6 くずおれる
視線を感じて、まほろは瞳を開けた。夢とうつつの間をさまよいかけたが、自分がいるのは桜の丘ではなく、御所なのだと思い出す。全身に汗をかいていた。
乱れた息を整えようと顔を上げたまほろは息をのむ。
赤い瞳が、格子越しにまほろを見つめていた。
赤羽だ。格子のすぐそばにいた。
――神に近いもの、か。そうかもしれない。
赤羽の瞳は、こちらを見透かすような光をともしていた。それはただの獣の瞳ではない。
まほろの頬に涙が落ちた。こぼれ落ちる雫を手のひらで受けとめる。その涙は止められないのに、心は静かなものだった。
獣を道具になんて、していいわけがない。
首の古傷が、痛い。
夢に見たものは、まほろの記憶だった。琥春だけは自分のそばにいてくれると思っていたのに、あのとき琥春はまほろを襲い、まほろは死にかけた。のちの師となる山吹に見つけてもらわなければ、あの桜の褥で眠り、永遠に目覚めることはなかっただろう。
琥春もまた、ほかの狼たちのようにまほろを憎んでいたのかもしれない。琥春にそう思われることだけは、どうしても、受けいれたくなかった。
――戦なんて、なくなってしまえばいい。
まほろは立ちあがると、格子に近づいた。ゆっくり手を伸ばして、赤羽に触れる。赤羽はこの手を受け入れてくれるだろうと、そんな予感があった。
まほろの手に、汚れて硬くなった羽が触れる。赤羽は身じろぎもせず、まほろの好きにさせていた。
もともと森で自由に生き、大空を飛んでいた赤羽だ。この蔵は狭く息苦しいだろう。
「赤羽が飛ぶところ、見てみたいな」
ずるずると格子にもたれて、まほろはうずくまった。




