3 琥春の夜
泣き疲れてしまったのか、まだ身体の傷が癒えていなかったのか、そのどちらもか。まほろはそのまま眠ってしまった。小さな身体を自分の胸に引きよせて、琥春は静かに目を閉じた。
腕の中にぬくもりがある。狼守りの邸で唯一琥春をやさしく抱いてくれた、主のあたたかさだ。この数年、自分が求めつづけたものだった。
狼守りの一族のことは嫌いだった。いつも温度のない瞳で見下してきて、自分たちは安全な場所から指示を出すだけで、狼を戦に向かわせる。琥春はまだ小さかったから、彼らの指示で戦に出ることはなかったが、仲間たちが彼らの身勝手で傷を負い、死んでゆくのを見送ってきた。そうして尽くしたところで、ひとはなんの感謝も憐れみも狼たちに抱いてはくれない。
一族を滅ぼして自由になろうとする狼たちを、止める気にはならなかった。
それでも――。
琥春は、自分よりも小さな娘を抱きしめる。
まほろのあたたかさを思うと、いつも胸が熱くなる。春の風が吹きこむように、彼女の存在が身の内にある間は気分がいい。
唯一、やさしくしてくれた人間だった。
彼女だけはだれにも殺させない。
琥春はまほろに頬を寄せると、その身体を抱きあげて歩きだした。歩みに合わせて揺れる彼女の黒髪は、幼いころよりずいぶんと伸びた。さらさらと風に流れて筋をつくる、呪者のあかしである長い黒髪。彼女は呪者の運命に縛られている。呪者として生まれ呪者として死ぬことが、彼女たちの運命だから。
けれど、戦からも狼の憎しみからも、彼女を逃がしてみせよう。
それがいまの自分のしたいことだ。




