表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/40

第2話 炎の魔法使い

 馬車を走らせ一時間ほどのところに、目的地はあった。

 いつもなら、ぼんやりと眠っている間に着いただろう。だが、ラルフィルはそうする余裕などなく、周囲を警戒していた。

「どうかしましたか、お嬢様」

 舗装された田舎道を進む馬車の中、リーナはただならぬ様子の主に、緊張感を強める。

 学園からも、住宅街や畑からも離れ、道があるというだけのこの場所は、ある意味絶好の場所でもあったからだ。

「気をつけて」

 ラルフィルがそう言った、次の瞬間だった。

 馬が嘶き、馬車は急に立ち止まる。リーナの体は前方へと打ちつけられたが、ラルフィルは咄嗟にしがみついていたため体勢はそのままだった。すぐに外の様子を伺い、警戒を崩さない。

「ラルフィル・ケバーランド、出てこい!」

 粗野な男たちの声が響く。

 不安に怯えるリーナとは対照的に、ラルフィルは特に表情も変えず外に出た。

 彼女の長い髪が、炎のように風に揺れる。

 馬車をぐるりと囲む、武器を手にした男たちの視線が集まった。

 ラルフィルは怯える行者の男性を気にも留めず、そのままぽんと飛び降りる。男たちのそのラフな格好から、金目当ての山賊のようでもあるが、何者かに雇われた輩の可能性が高そうに見えた。

「悪いが、一緒に来てもらおうか」

「お断りです」

 男たちにまったく怯む様子もなく、ラルフィルは言い放つ。

「やれ」

 男たちは、ラルフィルに向かって一斉に石の魔法を放った。

 ラルフィルは防御結界魔法でそれをすべて弾くと同時に、無言で右手を掲げ、炎の剣を召喚した。

「無詠唱で魔剣!?」

 炎の魔剣と呼ばれる魔法剣。高温の炎が剣の形をしたそれは、高く青くメラメラと輝いた。それを見て、男たちがたじろぐ。

 魔法を使える人間はかなりいるが、高難度の魔法を使えるものはそう多くない。その中でも、高難度の炎の魔法を使いこなす人間は、ほんの一握りだ。そして、ラルフィルは魔法の腕だけでなく、剣の腕も確かだった。

 彼女自身が、一騎当千の勇者レベル。

 自分より強くなければ、勇者としてなんて認められない。ラルフィルはそう思っているが、彼女を超える実力者はそう多くない。

 攻撃しようとする男たちの前に、炎の壁が立ちはだかり、行く手を阻む。

「怯むな! 数ではこっちが有利だ! 魔法を放て!」

 リーダーと思しき男がそう叫ぶや否や、ラルフィルはひらりとそちらへと飛び、炎の剣を一気にふるった。まさか一瞬にして間合いを詰められるとは思わなかったのだろう。リーダーと思しき男は無防備だった。

 炎が一気に男を包み込もうとする。

「やめてくれ!」

 男はひれ伏し、ラルフィルは炎の魔法を止めた。

「まだ続けます?」

 圧倒的レベル差に戦意を失った男たちは、散り散りに逃げていく。

「誰だよ、ただの貴族令嬢だから簡単だって言ったのは!」

 ラルフィルは逃げる背中を見つめながら、誰の差し金かを聞き出そうかと思い、それがわかることよりも今は先を急ぎたいと思い直した。

 彼女は馬車の中に戻り、馬車はまた目的地へ向けて走り始めた。

「お嬢様、無茶しないでください」

 ぶつけたおでこに簡単な回復魔法をかけながら、リーナが言う。

「無茶なんてしていないですよ」

 ラルフィルは小さくため息をついた。

「それでも、炎の魔法を使うなんて、体に負担がかかります」

「それをどうにかしてもらうために行くんでしょう」

 ラルフィルは自身の右手を見つめ、それから目を閉じた。

 防御結界魔法、炎の魔剣と、移動に使った風魔法、そしてそれを無詠唱で使うために保持しておくための魔法。多くの人は、複数の魔法を同時に使えない。そのため、彼女のように同時に使える者は稀だ。

 基本的に、魔法を発生させるためには詠唱が必要である。実のところラルフィルも無詠唱なのではなく、スペル保持という魔法をかけることで、いつでも発動できるように事前準備をしていた。彼女に言わせれば、詠唱時間がもったいないだけでなく、詠唱内容で手の内を明かすのは愚者のすることらしい。

 魔法は、強力になればなるほど、使用者の体に負担をかけるとされている。疲労によって何日も寝込む者、あるいは命を落とす者すらいる。

 彼は、今も眠っているのだろう。

 ラルフィルはそう考えて、一度ぱちりと目を開けた。目を閉じたままでいたら、あの悪夢を思い返してしまいそうだったから。


 これからラルフィルが行こうとしているのは、魔法使いたちの「終わりの地」と呼ばれている場所だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ