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3 月夜の男
ふたつの人影が、山の木々の間を縫って去っていく。
それを見届け、男は背を向けた。
月の灯りも草葉に邪魔をされて届かない。それでも男はたしかな足取りで進み、やがて現れた川に躊躇なく踏み入った。
足首、腰、胸と、冬の夜空に冷やされた水が肌を刺す。
頭まで水に浸り、水中から空を見上げた。
銀の月が水の流れに揺れている。時折風が吹くと、光は玻璃の欠片のように飛び、砕けて、散った。しばらくして水面に顔を出すと、水の玉が川に還っていく。
肩口に鼻を寄せて、顔をしかめた。
――まだ、人間の匂いがする。
波紋のたつ水面に、雪は白い花びらのようにちらついていた。




