第5章 現実の厳しさ
翌日、ピウはまた羽ばたきの練習をしていた。昨日より少しだけ自信を持てた気がしたが、やはり空に浮くことは簡単ではないと実感していた。羽ばたくたびに風を感じ、地面が近づいてきてはまた飛び立とうとする。その繰り返しに、ふと疲れが見え始めていた。
そんな時、つばめのスワローが近づいてきた。ピウは気づかぬうちに必死で羽を広げていた。
「また練習か、ピウ。」
「うん、スワロー。少しでも浮いてみたくて。今日こそ…」
スワローは黙ってその様子を見守った。しばらく無言で、ただ風の音と羽ばたく音だけが響く。ピウが再び羽ばたこうとすると、スワローが静かに口を開いた。
「でもな、ピウ。飛ぶのって、そんなに簡単なことじゃないんだよ。」
「うん…わかってる。でも、練習してれば…」
「飛ぶことには、ただの練習じゃ足りない。時間と経験が必要だし、それに、飛べたとしても、自由にはなれない。」
ピウは羽を休め、スワローの言葉に少し戸惑った。彼が言うことが現実味を帯びていて、彼の言葉の重さを感じていた。
「自由じゃないって…どういうこと?」ピウは首をかしげた。
スワローは長い間黙った後、ゆっくりと言葉を紡いだ。「飛べるってことは、ずっと空を渡らなきゃいけないってことだ。渡り鳥にとって、飛ぶのはただの移動じゃない。毎年、どこかに行くことは、決して楽しいことじゃないんだ。自由だと思って飛んでも、その実、どこにも帰る場所がないんだ。」
「帰る場所がない…?」
「そうだよ。飛んでいるだけでは、ずっと前を向かなきゃならない。でも、前に進みすぎると、戻れなくなることもある。」
その言葉は、ピウの胸に深く響いた。今まで、ピウは飛ぶことだけを夢見ていたけれど、スワローの言葉はその夢に現実を突きつけてきた。
「そんなに大変なんだ…」ピウはつぶやいた。
「うん。飛べることで、見える世界もあるけれど、飛べないことで見えるものもある。飛べることに憧れはあるけれど、実際に飛べるようになったら、それに付随する厳しさや孤独が待っている。」
ピウは黙ってスワローの言葉を聞いていた。しばらく沈黙が続き、ピウは少しだけ視線を上げた。
「でも、スワロー。そうして飛ぶことを続けている君がすごいよ。どんなに大変でも、飛んでいるんだよね?」
スワローは微笑んだ。「飛ばないといけないから飛んでいる。それが渡り鳥というものだ。」
ピウはその言葉を噛みしめながら、改めて自分が目指すものを考えた。飛ぶことは簡単ではない。でも、それでも夢を追い続けることには意味がある。ピウはそう確信していた