第3章 カラッと揚げて
ピウは、動かない翼を前にして、ため息をついていた。
羽ばたく練習をすればするほど、自分が「飛べない鳥」だという事実が重たくのしかかってくる。
「パタパタかわいい〜!」
「ねえねえ、ペンギンって、空飛べないのに飛ぶまねしてるの?」
動物園に遊びに来ていた小学生たちの声が、風のようにピウの耳を通り過ぎていく。
悪意のない笑い声が、なぜか心の奥をチクチクと刺した。
その日の午後、ピウはフライの隣で黙って座っていた。
動物園の空は広い。けれど、その空を自分が飛ぶことはできない——そう思うと、目の前が霞んだ。
フライはちらりとピウを見て、からかうように言った。
「どうした、主役気取りのくちばしがしょんぼりしてるぞ?」
ピウは黙って羽を見つめたまま、ぼそりとつぶやく。
「……やっぱり、飛べないんだね。僕」
フライは少しだけ顔をしかめて、遠くの空を見上げた。
それから、いつもの軽い調子で言った。
「そりゃあ、俺だって飛べないよ。飛べないコンドルなんて、ってな」
ピウが顔を上げると、フライはにやっと笑って言った。
「飛べないFlyなんて、いっそfryになっちまえばいいって、よく思ってたよ。からっとな」
一瞬ピウは笑いかけたが、すぐに顔を曇らせた。
「……笑いごとじゃないよ。ほんとうに、悔しいんだ」
フライはふうっと息を吐いて、今度は少しだけ真面目な顔をした。
「悔しいのは、飛べるはずだって思ってるからだ。
俺なんか最初っから、飛ぶことなんてあきらめてた。だけどお前は——まだ、あきらめてないだろ?」
ピウは目を見開いた。
フライの言葉は、静かに、でも確かに心に刺さった。
「だからいいんだよ。笑われたって、できなくたって。
夢を見てる間は——少なくとも、まだ鳥なんだ」
その言葉に、ピウはもう一度、自分の翼を見つめ直した。
飛べない翼。でも、夢だけは——まだそこにある。