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番外編 月猫族に呪福を 

「『神の意思を伝える能力ちから』?」


 ヴァルテン帝国本城。医療班の管理する倉庫内で、俺は蛇女もといテムスからジューア星人の超能力について教えて貰っていた。

 俺の切り返しに、テムスが「はい」と頷く。


「“神託”と呼ばれる超能力で、わかり易く言えば……運命を知らせる能力ちからと言われています。発動条件がシビアな為、滅多に使われないそうですが……超能力を掛けられた相手は、自身の運命を受け入れるまで、半永久的に人生を繰り返すことになります」

「!……じゃあ、俺が何度も何度も死に戻りを繰り返してるのは……」

「ご自身の……月猫族の運命に納得していないからでしょう」


 咄嗟に二の句が告げなかった。

『滅びの運命』……月猫族に生まれたならば、誰もが覚悟している運命だ。それでも、ウニベルに散々良い様に使われた挙句、捨てられるなんて幕引きに納得できるわけがない。

 例えウニベルを道連れに殺すことができたとしても、代償に月猫族とイタガ星の存亡を払うなら同じことだ。

 そもそも、惑星ほしの爆破に巻き込むことでしかウニベルを倒す手立てがないこと自体が不満である。

 ……と言うことはだ。


「……俺は一生、この地獄を繰り返さなきゃいけねぇってことか?」


 歯軋り混じりに確認を取れば、テムスは「いいえ」と首を横に振った。


「貴方に超能力を掛けたジューア星人……その術者が亡くなっている以上、超能力の効果は永遠に続きません。流石に何回人生を繰り返すことになるかはわかりませんが、限界がある筈です。聞いた話では、過去に戻る直前にカウントダウンがされるとか……」


 つまり、その限界の数値が『12』というわけだ。俺の予想は間違っていなかったようである。

 今回死んだとしても、もう一度人生をやり直す羽目になるらしい。

 だがそれでは困る。

 納得できなかろうが、受け入れられなかろうが、今回の人生で全ての片を付けると決めている。


「運命に納得する以外で、何か超能力の効果を消す方法はねぇのか?」

「……この超能力はジューア星人の身を削って使われる命懸けのモノ……打ち消すことはできません」


 テムスは言い辛そうに目を伏せた。「ただ……」とテムスが口を開ける。


「試すことはできます」

「??……何をだ?」

「月猫族の運命に納得できるか否か……この人生で貴方が()()()()()()()を……」


 ……「見てみますか?」とテムスの瞳が真っ直ぐ、俺の目を捉えた。

『俺が死んだ後の未来』……。


「そんなことできるのか?」


 俺が半信半疑で聞き返せば、テムスは「はい」と肯定した。


「ソレがイタム星人の超能力“時飛ときとばし”です。意思や物体、生物まで……この世のあらゆる森羅万象を、自在に別の時間へ送ることができます。ですので、貴方の魂だけを未来へ送れば……」

「この先の出来事がわかるってわけか」


 テムスがコクリと首を縦に振った。そして「ですが」と釘を刺す。


「触れられないモノを飛ばすには、かなり精密なコントロールが必要になるので、見える未来がかなり断片的になるかもしれません。それだけお断りしておきます」

「ああ、構わねぇ。やってくれ」


「それでは……」と、俺の心臓部へテムスが手の平を当てた。



 *       *       *



「あ、お帰り。ユージュン」


 無事誰にもバレることなく、帝国本城からイタガ星へと帰って来た。

 家に辿り着けば、いつも通りユーリンが出迎えてくれる。「おう」と適当に返しながら部屋に入れば、リーファの姿がないことに気付いた。


「リーファは?まだ任務か?」

「ううん、さっき帰って来たとこ。ユージュンが居ない分、沢山頑張ったんだろうね。今は疲れて眠ってるよ。それより、任務より大事な急用って一体何だったんだい?」


 ユーリンが首を傾げる。

 任務に出られないことはユーリンにもジン達にも昨日告げたが、理由までは当然説明していない。適当に「急用ができた」と誤魔化しただけだ。内容が気になるのも無理はないだろう。

 勿論教えるつもりはないので、「気にするな」と答える。


「ちょっとした調べ物だ」

「えぇ〜……ユージュンが任務より調べ物優先したの?」


 訝しむ眼差しと声が返ってくる。

 まあ、いつもの俺なら有り得ない。ユーリンの反応も最もだ。

「ほっとけ」と返しながら、これ以上何か聞かれる前に寝室へと足を向けた。


「…………」


 わざわざ用意した子供用のベッドの上で、リーファが眠っている。


 ……後二年……俺は…………。


 帝国本城でテムスから聞いた話を思い出しながら、考え込む。

 すると、背後からニュッとユーリンが顔を出してきた。


「可愛いリーファちゃんの寝顔、見たくなっちゃった?」

「バッ!ちっげェよ!」


 リーファを起こさないよう、小声で怒鳴る。俺の怒声など、ユーリンにとっては小鳥の囀りと同じようなモノだ。「そっかそっか」とクスクス笑っている。

 ユーリンも隣に並んで、リーファの寝顔を見つめ始めた。


「……でも、いつかリーファちゃんとも一緒に過ごせなくなる日が来るんだよね。寂しくなるなぁ……」


 ユーリンが眉を下げる。

 ユーリンが言っているのは、何もイタガ星が消滅することによる『死に別れ』ではなく、リーファが王女として城に戻る時のことだろう。

 どちらにしても、いずれこの生活が終わることに変わりはない。


「……そうだな」

「!珍しいね。ユージュンが素直に言うなんて……数年に一度のデレ期、今日なの?」

「一度しばくぞ、テメェ……」


 相変わらずユーリン(こいつ)は……。

 呆れたジト目で睨めば、ユーリンは一切気にしていない笑顔で「だけどさ」と、慈愛に満ちた眼差しをリーファへ向けた。


「リーファちゃんがどんな大人になるのか……離れて寂しくなるのと同じくらい、すっごく楽しみだよね」

「…………」


 本当に楽しそうに笑うユーリン。

 何も返せない俺に構わず、ユーリンは続けた。


「きっと今よりもっと可愛くなるよ〜。もっと強くなって、もっと綺麗になって、もっとカッコ良くなって……ユージュンに似た、立派な誇り高い戦士になるんだろうな」

「……お前に似て甘くなっちまったから、苦労するだろうけどな」

「ユージュンの悪影響受けて頑固だから、大変なこともあるかもね」

「「…………」」


 二人して数秒睨み合って……そして同時に笑った。


()()()()()()()()()()()、リーファちゃんなら素敵な大人ひとになるに決まってるよね。私達の()()()()だもん」

「!……俺達が育てたんだ。当然だろ」


 血は繋がっていないが、月猫族に血族故の情なんてないのだから関係ない。

 誰が何と言おうと、リーファは俺達の“娘”だ。


 ……ありがとな、ユーリン。お陰で覚悟が決まった……。


 月猫族の聴力を持ってしても聞き取れない声量で礼を呟けば、俺は静かに拳を握った。


 ……例え運命みらいが変わらなくても……俺は俺のすべきことをやるだけだ!



 *       *       *



 そして二年……その日は来た。

 任務先の惑星に着いて一分。突如として鳴った通信機から聞こえてきたのは、月猫族への緊急帰星命令。

 今までの人生より半年程予定が早いが、すぐにわかった。

 今日が最期の日だと……。


『――……死ぬなよ、リーファ』


 通信機にメッセージを録音し、今から四時間後にリーファへ届くよう設定する。


「…………!」


 前方……ウニベルが居るであろう方向へと、俺は飛ぶスピードを一層上げた。



 〜       〜       〜



 あの日、テムスから見せて貰った未来は最悪だった。

 一つ、まずウニベルを道連れにすることはできない。俺のチームだけは、任務先の惑星にてウニベルに殺されてしまうらしく、イタガ星消滅時には既にあの世逝きだ。恐らくリーファを生かす為に、リーファの所属するチームだけはイタガ星に帰すわけにいかなかったのだろう。

 二つ目、俺の複製人間クローンが造られていた。俺が死んだ後に、血液なり何なり摂取して開発したのだろうが……はらわたが煮えくり返るなんてモノじゃない。

 そして最後に……帝国軍のリーファへの扱いだ。捕虜に近い立場なら当然なのかもしれないが、到底許せる仕打ちじゃなかった。

 仇を討つこともできなければ、死んだ後ですら月猫族はウニベルの玩具にされていた。

 運命を受け入れる為に未来を見たというのに、返って逆効果だ。

 それでも……。


 ……本当に断片的だった上、何年後の未来まで見えたのかはわからねぇが……。


 絶望的な未来の中に、成長したリーファの姿を見た。どれだけボロボロでも、ウニベルに抗っている姿を……。


 ……『どんなことがあったって、リーファちゃんなら素敵な大人ひとになるに決まってるよね。私達の自慢の娘だもん』


 ユーリンの言う通りだ。

 リーファはちゃんと月猫族の誇り高き戦士として、たった一人でも闘い続けていた。

 それなら俺も覚悟するべきだろう。


 ……俺とウニベルの決着がどんな結末を迎えることになったとしても、月猫族の未来をリーファに信じて託す!


 不本意であることに変わりはないが、俺だろうとリーファだろうと、ウニベルを月猫族の手で倒せればそれで良い。

 月猫族の血を……その誇りを、リーファが後世まで繋いでくれるならそれで良い。

 滅びるその最期の時まで……月猫族が誇り高き戦士の一族であれば充分だ。

 このふざけた運命を、それでも受け入れる覚悟を……俺は決めた。



 〜       〜       〜



 ()()汚れた大地へと降り立つ。


 ……ズーシェン……ジン……ファン……ユーエン……ッ!


 仲間の死体が転がっていた。

 わかっていたことであったとしても、怒りが心の底から込み上げてくる。


「あれ、君一人だけ?リーファはどうしたのかな?」


 神経を逆撫でする声が背中から降ってくる。

 抑えることのできない殺気を漂わせて振り返れば、青い龍が下卑た笑みを浮かべて立っていた。


「ウニベル……よくも俺の仲間達を……」


 震えの止まらない拳を強く握り締める。

 絶望的な力量差も、抗えない運命も、ウニベルの前に立てば関係ない。

 俺が月猫族の戦士である限り、最期まで勝利を諦めて堪るモノか。


「今日こそ決着付けてやる!イタガ星も月猫族も……テメェなんかにらせねぇ!」


 臨戦体勢を取る。

 ウニベルは意外そうに目を丸くした。


「!……へぇ。あの通信だけで、作戦バレたんだ。月猫族にしては、中々キレ者みたいだね。確か君が月猫族最強の戦士だったっけ?リーファの所属する戦闘班のチームリーダー。リーファの目の前で、月猫族最強が無様にられてるところを見せたかったんだけど……まあ良いか。君の死体を見たリーファの反応は、後の楽しみに取っておくよ」

「ほざけ!!」


 コレで目障りな面ともおさらばだ。

 決着を付けてやる。


「テメェだけは絶対に許さねぇ!!覚悟しやがれ!!!」

読んで頂きありがとうございました!!


という訳で……先に伝えていた通り、こんな中途半端なところで一度番外編は終了します!

次回の本編は一週間後です!

後もう少し、後もう少しで完結です!(まだ最終話まで書けてないけど……)

下書きの蓄えがかなり少なくなってるので、二日に一話投稿し続けられるか不安ですが……精一杯書き切ります!


次回もお楽しみに!


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