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リュカ対“緋龍”アルマ

「ハァ!ハァ!ハァ!……ッ!!」


 荒い呼吸が辺りに木霊する。

 リュカは額に汗を浮かべて、肩を上下させていた。

 対して、リュカの目の前に立っているアルマは息切れ一つせず、むしろ頬を紅潮させて幸福の笑みを見せている。


「あらあら、もう終わり?」

「ッ!……なら、コレはどうだ!!」


 舌打ちと共に、合わせた両手で銃の形を模し、リュカが指先の照準をアルマの心臓部へと合わせる。身体中全てのエネルギーを指先へと集中させれば、徐々に光のたまが形成されていった。

 エネルギーを溜めてる分、リュカは今完全に無防備な状態だ。しかし、アルマは攻撃に入ろうとはせず、ただただ恍惚の表情でリュカの光を見つめている。


「…………喰らえ!!!」


 エネルギーが溜まったらしい。

 リュカが特大の光線を放った。

 避ける素振りすら見せないアルマは、両腕を広げ、リュカ最大の攻撃を上半身で受け止める。

 テッダをも葬った一撃だ。人体に直撃すれば、跡形もなく消し飛ぶ威力なのは間違いない……間違いない筈なのだが……。


「…………ッ!!」


 リュカが歯軋りを溢す。

 爆煙が晴れて現れたアルマは、擦り傷一つ付いていない姿だった。身に纏ったドレスのような甲冑は既にボロボロになっている。

 確実に攻撃が当たっている証拠だ。にも関わらず、アルマ自身は無傷のまま、闘う前の姿と何も変わらない。


 ……クソッ!!コレでもダメなのかよ!!


 心の中で盛大に愚痴を吐きながら、リュカは拳を握り締めた。


「う〜ん!!今の攻撃、とっても気持ち良かったわ〜ん!!サイッコーよ〜ん!!もっと!もっと撃ってきて頂〜戴!!」


「ん〜ま!」と投げキッス付きで声援を贈ってくるアルマ。

 リュカは顔を青褪めさせながら、リーファから教えられたことを思い出した。



 〜       〜       〜



 ランチェ対策についての説明が終わり、リーファが続いて「次は“緋龍”アルマだ」と話し始める。


「鰐の爬虫人種で、ランチェ同様超能力は持ってない。武器も何も使わないが……鰐人間なだけあって、奴の咬合力はシャレにならない。一度噛まれたら最後。身体の何処を噛まれたとしても、半身以上食い千切られる。パワーも瞬発力もある。できる限り近距離戦は止めておけ。だが、何よりも厄介なのはソコじゃない」


 一度言葉を区切ると、リーファは苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。心なしか顔色が悪い気がする。

 そんなに恐ろしい情報が飛び出してくるのかと、シア達一同はゴクリと唾を呑み込んだ。

 リーファは鳥肌を抑えるように、服の上から腕を摩る。そして「奴は……」と勿体づけながら口を開いた。


「気持ち悪いくらい打たれ強い。本っっっ気で気持ち悪い!!絶対に相手したくないと思う程には気持ち悪い!!」


 三回も「気持ち悪い」と強調するリーファ。だが、身構えていたシア達は「打たれ強いだけか」と、拍子抜けもいいところだ。


「ソレって、テッダみたいなもんってことだろ?そんなに気にすることか?」


 リュカが聞き返す。

 一度、“最強の盾”を打ち負かしたリュカとしては、鰐特有の咬合力の方がよっぽどか恐ろしい。

 しかしリーファは「全然違う」と一蹴した。


「テッダが“盾”なら、アルマは“鎧”だ。合金以上の強度を持つ鎧。しかもアルマの場合、超能力も何も関係ない。生身の肉体が最強の鎧になってる。だから超能力による体力切れが起こらない。シアとリュカ……特にリュカは超能力メインの戦闘スタイルだろ。対アルマ戦じゃ、超能力に頼り切った闘い方を取ると、一瞬で体力切れまで追い込まれるぞ。しかもアルマとの闘いは精神を極端に削られる。体力切れよりも先に、戦意を喪失させられる可能性すらある」

「『戦意を喪失』?あまりにダメージが入らないからか?」


 リーファの説明にピンと来ず、リュカが尋ねる。

 リーファは相変わらず眉間に皺を寄せたまま、「否……」と言いたくなさそうに答えた。


「闘えばわかるが……奴は強い衝撃を全部、快感として受け取るんだよ。思いっきり殴ろうが、蹴ろうが、ジンシュー撃とうが、全部『気持ち良い』で済ませて、『もっともっと』って強請ってくる。まあ一言で言えば、変態だな。次第に技を打ちたくなくなってきて、闘う気もなくなる。そうやって、相手の闘う力を削いで、動きが鈍ったところを持ち前の顎で噛み砕くんだ」


 リーファはアルマの解説を終えると、最後に一言告げた。


「奴と闘うなら、とにかく自我を強く保つことを意識しとけ。後は自分で何とかしろ」



 〜       〜       〜



 回想終了。

 改めて思い出しても、まともな解決策は用意されていなかった。


 ……情報は有り難ぇけど、正直何のヒントもアドバイスもくれなかったな、リーファの奴。アルマの説明する時だけ、やたら目が死んでたし……しかも、体力切れを防ぐって言ったって、俺が奴らと対等に渡り合えるのは“狙撃”だけ。肉弾戦も、剣技も劣る以上、格上相手に超能力を出し惜しみなんざできる訳ねぇ。かと言って、俺の最大エネルギーの狙撃も効かなかった……結晶体も遠距離射撃じゃ破壊できなかったし、一体どうすれば……何より…………。


 リュカが目の前のアルマをジト目で睨む。

 アルマはリュカの眼差しに気付くと、「うっふ〜ん」とウィンクと共にキスを贈った。

 コレである。被虐嗜好の性質に合わせて、この性格。全てが端的に言って気持ち悪い。

 リュカは更に顔色を悪化させながら、アルマから一歩後退った。

 リーファの言っていた『戦意を削がれるから、自我を強く保て』という言葉の真意を十二分に痛感するリュカ。


 ……正直、本気で相手にしたくねぇ……リーファの言ってた意味がよくわかるぜ……だが……相手の性格にビビって逃げるなんて、正義の味方のすることじゃねぇ!!


 頭を振り、リュカは湧き上がってくる不快感を何とか払おうとする。

 すっかり攻撃の手を緩めてしまったリュカに、アルマは「あら」と残念そうに息を吐いた。


「もう撃ってこないなら、今度はアタシから行かせて貰うわよん!」

「ッ!!」


 アルマが地面を蹴った……と思えば、リュカの腹に重い衝撃が走っていた。


「ガッ!!…………」


 目線を下に遣れば、アルマの拳が自身の腹に深く沈んでいる。

 全く目で追えなかった。

 よろけたリュカに追い打ちをかけるように、アルマが口を大きく開く。ギラリと並んだ鋭い牙が光れば、リュカは咄嗟に指先の照準を合わせた。


「あンッ!……」

「ハァ!ハァ!……」


 噛み付かれる前にアルマの口内へとエネルギー弾を撃ち込み、その隙に一度距離を取る。

 口の中なら少しは効くかと期待も込めてみるリュカだったが、残念ながらそう甘くはない。

 口から黒い煙を上げながらも、アルマは非常に余裕そうに口紅を指で拭った。


「今のは、少し刺激的だったわねん。気持ち良いわ〜ん。でも……そろそろ限界かしらん?」


 リュカの様子を見て、アルマの目が冷たく細まる。

 リュカは反論できない。まだ何発か撃つことはできるが、ダメージに期待できない以上、無駄に体力を減らすだけだ。何か策を考えない限り勝ち目はないと、嫌でも理解している。

 アルマはフフンと嗤った。


「恋は引いてばかりじゃ面白くないものねん。私も押してみようかしらん」


 殺気。

 今までリュカが会ってきた中でも、桁違いに威圧感のある殺気を感じた。

 反射的に身構えるリュカだが、気付いた時には既に、懐にアルマが飛び込んでいた。


「ガハッ!!」


 リュカが血を吐き出す。

 横腹を思いきり噛まれていた。深々と歯が肉に食い込み、このまま食われると脳が錯覚する……がしかし。リーファの言うように『食い千切られる」ということもなく、アルマはアッサリと口を離し、地面に転がるリュカをウットリと見下ろした。


「ウフフ……やっぱり、美味しいわ〜ん。テッダちゃんが連れ回してる所を見た時から、ずっと気になってたのよね〜ん。折角堂々とアタックできる機会チャンスが巡ってきたわけだし、たったの一口で完食なんてつまらないわ〜ん。思う存分楽しませて貰うわよ〜ん」

「ッグ……ハァ!……ハァ!……」


 ドクドクと溢れてくる血を抑えるように、リュカが自身の腹を押さえる。ふらつきながら立ち上がれば、リュカはアルマを睨み付けた。

 そんなリュカからの視線にゾクゾクと興奮を覚えたアルマは、ペロリと自身の唇に付いたリュカの血を舐め取る。そして大地を蹴った……瞬間。


「グアッ!!」


 アルマの裏拳が、リュカの顔面に決まる。あまりのパワーに後方へと吹っ飛ぶリュカだが、先回りしていたアルマがリュカの身体を抱き止め、そのまま締め技を掛けた。


「グッ……あ……ァア……ッ!!」

「ウフフ……ほらほら、も〜っとアタシの愛を受け取ってちょうだ〜いん!」

「ウッ……ァアアアアアアアアアア!!!!」


 一気に力を強められたと思えば、全身の骨がミシミシと嫌な音を立てる。程なくして、ボキッと腕の骨が折れた音がした。

 満足したのか、アルマがリュカの身体を離す。


「やり過ぎちゃったかしらん?これでもう狙撃はできないわね〜ん」

「ゥグッ……ッ……ハァ!ハァ!」


 リュカが腕の痛みを誤魔化すように、額を地面へ擦り付ける。しかし、当然痛みが緩和される筈もなく、腹からの出血も重なり視界が霞んできた。


「それにしても、不思議ねん。リュカちゃん、今までずっと月猫族に復讐する為に生きてきたんじゃなかったのん?『復讐心を利用されて、テッダちゃんの傀儡になった』って聞いてたけど、どうして今更リーファちゃんを助ける気になったのかしらん?月猫族リーファちゃんのこと、怨んでないのん?」

「…………」


 アルマにとっては純粋な疑問なのだろう。

 リュカだって、自身が第三者の立場なら同じように不思議に思う。「仇の為に何故?」と訝しむに違いない。

 実際、リュカの中で月猫族に対する怨みが消えたかと問われれば、答えは否だ。同種なかまを殺されて、許せる訳もない。リーファと普通に会話を交わせる今でも、ソレだけは変わらなかった。


 ……でも……()()で良いんだッ!


 リュカは指先に溜めたエネルギー弾を横腹に当て、傷口を焼くことで止血すると、再びアルマの前へと立つ。


「怨んでる。怨んで、憎んで、許せないと思ってるに決まってるだろ!」

「??……ならどうして月猫族リーファちゃんと共闘してるのん?」

「ッ憧れたからだよ!!!」


 逆ギレするかのように、リュカが叫ぶ。

 あの日……リュカが初めて地球に来た日、リュカにとっては人生二度目の最厄日であり……そして最大の転機となった。

 信じていたモノに裏切られ、自身の生きてきた意義を否定され……果ては最も怨むべき母の仇が、命の恩人だと思っていた奴だった。

 絶望して、虚無感に襲われて、何が正解で間違いかもわからなくなって、自分自身の輪郭がぼやけて消えていくようだった。

 それでも前を向けたのは、シアと……リーファのお陰だ。


「騙されていただけだとしても、利用されていただけだとしても、俺は謝ることすら許されない罪を沢山犯してきた。今まで傷付けてしまった人達に襲われても、文句なんて言えねぇ。でも……頭ではそう思えても、実際に憎悪の目で見られたら……きっと逃げたくなると思うから。『許して欲しい』って、絶対に思うと思うから!だから……俺の復讐心きもちに真正面から向き合ってくれたあいつを!否定しないで受け入れたリーファ(あいつ)を!!凄ぇ奴だと思ったんだよ!!!」


 あの日、紛れもなく復讐心に駆られ襲い掛かって来たリュカを、当たり前のようにリーファは受け止めてくれた。闘ってくれた。

『復讐心から逃げない』……ソレが当然だと笑えるリーファの横顔は、確かに格好良く映った。


「俺の憧れた“正義のヒーロー”はいつも正々堂々、正面から“悪”に挑んで行くんだ。どんな困難にも立ち向かって、絶対に逃げたりしない。……“ヒーロー”とはかけ離れた奴だけど、リーファだって同じだ。自分の選択から逃げたりしない。すべきことから目を背けない!!芯の通った、カッケェ奴なんだ!!!そんなカッケェ奴と一緒に闘いたいって思って何が悪い!!?あいつが俺にしてくれたように、俺がリーファの仇討ちに協力して何が悪い!!?俺は俺の意思で、リーファを怨んで、憎んで、許せなくて……憧れてんだよォオオオオ!!!!!!」


 雄叫びと共に、リュカの腰紐から吊るしてある“エルピス”から、突然緑色の閃光が上がった。

 あまりの眩しさに、アルマが「何!?」と腕で目を覆う。その間に、リュカがアルマの懐へと入り込んだ。

 “エルピス”と呼応するかのように、深緑のオーラを全身から放っている。


「ッ!!」


 野生の感のようなモノを察知して、アルマが咄嗟にリュカの首目掛けて牙を向けた。

 血飛沫が宙に舞う。


「ッ〜〜〜〜!!」


 痛みに耐えるようにリュカが歯を食いしばった。

 アルマが齧り付いていたのは、リュカの頸動脈ではない。左腕だ。リュカが反射的に左腕で庇ったのだ。

 脂汗を額に浮かべながら、リュカはニヤリと口角を上げる。


「ッ食いたきゃ食えよ!腕の一本くらいくれてやる!遠距離で効かねぇなら、ゼロ距離で最大出力撃ち込んでやるよ!!!」


 あかい結晶体へと突き付けられたリュカの指先から、膨大なエネルギーの塊が膨れ上がる。先程の“エルピス”にも負けない光に双方の身体が包み込まれた。


「終わりだ!……バァアアアアアアアアアアン!!!!」

「ッ!!!!」


 パリンと、結晶体が砕ける音。

 次いで一筋の光の線がアルマの身体を貫き、地平線の彼方へと翔け抜けて行った。

 アルマの巨体が、声もなく地面へと崩れ落ちる。


「ハァ!ハァ!……どうだよ。コレが、“正義の味方の必殺技”だ。気持ち、良かった……だ……ろ…………」


 リュカも続けて、その場に倒れるのであった。


 リュカ対“緋龍”アルマ……勝者、リュカ――。


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