表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼守りと桜雨  作者: 橘花やよい
嵐の前(修練編)
42/60

2 師の話

「俺もな、かつては狼守りの一族が闘う後ろで戦の場にいたんだ。狼たちが闘うのを何度も見ていたぞ。あいつらが怪我を負ったときに治すのが、俺たち一族の役目だった。……主上たちが狼を欲するのも、よくわかる。戦において狼に勝るものはなかったから」


 山吹の瞳には、過去が映っているのかもしれない。苦いものをかんだときのような苦痛が浮かんでいた。


「俺は傷ついた者を癒した。傷が治れば、そいつはまた戦に向かう。敵を殺めて、怪我を負えばまたもどってきて、癒して――。その繰り返しだ。だんだん空しくなってきたのさ。こっちの兵を癒しても、敵の兵が死ぬだけだし。癒しの術なんて言っても、結局はひと殺しの術だった。嫌になるよな、戦なんて。呪者になんて生まれなければよかった、って思っちまうよ、あんなもん見たら」


 つぶやく山吹の声に、まほろは膝にのせた拳を握る。


 どれだけ厭おうと、まほろも山吹もその血筋に生まれてしまったのだ。そして生まれたからには、死ぬまで呪者でありつづけるしかない。


 まほろは自身の長い髪に触れた。切ってしまえばよかったのかもしれない。だができなかった。呪者は呪者として死ねという慣わしが、身体にしみついている。


「まほろは弱いよ」


 ふいの言葉に、顔を上げた。


「獣を犠牲にするか、ひとを犠牲にするか、決められていないだろう」

「……どちらも大切だから」

「だが選ぶ必要がある」


 その言葉が腹に重たく響く。


「獣を犠牲にするなら、ここで覚悟を決めて帝に仕えろ。ひとを犠牲にするなら、さっさと去れ。師の俺が逃げつづけてきたんだ、弟子が逃げたって責めやしない。……まほろが逃げるなら、そのぶんは俺が補ってやるから心配するな。主上たちに文句は言わせん」

「……師匠が戦に出るの?」

「東庵国の民に犠牲が出ぬよう、全員俺が治してやるさ。俺はもう、十分逃げてきたからな。ここらで向き合うのも一興だ」


 まほろを逃がす代わりに自分が業を背負う、と彼は言っているのだ。叔母も同じようなことを言っていたと思いだす。山吹も叔母も、まほろが逃げる選択を残してくれていた。それが苦しい。ふたりにそんなことをさせたいわけではないのに、自分は守られてばかりだ。


 黙りこんだまほろを、山吹はじっと見つめていた。


「世界は苦いぞ、まほろ。どっちも守ろうなんてできるほどやさしくない」

「――それでも守りたいときは、どうすればいいの?」

「いま以上の覚悟と力を持て」


 山吹は静かにつけ足した。


「戦では、殺すより生かすほうが難しい。しかもそれをしなきゃならんのは、おまえが大切にしている獣たちだ。よく考えろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ