表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第7章 はばたきの音

朝、ピウはいつもより早く起きた。まだ空はうっすらと白むばかり。動物たちの鳴き声も聞こえない静かな時間に、ピウは羽を広げた。


前よりも、ほんの少しだけ高く跳んでみる。ただのジャンプ。でも、その一瞬に夢を詰め込んで。


「いち、にの、さんっ!」


ばさっ!という音とともに地面を蹴る。空を切る風。すぐに重力に引き戻されたけれど、ピウは倒れなかった。


「……おっけい、今日はここからだ!」


見ている者はいない。でも、ピウの目はまっすぐだった。


その日の昼、ミアが様子を見に来た。


「また練習してるの?」


「うん!今日も一回も転んでないよ!」


「ほんと?すごいじゃん!」


ミアの声に、ピウは照れながら羽をぱたぱた動かした。


そこへ、蘭子もやってきた。


「まーたそんなことして……怪我せんように気ぃつけや?もし骨折でもしたら、あんた泳げんくなるんやで?」


「大丈夫だよ、お母ちゃん!」


「もー……ほんまに、あんたって子は。」


ぶつぶつ言いながらも、蘭子はそっとピウにタオルを差し出した。


「汗かいてんで。風邪ひいたら飛ぶ練習もできへんやろ?」


その日の午後、フライも様子を見に来た。


「お、やってんねぇ。努力だけは見習いたいもんだよ。飛べないflyなんて……って、あーやめたやめた、自分のことはさておき。」


「フライも応援してくれてる?」


「ま、努力してるやつを笑う趣味はないさ。俺みたいに笑われる前に開き直ってるのとは違うんだろ?」


フライは口元をにやりとゆがめて、ピウの頭を軽くつついた。


その日から、ピウの練習には少しずつ応援の輪が広がっていった。誰もが本気で飛べるとは思っていない。でも、ピウが本気で「飛びたい」と願っていることは、誰の心にも届いていた。


夕暮れ、ピウはもう一度跳んだ。


前よりも高く。


前よりも遠く。


ほんの一瞬、風をつかんだような気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ