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彼女が好きなのは

掲載日:2025/12/06

鈴木柚莉。


クラスの中心ってタイプじゃないけど、笑うとえくぼが出て、それが反則級に可愛い。



最近、駅前のファミレスでバイトを始めたらしい。


それを聞いた瞬間、胸の奥がじわっと熱くなった。制服姿なんて想像するだけでダメだ。絶対かわいいに決まってる。



だけど、俺がわざわざ店に行ったなんてバレたら、“ストーカーっぽい”なんて思われるかもしれない。


ただ会いたいだけなのに、そんな風に見られたら耐えられない。



その不安を友人の竜也に漏らしたら、返ってきた言葉が最悪だった。



「じゃあ女装して行けば?」


「バカ言うなよ!」


「バレなきゃいいんだろ?姉貴の服貸してやるって」



気づけば俺は竜也の部屋でメイクをされていた。なんでこいつ、こんなに手慣れてるんだ。



ばっちりとしたメイク、栗色のウィッグ、フリフリの服。鏡に映ったのは、知らない“誰か”。


「……ほんとに、これ俺?」


思ったより普通に女子で、自分で自分に引いた。



「いけるって!俺、全然アリだわ……」「キショいこと言うな!」



そのまま逃げる間もなくファミレスへ行かされた。



ドアを開けた瞬間、心臓が跳ねる。


柚莉がいる。


こっちを見たけど、特に驚く様子はない。……ほんとうにバレてない。



「こちらの席へどうぞ〜」


案内する柚莉は、制服よりバイト服のほうが似合ってて、ちょっと大人っぽい。


「お飲み物、どうされますか?」


普通に注文聞かれただけなのに、女装のせいでやたらドキッとしてしまう。馬鹿みたいだ。


声を極力出さずにメニューを指し示し、コーヒーを頼む。



——その時だった。



店の奥で怒鳴り声。


酔った男がテーブルを叩き、柚莉が慌てて向かっていく。



嫌な予感しかしなかった。


案の定、男は柚莉に絡みはじめた。


「ちょっと来いよ」


腕を掴まれた瞬間、頭の中のどこかがブチッと切れた。


気づけば、俺は立ち上がっていた。


「やめてください。その人困ってます」


声はギリ女子に聞こえる高さ。男は鼻で笑ったが、俺は言い切った。


「これ以上やるなら、警察呼びます」



手は汗で冷たいのに、不思議と足は震えてなかった。


男は舌打ちして、店から出ていく。



ほっと息を吐いた瞬間。



「……ありがとう。本当に」


柚莉が、泣きそうな目でこっちを見ていた。


普段強気な子なのに、今は少し震えている。



声を出したらバレるかも。


だから、俺はただ静かに頷いた。



コーヒーを飲んでいると、柚莉がそっと近づいてきた。


「お名前、聞いてもいいですか?」


心臓が変な音を立てた。



「……ひ、日向です」


反射的に、苗字だけを言う。嘘ではないから……と自分に言い訳する。



「ひなたさん、さっきは本当に助かりました。これサービスです」


頬が少し赤くて、目が揺れている。



差し出されたプリンを受け取った瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。



“俺”じゃなく、女の子の“ひなた”として向けられた好意。嬉しいのに、苦しい。



帰り道、服の袖をぎゅっと握りしめた。


夕暮れの風がひゅっと吹いて、ウィッグが揺れる。


さっきの柚莉の微笑みが、頭から離れない……。

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