番外編 変革と序章
ほのぼの幸せ回であり、説明回です。
バトルは一切ないので、物足りないと思う方もいると思いますが!!!
是非とも最後まで読んで頂ければ幸いです!
ウニベルを討ち取って二年が経った。ヴァルテン帝国崩壊という情報はすぐさま宇宙中へと駆け巡り、平和な時間が数多の惑星で流れるようになった。
そんな中、宇宙の平和を実現させた“英雄”の暮らす地球では――。
* * *
金色の髪を靡かせた美女が木陰に座り、ゆりかごを模すようにゆっくりと身体を縦に揺らしている。その胸元にはキラリと輝く“エルピス”が五つ。そして腕には……生まれて数ヶ月程度の二人の赤ん坊が抱かれていた。
紅と白、全く違う髪色をした赤子だが、しかし二人の顔は鏡合わせしたかのように瓜二つである。頭から生えた猫のようにも見える虎耳が、時折ピョコピョコと二人同時に動くのが非常に愛らしい。
グッスリと眠る二人の赤子を見つめて、金髪の美女は柔和な笑みを浮かべた。とそこで、美女の頭上から翼の羽ばたく音が聞こえてくる。
「リーファ、お待たせ。町の人達、説得して来たよ。聞いてくれるかはわからないけどね」
シアである。苦笑いを溢しながら隣に腰掛けてくるシアに、金髪の美女……リーファは「ん」と短く返した。
「ったく、赤ん坊が生まれてから毎日毎日……家の中が貢物でパンパンだわ。あいつら、一日中ベビー用品作りに耽ってるんじゃねぇか?」
「『貢物』って……まあまあ、それだけ皆祝ってくれてるってことでしょ。初めてだしね、地球で赤ちゃんが生まれたの。まあ、それを差し引いても信じられない量のベビーグッズが贈られてきてるけど……特にマディシナさん達から……」
「今度から貢物持って家来た奴、面会謝絶にしておくか」
「ソレ本気で言ってるでしょ。ダメだよ、皆の気持ちを無碍にしたら」
「ねー」と、シアがリーファの抱える赤子の内、白髪の子の頬を突いた。リーファはそのまま白髪の子をシアへと渡し、抱く体勢を変える。
「よしよし、良い子良い子……大分二人離しても平気になってきたね。最初はずっと触れ合ってないと泣いちゃうくらいだったのに」
「ん。テムスに言われた通り、ちょっとずつ離す練習しといて良かったな」
「全く離せないってなったら、病気の時とか困るもんね。それに、エンファは超能力“癒しの炎”みたいだけど、シェファはジンシュー作ってたし、ずっと近くに居て、もしエンファにシェファのジンシュー当たっちゃったら大惨事だよ」
シアが苦笑する。
白髪の子が炎華、紅髪の子が雪華。シアとリーファの子供であり、月猫族と陽鳥族の血を分けた双子の姉妹であった。
「それにしても」とシアが口を開く。
「見た目は二人共、耳と尻尾が生えてるし月猫族だけど、超能力はバラバラだよね。体質とか性質も、月猫族と陽鳥族の特徴がバラバラに継がれてたりするのかな?」
「さあな。見た目だって、完全に月猫族寄りってわけじゃねぇだろ。エンファは先天性色素欠乏症だからわかんねぇけど、シェファは月猫族じゃ到底有り得ねぇ髪色してるしな」
「紅い髪は陽鳥族の特徴だもんね〜。でもなんか嬉しいや。二人を見てると、俺達の子供なんだなぁって実感が湧くから。すっごく幸せな気持ちになる」
シアがニコリと微笑めば、釣られるようにリーファも「そうだな」と口元に弧を描いた。
「情の薄い月猫族が、こんな風に子供を大切に想えるとは思わなかった。お前の甘ったれが感染った所為だな」
口は悪いが、その表情は酷く柔らかい。
シアはリーファの表情を一目見て、それから子供達の目を翼で隠した。
フニッと、リーファの唇に柔らかい感触。視界一杯に映ったシアの顔に、キスされたと遅れてわかる。
ブワッと、一瞬でリーファの顔が真っ赤に染まった。
「おまっ!子供の前で!」
「だからちゃんと翼で隠したでしょ。二人共まだ寝てるし」
「そういう問題じゃねぇよ!」
そっぽを向くリーファ。怒っていても、寝ている子供達の為に声量は小さいままだ。ソレが愛しさを更に煽り、シアは笑ったまま「ごめんね」と口先だけの謝罪を口にする。
反省する気の見えないシアに、リーファは舌打ち混じりにある作戦を思い付いた。
「今度子供の前でやったら、二人に『お前らの父親は変態親父だ』って伝えるからな!」
「うわぁ〜、それは本気で嫌かも」
効果覿面だ。改めて「ごめんなさい」と謝るシアに、リーファは満足げにフフンと笑った。
話題を変えようと、シアは「ねぇ」と話し掛ける。
「リーファは二人にどんな人になって欲しいと思う?」
「成長したらってことか?」
「そう」
突然の質問だが、リーファは真面目に考える。腕の中のシェファ、シアに抱かれているエンファ……それぞれ見遣って、そしてフッと微笑んだ。
「“シンの強い奴”」
リーファの声に反応するように、二人の耳がピクリと動いた。リーファは続ける。
「いくら毛色が違っても、陽鳥族の血が流れてても……見た目が虎の獣人なら、周りの奴らも本人も『月猫族だ』って認識で成長する。この先どれだけ否定されて生きていくかなんてわかんねぇけど、シンが強けりゃどうにでもなる。後はどうでも良い。後悔しねぇように、好きに生きてくれたら良いさ」
そう告げたリーファの表情に悲壮感はない。実に晴れやかな表情だ。
リーファらしい発言に、シアは眉を下げて……それから穏やかな笑顔を見せた。
「俺は……愛される人になって欲しいかな」
「!……本気か?」
目を見開いたリーファが、信じられないとでも言いたげにシアの顔を覗き込む。「本気だよ」とシアは強く頷いた。
「だって我が子だもん。それに……他でもないリーファの子だから。誰からも好かれる人になるって思うのは当然じゃない?」
「……そりゃお前だろ、『宇宙の守護天使』さん」
「なら尚更、愛される人に成長するね。何て言ったって、俺達の子だもんね!」
「…………」
数秒の沈黙。キョトンと惚けた表情を見せていたリーファは、フハッと心底可笑しいと言った具合に吹き出した。
「『月猫族の子供が愛される』ね……そんなこと堂々と言えるのは、この宇宙でお前だけだ」
言いながら、リーファはクツクツと声を押し殺して笑う。
シアは幸せを噛み締めるように、自身の翼の片方でリーファの肩を抱き寄せた。
「後はそうだなぁ……リーファみたいな強い人になって欲しい。無茶する癖は似なくて良いけどね。どんな時でも前を向いて笑っていられる人になって欲しい」
「強欲か」
「そりゃ、我が子に望むことなんて星の数程あるでしょ。いつだって健康でいて欲しいし、幸せでいて欲しいし、夢を持って欲しいし、その夢が叶って欲しい。愛される人になって欲しいって言ったけど、ちゃんと自分達も愛する人を見つけて欲しい。親のエゴを通すなら、ずっと側にいて欲しいし、毎日『大好きだよ』って言いたいし言われたい。『おはよう』と『おやすみ』も毎日言いたいな。いっぱい抱っこをしてあげたいし、いっぱい褒めて、いっぱい撫でて……それからいっぱい名前を呼んであげたい」
止まらないシアの望みに、リーファはパチクリと瞬きを繰り返した。
「……ソレが他種族の“普通”か?」
情も身内意識も薄い月猫族では、考えも付かない思考だ。
尋ねるリーファに、シアは「うーん」と少し悩む。
「人それぞれだと思うけどね?少なくとも俺はそうしたいかなぁ。リーファの言うように、心無い言葉や視線を貰うことがあったとしても……自分達が望まれて、愛されて生まれてきたことを、ちゃんとわかってて欲しいから」
「!」
ふと、リーファの頭の中にユージュンとユーリンの顔が浮かんだ。
……『愛されて』、か……。
リーファはシアの肩にコテンと頭を乗せる。
「私も……幸せになって欲しいと思う。月猫族として生まれたことを誇りに思って欲しい」
「きっと伝わるよ。お母さんが、こんなに素敵な月猫族なんだから」
見つめ合う二人。自然と顔を近付けていけば、後数センチでキスする……と言ったところで、赤ん坊の泣き声が穏やかな空気を切り裂いた。
シェファだ。
ビクリと、二人同時に肩を跳ねさせながらも、リーファはすぐに「あー、よしよし」とあやし始める。
「どうした?ご飯か?……こりゃエンファ探してるな」
泣き止む気配もなく暴れるシェファに、リーファはチラリとエンファを見遣った。エンファはまだ大人しく眠っている。
「二人を離して最初に泣くのは、いつもシェファだね。寂しがり屋さんなのかな」
「エンファはシェファが泣いてることに気付いたら泣くって感じだな……っておい、そんな暴れたら落ちるッ!」
グリングリンと筋肉の許す限り身体を揺らすシェファ。赤子のパワフルさはどの種族でも同じだ。特にシェファは月猫族らしく力が強い。
一際大きく泣けば、シェファは目に付いた“エルピス”の内、黄色の石へと手を掛ける。そして……。
「「あ…………」」
思い切り引き千切って、“エルピス”を何処か遠くへと放り投げてしまった。流石に子供を抱いてる状態で飛び出すことができず、リーファとシアも目だけで“エルピス”の行く末を追う。完全に見えなくなったところで我に帰り、二人はとにかくシェファを泣き止ますことへと全力を注いだ。
「シア、エンファ!……おい、シェファ。エンファだぞ。もう泣き止め」
エンファもリーファが抱き抱え、ご機嫌取りを始める。暫くはそのままヒックヒックとしゃくり上げていたシェファだが、自分の隣にエンファが居ることに気付き、エンファの手を取って再び眠りに付いた。
「はぁーーーー」と大人二人分の安堵の息が空気中へと溶けていく。
「まだまだ練習は必要そうだね。俺、ちょっと“エルピス”探して来るよ。アゲハに悪いし、シェファもエンファも“エルピス”気に入ってるもんね。何かあったら、ジンシュー打ち上げて呼んで」
「ん。……否、ちょっと待て」
「え、どうしたの?」
呼び止められるとは思っておらず、シアが聞き返す。
リーファは口では何も言わず、人差し指を“エルピス”が飛んで行った方へと向けた。
その一分後、真っ青な顔色をしたテムスがリーファ達の元へと走って来るのが見えてくる。
「リーファ様ー!!!申し訳ありません!!!」
到着するなり頭を深々と下げるテムスに、シアは慌てて「ちょっと落ち着いて!?」と気遣った。
「テムスさん、何があったの?」
シアが詳細を求めれば、依然顔面蒼白なままテムスは顔を上げる。「実は」と恐る恐る話し始めた。
「さ、先程超能力を使用していたのですが……」
テムスが目を逸らす。
テムスの超能力は“時飛”。中々に宇宙の理を無視した異能の為、一回使うごとにゴッソリと体力を削られる。その為、定期的に使って、いざという時に体力切れを起こさないよう慣らす必要があるのだ。基本的には落ち葉や石などをランダムで色々な時代に飛ばすのだが……テムスの様子に、リーファとシアは何となく続きの言葉がわかってしまった。
テムスは意を決して口を開く。
「ち、丁度超能力を発動させた途端、手の平に宝石が飛んで来て……い、一瞬でしたけど、恐らくリーファ様の付けている宝石だと……そ、それでその……何処かの時代の宇宙の果てに飛ばしてしまいました!!本当にすみません!!!」
もう一度ガバリと頭を下げるテムス。
予想通りの事態に、リーファとシアは顔を見合わせた。
「どうしよう?リーファ」
「『どう』って……お前の超能力だろ?戻すことできねぇのか?」
リーファがテムスに聞けば、テムスは力なく首を横に振る。まあ、超能力で元に戻せるなら、謝る前に戻していることだろう。特に落胆せず、「そうか」とリーファも受け入れた。
「本当に!本当にすみません!!!」
「テムスさん、謝らないで。テムスさんは悪くないよ。シェファが“エルピス”を放り投げた先が、偶々テムスさんだったってだけだから。テムスさんは気にしなくて良いんだよ」
「そうだな。パピヨン星で王が変われば、どのみち消える宝石だ。アゲハに後で謝っとけば、それで良いだろ」
「うぅ……その際は私が誠心誠意アゲハさんに説明と謝罪をします」
〜 〜 〜
「ハァ!……ハァ!……ハァ!……」
一人の少年がゴミの散在する裏路地で荒い息を吐いている。
後ろ髪一房分の金色、後は全て黒で覆われた短髪癖毛。子供ながらに鋭い目付きをした吊り目で、琥珀色の瞳がギラギラと手負いの獣のように揺れている。頭には虎耳、腰からは虎縞模様の尻尾。虎の獣人だ。
「……強くッ、なってやるッ!……必ずッ!!……俺がッ、この、腐った社会もッ、王もッ、上位共もッ……全部ぶっ壊してやるッ!!!」
少年が血の味の充満する口で唸った。ボタボタと、少年の足元に血が溢れ落ちる。
全身ボロボロで、立っているのもやっとの状態だが、少年は足を止めることなく壁伝いに歩いた。
キラリ
少年の目が何か光を捉える。
誘われるように光の元へと足を向ければ、そこには一つの宝石が落ちていた。
銀色の逆さ三日月に、少年の目と同じ色をした八芒星……“エルピス”である。
「……何だ、コレ…………ゥワッ!!?」
少年が呟いたと同時に、“エルピス”が眩いばかりの黄金の光を放った。
『悪しきを知り、弱きを嘆く。善きを学び、強きを探す。己が希望を貫く者に力は宿らん。不屈の心と揺るがぬ意志を持ち、決して折れぬ剣となれ』
何処からともなく不思議な声が、少年の脳内に直接語り掛けてくる。
光が収まった時、先程まで少年が着ていた小汚いシナ服は消え去り、代わりに黄色をベースにした騎士のような衣装を身に纏っていた。
少年は己の変化に気が付くと、スッカリ傷痕の無くなった自身の手の平を見つめ……それからギュッと拳を握り締める。
「俺が月猫族を変えてみせる!!!」
読んで頂きありがとうございました!!!
タイトルと最後の意味深な少年の話で何となくお分かりでしょうが……はい!正統続編の序章です!
いつ頃投稿になるかは未定ですが、『亡き星の戦士達』の続編を鋭意執筆中です。実は『亡き星』を執筆する前から、続編については考えてました。
是非とも、読んで頂ければ幸いです。
続編もお楽しみに!




