表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第3章 カラッと揚げて

ピウは、動かない翼を前にして、ため息をついていた。

羽ばたく練習をすればするほど、自分が「飛べない鳥」だという事実が重たくのしかかってくる。


「パタパタかわいい〜!」

「ねえねえ、ペンギンって、空飛べないのに飛ぶまねしてるの?」


動物園に遊びに来ていた小学生たちの声が、風のようにピウの耳を通り過ぎていく。

悪意のない笑い声が、なぜか心の奥をチクチクと刺した。


その日の午後、ピウはフライの隣で黙って座っていた。

動物園の空は広い。けれど、その空を自分が飛ぶことはできない——そう思うと、目の前が霞んだ。


フライはちらりとピウを見て、からかうように言った。


「どうした、主役気取りのくちばしがしょんぼりしてるぞ?」


ピウは黙って羽を見つめたまま、ぼそりとつぶやく。


「……やっぱり、飛べないんだね。僕」


フライは少しだけ顔をしかめて、遠くの空を見上げた。

それから、いつもの軽い調子で言った。


「そりゃあ、俺だって飛べないよ。飛べないコンドルなんて、ってな」


ピウが顔を上げると、フライはにやっと笑って言った。


「飛べないFlyなんて、いっそfryになっちまえばいいって、よく思ってたよ。からっとな」


一瞬ピウは笑いかけたが、すぐに顔を曇らせた。


「……笑いごとじゃないよ。ほんとうに、悔しいんだ」


フライはふうっと息を吐いて、今度は少しだけ真面目な顔をした。


「悔しいのは、飛べるはずだって思ってるからだ。

俺なんか最初っから、飛ぶことなんてあきらめてた。だけどお前は——まだ、あきらめてないだろ?」


ピウは目を見開いた。

フライの言葉は、静かに、でも確かに心に刺さった。


「だからいいんだよ。笑われたって、できなくたって。

夢を見てる間は——少なくとも、まだ鳥なんだ」


その言葉に、ピウはもう一度、自分の翼を見つめ直した。

飛べない翼。でも、夢だけは——まだそこにある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ