第2章 努力
ピウは、毎朝決まって、広場のすみに立っていた。
そして両の翼を大きく広げて、ひたすら羽ばたく。右、左、右、左。全力で、風を掴もうとする。
「今日こそ、飛べるかもしれない」
そんな気持ちで、ピウは空を見上げた。
だが、空は高い。そして、ピウの足は、地面を少しも離れない。
近くの見学通路には、小学生の一団がやって来ていた。ピウに気づいた子どもたちが、足を止める。
「ねえ、ペンギンって飛べないのに、なんでパタパタしてるの?」
「なんか変なの。」
その言葉は悪気があったわけではなかった。けれど、ピウには突き刺さった。
ピウの翼が、止まった。
「……やっぱり、変なのかな」
そのとき、背中から優しい声がした。
「ピウ、無理はせんときよ。風邪ひいたらたいへんやし。お風呂、あっためといたで」
ラッコの蘭子だった。園内でも人気のラッコで、いつもタオルを首にかけている。
彼女は、ピウにとって、お母ちゃんのような存在だった。実の親ではないけれど、誰よりもピウのことを気にかけていた。
「飛ぶの、今日もダメやったん?」
「……うん。パタパタしてるだけだって。変なんだってさ」
蘭子はふう、と鼻から息を吐いたあと、にっこりと笑った。
「それでも、パタパタしとるのはええことや。ピウがピウでおるってことやからな」
「パタパタしてても?」
「そやで。やめたら、ほんまに飛べなくなるかもしれへんやろ」
ピウは、蘭子の言葉を胸の中で何度も繰り返しながら、うつむいた顔を上げた。
そして、もう一度、空を見上げる。
高くて、遠くて、でも、目指したい空だった。