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6 おかえり
――やがて、腕が離される感覚があった。まほろは地面に倒れこむ。身体はあちこちで悲鳴を上げていた。息ができない。視界がかすむ。それでも、胸はあたたかいもので満たされていて、つらいとは思わなかった。
森から音が消える。
頬に、なにかが触れた。血で汚れた、琥春の銀の毛並みが。
琥春は小さな狼の姿にもどって、まほろに頬を合わせていた。
もうなにも見えなかった。だが、澄んだ琥珀色の瞳だけは見える気がした。
「おかえり」
右腕だけで、琥春を包む。
血の匂いの奥に、たしかな、春の穏やかな香りがした。




