6 夢
その夜、まほろは夢を見た。
幼いまほろは、庭先に父の姿を見つけて駆けていく。その足もとには子狼――琥春が付きそっていた。
狼の成長は早く、出会ってから琥春はすぐに野を走るようになった。ほかの狼よりも身体は小さかったが、いつだってまほろのそばにいて「おまえの言わんとすることはわかっている」という瞳で見つめてくる。賢い子だった。
だが狼は武器で、身体の強さがすべて。
十になればまほろも狼と契約を交わすことになっていた。まほろは契るのならば琥春がいいと望んだが、父はそれをよしとしていなかったために、よく言い争った。
その日、厳しい顔をした父の後ろには、土と血で汚れたひとびとがいた。まほろは、あわてて足を止める。彼らは息を吸うと、またたきする間もなく狼の姿にもどり一斉に駆けていった。変化の術だ。狼たちは、小川に身体を清めに行くのだろう。まほろには目もくれなかった。
「父上」
「すまない。あとにしてくれないか」
素っ気ない父が邸に入っていくのを見送り、まほろは眉を下げて琥春を抱きあげた。頬を寄せれば、ふわふわとした銀の毛が肌をなでる。
一族の者は時おりどこかに出掛けて行っては、汚れた狼たちを連れて帰ってくる。戦に出ているのだと、まほろは知っていた。
どこかで草笛の音がする。狼への合図だ。いまもどこかで狼に指示を出す一族の呪者がいる。
「……戦は嫌い。父上も狼たちも、帰ってくるといつもより怖い顔してる」
琥春は気づかうように、まほろの頬を舐めた。澄んだ琥珀色の瞳がまほろを覗く。
狼も狼守りの一族も、みな瞳は琥珀色をしていた。契約を交わし、絆を結んだそのあかしのように。
「琥春は、ほかの狼たちみたいに、怖くならないでね」




