばらしい魔法ですね!」
子供たちからも声がかかる。
「そりゃどうも。」
と答え、目でお姉さんに問いかける。
「この子たちはカルナとマリナ。加入してまだ2年ですが、すでにEランクの将来有望なギルド員です。あなたの最初の依頼の同行者となります。」