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番外編 月猫族に呪福を 

 ヴァルテン帝国本城。

 ターミナルから人目を避けて奥へと進むこと約十分。

 漸くウニベルの居る部屋まで辿り着いたは良いが、思いがけない人物の姿に俺はゲッと内心舌を出す。


「ウニベル様、突然の来訪失礼致します。部下より聞き及んだ件について、どうしても確かめたい事がありまして……」


 黒獅子の男……エスパーダがウニベルへと深々頭を下げていた。


 ……チッ……何でこんなタイミングで四龍が居やがんだよ……。


 四龍は基本、任務が終わったとしても本城には帰って来ない。噂ではウニベルが奴らに苦手意識を持っており、自身から遠ざけているとか何とか……だがそんなことよりも、滅多に本城に居ない筈の四龍が、よりにもよって俺が忍び込んでいる時に滞在していることが、何よりの問題だ。

 間が悪いなんてモノじゃない。


 ……適当にそこら辺の部下脅して、ウニベルに探りを入れるつもりだったが……エスパーダが居るなら下手に動けねぇな……どうするか……。


 息を潜めながら考え込めば、その間にもウニベルとエスパーダの話は続いていたようで……。


「先日、月猫族の王へと下した命令が拒否されたとか……にも関わらず、月猫族達は何の罰も受けていないようですが……ウニベル様の考えをお聞かせ下さい。ウニベル様の命を断るなど……万死に値する愚かさ!のうのうと愚民共が生きているなど、許されることではございません!!」

「まあ落ち着きなよ。当然、月猫族達を罰せず放置してるのには理由がある」


 エスパーダの物言いに腹立たしさが込み上げて来るが、それよりも話題の内容だ。


 ……丁度良い。リーファの話題が出るかはわからねぇが、少なくともこの三日間の杞憂は晴れる……。


 物音一つ立てないようにしながら、俺は更に聞き耳を立てた。


「覚えてる?リーファが俺に挨拶しに来た日のこと」

「えぇ、勿論です。ウニベル様への殺意に満ちた……ウニベル様の許しさえあれば、すぐに殺していましたよ。それがいかが致しましたか?」

「そう、殺意……俺が月猫族を嫌ってるように、月猫族だって俺のことを嫌ってる。それでも、あんな子供の内から俺に殺意を持つなんて、いくら何でも早過ぎるでしょ。誰かから色々と刷り込まれてるとしか思えない。なら誰に何を刷り込まれたか……月猫族はいつか謀反を起こそうと、必死で俺を殺す手立てを考えてる。特に王。まあ一番俺からの抑圧を受けてるんだから、当然だけど……ならもし王が俺を殺せるかもしれない武器を見つけたとしたら?……取る行動は一つだけだ」

「つまりウニベル様を殺す為に、リーファを王家の養子にしたと?」

「多分ね。何でもリーファは、歴史上初めての超天才児らしいし。実際、あんな小さな子供の癖して、幹部連中を既に越える強さを持ってたよ。まあどれだけ強くたって、所詮は月猫族。俺の足下にも及ばないけど……頭の悪い月猫族の連中にはわからないだろうね。リーファを立派な兵器に仕立て上げ、いつか俺の寝首を掻こうとするつもりさ。その為の教育で、リーファは幼いながらも俺への殺意を抱いてるって訳」


 完全に王の思考がバレていた。

 いきなり目当てだったリーファの話題に触れられ、喜んだのも束の間……あまりにもバレバレだった王の作戦に、良い気味通り越して呆れを感じる。

 だが、疑問は残った。


 ……それだけわかってて、奴は何故リーファを側に置こうとしたんだ?敵に塩を送るのと一緒だろ……。


 それに、今のところ月猫族がお咎めなしになっている理由の説明にはなっていない。むしろ惑星ほしごと消滅させようと思った原因説明に近いとすら言える。

 その答えはすぐにウニベルの口から告げられた。


「だったら、どうして王は俺からの命令を無視したと思う?『リーファを側役に』なんて、向こうからすれば願ったり叶ったりの命令だ。わざわざ危険を冒してまで破る理由なんてない」

「……ウニベル様を殺そうとする愚か者共の思考など僕にはとても……」

「今リーファは王の元を離れ、月猫族の最上位戦士チームのリーダー……月猫族最強の戦士の元で暮らしている」


 ドキッと、心臓が嫌な音を立てた。

 一瞬俺の存在に気が付いているのかとも焦ったが、どうやらただ話題に出しただけらしい。

 ウニベルから攻撃されることはなく、話は続いていく。


「恐らく、リーファをイタガ星に留めたのはその男だよ。月猫族にとっては、王の権威よりも最強の戦士の一声の方が、遥かに強い力を持ってるからね。リーファの直属の上司でもあるわけだし、リーファは王や俺の命令よりも、最強の戦士の意思を優先させた。ソレがどういうことかわかる?……リーファにとって、その月猫族の男は自身の絶対なんだよ」


 ウニベルが断言する。

『俺がリーファにとっての絶対』……俺にはピンと来ない話だ。

 だが、俺を見るリーファの眼差しに熱が宿っているのは知っている。負け知らずのリーファに、初めて敗北を教えた相手が俺だ。月猫族はどうしたって強さに憧れる。リーファの中で“俺”という存在が大きくなっていてもおかしくはない。

 生意気なクソガキが、素直に俺の命令に従っているのも事実だ。


 ……否、そんなことよりも……何でウニベルは月猫族おれたち行動ことをここまで推測できるんだ……?


 驚きよりも不気味さが勝つ。

 背中に若干悪寒を感じながら、盗聴を続けた。


「月猫族に罰を課さなかった理由はソレだよ。今、月猫族を皆殺しにするのは簡単だけど、リーファの心に深く俺を刻み込むには、舞台を整える必要がある……そう判断した。もっと月猫族最強の戦士への想いが強くなれば、ソレを喪った時の絶望もまた大きく、深くなる。一度心を空っぽにする為にも、喪失感は大きくなきゃね。だからコレは月猫族達への猶予だ。滅びのその瞬間まで、精々リーファを頑張って育てて貰おうじゃないか」


「なるほど、流石はウニベル様」とエスパーダが賛辞を贈っている。

 俺は湧き上がって来る不快感を誤魔化すように、拳を固く握り込んだ。


「しかし……それでは月猫族をイタガ星諸共絶滅させた後も、リーファだけは生かすということですか?」


 恐る恐るエスパーダが尋ねる。

 俺にとっての漸くの本題だ。


 ……コレでウニベルの意図が全てわかる!


 ウニベルの返答を待つ。

 エスパーダの問い掛けに、ウニベルはアッサリと「そういうこと」と頷いた。


「リーファだけは生かす。この先ずっと……俺の傍で暮らしてもらうよ。寿命を延ばす方法も見つけ出さないとね」

「ですが、ウニベル様への殺意を抱く者を側役にしても宜しいのでしょうか?勿論、ウニベル様を殺せる者などこの世に存在しないでしょうが……」

「まあ、最初は従順じゃないだろうね。だから調教するんでしょ。リーファの全てが俺で埋め尽くされるまで……肉体からだ精神こころにしっかりと“俺”を刻み込んであげるだけさ」

「それ程まで、リーファに固執するのは一体何故で?」

「……さぁ?強いて言うなら……あの目が気に入ったんだよ。どうしても俺の所有物モノにしたくなった。月猫族の王女モノにしておくなんて勿体ないでしょ」


 ……。

 聞きたいことを全て聞くことができ、俺は静かにその場を後にした。



 *       *       *



 気持ち悪い。

 ウニベルがリーファに抱いている感情……その気色悪さに、腕の鳥肌がおさまりそうになかった。

 改めて、リーファをウニベルの元に行かせなくて良かったと思うが、ソレはソレとしてわかったこともある。


 ……『ウニベルはリーファを殺さない』……。


 ハッキリとそう宣言していた。

 四龍エスパーダに言っているのだから、嘘ではないだろう。

 ソレが本当なら、イタガ星消滅の日、リーファだけは何処か遠くの惑星ほしで命の保証がされてる訳だ。俺はウニベルを殺すことだけに集中できる。


 ……なら、話は早い。二年後までに俺はこの忌々しい超能力を解く方法を見つければ良いだけだ。


 そもそもの話だ。今回の人生で何かを成し得ることができたとして、俺が死ねばもう一度人生をやり直す羽目になる。

 これ以上地獄を繰り返すのも、ウニベルの良い様に使われる日々を過ごすのも御免だ。

 ウニベルを無事葬り、リーファを生かすことができた後も、ちゃんと未来が続いていくように……。ジューア星人の超能力の概要を詳しく調べる必要がある。


 ……とは言え、ジューア星人は二十四年前に絶滅させちまった。有名な種族ならいざ知らず、基本他種族の超能力について知ってる奴なんて居ねぇし、どうやって調べるか……。


 頭の中で悶々と考えながら、行きと同様、誰にも見つからないようにして移動する。

 とそこで、視界の端にとある人影が映った。

 薄らと紫掛かった白髪に、肌を覆う鱗。


「ッ!!」


 俺は咄嗟に飛び出し、腕を伸ばしていた。


「ジューア星人!!」

「キャッ!?」


 帝国軍の象徴である青い衣に、竜のエンブレム。

 間違いなく爬虫人種……それもジューア星人と同じく蛇人間。

 どうして生き残りが帝国で働いているのかなんて、この際どうでも良い。

 隣には魚人種の女も居るわけだが、俺の頭には“暗躍”のことなどスッカリ消し飛んでいた。

 他の帝国軍の連中に気付かれなかったのが奇跡と思える声量で、蛇女の手首を握る力を更に強める。


「テメェらが掛けた超能力、解いて貰うぞ!?死にたくなけりゃ、大人しく言うこと聞け!!」

「つ、月猫、族……あ、あの、私は……」

「お、お待ち下さい!!」

「あ?」


 魚人種の女が、俺の腕を掴む。

 青褪めた顔色で、目には涙が浮かんでいるが、しっかりと俺のことを睨んでいた。


「テムス……彼女はジューア星人じゃありません!イタム星人です!!」

「…………い、たむ……星人……」


 言われて、マジマジと蛇女の顔を見つめる。昔の記憶もあってか、ジューア星人か否かの区別は俺にはできそうもない。

 だが、『ジューア星人を滅ぼして来い』と命令したのは紛れもなく帝国軍で、その帝国にジューア星人が働いているのもおかしな話だ。

 少し冷静になった頭で、俺は女の手を離す。


「……悪い。人違いだった。今日のことは忘れろ」


 そう言えば、無断で本城に侵入していたことを思い出し、謝罪もそこそこに踵を返す……がしかし。


「ま、待って下さい!」


 逆に蛇女の方が俺の手を掴んで来た。


「『ジューア星人の超能力』と仰っていましたよね?私、知ってます!」

「!?」

「貴女の手助けをさせて下さい!!」

「…………」


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