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第9話 課外授業

 王立第一魔法学園は、魔法学園と銘打っているが、魔法以外の授業もある。

 特に武術や剣術の授業では、トゥーファルがとにかく強く、成績優秀者が集まるこのクラスの男子の誰も歯が立たなかった。それもあって、女子からの声援もすごかった。

「強いだけじゃなくて、美しいのよね!」

 クラスメイトのティラナが、興奮気味にラルフィルに言う。

 確かにラルフィルから見ても、一切の無駄が無いトゥーファルの動きは、整っていて美しいと思う。ただ、ラルフィルにしてみればそれは羨望の対象と言うよりはライバル感があって、悔しいの方が勝つのだ。

 だからティラナの言葉にはイマイチ同意できず、ラルフィルは首を傾げた。

「あの愁いを帯びた銀色の瞳。それが戦うという時に、キッと光を宿すのが、言いようもなくステキなのよね!」

「ティラナは詩人ね」

「トゥーファル様の魅力を語り始めたら、みんなそうなるわよ!」

「ちょっとよくわからないのですが」

 そんなことを話していると、当の本人がやって来た。

「ラルフィル。ちょっといいか?」

 そう話しかけられ、ちょっと気まずいラルフィルだったが、いつも通り答える。

「どうしました?」

「この前の授業で習った、スペル保持の使い方なんだが」

 トゥーファルは魔法陣を宙に表示して、詳細を尋ねる。

「うまく発動しなかったんだが、どこに問題があると思う?」

「ここがうまく繋がっていないと思いますが」

「そうか。流石だな」

 トゥーファルは早速魔法陣を直し、魔法を展開してみる。

 どうやらうまくいったらしい。トゥーファルは嬉しそうに微笑んだ。

「キャー!」

 近くで見ていたティラナの悲鳴が上がる。トゥーファルは驚いたように一瞬彼女を見て、それから訴えかけるようにラルフィルを見た。ラルフィルは小さく首を横に振った。

「あ、お気になさらず! ただのファンですので!」

 トゥーファルは要件が済んだのもあって、その場を離れていった。

 すると。

「ラルフィル嬢、僕もちょっとわからないところがありまして」

 クラスの男子がラルフィルに魔法について尋ねようとする。

「あ、俺も教えてください!」

「俺も良いかな?」

 数人の男子が一斉にラルフィルを囲んだ。

 ラルフィルは一人ずつ質問に答えていく。ティラナはその横でラルフィルが答え終わるのを待っていた。

 すべての質問に答え終わったところで、ティラナは言う。

「ラルフィルも人気よね」

「ただ少し勉強ができるだけよ」

「一部からは女神みたいに崇拝されているとの噂だけど」

「やめてよ」

 ラルフィルの美しい容姿と元々の貴族としての地位、魔法学への知識や圧倒的な炎の魔法から、彼女を慕うファンが結構いた。

「ラルフィルは、トゥーファル様のことは好きなの?」

「何、突然」

「それとも、他に好きな人がいるの?」

 ラルフィルはその言葉に、ナクルのことが浮かんで、少し視線を落とした。

「誰も好きにならないと、決めているので」

「せっかくモテるのにもったいない! どうしてそんなことを決めているの?」

「今度、機会があったら話しますね」

 教室で話すようなことでもないので、ラルフィルはそう答えた。

 誰かを好きになる。

 それが簡単に出来たら、きっと世界は違って見えるのだろう。

 だけどラルフィルには、それはとても遠いことに思えた。


◆ ◆ ◆


 梅雨の時期。空には毎日のように暗雲が覆っていた。

そんな中、ラルフィルたち1年生のクラスと、2年生のクラスが合同で、課外授業に出かけることになった。

 交流がメインの授業ということもあり、難度はあまり高くない。特定の薬草を見つけ、採取してくるという内容で、魔物が現れる可能性のあるエリアだが、さほど危険ではないらしい。

 ラルフィルとトゥーファルたちの班は、2年のレンブレムたちと組むことになった。

「2年のレンブレムだ。よろしく」

 初めて会ったレンブレムは、年上の先輩ということもあって、落ち着いて見えた。金色の髪に碧眼、優雅なしぐさといい、地位など関係なく王子様という感じだった。

 王子ということもあり、周囲は緊張していたが、レンブレムは「敬語も使わなくていいし、気遣いはいらないよ」と気さくに言って笑った。

「眼福!」

 トゥーファルとレンブレムが話しているのを見て、同じ班のティラナはそう言ってはしゃいでいた。

 1年・2年各3人ずつ、6人の班ということで、レンブレムの他にザランと、ミレーヌという2年生がいる。

 課外授業というのもあって、今彼らがいる場所は、緑豊かな草原で、すぐには森もある。魔物の気配もなく穏やかな場所というのもあって、目的の薬草の話をトゥーファルたちは確認していた。

「君がラルフィルだね。噂には聞いているよ」

 レンブレムが笑顔で言う。

「どんな噂ですか?」

 ラルフィルは特にものおじする様子もなく、さらりとそう尋ねた。

「炎のような一年生がいると」

「噂通りですか?」

「さあ、まだわからないなあ」

 はっきりと言い放つラルフィルに、レンブレムは楽しそうに笑った。

「私たちの班は、少々難しい課題を与えられたみたいだし、慎重に行こう」

 ラルフィルの班の課題は、暗所に咲くキーリという花を採取することだった。

 珍しい花で、暗闇で黄色く光ることは知られているが、どう見てもこんな明るい草原に咲く花ではない。咲く条件からして、洞窟のような場所にある可能性が高いので、森の中を進み、洞窟を探すしかなかった。

 レンブレムと同じ二年のザランを先頭に、彼らは進む。ザランは背が高く、いかにも武術に長けているようなしっかりとした体躯をしている。彼は普段レンブレムの護衛役も兼ねているのだろう。

 彼らは森の中を進んでいく。魔物の気配はないが、いつでも戦えるよう戦闘態勢は崩さない。

「大丈夫?」

 レンブレムは、不安そうな顔をするティラナに尋ねる。

「はい! 殿下に心配していただいて、不安は吹っ飛びました!」

「それなら良いけど」

 レンブレムはふと、ラルフィルの方を見た。ラルフィルは、木々の間から差す日の少なさを見ていた。

「雨が降りそう」

 ラルフィルは静かにそう呟いた。

 そう言ってすぐ、空から雨が降り始めた。

 それが、この後起こる意外な課外授業の始まりを告げるものだと、彼らはまだ知らない。


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