プロローグ
高校三年 三月
音穏
長々しい卒業式が終わった。
「卒業生が退場いたします、大きな拍手でお見送りください」
盛大な拍手で包まれた体育館から、順番に生徒が退場していく。そして、在校生が作った廊下の飾りやイラストを流れるように通過して、自分たちの教室にたどり着く。担任の最後のホームルームが始まった。
「――残念ながらこのクラスには今日来れなかった人もいて、全員で卒業式を迎えることはできなかったけれど、最後に皆に感謝を言いたい。一年間本当にありがとう、そして、卒業おめでとう。いつかきっと良い未来が待ってるから、頑張れ!」
若干涙ぐみながら話す担任の姿に、教室は最後のホームルームらしく、エモーショナルな空気になった。
やがてホームルームが終わり、皆が次々と教室を出ていく。グラウンドで仲良い友達や家族と記念撮影をするんだろう。
音穏もその流れに乗っかり、教室を最後に出ていった。すると、扉を抜けてすぐに、所属していた放送部顧問の江坂先生に呼び止められた。右手には茶色い紙に包まれたものを持っている。
「浜田、こっちだ」
相変わらず真っ白く染まった髪をなびかせて、年輪を刻んだ渋いじいさん声で言う。
「先生、本当に色々お世話になりました」
先生は微笑みを浮かべる。
「よく頑張ったな、卒業おめでとう」
「ありがとうございます。それで、もしかしてこれって」
音穏が江坂先生の右手に視線を落とすと、先生はまたニヤリと微笑む。そして何も言わないまま、袋からゆっくろと中身を取り出していく。やはり、アルバムだった。
「頼まれていたものだ」
音穏は静かにアルバムに触れる。見た目は全く卒業アルバムと同じだが、表紙に文字が違う。
そこには"BEST ALBUM"と書かれている。
「わざわざありがとうございます」
先生はゆるやかに頷く。
「それじゃ、またいつか」
「はい、またいつか」
音穏はアルバムを二つ右手に重ねて、もう二度と来ることはないだろうこの場を後にした。
浜田音穏