氷の貴公子と呼ばれる最強魔導師の甘い溺愛〜私の命を繋ぐのは彼の執着だけ〜
アルフレッド・ロックウェル。
わずか18歳で先代のロックウェル公爵の後を継いだ氷の貴公子。
現在21歳の若き公爵の名を知らぬものは、このノーザスノウ国にはいないであろう。
他国からも一目置かれるその男は国一番の魔導師の称号【ル・プリュ・フォール】を持ち、膨大な魔力ゆえに、ひと睨みで魔物が逃げ出すという噂さえある。
母親ゆずりの絹のような煌めきをはなつ銀の髪、ロックウェル家の血を色濃くあらわす深いマリンブルーの瞳が、さらに彼の美貌を怪しくも冷たく見せ、ついた異名は氷の貴公子。
なお、先代ロックウェル公爵は「世界が俺を待っている」と陛下が必死に止めるのも無視し、若い頃の夢である冒険者になり、愛妻と仲良く第二の人生を謳歌中である。
◇◇◇
王宮の片隅、初代王妃が愛した薔薇の庭園。
大広間のバルコニーから一望できる、その美しい庭園を眺める一輪の華。
エルゼシア・ノーザスノウ。
今年で17歳になるノーザスノウ国の第三王女にして、氷の貴公子の婚約者である。
美しいウェーブをえがく金の髪に、甘い蜂蜜のような琥珀色の瞳の可憐な少女。
生まれた時から魔力回路欠乏症という難病の為、数年前までは体調を崩しがちで、日に当たることが少ない肌は白く、ほんのり朱がさし彼女の儚げな美しさをより一層引き立てている。
「慣れないことをすると、どうしても魔力が不安定になるわね。アルフレッド様はまだご歓談中かしら。」
広間の喧騒から抜け出したエルゼは、バルコニーで夜風に当たっていた。
婚約者を伴って参加したが、婚約者が仲間に呼ばれ離れた瞬間大勢の貴族に囲まれてしまった。
幼少の頃はベッドで過ごすことが多く、姉や兄達のように同年代の友人を作ることもままならなかった。
自身では魔力の制御も難しく、必然と社交の場に苦手意識を持ち、必要最低限の場にしか顔を出さなくなった美しい第三王女に、貴族達は少しでもお近づきになろうとガードが離れる瞬間を待っていたのである。
“魔力回路欠乏症”
この国で発症者が出たのは実に100年以上ぶりだ。
生まれながらに魔力の高い子が稀に発症する難病。
身体を巡る魔力がうまく循環せず魔力が不安定になり魔力暴走を起こしやすくなる。
魔力が暴走すれば本人はもとより、普通の魔術士では抑えることはできず、死に至るケースがほとんどである。
そんな難病を抱えたエルゼシアが、17となった今も生きていられるのは、彼女の婚約者のおかげである。
「また、殿方に囲まれていましたね。」
背後から低く艷やかな凛とした声が、少しだけ不機嫌そうに発せられる。
「アルフレッド様。」
エルゼシアは振り返り、最愛の婚約者に少し困ったように微笑む。
「皆、貴族として挨拶をしてくださっただけですわ。」
「私には、貴女という美しい華を狙う羽虫の群れに見えました。」
アルフレッドはエルゼシアの腰を抱き寄せると、彼女の細い指先にそっと唇を寄せた。
彼のマリンブルーの瞳がエルゼシアとおなじ琥珀色に輝く。
魔力同調にみられる特有の現象だ。
「少し魔力の揺らぎを感じましたので。」
「アルフレッド様には隠せませんわね。」
そういうとエルゼシアはアルフレッドの胸に身体をあずける。
「わたくしがこうして公の場にいられるは、アルフレッド様がお側にいてくださるから。アルフレッド様以外の殿方に目移りなんていたしませんわ。」
エルゼシアにとってアルフレッドは、自分を世界に繋ぎ止めてくれた王子様だった。
◇◇◇
エルゼシアが14の時、とうとう恐れていたことがおこった。
流行病にかかってしまったエルゼシアの魔力が暴走をはじめ、部屋中が凍りだした。
魔力の弱い者は入るだけで凍ってしまい、魔力の高い陛下と第一王女殿下が、なんとかエルゼシアを持ち堪えさせようと交代でエルゼシアが凍らないように温めた。
そんなエルゼシアを救ったのは、当時すでに魔導師団第二師団長として王国からの信頼も厚く、18という若さで爵位を継いだばかりのアルフレッドだった。
彼は数百年前に唯一魔力回路欠乏症を治したとされる大魔導士の術を復活させた。
己の魔力を相手の体内に流し、一生解けない呪印により、相手の魔力をも己のものとし制御する。
一歩間違えれば魔力暴走により双方死に至る危険な術なため、数百年成功した者はいない術。
成功しても、術者は一生己の魔力と相手の魔力を同時に制御する必要があるため、並大抵のものでは使いこなせない。
◇◇◇
「エルゼ、私は貴女が思う以上にずるく嫉妬深い。瀕死の貴女の意志等確認せず、自分の欲望のために私に縛りつけた。」
アルフレッドは逃さないとばかりにエルゼシアを強く抱きしめた。
彼女は嫌がるそぶりなくアルフレッドを安心させるかのようにそっとその背に手をまわした。
「わたくしはアルフレッド様だけの華ですわ。体調を崩すたびに溢れでる魔力のせいで、ほとんどの者は部屋に近づくことすらもできませんでしたわ。」
エルゼシアは顔をあげアルフレッドのマリンブルーに戻った瞳を見つめ微笑んだ。
「魔力の高いお父様とお姉様以外でアルフレッド様だけが、わたくしの元に来てくださっていたのよ。あなたを好きになるなと言うほうが難しいですわ。」
エルゼシアはそっと彼の頬に触れ、その手をアルフレッドは優しく包み込む。
「私の可愛いエルゼ、貴女の立場上無理だとはわかっています。ですが、どうか私以外の男にあまり微笑まないで。
でないと私は、わざと力の制御を間違えて、エルゼに近づく者たちを凍らせてしまいそうだ。⋯いや、やはり凍らせておくべきだったか⋯」
なにやら最後のほうにボソボソと怖いことを言っている気がするエルゼシア。
瞬間、2人の周りに冷気が立ち込め手すりや窓を凍らせていった。
エルゼシアに声をかけようとチャンスを伺って覗いてた男たちから悲鳴が上がる。
「アルフレッド様、だだ漏れですわ。」
エルゼシアはその様子を恐れるでもなく、まるでいつもの事のようにそっとアルフレッドの頬に口づけをした。
パリンーッとたちまちに砕け散る氷が、スターダストのように煌めき散っていく。
エルゼシアは珍しく驚いた顔に頬を紅く染めている婚約者に、イタズラが成功した幼子のようにクスクスと笑う。
「まったく、貴女という方は。一瞬で私の世界を支配してしまうのだから。いったいどこでそのようなかわいい事を覚えたのですか。…可愛すぎる今すぐどこかに閉じ込めなければ…」
「ふふ、アルフレッド様、不穏ですわ。」
「ですが私は、貴女といると常に理性を試されてる。」
アルフレッドはそっとエルゼシアの額に先ほどの仕返しとばかりに、優しい口づけを落とす。
◇◇◇
アルフレッドが8歳の時、陛下の護衛騎士団長を務めていた父に連れられ登城したさい、陛下の後ろに怯え隠れる小さい少女を紹介された。
「アルフレッド、第三王女殿下のエルゼシア姫だ。お前より4つ下だ。」
末の姫の遊び相手にと、アルフレッドが選ばれた。
「ほら、エルゼシア。ちゃんと挨拶をするんだ。」
「え、えるぜしあ・のーざすのうです。」
年の割に幼くたどたどしいエルゼシア。
少女を目にした瞬間、アルフレッドの心臓が早鐘を打つ。
まるで時が止まったかのようエルゼシアに心奪われた。
何かに怯えるように陛下にしがみつく彼女は、幼いながらも王妃譲りの美しい少女だった。
そして近づいてすぐに気づく、魔力が不安定にあふれ出ていると。
「アルフレッド、聡明なお前ならもう気づいているだろう。」
父が目線をあわせ語る
「エルゼシア様は魔力回路欠乏症だ。だから、お前が選ばれた。
並大抵のものでは、まして子供ではエルゼシア様に近づくこともできない。」
魔力の弱いものや、未熟な子供は高い魔力の影響を受けやすい。
魔力回路欠乏症から放たれる高濃度魔力の影響は、大人でも精神崩壊しかねない場合もある。
ふと、アルフレッドは思う。
父は武には長けていたが、魔力は弱かったような⋯何故大丈夫なんだ?
視線で気づいたのか父ウィルスは高笑いをする。
「ハッハッハ!高濃度魔力なんざ気合でなんとでもなる!皆、気合がたりないのだ!」
「お前が異常なだけだウィルス!」
おもわず突っ込む陛下に内心同意するアルフレッドであった。
アルフレッドはエルゼシアに近づき膝を突き、手を差し出した。
「はじめましてエルゼシア姫、アルフレッド・ロックウェルと申します。わたしはあなたの魔力を受け止められる、どうかこの手をとっていただけますか?」
アルフレッドは気づいていた、幼い姫が何に怯えているか。
きっと今まで心ない声や態度を受けたのだろう、傷つけるつもりがなくとも魔力で誰かを傷つけてしまったこともあったのだろう。
魔力制御を覚える前の自分がそうであったように。
魔力回路欠乏症は溢れる量を抑えたとしても完全に制御はできない。
だが、エルゼシアから溢れる魔力はアルフレッドにはとても心地よいものであった。
恐る恐る伸びる姫の手を強引につかみ、幼い身体を引き寄せる。
「ほら、なんともない。」
そう至近距離で微笑むアルフレッドに、姫はようやく笑顔をみせ自ら抱きついた。
「あるふれっどさまぁ!おにわにいきましょう!いっぱいおはな、みたいです!」
初めてのお友達、初めての遊び相手。
幼く純粋な姫のキラキラと眩しい笑顔に、思わず目眩がしそうなアルフレッド。
「…なにこれ、可愛すぎてむり。絶対嫁にする…」
「なぁ?!」
「ハッハッハ!さすが俺の息子だ!」
「笑い事じゃないぞウィルス!」
「およめさん?わたし、あるふれっどさまの、およめさんになります!」
この美しい幼い姫を、そしてこの心地よい魔力を自分以外に触れさせたくない。
若いアルフレッドの心に執着に等しい歪んだ愛が芽生えた瞬間だった。
エルゼシアも父や姉以外にはじめて自分に手を差し伸べてくれるアルフレッドに、物語の王子様を重ねて心ときめかせていた。
そんな幼い2人の無邪気な言葉によって、アルフレッドはエルゼシアの婚約者になった。
それ以降アルフレッドの姫への執着と溺愛は誰がみても明らかで、周りに素っ気ないアルフレッドがエルゼシアにだけは微笑みかける姿が王宮で度々目撃された。
アルフレッドはいままで以上に魔法の勉強にうちこみ、独自で魔力回路欠乏症の研究もはじめた。
ここ数百年魔力回路欠乏症の者が成人を迎えた記録はない。
エルゼシアを失うなど絶対に考えられなくなっていたアルフレッドは、わずか12歳で王宮魔術師団の門をくぐった。
全てはエルゼシアを救うために。
◇◇◇
アルフレッドの執念により、今も美しく成長しつづけるエルゼシア。
当時エルゼシアの魔力がアルフレッドにより抑えられ一番喜んだのは王妃だった。
魔力の高くない王妃は、生まれてすぐ末の娘を抱けなくなっていた。エルゼシアの魔力にあてられ魔力酔いを起こしても、可愛い娘をこの手で世話したいと、魔力の高い長女に助けてもらいながら他の子供達と分け隔てなく愛情をそそいできた。
あの日王妃はエルゼシアを抱きしめ、今までの分も埋めるかのように明け方までずっと側を離れなかった。
他の兄弟達もエルゼシアと触れ合えることを心から喜んだ。
それは今までエルゼシアを蔑ろにしてきた貴族達も同様で、まるで掌を返したかのようにエルゼシアに近づく者たちが増え、その都度「あぁ。申し訳ない。手が滑りました」と、アルフレッドの魔法が放たれるのであった。
「ああ、少し冷えてしまいましたね。陛下にご挨拶し御暇いたしましょう。」
「もう他の方へのご挨拶はよろしいのですか?」
「構いません。元より貴女より優先度の高い事などないのですから。
ただ、早く貴女と2人きりになりたいと、私のわがままをお聞き願えませんか。私の愛しい姫」
熱のこもった甘くトロけるような微笑みに、エルゼシアも愛しそうに微笑み頬を紅くした。
氷の貴公子と呼ばれる最強の魔導師は、ただ一人の少女の前でだけは優しい微笑みを絶やさないのであった。
2人を祝福するかのように美しい庭園は、穏やかに凪いでいた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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2026/08/01 誤字修正。報告感謝です!




