番外編 月猫族に呪福を
「ウニベルーーーー!!!!!!」
咆哮と共に殴り掛かるが、ウニベルは軽い所作でヒラリヒラリと躱していくだけだ。前回のように、エネルギーを吸い取られこそしなかったものの、当たらなければ何の違いもない。
「ほらほら、まだ一発も当たってないよ。もっと本気出してよ。こんな風にさ」
「グッ……ガァア!!!」
ウニベルの尻尾が俺の頬を捉える。まるで鞭のような動きで打ち付けてくるが、その威力は鞭なんて生優しいモノじゃない。
踏ん張りも効かず、ゴム弾の如く岩肌に打つかりながら、何十メートルと吹き飛ばされた。大きな岩山に激突することで漸く止まれば、身体の至る所から出血していることを確認する。
舌打ち混じりに立ち上がると、目の前にウニベルが降りて来た。反射的に回し蹴りを仕掛けるが、アッサリと足首を掴まれ、そのまま勢い良く放り投げられる。
「……クッ……ッ!!」
空中で体勢を整える前に、視界一杯に嫌な面が映り……思いきり地面へと叩き付けられた。
「ゲホッ!!ゴホッ!!……ハァ!ハァ!ハァ!……ッ!」
額から垂れて来る血が煩わしい。雑に拭うが、止血もされていない状態では一時凌ぎにすらならなかった。
「月猫族最強も大したことないね。これならわざわざ故郷に帰さなくても、一匹一匹嬲り殺しにした方が楽しかったかな。まあ結局、君達月猫族は俺に滅ぼされる為だけに生まれた、無価値な存在だったってことだよ」
「あはは」とウニベルが嗤う。
笑い声に触発されるように、仲間達の死に顔が瞼の裏を過った。
ズーシェン
ジン
ファン
ユーエン
そして……ユーリン。
紅い火花と共に散っていったイタガ星。
……ッ!!
ギリッと奥歯を噛み締めた。
身体の震えが止まらない。ダメージの所為でも、ましてや恐怖の所為でもない。
ウニベルへの怒りが……憎悪が溢れて来て止まらない。
……『昔から何となーく気に食わないんだよね、月猫族のこと。生理的に無理って言うかさ……何でかは俺にもわからないんだけどね。月猫族だって、気に入らない奴は暴力で捩じ伏せるでしょ?大した理由もなしにさ。ソレと一緒。気に入らないから、配下にして扱き使って……最終的に使い棄てたら面白いかなぁって』
許せない。
……『所詮月猫族は俺に都合良く使われてただけの哀れな消耗品なんだから』
許せない。
「……テメェだけは……」
フラフラと立ち上がる。
その僅かな衝撃で足下に血が飛び散るが気にしない。
右手の平に、ありったけの力を込めてジンシューを生成する。
「テメェだけはッ!!絶対に許さねェエエエエエエ!!!!!!」
渾身の一撃を放った……がしかし。
「……」
ニヤリと、ウニベルが怪しく笑んだのが見えた。
ウニベルは真っ直ぐ左腕を伸ばすと、ジンシューを消滅……否、翳した手の平で俺のジンシューを丸々吸収した。
「っな!?」
「お返しだよ」
宣言通り、ウニベルの左手にエネルギー弾が造られる。
あの日のエスパーダから受けた攻撃よりも、遥かに強いエネルギーを感じた。
今までの人生で何度も体験してきた……明確な“死”の気配。
「リーファのことは俺に任せてよ……」
……「じゃあね」と、ウニベルは出来上がったエネルギー弾を撃った。
この身一つで受けるには果てしない程の膨大なエネルギーを、全身で受け止める。
「グッ……ゥアアアアアアアアアア!!!!!!」
抵抗虚しく、エネルギー弾に包み込まれた。最早痛みすら感じない。
俺の手でウニベルを討つことは、どうやら叶いそうにないらしい。
覚悟していたとはいえ、やはり不本意なモノは不本意である。
……リー、ファ…………。
まだまだ戦士としては甘い奴だ。教えられることは全て教えてきたが、本当に大丈夫かどうか……不安が残る。
その時、声が聞こえてきた。
聞き飽きたジューア星人の声だ。
『……月猫、族……呪われた種族ッ……神の、唯一の罪、そのモノッ……其方に、神の意思を、授けるッ……どれだけ足掻こうとッ、何をしようとッ……其方達は滅び去る運命であると……運命に従い、自らを呪うが良いッ!!………………』
わかってる。そのふざけた運命を受け入れると、覚悟も決めた筈だ。
今更お前らの呪いに用はない。
なのに何だ?まだ足りないのか?
俺の心は、まだ運命を納得し切れていないのか?
リーファに全てを託してしまうことを……認め切れていないのか?
……。
理由はわかってる。
信じ切れていないのだ。
月猫族を……リーファの力を。
リーファ一人生き残って、本当に月猫族の仇を討つことができるのか……信じ切れていないだけだ。
……また過去に戻っちまうのか……。
しかし、お馴染みのカウントダウンはいつまで経っても始まらない。
代わりに、頭の中に映像が流れ込んで来た。
* * *
『月猫族は自分で決めてこの道を進んだんだ。褒められた道じゃなくても、誰に理解されることがなくても……自分達で進むと決めた道を信じて貫き通す。ソレが月猫族の誇りだ!だから怨みも憎しみも、どんな罵詈雑言だって受け入れる!宇宙中の人間から蔑まれたって、誰にも受け入れられなくたって……そんなことは関係ない!!月猫族を……月猫族の誇りをナメるなよ!!!』
リーファだ。成長したリーファの姿。
何だ、一丁前に月猫族の誇りをわかってるじゃねぇか。
『地球で暮らさない?俺に君の望みを叶える手伝いをさせてよ』
アレは……陽鳥族か?あの時ユーリンと逃した……?
『地球へようこそ。歓迎するよ』
『俺達はあんたを受け入れるよ』
そうか。お前は月猫族を受け入れてくれる奴らに出会えたんだな。
『……オレはまだ弱いから、やっぱりオマエを完全に「偽物だ」って割り切ることはできねぇ。ユージュンみたいにはなれねぇ。それでも……オマエを壊す覚悟はできなくても、ユージュンの意志を受け継ぐ覚悟はとっくにできてる!』
そうだ、壊れ。
お前のソレは“弱さ”じゃない。ユーリン譲りの“甘さ”だ。俺みたいにならなくて良い。
お前は強い。立派な月猫族の戦士だ。俺の代わりに片付けてくれて、ありがとな。
『月猫族の時代が終わったように、テメェらの時代も終わるんだよ。今日、私が終わらせる』
エスパーダ……そうか。お前はあの日のユーリンの仇も取ってくれたのか。
ありがとな、リーファ。
『あの日拒絶しないで良かったと思ってる。月猫族を怨まないと決めて、良かったと思ってるよ。だって月猫族は……強くて、格好良くて、芯がしっかりしてて、誰よりも誇り高い……戦士の種族だから!』
シア……だったか?本当にあの時の約束を果たしやがった。大した奴だ。
ユーリン、ありがとな。あの時のお前の判断が、リーファの力になった。
『ウニベル!!お前は必ず月猫族が倒す!!!』
!!…………。
* * *
白い虎の姿が見えたところで、映像は途切れた。
二人の決着がどうなったのか……わからない。
それでも充分だった。
……信じ切れてねぇなんて、バカか俺は……。
今度こそ自信を持って言える。
リーファなら大丈夫だ。
いけ。頑張れ。
ウニベルを……月猫族の仇をその手で討て!
頼んだぞ……
「リーファアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
* * *
そうして、誇り高き月猫族の戦士ユージュンの、永い永い人生が幕を閉じたのであった――。
読んで頂きありがとうございました!!
ユージュン編、最後の話です!何故この話だけこのタイミングでする必要があったか、わかって頂けたでしょうか?
そうです。単にネタバレがあるからです!今後の展開を先にバラすのは流石に面白みに欠けるよなということで、この話だけこんなタイミングで投稿となりました。
次回もお楽しみに!




