↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼守りと桜雨  作者: 橘花やよい
狼の旅路(逃走編)
28/66

3 琥春の夜

 泣き疲れてしまったのか、まだ身体の傷が癒えていなかったのか、そのどちらもか。まほろはそのまま眠ってしまった。小さな身体を自分の胸に引きよせて、琥春は静かに目を閉じた。


 腕の中にぬくもりがある。狼守りの邸で唯一琥春をやさしく抱いてくれた、主のあたたかさだ。この数年、自分が求めつづけたものだった。


 狼守りの一族のことは嫌いだった。いつも温度のない瞳で見下してきて、自分たちは安全な場所から指示を出すだけで、狼を戦に向かわせる。琥春はまだ小さかったから、彼らの指示で戦に出ることはなかったが、仲間たちが彼らの身勝手で傷を負い、死んでゆくのを見送ってきた。そうして尽くしたところで、ひとはなんの感謝も憐れみも狼たちに抱いてはくれない。


 一族を滅ぼして自由になろうとする狼たちを、止める気にはならなかった。


 それでも――。


 琥春は、自分よりも小さな娘を抱きしめる。


 まほろのあたたかさを思うと、いつも胸が熱くなる。春の風が吹きこむように、彼女の存在が身の内にある間は気分がいい。


 唯一、やさしくしてくれた人間だった。


 彼女だけはだれにも殺させない。


 琥春はまほろに頬を寄せると、その身体を抱きあげて歩きだした。歩みに合わせて揺れる彼女の黒髪は、幼いころよりずいぶんと伸びた。さらさらと風に流れて筋をつくる、呪者のあかしである長い黒髪。彼女は呪者の運命に縛られている。呪者として生まれ呪者として死ぬことが、彼女たちの運命だから。


 けれど、戦からも狼の憎しみからも、彼女を逃がしてみせよう。


 それがいまの自分のしたいことだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。