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決戦開幕 

 そして到頭五日後の朝が来た。


「……おい、シア。この服……」


 枕元に用意されていた着替えに袖を通したリーファが、キッチンへと顔を出す。

 シアは「おはよう、リーファ」と振り返り、リーファの姿に表情を明るくさせた。


「あ、着てくれたんだ。良く似合ってるよ」

「どうしたんだよ、コレ」


 リーファが今着ているのは、ヴァルテン帝国に誘拐される前に着ていたシナ服……ソレと全く同じデザインをした民族衣装であった。しかし色が元と違い、白色ベースとなっている。


「町の人達にも手伝ってもらって、作ったんだよ。リーファ、地球に帰って来てから俺の服ばっかり借りてるじゃん?あの青い服、嫌いなのかなって」


『あの』とは、帝国で着せられていた服のことだ。元々着ていたシナ服を捨てられてしまい、リーファは誘拐時、ずっとウニベルに用意された服を身に纏っていた。現状リーファの服は、青を基調とするその一着しかない。

 しかしその貴重な一着を着ようとしない為、リーファは仕方なくシアの服を借りていた。

 シア達が新しい服を用意しようと考えるのも無理はないだろう。


「まあシナ服じゃねぇから肌に馴染まないし、そもそも“青”が嫌いだが……何でデザイン前と同じなのに、“白”なんだ?」


 心なしかリーファはソワソワしていた。

 シアは朝ご飯の目玉焼きを皿に移せば、フライパンをシンクに入れ、リーファの側まで移動する。

 そしてニコッと微笑んだ。


「そんなに深い意味はないけど……リーファが俺に月猫族の伝説について話してくれたことあったよね?『白虎』だったかな……真っ白な毛色をしてたんでしょ?リーファ、憧れてるのかなって思ったから、服だけでも白にしてみようって……嫌だった?」

「否……ただ“白”は月猫族にとって特別な色だから……私が着る日はもう来ないんだろうなって思ってた……」


 リーファが身に纏った白いシナ服をギュッと握る。


 ……ユージュンには勝ち逃げされちまったもんな……。


 最強しか纏うことのできない色。

 リーファの中での一番は、変わらずユージュンのままだ。

 しかし、リーファは「まあ良いか」と歯を見せる。


「ウニベルと決着付けるには丁度良い色だ。ありがとな、シア」


 リーファからの謝礼にホッとしたのか、シアも口元に弧を描いた。


「喜んでもらえたなら良かった。もうご飯できるから、食器運んでくれる?」

「ん」


 言われた通り、箸やコップなどをテーブルに運んでいくリーファ。

 その時、玄関の扉がガチャリと開いた。


「お、美味そうな匂い!」

「あ、おはようございます、リーファさん」


 帰って来たのはアゲハとリュカだった。シアから「お帰り、シャワー浴びて来なよ」と声が掛かる。その発言に、リーファは首を傾げた。


「お前ら、こんな朝っぱらから何処行ってたんだ?」

「今日が決戦だと思うと寝付けなくてよ。裏の森で身体動かしてた」

「僕も、早朝に目が覚めてしまって……リュカさんに手合わせしてもらってました」


 聞いた割には興味なさげに、リーファは「ふーん」と相槌を打つ。とそこで、シアが「はい!」と音を立てて両手を合わせた。


「朝ご飯の準備終わったから、アゲハとリュカは早くシャワー浴びて来て!ご飯にするよ。食べた後は皆を避難させないとね。割と時間ないから急ぐよ!」

「はい!」

「おう」



 *       *       *



 すっかり朝食も食べ終わり、人々の避難も完了すれば、四龍襲来まで残り十分を切っていた。ちなみにウニベルも本拠地惑星から地球へと向かって来ているらしく、四龍との誤差は僅か三時間程しかない。


「……いよいよですね」


 アゲハが緊張した面立ちで口を開く。

 アゲハ程ではないが、リュカの身体も強張っていた。シアも苦笑混じりに「やっぱりドキドキするよね」と告げている。


「あ、忘れるとこだった。お前ら……」

「「「??」」」


 リーファが思い出したかのように声を上げれば、懐から何かを取り出し、シア達三人にそれぞれ放り投げた。難なくキャッチしたシア達は、何だ何だと渡されたモノを見る。

 銀色に輝く逆さ三日月と、三日月の間で輝く八芒星……“エルピス”だった。


「えっ、コレって……」

「“エルピス”じゃねぇか!!ま、まさかくれるのか!!?」


 あまりの興奮からシアの言葉を遮って、リュカがリーファの両肩を掴む。

 リーファはすぐさまリュカの手を叩き落とし、「やるか、バカ」と吐き捨てた。


「お守りとして貸してやる。しくじるんじゃねぇぞ」

月猫族リーファから“エルピス”のお守り貰うって、何か不思議だね。ありがとう」


 シアが赤く輝く“エルピス”を仰ぎ見ながら、リーファへと笑い掛ける。リーファはジト目で「だから『やってねぇ』って言ってんだろ」とツッコんだ。


「おぉ〜!本当に正義のヒーローになったみてぇだ!サンキューな、リーファ!俺、一生大事にするぜ!!」

「だぁから『返せ』!!後で!!ちゃんと!!」

「あはは……でも、本当にありがとうございます。リーファさんに“エルピス”を『お守りだ』って言ってもらえて、僕とっても嬉しいです」


 すっかり緊迫した空気感も消え去ってしまった。

 四龍到達まで残り五分弱。

 リーファ達はそれぞれ輝く“エルピス”を身に飾り、円を組む。


「とりあえず気を引き締め直せよ。負けたら承知しないからな」

「うん。勝って、宇宙に平和を取り戻そう!」

「はい!倒れない限り、“負け”はありません!」

「当然だ!正義のヒーローは絶対に負けねぇからな!」


 そして…………。


「ッ……来た!」


 リーファが勢いよく天へと視線を向ける。釣られるように他三人も顔を見上げれば……流星が四つ、確かにこちらへと向かって来ていた。

 あまりのスピードに、目視では人としての姿形を捉えられない。ただの空を切り裂く四本の線だ。それでもリーファ達は、この距離感で既に膨大な力をヒシヒシと感じ取っていた。


「「「「…………」」」」


 肌がヒリ付く。

 果たして……四龍は地球へと降り立った。


「あ!本当にリーファが居る!城から逃げ出すなんてやるじゃん!」

「感心してる場合か。ウニベル様から寵愛を受けておきながら、ソレを仇で返すなど、不届き千万!到底許されることではない!!」

「熱入り過ぎて殺しちゃダメよ〜ん。リーファちゃんの相手はエスちゃんがするんだから〜ん」

「リーファはエスがるとして……ウニベル様からの情報通り、陽鳥族の生き残りとパピヨン星人、それからリュカ。丁度三人居るわけだけど、誰が誰()る?」


 場に似合わない軽い口調。

 しかし油断できる雰囲気は微塵も感じない。


「……あ、あれが四龍……」

「気を抜くなよ。ちょっとでも隙を見せれば、即死だ」


 シアの頬に冷や汗が伝う。

 リーファからの注意喚起に、その場に立っているだけで気圧されそうになっているアゲハとリュカも、生唾を飲み込んだ。

 臨戦体勢を整える四人。

 その時だった。


「早い者勝ちだ!!」

「ッグ!!?」

「「シアさん/シア!!」」


 四龍の一人……黄龍カノンがシア目掛けて拳を突き出していた。

 目にもまらぬスピードのパンチを、反射的に腕をクロスして受け止めるシアだが、あまりの勢いとパワーにそのまま押し飛ばされる。

 アゲハとリュカが目で追おうとする頃には、既に二人の姿はこの場から消えていた。


「あー!!カノン、ズリィぞー!!一番強そうな陽鳥族持って行きやがってー!!」

「ダメよん、ランちゃん。とっくに聞こえてないわん」

「ちぇっ!残ってるのはリュカとパピヨン星人か……」


 あからさまに気落ちした様子で、ランチェがアゲハとリュカを見る。

 二人同時に身構えれば、ランチェは「決めた」と上唇を舐めた。翼の間に背負っている槍を取り出し、切っ先を相手へ向ける。


「俺様の相手はお前だ。精々楽しませてくれよ?」

「!!」


 ランチェが選んだのはアゲハだ。瞬きの間にアゲハの背後に回ったランチェは、ガラ空きになっているアゲハの背中を思いきり蹴り飛ばす。


「グアッ!!」


 あっという間に吹っ飛んで行ったアゲハを追って、ランチェも移動を開始した。


「アゲハ!!」

「やれやれ……ランちゃんも自分勝手なんだからん。それじゃあアタシは……貴方の相手ねん。ちゃんと会うのは初めてよね、リュカちゃん。近くで見たら、結構良い男じゃない。割と好みよん。ンフッ」


 アルマが言いながら、投げキッスをリュカへと贈る。背筋に悪寒が走り、一気に顔色が悪くなるリュカ。


「うげっ……よりにもよって、こんな気持ち悪い相手と……ま、まあ良い。相手が誰だろうと、人々の平和を脅かす“悪”はこの俺がやっつけてやるぜ!!覚悟するんだな!!」

「うふふん。やる気いっぱいね。可愛いわ〜ん。それじゃあ二人っきりになれる所へ行きましょう〜ん?」

「いっ、いちいち気色悪い言い方してんじゃねぇよ!!とにかく付いて来い!!テメェの墓場に案内してやるぜ!!」

「あら。エスコートしてくれるの〜ん!良いわ。付いて行ってあげる!」


 リュカとアルマも場を離れれば、取り残されたのは二人だけ……。


「「…………」」


 虎と獅子……二匹の獣がそれぞれ瞳をギラつかせて互いを睨み合う。

 数分の沈黙。先に破ったのはエスパーダだ。


「ウニベル様の元から逃げ出すとは……やはり月猫族というのは、救いようのない愚かな種族だな。僕は貴様が嫌いだが……感謝しろ。ウニベル様の命により、殺さずにおいてやる」


 エスパーダが腰の刀を抜く。

 リーファも怯むことなく構えを取った。


「奇遇だな。私もお前が大っ嫌いだ。怒って良いぞ?ウニベルが来るまでに殺してやるよ」


 そして、全ての命運を賭けた大決戦が、遂に幕を開けたのであった――。

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