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第8話 魔法対決

 部屋を移動したラルフィルたちは、トレーニングルームに来ていた。

 トレーニングルームは、魔法防壁で作られた頑丈な部屋で、天井も高く広い。ここではラルフィルがいかに高火力で魔法を使おうとも、燃える心配はない。

 こんな魔法使い放題な部屋で、一体何をするのかと言うと。

 部屋中に、赤や青、緑、黄色など、様々な色の蝶が放たれた。蝶と言っても、実際の蝶ではなく、魔導研究所が開発した練習用の魔力の塊で、その色ごとに魔法耐性が異なる。たとえば赤い色は炎に耐性があり、ちょっとの炎魔法ではダメージを受けない。

 この大量に放たれた蝶を魔物に見立て、いかに早く倒すことができるかを競う。

「僕はやらないですよ」

 ルールを聞きながら、フェイはそんなことを言った。目立ちたくないし、自分の手の内を人に明かしたくないのだろう。

 だが教師は「君も参加するように」と念押した。

「そうですね。一番早く消せた人には、特例ポイントをあげます」

「特例ポイントって何ですか?」

 フェイの質問に、教師は得意気に答える。

「各教師に年間決まった数のポイントが与えられているのですが、それを特例ポイントといい、成績に大きく影響します。獲得ポイントが高くなれば、授業を早くクリアでき、飛び級も可能になりますよ」

「ふーん……」

 あまり興味のなさそうなフェイに対し、トゥーファルは乗り気だ。

「そのポイントを全部取れば、学年一位になれて、飛び級もできるわけか」

「君には無理でしょうけど」

 フェイの言葉に、トゥーファルはムッとして戦闘態勢に入る。

「まあまあ。一人ずつやっていきましょうか。誰から始めます?」

「じゃあ俺から」

 トゥーファルがやるというのに対し、後の二人からの反対はなかった。どんな風にすればいいか、様子が見れるならそうするという二人からすれば、当たり前だった。

「では、スタート」

 部屋の真ん中に立つトゥーファルの周りに、一斉に蝶が踊るように舞う。

 トゥーファルは呪文を唱え、氷の魔法で吹雪を巻き起こす。その氷の嵐が、舞う蝶を次々に呑み込んでいく。だが、水色の蝶には効果が無いようで、蝶はひらひらと飛んだままだ。 

 一通りの蝶が消えたのを見届けたところで、トゥーファルは右手を宙に掲げ、呪文を唱えると、氷の剣が現れた。

 氷の魔法は効かないのでは、とラルフィルは思ったが、魔剣の物理攻撃は効くようで、彼の素早い剣さばきで、次々に蝶は消えていった。

「あんな小さな動く的を、あのスピードで的確にとらえるなんて」

 教員はため息をつく。無駄な動きの一切ない剣さばきは、まるで美しい剣舞のようだった。

 そして最後の蝶を貫いたところで、トゥーファルのターンは終わった。

 パチパチ。見ていたラルフィルは拍手をした。

「魔法だけでなく、剣も得意なんですね」

「小さい時からやってるから」

 トゥーファルは淡々と言う。

「剣技はともかく、私も負けませんよ」

 ラルフィルはにこりと微笑んで、二番目にやることに名乗りを上げた。見ていて自分もやってみたくなったのと、どちらが先にやるかで、フェイともめるのは面倒くさかったというのもある。

 ラルフィルが部屋の真ん中に行くと、同じように蝶が放たれた。

 ラルフィルはこの頃はまだスペル保持の魔法を使えないため、炎の呪文を唱える。炎の魔法が渦を描くように部屋を覆った後、赤色以外の蝶はすべて消えた。

 そして次のターン、ラルフィルは氷の魔法を唱えていた。それも、トゥーファルが使ったものを、見様見真似で。

「二種類使えるんですか?」

 教師が驚いた様子で言う。

 それもそのはず、多くの者が、5大元素、火・水・光・土・風の魔法は一種しか使えないことが多い。  

 それも、学園で学んでいない段階では、特に。

 ラルフィルの氷の吹雪が、残った赤い蝶に向かって放たれた。

 ほとんどの蝶は消えたのだが、ラルフィルは慣れない魔法に疲れたようで、氷の魔法はすべての蝶を消す前に、威力が弱まって消えた。ラルフィルは、もう一度呪文を唱え直し、残っていた蝶をすべて消した。

「最後が無様ですね」

 フェイの言葉をラルフィルは無視した。

 そして最後のフェイのターンになった。

 フェイは渋々、面倒くさそうに部屋の中央に向かう。

 同じように蝶が放たれた。

 ラルフィルたちは、彼がどんな魔法を使うのだろうと、期待して見ていた。すると、次の瞬間、すべての蝶が、消えた。

 文字通り、すぐに消えたのだ。

「何があったんですか?」

 ラルフィルはトゥーファルに尋ねる。

「一瞬だったから、確かじゃないかもしれないけれど、何かがすべての蝶に当たった」

「そんなの」

 そんなこと、できるのだろうか?

 たとえば、土の魔法などで石を召喚し、ぶつけることはできる。ただそれなら、ラルフィルにも容易に視認することができるはずだ。恐るべき点は、蝶一頭ずつの近くにそれを生み出し、瞬間的にぶつけたこと。その的確過ぎる距離把握と同時展開性、そうするためにあらかじめかけていた、詠唱なしのためのスペル保持の力も。

「一体いくつの魔法を同時に使えばそうなるの?」

 まだ実戦経験に乏しかったラルフィルは、まったく見当がつかず、驚いていた。

 ちなみに、現在のラルフィルであれば、フェイが千里眼と石を飛ばす土の初級魔法を同時展開魔法で多量に使ったということがわかるのだが、この時点の彼女にはそれを見抜く力はなかった。

 教員はさすがに何をしたかわかったようだが、千里眼を使える学生というのを周囲に明かすのをためらった。

 何でも見えるというのを知られると、何かとトラブルになるに違いない。だから教員はそれを言わなかった。

「勝負は、僕の勝ちで良いですよね?」

 フェイは得意気にそう言って笑った。

「あなたも笑うんですね」

 ラルフィルの言葉に、フェイははっとしたように冷静な表情に戻ろうとする。

「今回はあなたの勝ちで良いけれど、どうやったか教えてくれませんか?」

「言いませんよ」

「では、もう一回笑って」

「はあ? なんで?」

「可愛かったから?」

 ラルフィルのからかい交じりのその言葉に、フェイは明らかに動揺し、顔を真っ赤にした。

「笑うの? 教えるの? どっちなの?」

「なんでその二択なんですか!」

 その二択をしつこく迫った結果、フェイが折れて魔法のからくりを説明したというのは、ラルフィルだけが知る話だったりする。


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