リーファの嘆き
「僕達も居ますよ!!」
「喰らえ、ウニベルー!!」
突如、ウニベルの背後からアゲハとリュカが飛び出して来る。アゲハの剣撃とリュカの射撃を適当に躱したウニベルは、種族の特性か斬られた尻尾を再生させながら、舌打ち混じりに「成程」と呟いた。
「どうやら四龍は全員殺られたみたいだね。それで?力を合わせて俺を倒そうって?四龍に勝てたくらいで、夢見過ぎじゃない?」
額に青筋を立てたウニベルは、嫌味ったらしく片眉を上げて見せる。
だが、アゲハにもリュカにも煽りは効かなかった。シアを背に、リーファを庇うように臨戦体勢を取る。
「僕らはただの時間稼ぎ要員です」
「コレはリーファの復讐だからな」
言いながら、二人同時に駆け出した。
二人による時間稼ぎが始まったところで、シアはリーファを抱いたまま宙へと浮かぶ。
……一応治癒したとはいえ、アゲハとリュカもかなり大怪我してたし……急いで俺も加勢しないと……。
町の人達の所まで飛んで行ったシアは、駆け寄って来たテムスとメディシナにリーファを預けた。
「リーファ様!!」
「リーファ様、しっかり!!」
「リーファをお願い。俺の羽、リーファが持ってると思うから患部に当てておいて。治癒しながら、皆はここから早く避難を」
必要な指示を出せば、シアはリーファの肩に手を置いた。
「じゃあ、時間稼ぎして来るよ。リーファは回復するまで、しっかり休んでて」
「…………」
リーファは何も返さない。
虚ろな瞳にシアが首を傾げれば、リーファは震える手でシアの服の裾を掴んだ。
「……シア……どうしよ……ッ!」
「!!」
シアが目を見開く。
真紅の瞳から溢れ落ちる雫……泣いていた。リーファが泣いていた。
「……最低な言葉、言っちまったッ……一番しちゃいけないこと、しちまったッ!……『ウニベルには勝てない』って、諦めちまったッ!!……皆にッ……ユージュンにッ、合わせる顔がないッ!!!」
「ッ!!!」
リーファがボロボロに泣き崩れる。
嗚咽混じりに叫ばれた言葉の痛々しさに、シアが眉根を寄せる。
しかし、悲痛な顔色を浮かべながらも、シアはリーファの頭に手を乗せ、「大丈夫」と笑顔を見せた。
「大丈夫だよ。俺は知ってるから。リーファが誰よりも立派で強いこと……」
リーファの涙は止まらない。
あのリーファが泣く程だ。口先だけで何を言っても、気休めにもならないのだろう。
それはシアもわかっているのか、「でも」とリーファの顎を緩く持ち上げ、目を合わせる。
「……そうだね。もしリーファが辛いなら……俺が代わりにウニベルを倒すよ」
「!?」
「俺だって結構強くなったし、これでも『宇宙の守護天使』だし……ウニベルを倒したいのは、何もリーファだけじゃないしね」
淡々と告げるシア。
驚きの余り、涙が止まったリーファはシアのスカイブルーの瞳を見つめて……そして、バツが悪そうに逸らした。
「…………嫌だッ……」
リーファがシアの申し出を拒否する。
シアは「うん」と優しく頷いた。
「知ってるよ。リーファならそう言うと思ってた。だってリーファ、頑固だもん。ずっと『月猫族の手で仇を討つ』って言って、“エルピス”貰った時でさえ『石の力は使わない』って豪語したくらいだし……そんな簡単に諦められるわけない。『俺が倒すの嫌』なんでしょ?諦めてない証拠だよ。失言も、失敗も、後から幾らでも取り返せる。まだ終わってないよ。俺達が終わらせない。ちゃんとリーファに繋いでみせるから。だからリーファはしっかり回復すること!」
「良いね?」と言い残し、シアはウニベルの元へと戻っていった。
そんなシアの背中を見送って、リーファは人知れず拳を握り締めた。
* * *
「ガハッ!!」
「グァア!!」
アゲハとリュカがそれぞれ岩肌に叩き付けられる。岩の凹凸に四肢が嵌まり、まるで磔にされたかのような体勢だ。
「……な、何て強さだ……」
「四龍とは、比べ物にも……」
確かな実感と共に、改めてウニベルの恐ろしさを再認識する二人。対してウニベルも、アゲハとリュカの攻撃を受け止めた右手を見遣りながら、「へぇ」と感心したように口を開いた。
「驚いた。リーファよりも強いね、君達。四龍にも勝つ訳だ。ただ、残念なことに俺には遠く及ばないらしいけど」
「グッ……クソッ!」
「嫌味な野郎だぜ……」
二人は何とか無理矢理岩を割って、再びウニベルと対峙する。
とそこに、「お待たせ」とシアも参戦した。
「シアさん!リーファさんは?」
「回復中。皆に預けて来た。リーファが戻って来るまで、意地でも粘るよ!」
「よっしゃ、任せとけ!!」
シアの登場により、アゲハとリュカの士気が上がる。
ウニベルは三人のやり取りを聞きながら、「お前……」とシアへと人差し指を向けた。
「お前でしょ?陽鳥族。リーファに下らない情を植え付けたのは。……むっかつくなぁ……お前だけは特別凄惨な死を贈ってあげるよ」
ウニベルの絶対零度の殺気がシアを襲う。
だがシアは怯むことなく、「俺も同じだよ」と燃える憤怒でコレに返した。
「こんなに誰かに憤ったのは生まれて初めてだ……」
シアの肩が、拳が、全身が怒りに震えている。地面に落とされた顔は表情が読めない。
……『……皆にッ……ユージュンにッ、合わせる顔がないッ!!!』
リーファの哭声が耳から離れず、何度も脳内を駆け巡れば、シアは風切り刃をウニベルへ突き付けた。
「よくも……よくもリーファを……絶対に許さないぞ!!ウニベル!!」
「『許さない』ねぇ……言っておくけど、君達が束になったところで、俺には擦り傷一つ付けることすらできないよ。尻尾を斬られたことには驚いたけど、ソレももう治っちゃったしね」
再生した尻尾をクルリとウニベルが回す。
『擦り傷一つ付けられない』……屈辱的な台詞を言われたにも関わらず、シアは否定しない。それどころか「知ってるよ」と肯定すらした。
「承知の上でここに立ってる。俺達の刃がお前に届かなくても構わない。リーファの道を切り開く!!その為の踏み台だ!!覚悟しろ、ウニベル!!俺達はリーファに繋ぐまで諦めないぞ!!今日がお前の最期の日だ!!!」




